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第10話 魔族の食事(これ、マジで食べんの?)

 レズビアはひしゃげたキモい岩のような建物(といっていいんだろうか?)を指差し、

「おい、三バカ、着いたぞ」


「誰がバカよ!」


「うん、バカじゃないから」


「でもでも、それってうちらチームみたいだよねっ」


 いや、三バカってチーム名は勘弁……。


 僕ら四体の魔族は、店内に入る。

 そして、奥のテーブル席に座る。


 ほかに客はいなく、閑散としていた。


 本当にこの店うまいのかな。


 不機嫌そうな女性の魔族の店員(頭に触覚が生えてて、虫っぽい羽が背中に生えていた)が、メニューを投げてよこしてきた。


 レズビアはそれをキャッチし、

「七品くらい、後は任せる」

 と、だけ告げた。


 店員は、相変わらず不機嫌そうに、厨房にそのことを伝える。


「楽しみだねぇ、リリスちゃん」

 と、僕の隣に座ったカーミラが、きらきらした目で僕を見つめてくる。


「う、うん」

 むしろ僕はどんなものが出てくるか、不安なんだけど。


 スウィングを見ると、彼女は厨房ををうっとりした様子で見つめている。


「えっと、スウィング、涎垂れてるよ」


「ま、まさか、高貴な竜魔族が涎を垂らすなんてみっともないことするわけないわ」

 スウィングは慌てた様子で、口についた涎を拭う。


「あなたこそ、食い意地張ってそうね」


「それ、どういう意味?」


「その見た目からして……よく食べるんじゃないかって思ったのよ」

 スウィングは、テーブルにどんっと乗せた僕の胸を見つめる。


「胸は大きいかもしれないけど、太ってはいないからね。断じて」

 巨乳キャラをデブキャラ扱いする風潮には、断固として反対していきたい。


「おい、三バカ、飯が来たぞ」


 店員さんが料理を運んでくる。


 そして、次々にテーブルに料理が並べられた。


 でも、それはとても食べ物だとは思えなかった……。


 大皿に乗った緑色のスライムの塊には、黄色っぽい眼球がいくつも浮かんでいた。

 それに、無数のいぼいぼがついた青い触手の唐揚げみたいなものが、山のように積まれていた。

 さらに、トマトやニンジンといった野菜には、どれも人の顔がついている。

 ほかにも、緑と黄色のマーブル模様の肉や、巨大な虫を焼いたものなどなど……。


「おえぇ」

 僕は思わずえずく。


「おい、リリス、どうした?」


「リリスちゃん、大丈夫……?」


「こ、これマジで食べるの……? さっきの屋台のやつとか、あとこの世界にはイチゴとかあるんでしょ?」


「今日はリリスを歓迎するためにわざわざちょっと高級なところに連れてきてやったのだ。そんなことをのたまうなんて、まったく失礼な女だ」


 ここって高いところなの? あんまりそうは見えないけど。

 それに、これってさ、人間の食いもんじゃないだろ。

 あ、僕はもう人間じゃないんだった……。


 ぐうう。


 今度は僕のお腹が鳴った。

 そう、僕もお腹が空いていた。


 でも、目の前にあるこの名状しがたき冒涜的な何かを到底食べる気にはなれない。

 いいにおいは漂ってくるのだけれど、それが無性に腹立たしく感じる。


「食わず嫌いはよくないぞ」

 レズビアはうまそうに料理を口に運ぶ。


 スウィングもよほど空腹だったのか、無我夢中といった様子で、がつがつと食べている。


 カーミラは、僕のことを心配した様子で見つめ、

「ねえ、リリスちゃん、あーんして」

 と、スプーンに乗ったスライムを、僕の口に近づけてくる。

「食べたらおいしいから、ね?」


「私が言ったこと気にしているのかしら? だったら、悪かったわよ」

 スウィングはバツが悪そうに言いながら、ほっぺたを軽く掻いた。


「別にそうじゃないんだけどさ……」


「食わないなら、もう二度と飯食わせてやらないからな」

 と、レズビアが言う。


「うっ……」


「リリスちゃん、ちょっとだけ。ちょっとだけでいいから、食べてみて」


「う、うん……」


 考えてみれば、こうして女の子に「あーん」されるなんてことも、まるで夢のような話じゃないか。


 けど、これスライムだし。眼球もついているし。


 ひっ! スライムが僕のことを見つめてる! こ、こっち見んなよ!


 ううっ……。

 ゼリーのようなものだと思えばいいか……。


 これはゼリー。

 これはゼリーだ。

 

 僕は目をぎゅっとつぶって、カーミラが差し出したスプーンを、ぱくりと口の中に入れる。


 あ……。


 うまい。

 異様にうまい。

 超うまい。


 スライムが口の中ですっと溶け、弾けるように甘い味が舌に染み渡っていく。

 眼球も適度な柔らかさがあって、口の中で転がすと、妙に気持ちいい。


 ぷつりと眼球を噛み砕くと、汁がぴゅぴゅっと吹き出し、甘酸っぱい味が口全体に広がる。


 まるで味の遊園地や……。


「おいしい?」


「うん、おいしい……」


「よかった!」

 カーミラが満面の笑みで言う。


 それから僕は次々とスライムを口の中に運んでいく。


「リリス、どうした? 美味すぎて泣いているのか?」


「うん、美味しすぎて泣いてるんだよ」

 こんなものを美味く感じてしまう、この今の自分の身体に絶望してね!


「それはよかった」

 レズビアが満足そうに言う。

「しかし、スライムばかりでなく、この触手も食べてみたらどうだ」

 レズビアは、例のフォークっぽいやつを小さくしたやつで、触手をぶすりとやり、僕の前に持ってくる。


 うへっ、なんだか生臭いんだけど。

 それに、青い色の食べ物とか、食欲が削がれる。


「ほら、食え」


「いや、それはちょっと……」


「いいから食え」

 レズビアは僕の口に無理やりフォークをつっこんできた。


「う、うぐぅ……」

 僕は思わずそれを噛んでしまった。


 すると、クリームコロッケの中身のような、どろりとした粘性の物質が僕の口に広がっていく。

 ちょっと生臭い感じがするけど、珍味のようで、けっこう美味い。


 こんな触手までおいしく感じちゃうなんて……!


「淫魔族が好きな味だろう?」


「それ、どういう意味?」

 僕は触手をごくりと飲み込みながら言う。


「触手モンスターの触手の先端には、精液が溜められているのだ」


「おえぇ」

 なんつーもん食わせるんだよ。


「リリスちゃん、大丈夫?」

 カーミラが僕の翼と翼の間をさすってくれる。


「美味いと思ったくせに」


「う、美味いだなんて、思ってないからね」


「ずいぶんと強情だな。ほらもっと食え」

 レズビアがまた触手の唐揚げを口に突っ込んでくる。


 ううっ、美味い。美味いけど……。


「リリスちゃん、おいしい? 私も食べさせてあげる」

 

 僕はレズビアとカーミラに次々と餌付けされていく。


「あはは、美味しいな……」


 やばいな。

 もう味覚も調教されてしまった……。

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