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プロローグ




「ふっ、散々手こずらせてくれたが、これでようやく目障りな貴様を消し去ることが出来るな。勇者よ」



元々は綺麗に整っていたであろう巨大な大広間の中央に、二人の人影が存在していた。片方は床に倒れており、呼吸も乱れている。もう片方は多少は苦しそうにしていたが、しっかりと2本の足で立っていた。そして、床に倒れている勇者と呼ばれた人間を見下ろしているそれは人間ではなかった。



月明かりのない暗がりで見たのなら人間に見えるが、松明に照らされたこの大広間では、まるで違っていた。頭から生える2本の角に巨大な蝙蝠のような禍々しい羽が背中に生えており、爪は狼ように鋭く、口元にはまるで吸血鬼のような牙が覗いていた。



「はあ……はあ……」


勇者と呼ばれた人物は乱れた呼吸を落ち着けるように、大きく息をした。体の至るところから出血しているが、特に右肩が酷く血を流していた。武器は既に遠くに飛ばされたのか見当らない。



「たかだか人間風情がよくぞここまで持った。そこで敬意を評して、楽に殺してやる」



ゆっくりと魔王が勇者へと歩み寄ってくる。はっきりとした死が、勇者に近づいていた。何とかしようと魔法を放とうと試みるも、魔王がそれを見逃すはずもなく全てが不発に終わった。



万策尽きるとはまさにこの事。勇者に出来ることといえば、ただ己の短い人生を思い返すことしか出来なかった。




「勇者さま!」



諦めかけていた勇者に突如、呼びかける声が大広間に響き渡った。軽金属で作られた鎧をその細い体に纏い、長剣を右手に握り締めて心配そうな表情で勇者を見つめる少女が階下に通じる扉の前に立っていた。



「マリア!君は下で他の騎士達と四天王たちの相手をしているはずじゃ」


「突然勇者さまの魔力が、今にも消えそうなくらいに小さくなってしまっていたので飛んできたんです!」


「そんなのはいいからすぐに逃げろ!こいつは、君一人が相手に出来るようなものじゃない!」



勇者の必死の呼びかけにマリアと呼ばれた少女はそれでも、そこから動こうとはしなかった。


「ふっ、なかなかに泣ける話じゃないか。なあ?勇者よ。健気な少女が勇者の身を案じてたった一人で私の前に立とうとは。……実に愉快だ!」



魔王はそこまで言うと、堰を切ったように笑い始めた。



「……確かに私はあなたとは戦えませんが」


「……ん?」


そこでマリアは口を噤むと、しっかりとした面持ちで魔王を睨み、


「時間稼ぎなら出来るんです!」


そう言うと、左手に隠していた光魔鉱石を魔王と勇者の中心に投げた。


「勇者さま!目を閉じてください!」


「っ!」


マリアの言う通りに目を閉じた勇者は、次の瞬間には瞼の上からでも分かるほどの強烈な光が降り注ぐのを感じていた。

そして、恐る恐る瞼を開くとそこには目を抑え悶える魔王がいた。


「くっ!まさか油断していたとは言え、たかだか光魔鉱石ごときに目をやられるとは」


「勇者さま、今です!(ゲート)をお使いになって逃げてください!」


「しかし、それではマリアが!」


するとマリアは優しげな笑顔を浮かべ勇者を見つめた。



「私なら大丈夫です!この後すぐに他の騎士達と撤退します。ですから、どうか今は逃げてください!その後、また落ち合いましょう!」


「っ、……分かった。また、会おう!」



そう言うと、勇者は残った僅かな魔力で(ゲート)を目の前に生成し、迷わずにそこに飛び込んだ。

慌てて作ったので、行き先は指定する余裕がなかったが、今は逃げることを優先した。



魔力の渦に飲まれながら、気がつくと勇者は静かに目を閉じていた。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「ちょっと裕二!何時まで寝てんの、遅刻するわよ!」


玄関を破壊するような勢いでドンドン!と叩き、拡声器でも使ってるかのような大声が部屋の中まで響いていた。今の衝撃で壁にかけていた時計が落ちて来た。



「……今から起きるから、少し静かにしてくれ」



部屋の奥から蚊の鳴くような声で返事が返ってくるが、部屋の外にいる人物には聞こえていないようだった。すると、先程までうるさかった騒音がぴたりと鳴り止んだ。そして、低い声で



「返事がないならマスターキーでこじ開けるわよ」


「ただいま起床いたしました!!」


脅された途端に、大声で裕二と呼ばれた少年が返事をした。彼らのいつもの日常の風景である。










叩き起こされてから、5分後。まだ半分以上瞼が閉じている裕二は恨めしそうな目つきで隣を歩く少女を見た。


少女の名は、井上(いのうえ)(ゆい)


意思の強そうな目つきに、軽く染められた長い茶髪が肩の辺りで揃っている。目鼻立ちは整っており、道行く男性の殆どが、すれ違ったのなら振り返る程度には美少女と言えた。


が、残念な事に中身は全く違っていた。今朝の騒ぎから分かる通り、清楚やお淑やかさと言った単語とは真逆を突っ走っている。だが、その男子にも女子にも裏表のない性格が理由でクラスはもちろん、学校全体で男女問わず人気者だった。



「昨日は夜遅くまで作業してたんだから別に休んでも問題ないだろ」


「大有りよ。だいたいあんたの作業ってどうせネトゲのイベントでしょうが」


「どうせとはなんだ、どうせとは」



そして、井上に今朝の遅刻未遂を責められている少年は、青山(あおやま)裕二(ゆうじ)


特にこれと言った特徴のない。どこにでもいそうな少年である。短く切りそろえられた黒髪。優しげな雰囲気がする少年だったが、寝不足なのか目の下に大きなクマを付けており、その足取りは重い。まるで真夏の日差しの中を吸血鬼が歩いているようだった。



「だいたいだな。幼なじみでも何でもないのにいい加減、毎朝部屋に来るのやめろよ。今朝なんかお前がゴリラみたいに扉で叩くせいで壁時計が落ちて壊れちまったんだぞ!」


すっかり桜の季節になった通学路を歩いて行く途中。裕二は今朝のことをまだ根に持ってるのか、井上にぶつぶつと文句を垂れ流していた。



「ん?今なんか私のことを動物の名前で呼んだような気がするんだけど、気のせいかな?」


「いえ、ポメラニアンのようだと言いました」


「ふ~ん、そう」



ハイライトの消えた目と先程までの陽気な気配が消え去り、低い声で問いただされた裕二はビシッと硬直し、冷や汗をかきながら返事をした。



「まあ、別にいいけど。……それに私だって管理人っていう立場じゃ無かったら、あんたなんて置いてさっさと学校に行ってるわよ」




井上と裕二が住む学生専門アパート『ヴィローザ笹川』は、現在、井上の父親が経営している不動産が管理していて、井上はその娘であった。ゆくゆくは跡取りとして不動産管理、経営をしていかなくてはいけないため、高校を入学した年にこのアパートの管理を試験的に任されたのであった。


では、なぜわざわざ井上が裕二を朝迎えに来なければいけないのかと言うと、裕二は遅刻の常習犯であり、担任は裕二が遅刻をしてくる度に生徒指導の先生から嫌味を言われていた。そこで困り果てていた担任が、同じアパートに住んでいる井上に目をつけて、強制的に裕二を毎朝連れてくるように命令されたのだった。



最初は抵抗していた井上だったが、担任から内申を少しだけ上げといてやるという取引を持ちかけられ、しぶしぶ了承していた。ちなみに、学校中の人気者である井上と毎朝一緒に登校している裕二は知らないうちに大量の敵ーー主に男子ーーを作ることになったのだが、裕二は全く気づいていない。



「はあ、何で私がこんな奴が住んでいるアパートを任されなくちゃいけないのよ。だいたいあんたも今年から先輩になるのよ?」


「……俺だって、こんな(スーパー)サ〇ヤ人が管理人だって知ってたらここに引っ越して来なかったよ」


「誰が(スーパー)サイ〇人よ!」


ボヤく井上にぼそっと反抗した裕二だったが、井上の耳は聞き逃さなかった。途端に井上はチョークスリーパーを裕二にかますと、裕二は白目を剥き始めた。



「……ちょっ、もう、無理で、す。……しゃれになっ、てない」


「ふう、スッキリしたしこれで許してあげる」


息も絶え絶えに裕二が命の危機を訴えると、井上は妙にスッキリとした表情で微笑んだ。事情を知らない人物が見たのなら天使だと思うかもしれないが、裕二からして見ればただの悪魔だ。下手したら本当(・・)の悪魔の方が可愛いかもしれない。



「さあ、下らないことに時間を食ったわ。少し急ぐわよ」


「げほっ、げほっ!……俺の生命の危機が下らないだと!?」


「いいから、早く!始業式始まっちゃうわよ?」


咳き込みながらも訴える裕二をまるっきり無視して、井上は学校へと急ぐ。その後ろ姿を睨みながらも裕二も遅れてはまずいと思ったのか走り始めた。








高校二年生の春の、開幕である。







雑なあらすじで興味を持って頂いた方々、どうもこんにちは。


ストックしてある分までは毎日投稿するつもりですが、あまり弾数がないのでしばらくするとゆっくり投稿になるとは思いますのでよろしくお願いします。

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