5 憤怒のフライ
『さあ、待ちに待ったこの時間がやってまいりました! 楽しみにしてた方こんにちは! 楽しみにしてなかった方ごめんなさい! いつもの番組をジャックして、今日この時間は特別番組【飯テロリストのグルメキッチン!】を放送しちゃうよ!』
軽薄そうな若者が煙の中から飛び出して、周囲にいる観客にぺこりとおじぎをした。極上の笑みを浮かべており、周りに向かってぶんぶんと手を振っている。彼が立っている不思議な舞台──実はこれも彼の魔人としての実力で作られたものだ──からは光と音楽が溢れ出て、その場にいる全員に大いなる何かの予兆を感じさせた。
魔人の彼──シルクスはそのことに満足したのか、いたずらっぽい笑みを浮かべながらぱちりとウィンクしてくる。
『ヘイヘイヘイ! もうこの登場にもすっかり慣れちゃったよね! 今回でちょうどメニューを半分制覇したってことになるよ! みんな大好きミニミ肉を存分に活かした至高の逸品だ! それじゃさっそくだけどシェフと審査員、まとめてカモン!』
シルクスがぱちりと指を鳴らすと、舞台からミルクのように濃い煙が吹き上がる。舞台中央に筋骨隆々な大きく黒い影がぬうっと現れた。
『美食のためなら東へ西へ! ロースを寄越せと天龍狩って、刺身にさせろと海龍捌いて、丸焼きしようと地龍を屠った! そんな最強料理人! 誰が呼んだか飯テロリスト! 実はこいつニタニタ笑いながら獲物をバラすほど中身もおっかないぞ!! 【最強の飯テロリスト】……ギルガ・オルガ!』
「……どうも」
最恐の飯テロリスト、かの有名なオーガのギルガ・オルガである。全身をコック装備で固めた彼は今日も気合十分で、その全身からは一流の飯テロリストだけが発することできる、殺意のそれにも似たオーラを放っていた。
『審査員のみなさんとかもうどうでもよくない!? 説明する必要ないでしょ!』
シルクスが笑う。彼は心底愉快そうにパチリとウィンクし、振るわれた大木の様な剛腕を片手で受け止めた。
「ふむ……なよなよした若者だと思っていたが、無駄に体も鍛えてあるようじゃの……!」
『くぅーッ! この呆れてものも言えない感じがマジ最高! 老人からの諦めに似た叱責もたまにはいいね! 今日もゴチになります!』
念のため補足しておこう。シルクスたち魔人は、人の恨みつらみや絶望、嫉妬や怒り、その他負の感情を生きる糧とする。普通の食糧だけでも生きていけないことはないのだが、彼らにとってそれらは嗜好品とくくるにはあまりにも大きな存在であるため、こうしてちょくちょく【つまみ食い】、もとい嗜んでいるのだ。
『パパッと今日も仕事しちゃうよ! 最近ロリのキャラ付けもマンネリ化してきたぞ! 吸血鬼のリルララ・キャンピィティーク! 偉そうなことを言っている割に食器の扱いはすごく下手だぞ! サイクロプスのグードロード! 収録が終わるたびに歯磨きしに行くところが健気で可愛い! 今更かまととぶっても遅いよね! サキュバスのキャロル・エレンシア! ……正直なんか影薄くない!? ちょっと一瞬コメントが出てこなかったぞ! ワーウルフのガラッシュ! 役には立たないけど害にもならないと最近気づいた! でもここにいるのは納得できねえ! ゴブリンのデ・ガ・ゴベル!』
直後にシルクスは恍惚の表情を浮かべた。たぶん、すごくおいしい悪感情を楽しめたのだろう。上等の酒を飲んだかのようにうっとりとしている。魔人みんながこんな性格ではない……と信じたい。
『なんだかんだで四品目! 収録の体力的に俺も結構疲れてきたけど、ただ食ってはしゃいでいるだけの連中はさっきからずっと腹を鳴らしているぞ! こっちがいろいろ打ち合わせや準備してるのにお構いなくね! あれでギャラを貰えるってんだから世の中不公平だ!』
「リルララ、あのおにーさん大っ嫌い!」
「同意」
「同意」
「同意」
「黙って飯を出すゴブ。まだまだ全然食べたりないゴブ。待たせたら極刑ゴブ」
シルクスは今日も絶好調だ。だがノリと勢いがうざいと言ってはいけない。彼の口上とその実況の実力もまた、飯テロに必要なものであるのだから。
『最後になりますが今日も司会は私、魔人のシルクスでお送りします!』
「……それでは、今日のメニューを紹介させてもらおう」
ギルガはペラペラまくしたてるシルクスを遮り、黙々と準備に入った。さすがのシルクスとはいえ、料理準備中の飯テロリストにちょっかいを出す勇気はないらしい。普段の仕事をするだけでこの魔人を黙らせるなんてなんてすごいんだ飯テロリスト! 最恐だぞ飯テロリスト!
「……前回の予告通り、今回提供するのは《ミニミの憤怒のフライ》である」
『それではこれより、飯テロ開始!』
──《ミニミの憤怒のフライ》。
ギルガの宣言と共に突如として審査員の目の前に現れたのは、そんな料理だった。
おそらくはミニミの肉だろうか。揚げたてほやほやなのかふわんと湯気をあげている。サクサクなキツネ色の衣をまとっており、そこから発せられる脂のいい香りは食欲を否応なく刺激してくる。衣の中のそれがどれほど魅力的なのか、この状態では想像することすらできないのが口惜しいところだ。
「ほお……! こりゃまたうまそうじゃのう! 思わず腹が鳴りそうになる匂いがぷんぷんしよるわ! こいつを口いっぱいに放り込めたらどれだけ幸せな事か!」
「しかもまた綺麗に揚がっているな……! 揚げ物をこうもうまく作るのなんてよほど火の扱いが上手じゃないと出来ないぞ」
「うーん、リルララとってもお腹すいちゃった! こんなの絶対美味しいに決まっているって! 早く食べたいなあ!」
「……私、揚げ物って脂っこくってあんまり好きじゃないんだけど……その、これはどうにも抗いようのない魅力があるわね……!」
「ひどいゴブ。こんなの全員分食べても足りないゴブ。これじゃ拷問ゴブ」
黄金の衣はさながらそれの魅力を包み隠す神秘のヴェールのようだ。それでなお隠しきれない肉と脂の強い香りが鼻孔をくすぐってくる。サクサクの見た目はもちろん、食べ応えもばっちりなこのボリューム。揚げ物の素晴らしさをこれでもかと詰め込んでいる。完璧だ。
「……さて、早速食べてもらいたいところであるが」
『今回もちょっとしたワンポイントがあるんですよね、ギルガさん!』
「……うむ。前回ミニミは広範囲に分布し、環境によってその肉質も変化すると述べたが、それすなわちミニミは殊更に影響を受けやすい生物と言うこともである。平原ミニミを基準とすると、海ミニミは肉が引き締まっているが、実は平原ミニミでも食べ物を十分に与えでっぷりと肥えさせたものはまた違った味わいが──ひいては使い道が出てくるのである」
『それじゃあさっそく、調理風景を見てみることにしましょう!』
にこにこといたずらっぽい笑みを浮かべたまま、ぱちんとシルクスは指を鳴らす。会場の中央に魔術式の巨大なモニターが現れた。
「……あの魔術を代替できたのなら、あのクソ魔人はクビになるのかしら?」
「儂、魔法ほとんどできないけど、今すごく勉強したくなった」
『くぅーッ! 遠回しな要らない子発言に心が震えるぜ! このナチュラルなサドっ気がたまらない! でもでも、あえて言うならこの魔術が代替できたところで俺の代わりは誰にも務まらないよ! それではこのテンションのまま、《ミニミの憤怒のフライ》の作り方、行ってみましょう!』
煙と光が迸り、辺りがすうっと暗くなる。同時にモニターは何やら映像を写し始めた。魔人の技術の無駄遣いである。
『今回使用するのはミニミのロースである。適当な……これくらいの大きさに切り出した後は、包丁で筋を切り、その後全体を満遍なく叩いて伸ばすことで柔らかく、かつ縮まないように仕上げることが出来る。少々硬めの肉でもこの方法を用いると上等な肉のようになるので試してほしいのである。……あ、この時に塩コショウで下味をつけるのを忘れずに』
映像の中で手早くギルガが肉の下処理を行っていく。ブロック肉からサッと使う部位を切り分け、慣れた手つきで硬い筋を切って行った。オーガの種族特性的に考えてかなり加減が難しいだろうに、ほどよい力で肉を叩き、柔らかくして下味をつけていく。こんな細かいところも手を抜かないなんてなんて策士なんだ飯テロリスト! やはり頭が良くないと飯テロは出来ないのか飯テロリスト!
『肉の下処理が終わったのなら衣をつけ、十分に熱した油でカラッと揚げていく。今回、衣にちょっとこだわってキュリオスバードの卵を用いたが、別段普通の卵でも構わないのである。……また、油もちょっと工夫する。ここではでっぷりと肥え太ったミニミのラードを用いるのである』
「ううう……見ているだけでおいしそうだよお……! 早く食べたいよお……!」
「にしても、ミニミからはラードも取れるのか。ホント、なんにでも使える食材なんだな」
「……先ほども言った通り、ラードが取れるのはあくまで肥えでっぷりと太ったミニミだけなのである。このミニミは脂がたくさん乗っているせいで普通の食肉として扱うのはちと難しく、そのままだとギトギトしてとても食べられたものじゃないのである。さらにはラードが取れるくらいに程よく太ったミニミを見つけるのはかなり難しいのである……太り過ぎでラードにも使えないものばかリ見つかるのである……」
「ほっほっほ。ギルガ殿がそんな顔をするのは珍しいのう。それほどまでにラードが取れるミニミは珍しいのか?」
「……ミニミは社会性を持つとは先に述べたとおりであるが、太ったミニミはその上層に位置する場合がほとんどなのである。必ずと言っていいほど巣の奥まで行かないと見つけられない上、そこに到達するまでに多くのミニミが攻撃してくるのである。首尾よく仕留められたとしても、ミニミがメンツを保つために巣を離れてでもこちらを倒そうと延々と追い続けてくるのである……」
『フゥーッ! いつになくギルガが饒舌だぁ! 実はマジで地の果てまでも追いかけてくるんじゃねーかってくらいの鬼ごっこをしたんだよね! あのしつこさにはマジでびびったよ! 空間転移で助ける直前、こいつ半ベソかいていたから! それと最強の飯テロリストの悲哀、ゴチになります! マジうめえ!』
そんなこんなをしている間にも映像が進んでいく。ギルガは丁寧にパン粉を作り、肉に衣をつけていく。ラードを用いた油にさっとそれを入れると、途端に大喝采のようにじゅわあああ……! という音が上がった。これだけで十分に食欲を刺激してくるからタチが悪い。
『……だいたいこんなものなのである。工夫の一つとして、最初は低温でじっくり、次は高温でカラッと……二度揚げをすることで衣がサクッとおいしくなるのである。とはいえ、一回でも十分においしく仕上げることが出来るから、これは慣れて自信が出来た人だけ挑戦すればいいのである。ちなみにだが、今回使ったミニミは平原ミニミのちょっとぽっちゃり系である。このほうが程よく脂がのってるゆえ。それでは、おさらいの意味を兼ねてもう一度作るのである』
すごいぞ飯テロリスト。料理に合わせて食材を選別しているぞ飯テロリスト。正直ラード用とフライ用のミニミの違いが判らないぞ飯テロリスト。これはさりげなくラード用を貶しているのか飯テロリスト。残酷だぞ飯テロリスト。
『エグい! エグすぎるぞギルガ! 物言わぬミニミの死体をさらにばらばらにし、さらに脂まで抜き取った! それだけでは飽き足らず、刃物もこん棒も使ってメタメタに打ち付ける! あ! ああ! あああ! その上……その上さらにグラグラに熱した火傷じゃすまないレベルの煮え立つ油の中にゴー・トゥ・ヘル! ひどい! ひどすぎるぞ! これほどまでに悍ましい料理が未だかつてあったのかぁーっ!?』
とても嬉しそうにシルクスが実況する。彼は今、輝いていた。
『鍋の中でミニミが悲鳴を上げているのが聞こえるようだ! 火で炙られるよりもタチが悪い! 全身を想像を熱する熱が蝕み焼け爛れていく! ああ、もう元気だった彼の影も形も面影もない! 生きていなければ何をしてもいいのか!? あまりに暴虐! あまりに残酷! 自身の脂で揚げるなんてなんて鬼畜なことをするんだ飯テロリスト! どうしてお前はここまで残酷になれるんだ飯テロリスト! 地獄の悪魔だってお前を見たら泣いて漏らすぞ飯テロリスト!」
「……我輩、普通にフライを作っているだけなのであるが」
「なんか一周回って尊敬の念すら覚えてきたわ」
「このひねくれ具合も、ここまで来ると天賦の才能じゃの」
『俺は模範的で品行方正な、嘘偽りの嫌いな綺麗な魔人ですからね! 死さえ冒涜する、安らぎを奪う料理と言う行為の残酷性に警鐘を鳴らしただけですよ! 食えるだけでもありがたいのに、最近はその感謝すら忘れている人が多いですから!」
「なんだろう。そう言われるとなんかすごくグロいものを見ている気分になってきた」
「おにーちゃんそっち行っちゃダメ! あのクソ魔人の思うつぼだよ!」
ガラッシュが開いちゃいけない扉を開こうとしている。リルララがとっさに抱き付き、こちらへ引き留めようと努力をしていた。シルクスはその様子を見てケラケラと笑っている。
『おいでよ、俺たちの真実の世界に! キミは残酷な事実を知る【勇気】はあるかい?』
「リルララ、クソ魔人を消すための【覚悟】なら出来てるよ」
「私はクソ魔人を刻むための【決意】があるわ」
「儂はクソ魔人を潰す【責任】を感じとる」
「ゴベル様はクソ魔人を嬲る【空気】を感じてるゴブ」
『あっ! いい! すごくいい! 異なる力が一つになる感じがマジデリシャス!』
『──こうしてキツネ色になるまでさくっと揚げれば完成だ。あとは油を切り、栄養バランスを考えて刻んだキャベツを添えて盛りつければ完璧である。ミニミのラードを使ったフライはそう簡単に食べられないのでぜひ堪能してほしいのである』
ともあれ、こうして《ミニミの憤怒のフライ》は作られたのである。
▲▽▲▽▲▽▲▽
「……それでは、さっそく食べていただきたい」
ギルガの合図と同時に、審査員席の全員がフォークを持つ。そして、ぱくりとそいつを口に入れた。
「うっは! すっげえサクサクでめっちゃうまい! 衣と脂が香ばしいし、肉を食べてるって感じがする!」
「こいつはすごいのう! 食べ応えもバッチリじゃ! ミニミの肉のうまさが十分に生かされておる! 肉汁が迸って全身を駆け巡るわ!」
「おいっしいっ! サクサクで、じゅわぁ~ってしてて、香ばしくて、とにかくすっごくおいしいのっ! リルララ、これお腹いっぱい食べたいっ!」
「脂っこくて胃もたれしそうだと思ったけれど……すごくいいじゃない! この脂身の所なんて特に、意外なほどに肉の甘さがあるわ!」
「うまいゴブ。もっと寄越せゴブ。じゃなきゃお前を揚げてやるゴブ」
『大盛況ですね! どうやらミニミは揚げ物と抜群の相性を誇るようです! その上さらに秘蔵のミニミのラードがその味わいを深くしている様子! これはちょっと冗談抜きで俺も食べたくなっちゃって来たぞ! でもまあみんなの悪意のほうがこれの百倍美味しいんだけどね!』
シルクスはへらへら笑いながらも食べる審査員を眺めている。口ではなんだかんだ言いながらも、夢中になっている彼らから絶妙にコメントを引きずり出し、うまい具合に悪意を煽ってつまみ食いをしていた。幸福の時間の邪魔をしているだけである。
『ヘイ! そこのカメラ兼ナレーション兼記録係のアナタ! 俺ってばだんだんアナタのごく自然な悪意が癖になってきちゃったよ! お礼と言っちゃなんだけど、このミニミのフライをプレゼント!』
まあ、お礼であろうとなかろうと、無理やりにでも食べるつもりだったんですけどね。ここまで来たら全部制覇しないと番組的にも私の心情的にも悪いですから。
『うーん、審査員たちとは一味違ったこの感じが格別だよ! マジでそこのゴブリンと入れ替わってほしいくらい!』
シルクスはいたずらっぽく笑いながら揚げたてほやほやのミニミのフライを魔術で私の目の前に召喚した。
『じゃじゃん! 今回も揚げたての最高においしいやつだよ! 時空魔術で時を止めておきました! ちなみに前回の活け造りの時も新鮮さを保つためにミニミに魔法をかけてたんだぜ! 俺ってばマジ健気!』
ふむう……ペラペラうるさいチャラチャラ魔人はおいておくとして……。
あっ……ちょっとやだ……! このフライすごくジューシー……! サクッとかみしめた瞬間、どこにあったんだってくらいに肉汁がじゅわって溢れ出てきました! 肉のうまみがたっぷり詰まっていて、一瞬でお口の中が幸せになっちゃいます!
そしてこのサクサクの歯ごたえと舌触り。本当に心地良いです。やっぱり揚げ物はこのサクサク感が命ですよ。油でべちょっとしているのなんて論外ですし。これやるの、本当に難しいんですよねえ……。
やっぱ揚げたてですよ、揚げたて。熱々なのをはふはふしながら食べるのが最高においしいんですよ。これだけは譲れません。
あとあと、お肉の柔らかさも忘れちゃいけません。下処理をしたにしてもすんごく柔らかくて、歯がつぶつぶと沈んでいくんですよ! かみしめるって動作がこんなに幸せだとは思いませんでした!
もちろん食べ応えも抜群です! こう、肉を食べてるぞーっ! って感じがします。香ばしさと肉のジューシーさの組み合わせが反則過ぎてこんなのもう何も言えませんよ。
あ、でもでも! 脂身の甘いところが本当においしい! これだけは言わせてほしい! 活け造りの時とは違って、熱を通した甘さって言うんですかね? 口に入れたとたん、溶けてなくなっちゃうかのように濃厚な脂の甘みが広がっていくんですよ!
あああ、もう……! これ、胸やけなんて気にせずに食べちゃいそうです……! っていうかこんなおいしいもの、食べても胸焼けするはずないじゃないですかぁ……っ! いいえ! 胸焼けしてでもこの快楽には抗えない!
シルクスさん、こんなものでどうでしょう? 出来ればここらで切り上げて、お代わりをしに行きたいんですけど。さっさと収録終わらせないと揚げたてを楽しめなくなっちゃいますし。
『ストレートに欲望を出すようになってきたね! 魔人はそういうの大好物だよ!』
「あの人には悪いけど、あっちに注目させておけばこのクソ魔人も少しはおとなしくなるかしら?」
「キャロル、それクソ魔人並みに最低なことだぞ」
「やーい、キャロルちゃんのクソ魔人ー!」
「くっ……! この屈辱……!」
「それにしても、儂は今までで一番このフライが気に入った! 出来ればこのあとすべてフライで胃袋を埋めたい気分じゃ!」
「……グードロードよ。さすがに番組の都合上、それは無理なのである」
『おーっとなんて残酷な宣告をするんだ飯テロリスト! グードロードがたちまち悲しそうな顔をしたぞ飯テロリスト! 一人の無邪気で純粋な願いをこうもバッサリ否定するなんてどうしてお前はこんなに卑劣なんだ飯テロリスト! 謝ったほうがいいんじゃないか飯テロリスト!』
「……一応言っておくが、別に気にする必要はないぞ?」
「……わかっているのである。我輩、あいつとはもうそれなりに長い付き合いなのである」
ああ、人の心の機微までわかるなんてなんてすごいんだ飯テロリスト! その能力を使えばどんな悪逆なことだってできるんじゃないか飯テロリスト! 現に私はあなたの料理の虜だぞ飯テロリスト! 夢中にさせておいて責任とらないなんてなんて極悪なんだ飯テロリスト!
『はーい、みんな今回も大満足してくれたみたいだね! お腹もそろそろいっぱいになってきたのかな? ……なんと! ここでサプライズをお知らせするよ!』
「……次はメイン料理なのである。ミニミの魅力がたっぷり詰まった、我輩渾身の作品だ。スペシャルメニューと言ってもいいのである」
えっちょ……えええええ!? えっうそマジですか!? 台本にもそんなの載ってませんよ!? っていうかこれがメインの肉料理じゃなかったんですか!?
『そりゃあサプライズだからね! 楽しんでいるとはいえ仕事をしてくれている審査員やスタッフたちへのちょっとしたプレゼントさ! あとあと、キミらの驚愕、珍味みたいでちょっとおいしかった! たまにはこういうのもいいね!』
あ、そっちが目的か。まあ、どうせこの企画自体もシルクスさんの発案なんでしょうね。
『それじゃあ盛り上がってきたところでサプライズな五品目行ってみよう! ……と言いたいところだけど!』
「……残念ながら、今日はもう時間が来てしまったようなのである」
審査員席から本気の嘆きの声が上がった。私も上げた。リルララは可愛らしく地団駄を踏んでいるし、キャロルは悔しそうに爪を噛んでいる。グードロードは落ち着きなく貧乏ゆすりをして机のグラスを落としたし、ガラッシュは毛がぶわって逆立った。ゴベルはセットに当たり散らしている……おい、誰かアイツ何とかしろ。
それにしても……こんなところで寸止めなんてなんて卑怯なんだ飯テロリスト! お前に心はないのか飯テロリスト! 次回が楽しみ過ぎるぞ飯テロリスト!
『次は《ミニミの暴食の丸焼き》をお届けするよ! その時までお腹を空かせて待っててくれよな!』
シルクスがカメラに向かって走ってきた。魔人特有の残酷な微笑みを浮かべている。ついでにどアップである。
『それじゃあ次回をお楽しみに! みんなも元気に飯テロしようぜ!』
・【ロース】




