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3 傲慢のブイヤベース風スープ

『さあ、待ちに待ったこの時間がやってまいりました! 楽しみにしてた方こんにちは! 楽しみにしてなかった方ごめんなさい! いつもの番組をジャックして、今日この時間は特別番組【飯テロリストのグルメキッチン!】を放送しちゃうよ!』


 軽薄そうな若者が煙の中から飛び出して、周囲にいる観客にぺこりとおじぎをした。極上の笑みを浮かべており、周りに向かってぶんぶんと手を振っている。彼が立っている不思議な舞台──実はこれも彼の魔人としての実力で作られたものだ──からは光と音楽が溢れ出て、その場にいる全員に大いなる何かの予兆を感じさせた。


 魔人の彼──シルクスはそのことに満足したのか、いたずらっぽい笑みを浮かべながらぱちりとウィンクしてくる。


『へっへー、驚いた? 実に一日ぶりだね! みんな続きは来週だと思ったでしょ!? 実は俺たち、ちゃんと言葉通りジャックしたからね! 今週は毎日グルメキッチンを放送しちゃうよ! 早速だけど、シェフと審査員、まとめてカモン!』


 シルクスがぱちりと指を鳴らすと、舞台からミルクのように濃い煙が吹き上がる。舞台中央に筋骨隆々な大きく黒い影がぬうっと現れた。


『美食のためなら東へ西へ! ロースを寄越せと天龍狩って、刺身にさせろと海龍捌いて、丸焼きしようと地龍を屠った! そんな最強料理人! 誰が呼んだか飯テロリスト! マジで飯のためならなんだってしてきたヤバいやつだぞ!! 【最強の飯テロリスト】……ギルガ・オルガ!』


「……どうも」


 最恐の飯テロリスト、かの有名なオーガのギルガ・オルガである。全身をコック装備で固めた彼は今日も気合十分で、その全身からは一流の飯テロリストだけが発することできる、殺意のそれにも似たオーラを放っていた。


『審査員のみなさんの説明はすっ飛ばすよ!』


 シルクスが笑う。彼は心底愉快そうにパチリとウィンクし、飛んできた炎の魔術をかき消した。


「仕事しなさい! このチャラチャラ魔人!」


『くぅーッ! この見下す瞳がマジ最高! 極上の蔑み、ゴチになります!』


 念のため補足しておこう。シルクスたち魔人は、人の恨みつらみや絶望、嫉妬や怒り、その他負の感情を生きる糧とする。普通の食糧だけでも生きていけないことはないのだが、彼らにとってそれらは嗜好品とくくるにはあまりにも大きな存在であるため、こうしてちょくちょく【つまみ食い】、もとい嗜んでいるのだ。


『それじゃあリクエストもあった事だし軽く説明しておこうかな! 甘いの大好き吸血鬼! 見た目も言動もロリもだけど誰よりもババア! リルララ・キャンピィティーク! 胃袋でっかいくらいしか言うことが無いぞ! サイクロプスのグードロード! 俺は君の怒った顔も嫌いじゃないよ! 小じわが増えてチャーミング! サキュバスのキャロル・エレンシア! この中じゃ意外とまともで影が薄い!? ワーウルフのガラッシュ! ゴブゴブ言っててマジで使い物にならねえ! スタッフはさっさとこいつをつまみ出せ! ゴブリンのデ・ガ・ゴベル!』


 直後にシルクスは恍惚の表情を浮かべた。たぶん、すごくおいしい悪感情を楽しめたのだろう。上等の酒を飲んだかのようにうっとりとしている。魔人みんながこんな性格ではない……と信じたい。


『ちなみに一日ぶりとか言ってるけど、実際は前回の収録と立て続けに行っているからね! マジで今更自己紹介なんて挟む意味無いんだよ! なのにわざわざそれっぽく演技してくれるとか、審査員の皆さんマジ天使! すっげえ滑稽で超間抜け!』


「離せ。リルララ、あいつを潰さなきゃ気が済まないの」


「ほっほっほ。大人なら小童の戯言と聞き流すものじゃよ」


「うるさいゴブ。いいからさっさと始めろゴブ。腹減ったゴブ」


 シルクスは今日も絶好調だ。だがノリと勢いがうざいと言ってはいけない。彼の口上とその実況の実力もまた、飯テロに必要なものであるのだから。


『最後になりますが今日も司会は私、魔人のシルクスでお送りします!』


「……それでは、今日のメニューを紹介させてもらおう」


 ギルガはペラペラまくしたてるシルクスを遮り、黙々と準備に入った。さすがのシルクスとはいえ、料理準備中の飯テロリストにちょっかいを出す勇気はないらしい。普段の仕事をするだけでこの魔人を黙らせるなんてなんてすごいんだ飯テロリスト! 最恐だぞ飯テロリスト!


「……前回の予告通り、今回提供するのは《ミニミの傲慢のブイヤベース風スープ》である」


『それではこれより、飯テロ開始!』


 ──《ミニミの傲慢のブイヤベース風スープ》。


 ギルガの宣言と共に突如として審査員の目の前に現れたのは、そんな料理だった。


 鮮やかで思わず食欲をそそる様なオレンジ色のスープに、貝やエビ、その他見慣れぬ具材がこれでもかと入っている。ここからでもわかるほどに香り高く、その複雑で濃厚な芳香から何種類もの香草や野菜を絶妙なバランスで使ったことは想像に難くない。


「あら、香りは結構いいじゃない! 馴染み深い感じと言うか、どことなく懐かしささえ感じるわ!」


「すっごく良い匂い! 夕方にお家からこんな良い匂いが漂って来たら、思わず走っちゃうよ!」


「ほぅ……ブイヤベース風……なるほど、本来使うべき魚介の代わりにミニミを使っとると言うわけか。こりゃあなかなかうまそうじゃな!」


「……お? 野菜や魚介なんかは見たことあるのが多いけど、ミニミの肉……肉だよな? それ以外にも知らないのがけっこう入っているな」


「うるさいゴブ。さっさと食わせろゴブ。食わせないと訴えるゴブ」


 意外とさらっとしたオレンジ色のスープには各種具材が浮いている。充分に煮込まれたそれらは見ているだけでもおいしそうな逸品であるが、中には白っぽくてふにゅふにゅしたものや赤みかかったつるんとしたものがある。その傍らに浮かんでいる肉団子はおそらくミニミであるのだろうが、はてさて、あれらは一体何なのであろうか?


「……食べてみればわかる、と言いたいところであるが」


『今回の料理にもコンセプトがあるんですよね、ギルガさん!』


「……うむ。今回は、如何にミニミから得られる材料を無駄にせず、料理に使うかということを念頭に置いたのである。新たな食材として、使える部位は多ければ多いほど有用と言えるからである。諸君らが気になっているであろうその見慣れぬ具材も、その一環なのである」


『それじゃあさっそく、調理風景を見てみることにしましょう!』


 にこにこといたずらっぽい笑みを浮かべたまま、ぱちんとシルクスは指を鳴らす。会場の中央に魔術式の巨大なモニターが現れた。


「性格はクソ悪い癖に、魔術の腕前だけは一流なのが腹立つわね……!」


「ほっほっほ。一長一短ってやつじゃな」


『くぅーっ! 会場からの絶妙なディスリスペクトに悲しみを隠せないぜ! 遠慮せずにもっとガンガンディスってくれよな! 俺だって美味しいご飯を食べたいの! それではこのテンションのまま、《ミニミの傲慢のブイヤベース風スープ》の作り方、行ってみましょう!』


 煙と光が迸り、辺りがすうっと暗くなる。同時にモニターは何やら映像を写し始めた。魔人の技術の無駄遣いである。


『まずは鍋に油を敷く。そこに各種香草や野菜を入れてさっと炒めていく。やはり玉ねぎは鉄板だろう。セロリを入れてもいい。ピリッとした大人の味付けにしたければスパイスを入れるのも手である。子供向けに作りたいのであれば、魔法植物であるナエカを刻んだものを入れる。……おお、ニンニクを炒めて香りをつけるのも良いであるな』


 映像の中でギルガが手早く野菜を炒めていく。挙止動作の全てが流麗で、まるで何年ものそれを生業としてきたかのようだ。筋骨隆々でたくましい腕から放たれる繊細で美しい妙技は、料理と言うよりもむしろ芸術のそれを連想させる。料理以外でこれほどまでに魅せるなんてなんてすごいんだ飯テロリスト! お前は魔性の花か飯テロリスト!


『本来のブイヤベースであるならば、次に魚のあら……要は適当に余った魚介などを入れ、出汁が取れたところでトマトペーストなどを中心とした野菜や残りの魚介を投入し、煮込んで味を整えれば完成なのである』


「へえ、大層な名前がついている割に結構豪快な料理なんだな」


「私の出身みたいな南の港町で流行った寄せ鍋が元々ですからね。豪快なのは当然でしょう?」


「サキュバスってなんとなく北の寒くて暗い方に住んでいるイメージがあったんだけど、南国出身なんだ?」


「……港町はね、開放的でエネルギッシュなのよ。おまけに娯楽が少ないから」


「……」


「ねえねえ、おじちゃん。いったいどういうこと? リルララ、全然わかんないや」


「ほっほっほ。幼子はわからなくてもよいことじゃ」


『繰り返すようだけど、リルララちゃんはこの中で誰よりも年増だよ──』


「消すぞクソ魔人」


「別に隠す必要ないゴブ。このゴベル様が教えてやるゴブ。解放的でエネルギッシュで娯楽が少ないってことはつまり──」


「てめえも黙れよ? 食事前に爪も牙も汚したくないんだ」


『フゥーッ! 会場が殺伐としてきたぁーっ! これこれ! 飯テロってのはこうじゃなくちゃね!』


 そんなことをしている間にも映像が進んでいく……と見せかけて、大事なところだったのか一時停止が掛かっていた。どうやらあの魔人、ふざけていながらも司会としての仕事はきっちりこなすらしい。


『……しかし、今回はあくまでミニミがメインだ。そこで、魚のあらではなくミニミで出汁を取ることにする。具体的にはミニミの骨だ。また、具材も工夫する。肉団子だけでは寂しいので、よく洗って塩もみした──処理済みのミニミの臓物を加える』


 すごいぞ飯テロリスト。今まで誰もが捨て去っていたような骨や内臓を料理に使っているぞ飯テロリスト。そんなものまで食べられるようにしてしまうなんて、あなたはもしかして悪魔なのか飯テロリスト。美味しいものを黙っていたなんて残酷過ぎるぞ飯テロリスト。


『うわぁぁーっ!? 恐ろしいぞギルガ! 力なく横たわるミニミから内臓を引きずり出し、その傷口に塩水をぶちまけたーっ!? 痛い! 痛すぎるぞ! ……はっ! しかも! しかもしかもしかも! それだけでは飽き足らず、地獄のような大釜の中で内臓をグラグラと煮だした! 骨まで入れている!? 地獄の様な、ではなくてまさに地獄の光景だ! 悪魔の儀式そのものだ! どうしてこんなことが出来るんだ飯テロリスト!? なんて鬼畜なんだ飯テロリスト!』


 とても嬉しそうにシルクスが実況する。彼は今、輝いていた。


『骨から滴る髄液と、臓物から滴るそれが鍋の中で混じりあう! あ! ああ! あああ! さらにそこに無茶苦茶にぐちゃぐちゃにされた腹の肉まで投下されたーっ!? むごい! むごすぎるぞ! ただ殺すだけでは飽き足らず、死体をぐちゃぐちゃにして弄ぶなんて! これじゃあミニミも浮かばれない! こんな全身をスプラッタにされて鍋で煮られるなんて、あまりにも残酷過ぎる! グロテスクすぎるぞ飯テロリスト! お前に良心はないのか飯テロリスト!』


「……我輩、普通に出汁を取ってスープを作っているだけなのであるが」


「うぇぇ……なんか言われてみればグロテスクに見えてきたぁ……!」


「ああもう! 間違いは言っていないことが余計に腹立つ!」


『俺は模範的で品行方正な、嘘偽りの嫌いな綺麗な魔人ですからね! 本当のことをそのまま実況してるだけですよ!』


「辞書の改訂が必要じゃな」


「いや、あいつの頭を矯正させた方が……」


「無理じゃろ?」


 グードロードはあきらめの境地にいるらしい。シルクスの実況のせいですっかり気分が悪くなってしまったリルララは、意外なことにキャロルがその背中を撫でて落ち着けさせていた。意外とサキュバスにも母性と言うものがあるようだ。


『あるぇー? よかったらこのイケメンおにーさんが背中をさすってあげようか?』


「やーだー! あの魔人ちゃーらーいー!」


「よしよし、もう怖がることなんてないからね……クソ魔人、次減らず口を叩いたらお前の下半身、一生使えなくするぞ」


『あっ! これ冗談じゃなくてガチなやつ! 今までに一番デリシャス!』


『──こうしてよく出汁を取り、具材をふんだんに用いて煮詰めることで完成したのがこの《ミニミの傲慢のブイヤベース風スープ》だ。見ての通り、レシピの随所でアレンジができるのである。各々お気に入りを見つけてくれるとうれしい』


 ともあれ、こうして《ミニミの傲慢のブイヤベース風スープ》は作られたのである。



▲▽▲▽▲▽▲▽



「……それでは、さっそく食べていただきたい」


 ギルガの合図と同時に、審査員席の全員がスプーンを持つ。そして、ぱくりとそいつを口に入れた。


「わぁっ! すっごい濃厚な香り! ミニミの深い味がスープにしみ出していて、すっごくすっごくおいしい! 何杯でも食べられちゃう!」


「内臓なんて下賤なもの……って思ったけど、おいしいじゃない! この独特でこってりした感触が堪らないわ! それに、出汁が効いているのか深みとコクが凄まじいの!」


「具だくさんなのもうれしいところじゃのう! 濃厚なスープも百点満点じゃ! ちいっとばかし生臭さというか特有のクセがあるが、慣れれば十分にうまい!」


「俺たちはむしろこっちのほうがいいかな。肉と魚と骨の出汁のおかげで、意外とさっきのサラミほど香草の風味は強くないよ。むしろ、肉を食べてるって感じがしてすっげえうまい!」


「うまいゴブ。さっさとお代わり寄越せゴブ」


『今回もまた好評ってことでいいんですかね! どうやら少々特有のクセがあるようですが、あまり気にならないレベルでむしろその濃厚さがストライクするみたいです! 実はこっちのほうまでいい香りがぷんぷん漂ってきているんですよ! もし屋台でこれを出したら、周りの屋台の顰蹙を買うこと間違いなしですね!』


 シルクスはへらへら笑いながら食べる審査員を眺めている。口ではなんだかんだ言いながらも、彼自身はスープを貶すつもりもなければ実際に食べるつもりもないらしい。タチが悪すぎる。さすが飯テロリストの相棒だ。


『ヘイ! そこのカメラ兼ナレーション兼記録係のアナタ! せっかく今回も試食させてあげようと思ったのにずいぶんひどいこと言うなあ! その選択は間違ってないのかい?』


 ああっ! すみません! あなた様は素晴らしすぎる魔人でございます! だから何卒、何卒その至高の一杯をこの卑しいわたくしめに……!


『オッケーオッケー! そういう素直なの、嫌いじゃないよ! どうせゴブゴブ言ってて役に立たないクソ審査員もいるしな!』


 シルクスはいたずらっぽく笑いながらその至高のスープを私の元まで持ってきた。どれ、ちょうど小腹も空いたことですし、せっかくだからいただきましょう。


『うっそぴょーん! やっぱあーげない!』


 はァ?


『うそうそ、冗談だって! 俺ね、この手の嫌がらせだけは絶対にしないことにしているの! 食べ物の恨みは恐ろしいからね! 残酷無比な飯テロリストでも、残酷さのベクトルが違うんだよ! でもでも、極上の怒りがマジデリシャスでした!』


 ふむむ……あのクソ魔人の言うことはおいておくとして……。


 はあん、やはりこの濃厚なスープが格別ですね! ミニミの骨の出汁が良く取れていて、すっごくコクと深みがあります! 従来通り魚のあらも使っているからか、味は思った以上に複雑で、舌に広がった瞬間にあらゆる方向から衝撃を与えてきます。


 なんでしょう……いろんな味がするのはなんとなくわかるのですが、それらすべてが調和しているためにその正体がつかめないんですよ。複雑にして一体化しているって言えばいいんでしょうか。


 そしてこれこれ、忘れちゃいけないミニミのお肉。


 スープで煮詰められていたからか、口の中でほろほろと解けていく感じがたまりませんね! 柔らかい口当たりとミニミ特有の強い味のコントラストが格別ですよ。出汁と具材の相性もバッチリで、どちらも互いに負けていません。もしミニミがもっと風味の弱い肉だったとしたら、きっとこの骨の出汁に押し負けて味気ないものになっていたことでしょう。


 濃厚なスープと深い香り。野菜も魚もお肉も……たくさんの具材。お椀一杯でも十分に楽しむことが出来ると言えます。お野菜全部にミニミの風味がついてとってもおいしくなってるんですよ。くたくたになっているのが特にお気に入りです。


 それと……この、ミニミの内臓。くにゅくにゅしていてこってりとしたちょっと変わった風味のクセを持っています。うまく噛み千切れないし、飲み込むタイミングもつかめないんですけど……あらやだ、なんかこれ、すっごくクセになる。


 噛めば噛むほど味が出て……こう、最後にごくん! ってするところで妙な爽快感がありますね! ほかにもコリコリしているやつとか、けっこういろんな内臓が使われているみたいです。ミニミのどの部位なのかまではちょっとわからないんですけれども。


 シルクスさん、こんなものでどうでしょう? 正直ゆっくり食べていたいんですけれども。


『いいよいいよ、マジ最高! どこぞのゴブリンに爪の垢を飲ませたいくらいだね!』


「垢なんてケチなこと言わずに指ごと食わせろゴブ。ゴベル様、けっこうそういうの好きだゴブ」


「こんな下等生物は放っておくとして。……それよりも、そこのナレーションさん? が言ってた内臓がとってもおいしいの! 特にこの白っぽくてふにゃっとしたやつ! ねえギルガさん、もしよかったらこれはどこの部位か教えてくれまして?」


「……白くっぽくてふにゃっとしたの? ……ああ、それはミニミの白子なのである。言い換えると精巣であるな」


「せ、せい……!?」


『おーっと残酷な飯テロリスト! わざわざ言い換えて教えなくてもいい事実を伝えたぞ! いや!? これは天然なのか!? 天然でここまで悪逆になれるのか!? さすが最強の飯テロリストは格が違う! そして精巣大好きサキュバスちゃんマジ天使! 何? やっぱサキュバスだからなの!? 具材としてたくさん使った内臓の中でよりにもよってピンポイントでそれを好きになったのはやっぱりサキュバスだからなの!?』


「消す。潰す。ミンチにして奴の口に突っ込む」


「やめろよ、キャロル。やっこさんを喜ばせるだけだ。見ろよ、あの恍惚の表情」


「うわぁ……あれが変態ってやつなんだね……リルララ、覚えた」


「リルララよ、それは覚えなくていいことじゃよ……頼むからまっすぐ育っておくれよ……」


「喰わないなら貰うゴブ。精巣食わせろゴブ」


 ああ、よりにもよってそんなものをあそこまで美味しく仕立て上げてしまうなんて! なんてひどいんだ飯テロリスト! どうして私たちをここまでいたぶるんだ飯テロリスト! こんなおいしいもの、食べずにはいられないじゃないか飯テロリスト! 悪逆非道だぞ飯テロリスト!


『はーい、みんなだいたい満足してくれたようだね! ミニミ肉のスープってのも相当なポテンシャルを秘めているようだ! これはいよいよ他の料理の期待もしちゃっていいのかな!?』


「……うむ。今回のスープでミニミのあらゆる部位を使えること、アレンジ性の高さを理解してもらえると嬉しいのである。作り手次第でいくらでも応用することが出来るだろう。いずれ各家庭でのミニミの味が出来たのなら、料理人としてこれほどうれしいことはないのである」


『よーし! うまくまとまったところで三品目に行こう! ……と言いたいところだけど!』


「……残念ながら、今日はもう時間が来てしまったようなのである」


 審査員席からわざとらしい大きな嘆きの声が上がった。ぶっちゃけ茶番である。だってこれからまた次回の収録をして次の料理を食べるんだもの。……まあ、サラダとスープだけしか食べていないし、余計にお腹が空いて不満だってのは事実なんですけどね!


 ああ、こんないいところで引くなんて、なんて残酷な飯テロリストなんだ!


『次は《ミニミの怠惰の活け造り》をお届けするよ! その時までお腹を空かせて待っててくれよな!』


 シルクスがカメラに向かって走ってきた。魔人特有の残酷な微笑みを浮かべている。ついでにどアップである。


『それじゃあ次回をお楽しみに! みんなも元気に飯テロしようぜ!』

・【肉】

・【骨】

・【肝臓】

・【精巣】

・【卵巣】

・【脾臓】

・【腎臓】

・【肺】

・【胃】

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