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元宰相の異世界物語(仮題)  作者: 徳兵衛
プロローグ
2/65

前話   今際の狼藉者  中

草の匂いがする。



目を開けると抜けるような青空が広がっていた。

ふと鉄臭さを感じて自分の体を見ると背広の胸と腹に穴が3つ。膝あたりまで赤黒く染まっている。

だが、あの時感じた焼けるような痛みも、失血由来の激しいめまいもなかった。


なぜか体の傷だけ消えていた。



「はて、撃たれたのは間違いないはずだが...ここが話に聞く彼岸か?」




しかし、近くに小さな川があるようで水音は聞こえるが、見たところ近くに三途の川らしきものはない。

遠くには切り立った山々が見える。文句なしの素晴らしい景観だが、自分が知っている冥府の入り口のイメージとは結び付かない。

河辺というよりはどちらかというと高原と言うべきか。



実にいい眺めだが、ここは何処だ。




「目は覚めましたか?」


不意に後ろから声をかけられ振り向くと、色素の薄い現実感を失うような美女がいた。



「おかげさまでね。ところで質問したいことが沢山あるんだが...」


「ではついてきてください。話はこちらでお伺いします。」



何故かどこかの役人と話している気分になる。

美女のありがたみが急に薄れてきた。







美女についてしばらく歩くと石造りの家が見えてきた。

庭に同じく石造りの祭壇らしきものがある。

そのすぐ脇の小さなテラスに案内される。


「おかけください。」


「椅子を汚してしまいそうだがいいのかい?」


「問題ありません」


彼女が何かを呟くと、既に血糊が乾き始めていた背広が仕立てたばかりのように綺麗になった。


なるほど、これは便利だ。



もう少し早くこうしてもらえたら文句なしだったが。



「便利なものだな、感謝する。  さて、私は殺されたと思ったんだがここは何処なんだ?」



「あなたは殺されました。死因は出血とそれに伴うショックによるものです。」



老人に銃弾3発だからな。当然と言えば当然か。

予想も覚悟もできていたがこうして面と向かって言われると返す言葉に詰まる。



「...ではこの場所は?」



「管理者の庭」



よくわからないが死んだ後の世界とは違うのだろう。



「で、この死人を連れ込んで何をさせる気だ。」


「あなたには別の世界へと向かってもらいます。」



は? 



「本人の意思による拒否権は?」


「厳正に抽選した結果であり、既に先方も合意した決定事項ですので拒否権はありません。」



話を聞いてくれただけマシというべきなのだろう。決定事項を淡々と告げられる。



「この老人に見知らぬ世界で何をさせるつもりだ。」


「先方からの要請に基づくものであり、こちらでは返答できません。」


「要請?君が企図したことではないのか?」


「あちらの世界からの依頼に基づく処置です。」


この女は管理者でしかないのだろう。腹立たしいが彼女に食って掛かっても何も変わるまい。

諦めとやるせなさを掻き立てるのが実に上手い。実に。



「先方へはそこのゲートを使い赴いてもらうこととなります。」



彼女はそう言いながら祭壇に目を向ける。



「もう一度人生をやり直して来いと。そういうことかな?」



申し訳程度でも何かしらの期待は抱きたい。



「いえ、あなたの魂の所属は既にあちら側。詳細はあちらの管轄となりますので明言いたしかねます。」



期待は急に失せてきた。

彼女の言葉の選び方にいちいち不快さを抱き始めてきた。よくないな。



「他に質問はありますか?」


「管轄が先方ならその担当に聞くとしよう。あちら側に言付いてもらえるか?」


「わかりました。ではあちらへ」






異世界とか管理者とか至極どうでもよくなりつつ祭壇に上ると、彼女はこちらに会釈し何かを呟いた。



祭壇の上の老人は光に包まれた。

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