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元宰相の異世界物語(仮題)  作者: 徳兵衛
プロローグ
1/65

前話   今際の狼藉者  上

初投稿 実験要素多いです。

「先生、どうあってもお辞めになられるのですか?」



意表を突く辞意表明だった。 


その男は鉄鋼業で財を成した熊崎家の長男に生まれ、家業を手伝う中で政治に興味抱いた。

38歳の時に帝国議員になってからは次々と成果を上げ、瞬く間にその地位を高めていき50歳で遂に史上初の平民出身で宰相へと上り詰めた。

4期16年に渡って帝国の舵取りを担い、臣民から饅頭宰相と呼ばれ親しまれた男。

彼の年齢と能力を考えればあと1期は務めても問題ないはずだった。

この国の殆どの人間がそう思っていた。



「何故と言われてもねぇ...自分が辞め時だと思ったから辞める。それだけの事じゃないか。」



周囲は驚き翻意を促したが、本人の意志は固かった。


与党だけでなく野党も、そして貴族や皇帝からも慰留されたにも拘らず。彼は辞職すると言って譲らなかった。



「しかし、この国の皆が先生の続投を望んでいます。」



帝国で前例のない平民上がりの宰相。

国民の生活水準の引き上げと軍の制度改革と近代化を強力に推し進め、貴族の権力の縮小と中央政府の強化に尽力した。

口の悪い者たちは毒饅頭や泥饅頭と罵ったが、彼はそれ以上の口汚さで言い返えした。もともと毒舌で知られていたが、あまりに品がなさ過ぎて叱責されたこともある。議会は飲み物を口に含むことができないほどの危険地帯となった。 本格的に始まった無線放送で彼の国会での自重知らずの質疑応答が人気番組になっていた。




「私にはもうこれ以上皆の期待には応えられないよ。もう、付いて行くので精いっぱいだ。今ここで譲らなければ、私はこの国の毒になってしまう。」



彼は周囲の評価とは裏腹に自分では限界を感じていた。

急速に進む技術の発達、産業構造の変化とそれに伴って噴出した各種問題は既に彼の処理能力を超え始めている。

彼としては、時代遅れの老人がこの国の伸びしろを縮めてしまう事だけは何としてでも防がねばならない。老害と罵られるのだけはご免だった。


何より、長年連れ添った妻に先年先立たれてから自分でも驚くほど老けた。体はもちろん脳味噌も。こればかりはどうしようもない。

まだ頭が冴えているうちに引退しなければという思いは日に日に増していた。



「君も含め、新時代を担いうる者は育っている。だから私は私と同じく限界を感じた者たちを集めて引退するのだ。これが宰相としての私の最後の仕事になる。」


「...承知しました。」


「もう少し若ければ続投もアリだったんだがな。思いの外衰えが早かった。残念だがここまでだ。」



帝紀950年 大陸暦1880年 4月20日 

後に帝国中興の祖と讃えられた大宰相、熊崎源之丞はこの日政界の一線を退いた。



「では、さようならだ。 それと、送りは駅までで十分だ。あとは歩く。」



「...あとはお任せください。」



「頼んだよ。」





宰相公邸から出て駅へと向かう。

数多の勲章もすべて鞄にしまい込んで、傍から見ればただの老紳士だ。


一抹のさみしさはあれど悔いはない。


すれ違った役人に挨拶されたり、通りがかりの人から声をかけられる。皆驚き、そして笑顔で送ってくれた。




帝都の官庁通りを抜け、駅前の広場に着いた時不意に正面から身なりの良い若い男が走ってくるのが見えた。


「国賊熊崎! 天誅!」


懐から拳銃をだしこちらに向けるまで自分も周囲も動けなかった。


2発の発砲音。



鳩尾に衝撃と焼けるような熱さが広がる。

左手に力が入らない。



鞄を取り落し膝をつく。

広場に響く悲鳴が遠く聞こえる。


「愚かな...」


今更殺しても遅かろうに。


かろうじて吐き出した言葉も3発目の銃声に掻き消える。


急激に薄れる意識の中、男の高笑いだけがやたらと頭に響いた。






誤字、気になったこと、感想等お待ちしています。

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