星乙女との会話
主人公である神代天音は、平凡な高校二年生。彼女はいない、成績も普通、委員会にも部活にも所属していない。平凡を絵に描いたような人です。少し変わっているところといえば、重度のお人好しであり、ブラコンの妹がいるということ。
ある日、天音はトラックにはねられそうになっていた女の子を助け、代わりに死んでしまいます。そして死後に女神と会話し、異世界を救うためにチート能力を得て転生。その際、神様の余計な気遣いで性転換をしてしまうというお話。
初めての投稿ということもあり、誤字などがあるかもしれません。また作者が忙しいため、投稿のペースも遅くなってしまいます……。ですが、ゆっくり、長く続けていこうと思っているので、これからよろしくお願いします!
……暗い。
辺りを見回しても、漆黒の空間だけが広がっている。どっちが上で、どっちが下なんだろう。どっちが左で、どっちが右なんだ。俺は倒れているのか。いや、しっかり立っているのだろうか。まさか、手も使わず逆立ちしているのだろうか。
「俺、死んだのか……?」
「そうだよ?」
「!!?」
呟いた言葉に返答があるとは思わず、思わず飛び上がった(体がびくっとなった感覚があるだけだが。)
「ごめんごめん、驚かせちゃったかな。」
また、声が聞こえた。少なくても気のせいではないらしい。
「……どこにいるんだ?」
辺りを見回してみるが、何も見えない。さっきまでと同じ、漆黒が広がっているだけだ。
「少し待っててね。今、こちら側に引き込むから。
」
引き込むって?と聞こうとした瞬間、まるで腰に巻き付けられた縄を引っ張られるような感覚を感じる。自然と体がくの字になってる感じがするし。というか、
「いや、ちょっと待って速い!引っ張るのが速すぎるよ!?」
手先とつま先がくっ付くほど、凄まじい勢いで体を引っ張られている。
「痛い痛い!!ちょ、体が千切れる!?」
「ごめん、後少しだから我慢してね!」
後少しってどれくらいだよ!?と思ったが、もはや声も出せないほどキツイ。耐え切れず気を失いかけた時、いきなり光が満ち溢れた空間に釣り上げられた。久振りに感じる光の温かさにホッとした瞬間、
「ひでふっ!!?」
「あ。」
思いっきり天井のようなものに激突した。五秒程天井に張り付いた後、ボロ雑巾のように地面に落ちる。
「だ、大丈夫……?」
すぐ横に誰かが来る気配がするが、次第に意識が遠ざかって行く……。ああ、また目の前が漆黒で覆われていく……。
「ん……?」
「あ、起きた。大丈夫?」
「……うん、大丈夫。なんで大丈夫か分からないくらい。」
目が覚めると、気絶する前に見えた光溢れる空間の地面に倒れていた。起き上がり見回すと、さっきまで浮いていた空間とは、まるで真逆といえる空間だということが分かる。さっきまでの空間を漆黒と表現するならば、こっちの空間は純白だろうか。どっちが上でどっちが下かも、どっちが左でどっちが右かも分かる。そして、しっかりと地面に足をつけて立っている!
「うん、大丈夫そうだね。良かった!!」
自分の横にいた少女は嬉しそうに笑う。見た感じ中学生、いや高校生くらいだろうか。これまで見たこともないくらいの、とても綺麗な子だ。キラキラと輝く銀髪と、炎を凝縮したのかと思う程の赤い、紅い眼をしている。そして背中には純白の翼……。
「えっと、色々と聞きたいことがあるけど……。とりあえず君は?」
「私はアストライア。星乙女アストライア。一応これでも女神の一人。」
……女神?アストライアって確か、ギリシャ神話に出てくる女神だよな。戦いばかり起こる地上に絶望して、天の星になった正義の女神……。
「そして……有翼の女神。」
「あ、もしかして私の事知ってる?」
「まあ、星座のレポートで色々調べたからね。確か乙女座の女神で、持っていた天秤がてんびん座になったはず。」
「そうそう!この天秤!」
アストライアは嬉しそうに自分の横の空間に手を突っ込み、細かい装飾のされた一つの天秤を取り出す。……今の何!?
「知ってるなら私の詳しい自己紹介はいらないね!色々話すことがあるし。」
「あー、うん。確かに俺も、今の状況を説明して欲しいかな。」
どうして平凡な俺が女神のアストライアと話せているのか、ここはどこなのか、俺はこれからどうなるのか。
「まあ長い話になりそうだし、飲み物とか飲みながら話そうか。」
アストライアが指をパチンと鳴らすと、一瞬でコタツと座布団が出てくる。驚く暇もなく、もう一度彼女が指を鳴らすと、コタツの上に蜜柑と熱そうなお茶が出る。
「……もうなんでもありだな。」
「まあ、なんでも出来るってわけではないけどね。」
「いや、十分だろ。」
お茶を頂く。……美味しい。
「さて、とりあえず。君、神代天音君は死んでしまった。車道に飛び出した女の子を助けて、代わりにトラックに轢かれてね。」
「うん、薄っすらと覚えてる。」
理由が分からないが、小さな女の子が車道に飛び出して、更に向こうから大型のトラックが来てる事に気付いて、考える前に体が勝手に動いたんだよな。近くにいた妹が止めようとしていたのも、薄っすらとだけど覚えてる。
「女の子は無事だったのか?」
「うん、擦り傷程度。君が命をかけて守ったおかげでね。その子は君の事を一生忘れず、今も立派に生きてるよ。」
「なら良かった。……俺の家族は?」
「……妹さんはかなりショックを受けてるかな。目の前で自分のお兄さんが死んじゃったんだもん。どうして無理矢理止めなかったんだろう、ってね。」
「………。」
妹である花恋は、小さい時かなり体が悪かった。そのため、俺は花恋を甘やかしてしまい、結果としてかなりのブラコンになってしまった。もちろん思いやりのある優しい子だとは思うのだが、俺が修学旅行などでいない時は、家でも学校でも極端に口数が減ってしまったらしい。
そんな花恋が目の前で俺の死を見てしまったら……。
「……花恋と話す事は出来ないのか?」
「……ごめんね。死んでしまった人と生きてる人を会わせてあげる事は出来ないの。」
「メッセージだけでもか?」
「うん……。」
アストライアは辛そうに視線を白い地面に向ける。あー、これじゃ俺が責めてるみたいだ。アストライアは悪くないのに……。
「いや、謝る必要はないって。俺が飛び出したのが原因だし。それに女の子を助けられたんだし。ましてや俺の事を覚えてくれているんだから、とても嬉しいよ。」
「あ……。」
少し近くに寄って、頭を撫でてやる。妹も時々撫でてたし、癖になってるなコレ。
「すまん、嫌だったか?」
「ううん!嫌どころか、むしろお父さんに撫でられてるみたいで安心する。」
ふにゃーとした顔になるアストライア。……なんだこの可愛い生き物は。
「こほん、続きを話すね。死んでしまった人は、冥道を通って冥界に行くの。そして、冥界で審判を受ける。普通だったら問題無し、ということで輪廻の輪に送られるんだけどね。一部の例外を除いて。」
「例外って?」
「偉業を成し遂げたり、生涯ずっと人のため世のために働き続けたりした人は、天界に招かれて天使になることが出来るの。逆に大きな罪を犯した人は地獄に、それよりもさらに大きな罪を犯した人は煉獄に送られて、罰を受ける。」
「なるほどな。天界と地獄、煉獄か。」
……そりゃ、女神もいるのだから天使がいてもおかしくないな。
「君がさっきまでいたのは地上と冥界を繋いでいる冥道。本来なら冥界に行けるんだけど、君は少し特殊でね。」
「特殊?俺がか?」
俺は平凡な高校二年生だったはずだが。
「人間はそれぞれ魂の器の大きさが違うんだ。魂の器が大きい人は、地上で偉業を成し遂げる場合が多いの。才能、って言えば分かりやすいかな。もちろん、器が小さくても努力し続けて偉業を成し遂げる人もいるけどね。」
「才能が無くても努力すれば良いって事か……。」
「そうだね。そして君の場合、魂の器があり得ないくらい大きいの。それこそ、人間とは思えないくらい。」
「……人間だし、別に偉業も成し遂げてないんだけどな……。」
「これだけの器があれば、幼稚園児の頃に世界中の戦争を終わらせていてもおかしくないかな。」
「ナンダソレ………。」
偉業どころじゃねえぞ、それ。
「このあり得ない大きさの魂の器のせいで、君は冥道に引っ掛っていたの。こっちに引き込むのも苦労したしね。」
「あそこから出してくれた事はありがたいけど、結局ここはどこなんだ?」
「天界よ。今は冥道への扉を開くために結界を張ってるけど。」
そう言うと、アストライアは指を鳴らす。ピシッと音が響き、白い壁に、天井にヒビが広がっていく。そして……パリィン……と一気に割れた。
白い壁の外にあったのは、見渡す限りの草原だった。自分とアストライアがいたのは、その草原の中にある丘の上。種類は分からないが、とても大きな木の近くだった。ここから見渡すと、優しいそよ風に吹かれて揺れる草や花が、まるで波のように見える。
「……………。」
「綺麗な場所でしょう。」
「うん………。」
「ここにコタツと座布団は合わないから、テーブルにしようか。」
指を二回鳴らし、コタツと座布団をしまい、テーブルを出すアストライア。今度の飲み物は紅茶らしい。
「人間の文化っていいわよねー。お茶も色々な種類があってしかも美味しいし、コタツなんか最高の発明だと思うわ!」
……アストライアって地上に絶望して星になったんじゃなかったっけ?
「絶望したのは、戦争ばっかりやってる一部の馬鹿だけ。他の人間とか、兵器以外の発明とか大好きよ?」
……なるほど。
「話の続きね。えっと、どこまで話したっけ?」
「俺の魂の器がとんでもないってとこ。」
「そうだった。君は器が大き過ぎるせいで冥道から出られなくなっていた。私は、というより私達は、君にお願いしたい事があって、君を天界に引き込んだの。」
「お願いしたい事?俺にか?」
「そう、君に。」
「あのね、異世界に転生して欲しいの!」
…………。
……………。
………………。
「……はい?異世界に転生?それって漫画とかでよくある、あの転生?」
「そう!」
……落ち着け、俺!
「その理由は?」
「世界を救うため!」
………落ち着け落ち着け、俺!!
「世界を脅かしてるのは何?」
「難しい話になるから簡単に言うと、世界のバランスが崩れた時に発生する特殊な魔物達、かな。その世界は一度バランスを大きく崩していてね?その影響で、特殊な魔物達が爆発的に増えてしまったの。」
「魔物って……。普通の高校生だった俺が、魔物と戦えるわけが……。」
「大丈夫。私達が頼むわけだし、しっかりと魔物と戦える能力をあげるから。強い肉体と一緒にね。」
それはチートというやつでは?と思ったが、よくよく考えてみると悪い話ではない事が分かる。どちらにせよ、地球では死んでるのだ。たとえ断ってもその事実は変わらない。魔物と戦うのは怖いが、チートがあれば少なくとも簡単に殺される事はないだろう。なにより、人の役に立てるのは嬉しい。
「ここにはいないけど、この事は神々全員が承認してる。君に世界を託す事を。そして君が拒否しても、普通の人間として冥府に送られる。だから、本当に嫌ならはっきりと断って。」
「……いや、大丈夫だ。神様達が俺を頼ってくれているなら、そのお願い、受けるよ。」
「……本当にいいの?魔物と戦う事になるんだよ?」
「魔物は怖いし不安だけど、神様達がサポートしてくれるなら心強いしね。迷惑をかけるかもしれないけど。」
「迷惑だなんてとんでもないって!こっちのお願いを聞いてくれたんだから!」
「そっか。なら、これからよろしくな、アストライア。」
「長いし、ライアでいいわよ。こちらこそよろしくね、天音君。」
こうして普通の高校生だった俺は、神様達からのお願いで異世界を救う事になった。