1 オウムは神様(1)
「ただいまー……」
重い足を引きずりながら、一人暮らしをしているマンションの部屋の扉を開ける。
仕事のストレスで最近ずっと胃がキリキリと痛んでいるし、今日は気持ち悪さもあって体調は最悪だ。それにここのところずっと三時間ほどしか睡眠も取れていないため、とにかく眠い。
大学を卒業した後、若者向けの有名アパレルブランドを展開する会社に就職した私は、入社から半年後に新店舗の店長を任される事になったのだが、これが想像以上の激務だった。
どんな業種でも責任者は忙しいものだし、私はまだ新人だから慣れない事ばかりで大変なのだ――なんて今まで自分に言い聞かせてきたが、残業代や休みはまともに貰えず、同期やすぐ上の先輩たちが一人また一人と体を壊して辞めていく中で、少しづつ現実を認め始めた。
これブラックだ、と。
特に店舗責任者は、本部やエリアマネージャーなど「売上第一」の上司と、店で働いてくれているバイトの子たちとの板挟みで神経を使うし、仕事も多い。
女だらけの職場なので、バイトの子たちの空気を敏感に察知し、もめ始める前にフォローを入れる細やかな気配りも必要だ。
今日は本当は午後から休みを貰えるはずだったのに、バイトの子がインフルエンザで来れなくなり、しかも代わりに入ってくれる子が見つからなかったので私が出る事になった。
これでもう何連勤目だろう。休日出勤しながら、この一ヶ月は休み無しで働いてきた気がする。
「うう……胃が痛い」
仕事の事を考えると吐きそうになる。入社してまだ一年しか経っていないが、そろそろ私もヤバイかもしれない。今、病院に行けば――そんな時間はないけど――色んな不調が見つかりそう。
春物のパンプスを乱暴に脱いで、廊下の電気を点ける。
その直後に奥の部屋からカシャン! と物音が鳴った。
私は疲れた顔に少しほほ笑みを浮かべて、ワンルームの部屋の扉を押し開けた。バタバタ、と羽音が聞こえ、もう一度カシャン! と高い音が鳴る。
手を伸ばして壁のスイッチを押し、部屋を明るくしてから、私の帰宅に興奮気味の同居人に声をかける。もう深夜なので、隣人の迷惑にならないようボリュームは小さめに。
「ピーちゃーん。ただいまー」
鞄を床に落として、奥のカラーボックスの上に置いてある鳥かごに近づく。
そこにいるのは、名付けセンスのない私によってピーちゃんというド平凡な名前を付けられてしまった白い文鳥だ。
先ほどのカシャンという音はピーちゃんがかごに飛びついた音で、今も細い足で柵に掴まったまま、そこにへばり付いてこっちを見ている。
「遅くなってごめんね」
就職してすぐ飼い始めたピーちゃんだが、その時は仕事がこれほど忙しくなるとは思っていなかった。
餌や水の補充、掃除などは毎日かかさず行っているが、ピーちゃんと遊んであげる時間が十分に取れていない。ピーちゃんは私の癒やしだし、飼った事を全く後悔はしていないけれど、なかなか構ってあげられずに申し訳ない気持ちだった。
今日も一日独りぼっちでつまらなかったのだろう、私に「遊んで」というように、柵と止まり木を行ったり来たりしている。カッシャン、バタバタ、カッシャン、バタバタと忙しいのだ。
「ピッ、ピッ」
催促されるまま、かごの扉を開けたかったけれど、
「ごめん、先にお風呂に入らせて」
最近肌も荒れてきたので、きちんとお風呂に入って清潔にしなければ。ピッ、ピッと鳴いているピーちゃんに後ろ髪引かれながら、タオルと下着を持って浴室に向かう。
決して素晴らしい飼い主ではないのに健気に懐いてくれているピーちゃんに心苦しい気持ちになる。本来なら文鳥はもう眠っている時間なのに、こうやって私の帰りに合わせて起こしてしまうのも可哀想だった。
もっと時間に余裕があって信頼できる飼い主さんを探し、ピーちゃんを託した方がいいのではないかとも思うけど、私もピーちゃんに情が移ってしまっているので、これ以上状況が悪化するような事がなければ、その選択肢を選ぶ事はできそうもない。
真っ白でサラサラふかっとしていて、くちばしは可愛いピンクで、温かくて、我儘で甘えん坊なピーちゃんが居てくれなければ、私はとっくにストレスで病んでいただろう。
生き物を飼うのは始めてで、何が何でも文鳥がほしいというわけではなかったのだが、今ではすっかり虜になっている。
鳥って犬のようには懐かないと思っていたのに、目の前に手を出すと条件反射のように乗ってきてくれるし、頭を撫でれば気持ちよさそうに目をつぶり、ついにはそのまま手のひらの上で眠り出したりもする。
部屋の中で放鳥しても大体私の側から離れないし、キッチンの方へ向かうと慌てて後を追ってくる。どうやら視界から私が消えるのが嫌みたいだ。
パソコンをカタカタやっていると百パーセント手の中に潜り込んできて邪魔されるけど、そんなところも愛しくて仕方がない。
「早くお風呂出なきゃ」
そして少しでもピーちゃんと遊んであげなければ。
急いで入浴と歯磨きを済ませ、ピーちゃんが敵と認識してしまっているドライヤーも済ませてしまう。
(あ、そういえば夜ご飯食べてないけど……まぁいいや)
食欲がないので、今日は食べずに寝てしまおうと決めた。喜ぶべきか焦るべきか、店長になってから体重も減少傾向にある。
浴室の鏡を見て確認すると、学生の時より顔がほっそりした気がする。化粧で隠していた目の下のクマも現れていた。
そろそろ転職を考えるべきだとも思うけど、まだ入社して一年しか経っていないのに辞めて次が見つかるのかと不安になる。
色々努力しているけど今任されている店舗の売上はあまり良くはなく、面接でアピールできるような実績も残せていないのだ。毎月少なくない額の給料をつぎ込み、自分で自分の店の服を買い、少しでも売上を上げないといけないような状況なのだから。
(そのせいで全然貯金も貯まらないし……)
悩みながら浴室を出ると、大人しく待機してくれていたピーちゃんがまたカシャンと柵に張り付いた。
「ピッ!」
「はいはい、待って」
かごの扉を開けてピーちゃんを部屋に放つ。「ピピピピ」と楽しそうにテレビの上へと飛んでいき、そこで羽を持ち上げてせっせと毛づくろいを始めたのを眺めながら、私も自分の髪を整える事にする。
小さなテーブルの上に置かれた鏡に向かっていると、
「ピピッ」
自分の存在が無視されていると思ったのか、不満そうに鳴いてピーちゃんが飛んできた。テレビの上から、私の肩に移る。
「そこにフンしないでね」
「ピッ」
絶対分かっていないだろうに適当に相槌を打つと、ピーちゃんは私の髪を数本取って食べ始めた。正確には食べているのではなく、くちばしで噛んでいるというか舐めているだけなのだが。
食感が楽しいのかよくカジカジされるけど、切れたりはしないので好きにさせている。
「あー、明後日の出張に持っていく資料まとめなきゃ」
本社で販促会議があるのだ。また売上の事について責められるのかと思うと気が重い。上司に体調が悪い事を相談しみようかとも思うけれど、たぶん相手にしてもらえないだろう。
「売上が上がっていないうちは、休みや残業代なんてあげられないのよ」っていうのが彼女の口癖だからだ。
ピーちゃんを肩に乗せたまま手を洗い、部屋に戻ってベッドに腰を下ろす。資料をまとめるのは明日の朝にしよう。今日はもう眠くて駄目だ。
かごに戻すため、肩に乗っているピーちゃんを優しく掴んだ。十五分しか外に出してあげられなかったな。
「ごめんね」
言いながら手のひらの上で小さな体を撫でると、ピーちゃんはそこでリラックスして全身の力を抜いてしまう。
「おーい、もうおうち帰るんだよ」
指先で首元を掻いて起きるように催促するが、ピーちゃんはお腹を手のひらにぴったりくっつけて、とろんと伸びた白いお餅のようになっている。このまま一緒にベッドで眠ってしまいたいが、潰してしまう可能性が高いので無理だ。
どうしようかと困っているうちに、プライベートで使っているスマホが振動を始めた。着信のようだ。
と同時に手の中でうとうとしていたピーちゃんがパッと目を開け、瞬時に立ち上がった。体を細くしてスマホを見つめると、さっと飛び立ってそちらへ向かう。
「あ、また!」
ピーちゃんは時々、スマホや仕事用携帯の着信に反応する。最初は音やバイブにびっくりしているのかと思ったが、どうもそうではないらしい。
不思議な事に、上司か私の母親から連絡があった時のみ威嚇するのだ。
今も「ぎゃるるるる」と巻き舌気味に怒りの鳴き声を上げて、スマホに戦いを挑んでいる。羽を大きく広げ、くちばしでカツンカツンと画面を叩いているピーちゃんを退場させ、連絡相手を確認すると、やっぱり母親からの電話だった。
左手でピーちゃんを握ったまま、右手で画面を操作する。
「はい、どうしたの?」
『どうしたのじゃないわよ。昼間も電話したのに、全然折り返しが来ないから心配してたのよー』
「ごめん、着信あったの気づいてなかった。けど、昼間は仕事で出られないって何度言えば――」
『そうそう、仕事は順調なの? ちゃんとご飯食べてるんでしょうね? 出来合いのものは駄目よ、添加物まみれなんだから。今日もテレビで食品偽装のニュースをやってたわよ。結局自分で作るのが一番いいの。先週持っていった料理はもう無くなった? 掃除は毎日してる? 結婚相手は見つかったの?』
夜中でも母は元気だ。私の事を心配してくれているのは有り難いけど、相変わらずのマシンガントークに、こちらの元気が電話越しに奪われていく。
時間がなくて掃除を毎日するなんて無理だし、結婚相手どころか恋人すら見つかってない。職場は女の子ばっかりなのだ。だいたい私まだ二十三歳だし、今は結婚なんてするつもりはない。
良家の子女というほどではないが、“ちょっと良いとこのお嬢さん”だった母は、若いうちにお見合い結婚し、社会には出ずに専業主婦になって今まで幸せにやってきた。だからきっと、私にも同じような人生を歩ませたいのだ。そうすれば私が幸せになると信じているに違いない。
だけど大学卒業と同時にお見合い相手の写真を持って来られた時は本当に驚いた。就職が決まった事はしっかり報告してあったのに。
(仕事が辛いって、母には相談するべきではないよね……)
言われる事は決まってる。
「だからお母さんの言う通りにしておけばよかったでしょ!」と、勝ち誇ったように言われるだけだ。
母は私がこの仕事に就く事に反対だった。父が高校の数学教師なので、私にも学校の先生になってほしかったらしい。もしくは母の選んだ相手と結婚。その二択。
私はおしゃれには疎かったが、今働いている店の服だけは大好きだったし興味があった。高校の時にお小遣いを貯めて、初めて自分で服を買った店だから。
それに教師になれるような人間性ではないと自覚していたため、就職時には何とか自分の意志を通したのだ。
それまではずっと母の思い通りの良い子で生きてきたけれど、仕事は一生のものだと思ったから後悔したくなかった。
しかし忙しいのは予想していたとはいえ、まさか選んだ会社がこれほどのブラックだとは思わなかったのである。
手の中で「ピュルピュル」と文句を言っているピーちゃんを親指でなだめながら、一方的な話を続けている母の声に耳を傾ける。眠いんだけどな、私。
『ねぇ、何か鳥の鳴き声が聞こえたけど、あなたまだあの白いの飼ってるの?』
「文鳥のピーちゃんね。もちろんそうだよ」
母は合鍵を使ってよく私の家に勝手に来ているので――一人暮らしの条件が合鍵を渡す事だったのだ――ピーちゃんの存在はとっくにバレている。
『飼うなら小型犬がいいわよ。お母さんは昔マルチーズを飼ってたんだけど、可愛かったわよー』
「その話は前に聞いたから」
『鳥なんて懐かないじゃない。表情もないし』
「うちの子はすごくべったり懐いてるよ。表情も豊かだしね」
声を荒げる元気もないので、疲れたようにそう説明する。きっと一ヶ月も経てば、また「鳥なんて可愛くない」と同じような事を言うのだろうけど。
それはきっと、私が母好みのマルチーズを飼うまで続くだろう。
『お母さんもまた犬飼おうかしら? どう思う?』
「その話今じゃなきゃ駄目? 私そろそろ寝たいんだけど」
母の犬の話なんてどうでもいいのだ。
『冷たいわね、たまにはお母さんの話を聞いてくれてもいいのに。じゃあまた電話するからね』
こちらの返事も聞かずに、電話はそこでプツッと切れた。おそらく三日もすればまたかかってくるだろう。
自分の母親はどうやら過干渉であり、反対に父親はネグレクト気味だという事に気づいたのは中学生の時だっただろうか。その前から、「うちの親ってちょっと他の子の親と違う」とは思っていたけれど。
今私が一番辛いのは仕事の激務っぷりなのだが、それは退職を決意すれば解決する問題だ。あまり気の合わない上司とも、もう一切会わないで済む。
しかし親との縁を切る事はできない。事実上の接触を断って逃げるくらいの事はできるだろうが、法的には親子であり続けるのだ。
しかも私は親に強い憎しみや失望感を持っているわけではないから、面倒な親だと分かっていても縁を切ろうとまでは思えない。
父とはほとんど話した記憶はないが大学まで行かせてくれたし、母は健康に気を遣った食事やおやつを毎日手作りしてくれた。ゲームやマンガは買ってくれなかったけれど、洋服はいいものを着せてもらった。
感謝すべき事の方が多いので、親と距離を置きたいと思っても、それを実行には移せない。
だからこの先も、私は母に干渉され続けるのだ。
きっと結婚して家庭を築いても、そこに必要以上に介入してくるだろう。結婚式に新居の事、それに妊娠すれば孫の将来も決めたがるに違いない。
母はある時からオーガニックにこだわり出し、私に市販のお菓子を与えなかった。小学校の途中からは、アレルギーがあるわけでもないのに給食を拒否し、お弁当を持たせられたりもしたので、孫にもそれを強制するかもしれない。
考えて、うんざりした。
オーガニックのもの自体は本当に体にいいと思うのだが、母は極端にそれを信じすぎているのだ。
家に遊びに来た私の友だちにも農薬やら添加物の話をし出すので、私はそのせいで「変な家の子」というレッテルを貼られ、友だちを何人か失った。
テレビも見ていいものは限られていたので、流行りなんて分からないし、友だちの会話にも入れない。なかなかきつい学生生活だった。
正直、この事に関しては母に対して恨みもあるが、『暴力を振るわれたわけでもないし、ここまで育ててもらってきたのだから大事にしないといけない』という強迫観念みたいなものもあり、邪険には扱えない。
母はそうすれば私がより幸せになると信じて行動しているのだから。
「ピピピ」
悩み事ばかりの私の癒やしは、この白い小鳥だけ。
「ピーちゃんは可愛いな~」
心からの本音をこぼし、ため息をついた。
***
翌日、朝五時。今日も睡眠は十分に取れなかったけれど、そろそろ会議の資料を作らなくてはいけない。
ベッドから起き上がると頭がクラクラした。母には内緒で、真面目に転職を考えよう。本当にそのうち倒れそうだ。
外はぼんやり明るくなり始めているが、照明も点けてパソコンを立ち上げる。
「おはよー、ピーたん」
かごに掛けてあった布を取ると、ピーちゃんはもう起きていた。ぱちぱちとつぶらな瞳を瞬かせながらこちらを見ている。
「ピッ!」
「はい、おはよう」
「ピピッ」
「はいはい」
「ピッ」
まだまだ文鳥語は完璧に理解できないが、声を掛けるとお喋りを返してくれるのが楽しい。
ピーちゃんを部屋に放し、かごの掃除と餌や水の入れ替えを終えると、昨日自販機で買って結局飲まなかったブラックの缶コーヒーを開けてパソコンの前に座った。
朝はまだ寒いので温かいものが飲みたいが、熱々のコーヒーが入ったマグカップにピーちゃんが落ちたらと思うと、放鳥中は怖くて飲めない。
実際、去年の夏にはアイスティの中にうっかり落っこちているのだ。「ぴゃああああ!」と今まで聞いたことのない声で鳴いてグラスの中で暴れていたのには焦ったし、怪我がないと分かった後はちょっと笑ってしまった。
「ふふっ」
その時の光景を思い出すと、今でも笑えてしまう。
「あれ?」
そういえば、先ほどからピーちゃんが大人しい。いつものように私にまとわりついてこない。
どこへ行ったのかと部屋を見回すと、狭いベランダに面した窓の前で、じっと外を観察していた。体を細く伸ばして何かを見ている。虫でもいたのだろうか。
しばらく警戒するように細くなっていたけれど、すぐにいつも通りに縮み、ぴょんぴょんと弾んで窓に近づいていった。左右に首を傾げながら「ピッ、ピッ?」と問いかけるように鳴いている。
「何がいるの?」
パソコンから手を離し、ピーちゃんの元へ向かった。立ち上がるのが面倒なので四つん這いで歩く。
ピーちゃんの視線を追うと、ベランダの隅にいた意外な訪問者を見つけた。
「インコ……じゃない、オウムかな?」
ピーちゃんより少し大きいくらいの鳥だ。頭にはトサカみたいな冠羽があり、鮮やかな赤、緑、青に黄色と、南米の鳥みたいなごきげんなカラーリングである。
「どこかで飼われてた子が逃げ出しちゃったんだね」
ピーちゃんを部屋に放す時はまず窓がちゃんと閉まっているか確認してからにしているものの、鳥飼いとしては人ごとではない。
ピーちゃんをかごに戻してから、静かに窓を開ける。
「おいで」
なるべく優しく声を掛けると、カラフルなオウムは思案するように一度首を傾げ、真っ黒な瞳でこちらを見つめ返してきた。
何だか頭の中まで、私の全てを覗かれているような気分になる。
やがて不自然に片方の羽を広げたまま、よたよたとこっちに近づいて来た。オウムは文鳥のようにぴょんぴょん跳ねるわけじゃないみたいだが、それにしても様子がおかしい。
「待って、怪我してるの?」
慌てて手を伸ばしたが、オウムは逃げない。羽に触れないよう注意して、下からそっとその体を持ち上げ、暖房が効き始めた部屋に入れた。
「ピッ」
かごの中の止まり木から、ピーちゃんが興味津々にこちらを見下ろしている。
オウムはずっと右側の羽を微妙に広げたままだ。歩き方もふらついていて危なっかしい。
私は自分が座っていた座布団型のクッションの上にタオルを敷き、とりあえずオウムをその上に乗せた。指先で頭を撫でてやると、ピーちゃんがするように目をつぶってくれた。やはり人には慣れているのだろう。
「うーん、まず動物病院に連れて行かなきゃ。仕事の前に行けたらいいんだけど、そんなに早くは開いてないかな。どうしよう」
その後には警察にも連絡しなきゃだし……と考えていると、
「動物病院はヤめてー!」
目の前のオウムがこちらを見上げて返事をしたではないか。
一瞬混乱したが、そういえばオウムは人の言葉を覚えるのだったかと思い出した。
「すごいね、喋れるんだ。しかも内容もばっちりじゃない。偶然だろうけど意味が繋がってる」
「偶然じゃなイのー。ワタシ神様だから喋るクらい簡単だしー」
「……」
私はごくりとつばを飲み込んだ。
どうしよう、ものすごい天才オウムを保護してしまった。
この子は人間の話す内容も分かっているのだ。確かに神を自負してもいいレベルだと、馬鹿な私はそう思った。