人狼シリーズ番外 化物は命少ない少女と共に
――――ザーン、ザザーン……。
とある海岸、ここから見える沖合いには巨大な軍艦が船首を残し沈んでいる。
そんな光景を見つめながら、その少女は''彼''に寄りかかりながら、
「ねぇ、ナナシ……、海、綺麗だね。」
と言う、するとナナシと呼ばれた''彼''は、
「……あぁ、そうだな。」
と言った。
''彼''の肉体は全身黒い獣毛に覆われ、頭部は狼の様。
……人狼に見えるが、しかしその身体は大人三人分程の巨体で、瞳の色は蒼く、その両腕には獣毛は生えておらず醜く胴体の半分以上の大きさまで腫れ、長さも立ったままで地面に付くほど長い、そしてその指は太く、物を掴めば掴んだ物は直ぐに壊れてしまう程、筋力があった。
――――………彼には、名前が無い。いや、ある事にはあるのだ。
―――『メネズィスシリーズ 初期ロットNo.05号』
……それが恐らく、彼の名前だった。
彼は、目が覚めた時には白衣を着た男たちに囲まれ、ベッドに拘束されていた。
彼は怖くなって夢中でそこから逃げた。
その時、男の一人が電話機に向かって、
―――「メネズィスシリーズ 初期ロットNo.05号が逃げた!
至急捕獲しろ、生死は問わん!」
……そう、叫んでいたのだ。
―――しかし彼は、この名前は嫌いだった。
……自分には昔、別の名前があったと言う感じがするからだ。
しかし、それを思い出す事は出来ないが。
――……実際、彼は理性を失いさ迷っていた元軍人の人狼だったので、その予想は正しい。
……そしてその彼の傍らにいる少女。
彼女は、病気により余命半年で、両親は第四次世界大戦により死亡、唯一の肉親の兄も兵士として戦地に向かい行方不明となった。
一人となった少女は、病院から逃げた。
――……どうせ治らないから、それなら残りの命を自由に生きたい、と――……。
……そして少女は、彼に出会った。
彼は、あの後森の中に逃げ込み、暮らしていた。
彼は、この少女にとても惹き付けられた、それは少女も同じだった。
……理由は、記憶は無いが―――彼は少女の兄なのだ。
そして今は、こうして一緒に暮らしている。
少女は、彼が名前を知らないと言ったから、彼を『ナナシ』と呼んだ。由来は『名無し』だ。
「……ねぇ、ナナシ―――大好き。」
ふと、少女は彼に言う。すると彼は、
「……ゴメンね。
僕も君の事、大好きだよ?
けど僕は、君の身体を潰しちゃうから、君を抱き締められない……」
と、少し哀しそうに言うと、少女は、
「……じゃあ、私がもう少し大きくなったら、ナナシの分までナナシを抱き締めてあげる!」
……もし、生きられたらね。
その言葉を心の中で呟き、少女は彼に言う。
彼は少し目を円くして―――、それから、
「……ありがとう。」
と言って、微笑った。
――……それから、二人は無言で身体を寄せあう。
――――ザーン、ザザーン……。
……ただ、波の音だけがその場に響いていた。
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