07 ガンショップ
その後も買い物はスムーズに進んだ。
綾ちゃんはあまり外に出る方ではないそうが、必需品を買うために一度はこの辺りの店を回っていたのだ。
だが、本当に必要最低限のものしか買ってなかったようであり、一緒に回る間に綾ちゃんも追加で色々と買っていた。
ちなみにこういう日用品を買うくらいのお金は異人会から支給されている。
異人会に面倒を見てもらえる一カ月、普通に暮らせるだけのお金は援助してもらえているのだ。
それだけの資金がどこから出ているのかは疑問だったが、パンネが言うには異人会は国連が直接運営している国連機関の一つなのだそうだ。
この世界の文明は地球と遜色ないほどに発展しているが、それは百年に渡って召喚され続けている地球人の功績によるところが大きい。
そもそもこの世界の国連自体が、地球人主導で組織されたそうだしな。
当然、国連内部には多くの異世界人――日本人達が働いており、地球人がこの世界に及ぼす影響力も相当大きいものがあるそうだ。
だからこの世界では、ここまで召喚者対策が充実している。
まあ、かといって被召喚者も一生面倒を見てもらえるわけではないのだが。
だから綾ちゃんの今後についてはやっぱりちゃんと考えないと。
「薙阿津さん……なんだか難しそうな顔してます」
綾ちゃんに指摘されてしまった。
うん、今はこんなことを考えても仕方がないな。
綾ちゃんは今まであまり外に出なかった。
それがこうして、俺の付き添いとは言え街へと出ているのだ。
これはいい傾向だと言えるだろう。
だったらここは楽しまないとな。
この異世界は、俺に言わせれば全然楽園みたいなもんだ。
文明も進んでいるし福祉も充実、ちゃんと生きる意志さえあればこの世界で生きるのは決して難しくはない。
なんと言っても異世界人に対するフォローが充実してるしな。
だから、この世界は全然怖い所でもなんでもないのだ。
そういうことを、綾ちゃんにもちゃんと分かって欲しいと俺は思う。
実際俺にしてみれば、この世界は楽しいことで満ちているしな。
この世界は文明レベルが地球並みと言っても、もちろん全てが地球と同じなんてことはない。
こうして外に出るだけでも新しい物がたくさんで、見てるだけでも楽しいのだ。
このニムルス国の首都は、白を基調とした緑あふれる街だ。
白い街並みの中に街路樹が多く茂っていて、清潔感にあふれる街だった。
上下水道もきちんと整備されているので街がくさいなんてこともない。
ちなみに首都には電気も通っているが電柱はない。
全部地下に埋めてあるのだそうだ。
これは地球でも大都市中心にやってることだからめずらしくはないが。
まあそういう面もあって、この世界の街並みはむしろ未来的な感じすらした。
店に並んでいる売り物も面白い。
被召喚者対策の一環として、スマホの充電器が売ってる電器屋なども存在するが、謎の魔道具や魔物の素材を売ってる店も存在する。
地球の文明とこの世界に元からあった文明がごっちゃになって、ある意味カオスな感じになっていた。
「前来た時は気付かなかったけど……うん、確かに色んな物があって、ちょっと楽しいかも」
綾ちゃんも少しはこの世界に興味を抱き始めたようだ。
多分、前に街へ出た時はそんな余裕もなかったのだろう。
こうして俺と一緒に街を歩いて、少しずつでもこの世界に興味を持ってくれると嬉しい。
ぶっちゃけ俺のテンションが上がり気味だったので、綾ちゃんが引いてないかがちょっと心配だが。
「綾ちゃんごめんね。俺、なんかはしゃいじゃって。でもこの世界の街見るの初めてだからさ。珍しい物がたくさんあるし、どうしてもテンション上がっちゃうんだよね。うざかったらごめんね」
「ううん。全然、少しもうざくなんてないです! 薙阿津さんが楽しそうにしてると、私もなんだか嬉しくなっちゃいますし。きっと、私一人だとこんな楽しい気持ちで外を歩いたりなんてできなかったと思いますから」
綾ちゃんは本当にいい娘だなと俺は思った。
そんな感じで街を歩いていたのだが、そこで俺は一つの店を見つける。
ガンショップだ。
この店には、綾ちゃんを連れて入るのはどうかと思われた。
「うーん、どうしようかなぁ……」
「入りましょうよ。薙阿津さん傭兵になったんですよね。だったら武器は必要なはずです。私も一緒に入りますよ」
綾ちゃんにはちゃんと俺のことも話している。
俺が今朝傭兵ギルドに登録したことはもちろん、銃撃を強化するユニークスキルに目覚めたことも話していた。
だから俺が銃を買うこと自体は綾ちゃんも知ってるはずなのだが、俺としては急いでいるわけではないので銃を買うのは明日でも良かった。
だが綾ちゃんが一緒に来てくれるというならせっかくなので見て行こうと思う。
ガンショップの中には、たくさんの種類の銃火器が置いてあった。
拳銃からマシンガン、手榴弾なども普通に店売りされている。
形を見る限り、地球にある銃を模倣して作られた物のようだ。
だた、俺はそこまで銃にくわしくはなかったので種類などはあまり分からない。
と思っていたら、綾ちゃんが予想外のことを言ってきた。
「あ、これはハチキューですね。セレクターレバーも左についてるし、細部で違うところはありますけど」
「ああ、そういえばそうだな。自衛隊の八九式小銃か、サバゲーでエアガン撃たせてもらったことはあったんだけど、本物見るのは初めてだし気付かなかったよ」
まあぶっちゃけ小銃や機関銃の見分けはあまりつかないのだが。
俺はサバゲーの時も二丁拳銃で突っ込むというアホなプレイをしていたので拳銃以外にはあまりくわしくないのだ。
もちろんそんなプレイでまともに戦えるわけもなく、サバゲーではいい的になっていたのだが。
と、そんなことより綾ちゃんだ。
なぜ見ただけで銃の種類が分かるんだよと。
そんな俺の視線を感じたのか、綾ちゃんが恥ずかしそうに白状してきた。
「あう……。その、はい。実は私銃とか好きで、こういうのには結構くわしいんです。うう……やっぱり、私って、変ですよね」
ぶっちゃけ変ではあるはずなので、そこはフォローができなかった。
正直びっくりだ。
綾ちゃんはごく普通な女の子だと思っていたので。
だがここで、俺はあることを思い出す。
綾ちゃんは地球にいる時、神園 緋月と友達だったと言っていたのだ。
緋月は重度の中二病ではあったが日常生活が送れないわけではない。
だから普通の女友達がいてもおかしくないとは思っていたのだが。
類は友を呼ぶというかなんというか、どうやら綾ちゃんにも普通とは違うところがあったらしい。
だが俺にとってはむしろ嬉しい話だ。
銃に詳しいならこれから装備を整える際にも助かるし、何より俺も興味がある。
「確かに綾ちゃんは普通じゃないかも知れないけど、全然気にすることないよ。俺は嬉しいし。むしろ地球に帰れたら一緒にサバゲーに連れて行ってあげたいくらいだよ」
「あ、はい……ありがとうございます」
綾ちゃんがちょっと萎縮してしまったように見えた。
銃火器に興味があるからと言ってサバゲーにも興味があるとは限らない。
サバゲーに誘ってしまったのは失敗だったか。
まあそんな嫌がってる感じではなかったので気にするほどではなさそうだ。
気を取り直して、綾ちゃんと一緒に店の中を見て回る。
だが……ここで綾ちゃんも知らない銃があることが判明した。
魔法銃だ。
この世界では、そもそも銃火器の威力はそんなに高くない。
だからこの世界では刀剣類を使う人間の方が多い。
ただし魔法使いはともかく、攻撃魔法が使えない人間には遠距離攻撃できる武器は必要だ。
そのため、補助武器としてこうしてガンショップも存在する。
だが、何事にも例外というものは存在する。
この店に売ってある魔法銃もその一つだ。
これは銃身も弾も特別性で、メイン武器として実戦で使える威力があるようだ。
ただしすごく高い。
値札には三千万円と書いてあった。
ちなみに八九式小銃の方は三十万円だ。
自動小銃百丁分の値段を誇る魔法銃……一体どんな威力があるというのか。
だが、説明書を見る限りそこまですごい銃でもないようだ。
基本的にはスナイパーライフルだ。
この世界には魔法による遠距離攻撃が存在するが、射程はそこまで長くない。
投げナイフや弓矢においても同様だ。
そのため、射程という面においてライフルなどの需要はあるわけだ。
ただし、ただのライフルではこの世界では威力が足りず使えない。
それを魔法的な技術で補ったのがこの魔法銃というわけだ。
こいつを使えば、サケマグロを一キロメートル先から打ち殺すことも可能だ。
俺のスキルがあれば普通のライフルで同じことができるのだが。
まあその前に俺はスナイパータイプではないので魔法銃に興味は湧かなかった。
というわけで俺は綾ちゃんと一緒に店内を回り、八九式小銃一丁、拳銃(ベレッタ)二丁、それに弾や手榴弾なども買い込んだ。
合計でだいたい八十万。
パンネと山分けした百万円が一気に減ってしまった。
だがこれは必要な初期投資だと言えるだろう。
はっきり言ってサケマグロ程度なら数が少なければ一人で倒せる。
魚一匹で二十万くらいになるので、四匹倒しただけで元は取れる。
ガンショップを出た後は二人で異人会へと帰った。
銃がやたらとかさばったからだ。
買い物がほとんど終わった後で良かったが、少しは考えるべきだったかも知れない。
まあ綾ちゃんも文句も言わずついてきてくれ、その上今日は楽しかったとまで言ってくれたのでいいだろう。
俺の異世界生活三日目は、こんな感じで幕を下ろすのだった。