05 汎用魔法小銃
「つまり、合体した形こそがこのアクセルバースターの真の姿という事なのですにゃ! 二種類の魔法銃が合体することにより、ソウルイーターと同じ爆発強化と魔導加速のハイブリッドが完成するわけですにゃ! もちろん撃つのも二人でで撃つですにゃ。以前の力ではカーヴェル込みの三人が必要だったけど、今の二人ならこれでカーヴェルなしでも神獣を倒せるはずですにゃ!」
ミウネウ博士の熱弁が続いていた。
合体した際のアクセルバースターは、魔力効率の面でソウルイーターより遥かに効率がいいとのことだった。
ソウルイーターは魔方陣による疑似砲身を展開していたが、アクセルバースターはアクセルシューターの銃身部分に初めから魔方陣が組み込まれているために魔力消費が少なく済むそうだ。
この辺りの説明は戻って来た綾ちゃんがしてくれた。
綾ちゃんも見せたい銃があると研究所の奥に行っていたのだがいいタイミングで戻って来てくれている。
「親方がソウルイーターを製作したのは二十年以上前でしたからね。当時の技術では複雑な魔法式を砲身に刻み込む技術がまだなかったんです。対して今は日本由来の高度な印刷技術が応用出来ますからね。それに神器機関には3Dプリンターもありますから。魔法式を削り込む魔導加速方式は作るのすごく大変なんですけど、3Dプリンターのおかげで随分作りやすくなってるんですよ」
ということだった。
ちなみに純粋な威力で言うとアクセルバースターよりもソウルイーターの方が強いらしい。
だが燃費はアクセルバースターの方が格段にいいということだ。
馬力より燃費が重視されるというのもある意味時代を感じさせるものだった。
「というわけで、神獣を撃つ際には二つの銃を合体させて下さいなのにゃ。いきなりは難しいだろうから二人で練習するのがいいですにゃ。……ふふふ、変形銃のソウルイーターに続いて合体銃まで作ってしまうとは、やっぱり僕ちゃんは天才すぎなのですにゃ」
ミウネウ博士は物凄く楽しそうだった。
「まあ……今回の作戦にはカーヴェル氏も参加はしないからな。私達二人の実力から見て、二人で撃つのは妥当な線だろう。銃を合体させる練習も含めて、突入までに何度か試しておいた方がいいだろうな」
「ああ……そうだな」
俺達の実力がまだ足りない以上、二人で撃つのは仕方がないとは言えた。
わざわざ銃が合体する必要があったかについては甚だ疑問しかないけどな。
と言っても密林への侵入までの期限も迫っている。
現状で対神獣戦の切り札となるのがこの合体銃だけのため、上手く扱えるよう二人で頑張ろうと俺と緋月は確認し合うのだった。
アクセルバースターの説明も一通り終わり、次は綾ちゃんが持ってきた銃を見させてもらう。
こちらも変わった形状をしているが合体銃に比べれば至極まっとうな銃だった。
というか、以前ここで見たことあるようなシルエットだ。
「ふふふふふ。ドルフィンちゃんの完成も間に合ったんですよ薙阿津さん」
こっちは綾ちゃん主導で製作を進めていたらしく綾ちゃんのテンションがかなり高い。
というか神器機関に入ってから綾ちゃんの性格がやっぱり変わって来ている気がする。
ミウネウ博士の影響を受け過ぎてやしないかと心配になってしまうレベルだ。
まあ作っている銃はまだまともなようなのでそこは安心だが。
「このシルエット自体には薙阿津さんも見覚えあると思います。お魚系アサルトライフルこと、H&K XM8ですね! それをベースにしたのがこの魔法銃、ドルフィンシューターです! 今までの魔法銃って対物ライフルなんかをベースにしたものしかなかったですからね。アサルトライフルは元より、速射性に優れた魔法銃自体実はこれが初めてなんですよ。もちろんこれには製作上の問題があって乗り越えるのにみんな四苦八苦したりしたんですけど。でもその成果はバッチリです! 銃火器特有の連射性能と射程距離はそのままに、通常の魔物相手なら魔法障壁も貫通する高威力。正直この銃はこの世界の歴史を変えるかも知れません。我々開発班は恐ろしい武器を生み出してしまいました」
綾ちゃんの熱弁もミウネウ博士に劣らず凄かった。
ドルフィンシューターはオーソドックスな爆発強化型の魔法銃だ。
威力で言えば当然ソウルイーターやアクセルバースターには及ばない。
合体前のバーストシューターよりも一段劣る性能だ。
ただし、汎用性という面においてはドルフィンシューターは非常に高い性能を持っている。
これは元となったH&K XM8の性能による所が大きかった。
中でもシステムウェポンの考え方が採用されていることが大きい。
XM8はパーツ単位でのシステム化・モジュラー化がなされていて、それらの組み合わせで複数の銃器の役割を代行させられるようになっているのだ。
つまりパーツの組み合わせ次第で、サブマシンガン、アサルトライフル、スナイパーライフル、分隊支援火器、これらの機能をXM8のみで補うことが可能となっていた。
その特性をこのドルフィンシューターも引き継いでいると言うわけだ。
つまりこのドルフィンシューターの出現により、今までスナイパーライフルタイプの魔法銃しか存在しなかったものが、サブマシンガン、アサルトライフル、分隊支援火器と、戦場でメインとなる銃器が一気に魔法銃化されたこととなる。
もちろん、アサルトライフル系の魔法銃化技術は他の銃にも応用できるという話だ。
だから今後さらに魔法銃が増えることも予想されるが、このドルフィンシューターが量産されるだけでもこの世界の戦場が様変わりすることは容易に想像することが出来る。
ちなみに拳銃の魔法銃化もこれまで行われてはいなかったが、こっちはガンナイフの方が初の魔法拳銃となっている。
ただしガンナイフは俺専用のカスタム武器なので一般に出回ることはないはずだが。
ミウネウ博士は確かに天才だが、作る銃が端から突っ走っているため汎用装備としては色々と問題があるのだった。
対する綾ちゃんが汎用性の高い物を作ろうとするのである意味バランスが取れてるとも言えた。
ともかくドルフィンシューターも見せてもらい、俺は神器機関を後にした。
ちなみにバーストシューターを一億円、ドルフィンシューターを二丁四千万円で購入している。
先に買ったガンナイフ二丁に、専用の弾丸などもろもろを合わせて合計二億円近くの出費だ。
魔法銃を買いまくっただけあって出費額が天井知らずに上がっている気がする。
しかも値段を相当優遇してもらった上でこれだからな。
魔法銃は改めてとんでもなく高いと俺は思った。
まあカーヴェルさんに言わせれば、どんな魔法銃でも戦車よりゃ安いし強さは戦車より俺達の方が上なんだからむしろお買い得だと言っていたけどな。
報酬を十億円ももらった時には一生遊んでくらせると思ったが、考えれば戦車一、二両で消える金額だったというわけだ。
魔法銃云々より戦争で使う兵器全般がべらぼうに高いと言えるのかも知れない。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
銃の装備も新しくなり、その後の期間は俺も修行を開始したりしていた。
副隊長としての仕事を優先するため修行ばかりというわけにはいかなかったが。
さらには他の雑事なども舞い込んで来たりしていた。
その雑事の一つとして、以前取材を受けた記者から連絡が入る。
俺を特集した記事の見本がようやく出来たとのことだ。
本来なら特集記事はもっと前に出版される予定だったのだが、これは開放戦線が立ち上げされたことにより大幅に遅れることとなっていた。
特集タイトルも、『神獣殺しの素顔に迫る』から『未開領域開放戦線・噂の副隊長の謎に迫る』に変わっている。
俺が開放戦線の副隊長になることをインタビューの時に知っていれば、もっといい特集を作れたのにと記者は愚痴ったりしていた。
だがこれについては仕方がない。
インタビューを受けた時点では俺自身もこんなことになるとは思ってもいなかったんだからな。
そうして電話のあった数日後、記事の見本が手元に届く。
送られて来た見本を読んでいると聡理さんが話かけてきた。
「それが例の記者が書いたと言う記事ですか。なるほど、記事自体はよく出来ているようですね」
関心した面持ちで聡理さんは記事を読んでいる。
この記事を書いた記者にはスパイ容疑がかけられていた。
聡理さんにはそのことについて調査を頼んでいた経緯がある。
ICPOの捜査官である聡理さんが開放戦線に参加している理由もこのことと無関係ではない。
「この記者についてはさらに調査が進んでいて、逮捕するために必要な情報はすでに集まっていました。ですが上から圧力がかかり逮捕には至っていません。そして……昨日その記者が消息を絶ちました」
「それってまさか……消されたってことか?」
「詳細は不明です。ですが、上から圧力がかかった後に記者と接触した人物を追現在追っています。……EXランクの暗殺者、時雨 時昌。彼の昨日の行動が把握できていません。捜査官の一人が彼の動向を見張っていましたが振り切られてしまいました。まだ彼が殺したと決まったわけではないですが、十分注意して下さい。暗殺者という時点で危険な人物なのは間違いないですが、彼には暗殺以外にも様々な容疑がかかっています」
とのこと。
暗殺者の時雨 時昌。
暗殺者とか名乗っている時点で『なんでこの人捕まらないの?』と思わなくもないが、それも上から圧力がかかっているとかなんとか。
どうやら国連上層部に彼を使っている人間がいるそうだ。
そしてその上層部が記者の逮捕を邪魔した後に記者が消えた。
上層部が時雨 時昌を使って暗殺した可能性があると言うのが聡理さんの弁だ。
理由としては記者の口封じなどが考えられるが真偽は不明とのこと。
そして時雨 時昌が記者と接触したのなら、俺が辞書サイトのデータを持っていることも時昌に伝わっている可能性がある。
全体的に憶測が多い話になるが、時雨 時昌、彼には十分な注意を払う必要があるだろう。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
雑誌の見本が届いてからさらに一週間が過ぎた。
ついに未開領域へと突入する日がやってくる。
突入部隊となる百五十人の内、五十人が前線基地へと集まっていた。
各自装備品のチェックなどを行っている。
『さてと、じゃあみんな張り切って行ってみよっかー』
リレ隊長の緊張感のない声を受けて俺達は前線基地を後にした。
俺は周りを見渡すが、リレ隊長以外も全体的にみんな余計ない緊張はしていないようだった。
これにはもちろん理由がある。
事前調査を入念に行っているというのが一番大きいだろうか。
人間が実際に入るのは今日が初めてだが、既に球形飛行体によって俺達は内部の映像を何度も見ているのだ。
さらには神獣の姿も画面越しには確認している。
神獣がいるおおよその位置も把握しているな。
そこまでの準備を整えた上で俺達は今日の日を迎えていたのである。
そして神獣がいる場所までの大まかなルートや、到達までの予定スケジュールもしっかりと作成済みだ。
予定では一週間かけて神獣のいる密林中央部まで侵入する予定である。
なので、初日である今日の時点で神獣と遭遇する確率はほとんどないのだ。
だからと言って油断していいわけではないが。
しかし一週間の長丁場をずっと緊張して過ごすのも違うだろう。
俺達は適度な緊張感を保ちつつ、南方大密林へと向かった。