04 ガンナイフ&アクセルバースター
未開領域へと侵入する為の準備は続いている。
偵察部隊や後方部隊は毎日あわただしく仕事をこなしていた。
それに比べると対神獣戦を主任務とする主力部隊は暇とも言える。
だが俺も毎日を無為に過ごしているわけではなかった。
主力部隊の方だって、密林内での戦闘に備えた準備は必要だからな。
というわけで、俺は久しぶりに神器機関の兵器局本局へと寄っていた。
ミウネウ博士の開発した新型拳銃を受け取る為だ。
ちなみに今日ここに来ているメンバーは俺と緋月、綾ちゃんの三人だ。
まあ緋月と綾ちゃんは元々神器機関の人間なので俺が一人で来ていると言ってもいい。
開放戦線のメンバーは全体的にみんな忙しくしているからな。
本当は緋月や綾ちゃんも来ないでいいくらいだったのだが、緋月が依頼していた対神獣用の銃なども完成したとのことで三人で見に来ていた。
ただし、対リレ隊長用武器の方はミウネウ博士が言うには失敗作とのこと。
「性能その他はもちろん僕ちゃんが考える通りに完成したのですけどにゃ。……求めた性能がそもそも間違いでしたのにゃ」
思いついた時にはいいアイディアと思って作ってみたものの、出来たら駄作だたということだ。
とりあえず作ってから考えるというのがミウネウさんのやり方らしい。
まあそういう中から思わぬ傑作も生まれるそうだからこれも必要なことではあるんだろうけどな。
そして今回完成した銃はある意味失敗作ではあるが、性能自体には自信があるとのことだ。
「名付けて、ガンナイフ・M500ですにゃ! S&W M500っていう地球における市販最強の拳銃をベースに作ったガンナイフにゃ。薙阿津君のご要望は接近戦の出来る銃ってことでしたからにゃ。じゃあ銃とナイフを合体させりゃいいんじゃね? って思って作ったのがこれですにゃ!」
そう言ってミウネウ博士が銃を手渡してくる。
見た目としては、リボルバー(回転式拳銃)の銃身部分がナイフになってると言えばいいだろうか。
ただしかなりでかい。
多分全長は四十センチくらいあるだろう。
これは元となる銃がそもそも大きいとのこと。
ナイフとしても大型の部類に入るんじゃないだろうか。
これなら両手に装備してリレ隊長のククリナイフとも渡り合えそうに思える。
失敗作だという理由が分からないので聞いてみた。
「ガンナイフか。俺から見てもかなりいい感じに見えるんだけど、何か問題でもあるのか?」
「あるにゃ! 大有りにゃよ! 実はこの銃、ナイフ部分を防御に使うと銃身が歪んで弾が撃てなくなるのですにゃ!」
聞いたら一発で理解出来た。
考えてみればというか、考えなくても分かりそうな弱点だった。
だからむしろその対策は練られているものだと思ったが。
「もちろん、銃身はすっごく強固にしているにゃ! 当然魔法障壁での強化も出来るから普通の魔物くらいなら何体斬っても刃こぼれ一つしないにゃ。だからこの銃自体が欠陥品ではないですにゃ。だけど……リレ隊長の斬撃に耐えられる保証はゼロですにゃ」
とのことだった。
俺がミウネウ博士に出した注文は、接近戦でリレ隊長と戦える銃だったからな。
あくまでその意味では失敗だということらしい。
相手がリレ隊長や神獣でさえなければ、ナイフ部分を防御に使った後すぐ撃っても問題ないとのことだ。
「それに……これは発想そのものが間違っていたと僕ちゃんは思いますのにゃ。ガンナイフ自体は、ナイフ状の銃身部分を取り替えられるようにもしてあるし、銃自体を使い捨てとして複数持てばある程度持たせることは可能ですにゃ。でも根本的な問題として、薙阿津君がナイフ戦闘でリレ隊長と互角に戦えるかと言う問題がありますにゃ」
そういわれてみると、このガンナイフという発想自体が根本的に間違えてると言うのが分かってしまった。
そもそもが、俺がリレ隊長とナイフで渡り合えるならナイフを使えばいいのだ。
リレ隊長の最大の強みは防御力の高さだからそれを突破する為に銃が必要としても、片手にナイフ、もう片方に銃を持った方が現実的かも知れない。
そしてどちらにせよ、近接最強のリレ隊長とナイフで互角に戦えなければ俺がナイフを持つ意味そのものがないのだ。
近接戦闘だからナイフを使うという考え方自体を改めるべきかも知れなかった。
「リレ隊長攻略の為の武器は、またゼロから考え直したいと思っていますにゃ。とりあえず今回はこのガンナイフで我慢してほしいですにゃ。あ、でもガンナイフにもすごい使い方はあるですにゃ! この能力自体は仮にリレ隊長と戦う際にも有効なはずですにゃ。
ゼロ距離刺突射撃。ナイフによる刺突で相手の魔法障壁を破り、障壁内部から銃撃を放つ必殺攻撃ですにゃ! これは刺突で相手の障壁を完全突破出来なくても効果がありますにゃ。この刺突射撃こそがこのガンナイフ最大の特徴と言えますにゃ。」
とのことだった。
このゼロ距離射撃、刺した上での接射攻撃についてはかなり使えそうだ。
そもそもが、拳銃で強敵と戦う際に問題となるのは拳銃の威力のなさだ。
拳銃弾ではロード種が相手となる時点で魔法障壁を貫くことが出来ない。
魔力量が増えて弾を撃てる量は増えても、銃撃の威力そのものは銃の特性にかなり影響を受けるからな。
ガンナイフはその拳銃使用時の攻撃力を上げられる銃なわけだ。
ミウネウ博士も一番の狙いとしてはこれを目指して開発していたらしい。
今の俺の実力なら、刺突で障壁にダメージを与えた上で接射すればロード種までなら余裕で倒せるはずとのこと。
ただし神獣の障壁までは突破出来ないだろうとのことだった。
つまりはリレ隊長の障壁も突破出来ないためやはりこの銃は失敗ということだ。
だが今回の密林攻略には役立ちそうだ。
南方大密林内には複数のロード種がいることが確認されている。
その対策として俺は対物ライフルを使うつもりだったんだが、対物ライフルは密林内で使うには取り回しが不便だったりするからな。
拳銃……にしては大きいが、ガンナイフのこの大きさでロード種を倒せるなら十分使えそうだった。
それに、背中には対物ライフルではなく対神獣用の武器を背負いたいしな。
そういう訳でガンナイフの方は二丁二千万円で購入し、次は神獣用の武器を見せてもらう。
「ふっふっふ。ガンナイフの方は要望の性能には答えられなかったけどこっちは完璧ですにゃよ! 緋月局長からはソウルイーターに次ぐ神獣を倒せる銃としか言われてないですからにゃ。実現の方法は全て任せると言っていたから僕ちゃんの天才頭脳をフル回転させて最高の一組を作製するのに成功しましたのにゃ! 奥から持って来るのでちょっとだけ待ってるですのにゃ」
言葉の端々から不安を漂わせるミウネウ博士だった。
一丁でなく一組って言うのが不安をより増大させる。
不安になって緋月の顔を見てみるが緋月も微妙に不安そうな顔をしていた。
「……ミウネウ博士の発想は常人には理解できないと思っているからな。欲しい性能だけを伝えて、後は全て任せるスタンスを取っている。それで完成品に問題があれば再度依頼を出すという形だ。多少効率が悪くはなるだろうが、この方が予想外にいい物が出来る可能性があると思ってこうしている。……今回出来たという武器に問題がないといいのだが」
ということだった。
ミウネウ博士は色々な意味で天才肌だからな。
上から細かく指示を出さずに博士の発想を生かすのが緋月の方針ということだ。
そして予想外の傑作が生まれるか問題作が出来るかは運次第。
ミウネウ博士が銃を持って来る間、俺と緋月は不安を感じつつ待つこととなる。
そしてほどなく、ミウネウ博士は二種類の大型銃を持ってやってきた。
「ふっふっふ。この一組こそがソウルイーターに続く最新最高の魔法銃、アクセルバースターですにゃ! と言っても原理はソウルイーターと同じハイブリッド式の魔法銃なんですけどにゃ。でもってこっちのバーストシューターが薙阿津君用で、アクセルシューターの方が緋月局長用の魔法銃ですにゃ」
そう言ってミウネウ博士は目の前にあるテーブルの上に二つの魔法銃を置いた。
俺と緋月はそれぞれに銃を手にして説明の続きを受ける。
「薙阿津君の方は、一般的な爆発力強化方式の魔法銃ですにゃ。銃身内部に魔法障壁をまとわせて強化した上で、超強力な炸薬で弾丸を飛ばすタイプ。単純にして威力の高い魔法銃ですにゃ。もちろん反動とかも超強力になるから戦士系の薙阿津君にぴったりの魔法銃だと言えますにゃ」
とのことだ。
いよいよ俺も本格的に魔法銃を使うことになるわけだな。
もちろんミウネウ博士が作った特注品なので威力も市販の魔法銃より相当すごいとのことだ。
そして緋月の方も魔法銃ではあるようなのだが、こっちは細かな装飾が銃身全体に施されていた。
「緋月局長の方は魔導加速方式の魔法銃ですにゃ。一応初速を出すために火薬も併用してはいるけど、炸薬強化などはしてないにゃ。薙阿津君の爆発強化型に比べると威力は落ちますが反動の少ない魔法銃になってるですにゃ。こっちは魔道士系の緋月局長に合わせて作った魔法銃ですにゃ」
ということだ。
どちらも俺と緋月の特性に合わせた魔法銃と言うわけだな。
もちろん両方とも高性能なのも疑いはない。
ただし……爆発強化と魔導加速の両方を併用しているソウルイーターと比べるとどちらも能力が一段落ちる。
俺の銃の方が強いらしいが爆発強化だけで神獣の魔法障壁を抜けるとは思えなかった。
「二人がもっと強かったらソウルイーターと同じハイブリッド式でも良かったのですが、あれは特性的にも扱いが難しいですからにゃ。さっきも言った通り、爆発強化型には戦士系、魔導加速型には魔道士系の素養が必要ですにゃ。カーヴェルは器用貧乏だからどっちの素質もあったのですが、二人がハイブリッド式を使うには残念ながらまだ修行が必要ということですにゃ」
ミウネウ博士の言い分はもっともだった。
俺は修行でソウルイーターも何度か一人で撃っていたりする。
修行の成果もあって、ソウルイーターを撃つだけなら実はもう一人で出来る。
ただし、ギリギリ撃てるレベルで銃撃強化に回す魔力は全く足りない。
だから対神獣用の武器を作ってもらえても今の実力では結局一人では撃てないままだったのだ。
だがここで緋月が口を開く。
「確かに私たちの実力が足りないと言うのには同意できる。が、私の依頼は神獣を倒せる新たな武器の開発だったはずだが?」
緋月のいう事ももっともだ。
だがこの反論を受けて、ミウネウ博士の顔には喜びの笑みが浮かんでいた。
「ふっふっふ。もちろん依頼は完璧ですにゃよ。僕ちゃんは最初に言ったはずですにゃ。この一組こそがソウルイーターに続く最新最高の魔法銃、アクセルバースターですにゃとにゃっ! アクセルシューターとバーストシューターは、あくまでこの銃の仮の姿に過ぎないのですにゃ。そう、この銃の最大の特徴にして最高のギミック、それこそ合体機構なのですにゃ! そうつまり……この一組の銃は二つで一つ。変形銃だったソウルイーターに次ぐ、最新最高の合体銃なのですにゃー!」
…………。
頭の中でミウネウ博士の「ですにゃー」がこだまするのを俺は感じていた。
この俺の銃と緋月の銃は、なんと合体するらしい……。
俺は説明の続きを聞きつつ、以前カーヴェルさんがミウネウ博士を指して言った言葉を思い出していた。
――ありゃ本当にバカなんだって。
馬鹿と天才は紙一重とよく言われるが、カーヴェルさんに言わせればミウネウ博士は紙一重で確実に馬鹿だということだった。