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(旧版)地球化異世界の銃使い  作者: 濃縮原液
第4章 未開領域開放戦線
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03 異人会の悲願

 開放戦線の組織作りは現在も進行中だ。

 だが組織が出来るまで未開領域に対して何もしないというわけではなかった。


 今回攻略予定の未開領域は、エストバリア国の南に位置する『南方大密林』と呼ばれる未開領域だ。


 その南方大密林への侵入口に予定されている場所では、前線基地の建設が進んでいる。

 もっとも、前線基地と言ってもその機能はかなり限定されている。


 この世界にはゲートがあるからな。

 前線基地は、複数ある後方基地を中継するような場所という位置づけになっていた。


 エストバリア国にある開放戦線本部の他、装備を供給する神器機関兵器局の部局、後はメインの後方基地となる予定の国連国際防災戦略などとゲートで繋がっているわけだ。



 そして俺は今日、その前線基地へと来ていた。

 本隊が南方大密林へと入るのはまだ先だが、先行して内部の大まかな地図を作成することになったからだ。


 ただし、偵察部隊が実際に密林内へと入ったりするわけではない。

 前の会議で言っていた新型のUAV(無人航空機)を使用するのだ。


 それが神器機関から届くと言うので俺も見学に来ていると言うわけだ。



 新型UAVについては開発にも携わっていた綾ちゃんが説明してくれた。


「これが今回神器機関での再現に成功した球形飛行体となります。日本の防衛省技術研究本部が開発したテイルシッター型の垂直離着陸機ですね。見た目はボールの中にラジコンヘリが入ってるように見えるかも知れないですが、ヘリではなくプロペラ機です。種別で言えば、変形しないオスプレイみたいな物とでも言えばいいでしょうか。

 それでこの球形飛行体の能力ですが、空中静止状態からの急発進、逆に水平飛行からの急停止を行うことが可能です。また球形の機体を活かして飛行状態からそのまま地面に転がる、そして地面に転がった状態から起き上がって垂直上昇することが可能です。

 私は日本にいた頃にこの球形飛行体の動画を見たことがあるんですけど、初めて見た時は感動しちゃいましたよ。従来の無人機やヘリでは不可能な変則的な動き、その飛行性能により、建物内の通路など狭い空間での飛行が可能となっているのがこの球形飛行体なんです。

 今回はこの特性を活かして南方大密林内の無人偵察を行うことが任務となりますね」


 とのことだった。


 球形飛行体はサッカーボールくらいの小型のUAVだ。

 球形の中に小型のプロペラ機が入ったような特殊な形だが、その性能も相当すごいらしい。


 ちなみにこの球形飛行体の再現は綾ちゃんが前面に立って行ったとのこと。

 本人が感動したと言っていたように、是非この世界でも実用化させたいということだったそうだ。


 綾ちゃんはかなりのミリオタだからな。

 ガンオタではなくミリオタと言うのが大事なポイントだろうか。

 銃火器以外に対する知識も相当あったらしく、今回のACIES(先進個人装備システム)開発にも大きく関わっていたという話だ。


「話は分かったから早く飛ぶとこ見せてよー」


 待ちきれなくなったのかリレ隊長がぼやき始める。


 球形飛行体を実際に運用するのは偵察部隊の任務になるため、俺やリレ隊長が見に来る必要はなかったのだが、俺もリレ隊長もほぼ野次馬根性だけで見に来ていたりする。


 俺ももちろん興味があったが、リレ隊長も新しい物には目がないようだった。

 特に地球の物を再現したものにはすごく興味があるとのこと。


 そんなわけでリレ隊長は本当に子供みたいな顔をして球形飛行体を見つめているのだった。


「じゃあ実際に飛ばして見ますね。ではシン君お願いします。操作法は以前に説明した通りですからね」


「はい」


 緊張した面持ちでシンが操作を始める。


 球形飛行体が結構な速度で宙へと上がった。

 予想以上の速さだ。

 急停止に急発進は球形飛行体の特徴の一つだそうだが本当に速い。

 ちょっとびっくりしてしまった。


 そして球形飛行体は一メートルほどの上空で綺麗に停止していた。


「軽くでしたら触ってみてもいいですよ」


 綾ちゃんの言葉を受けてリレ隊長が喜んで球形飛行体を触っている。

 楽しそうにペチペチと叩いていた。


「おお。すごーい。叩いてもすぐ落ちたりしないんだねー」


「はい。中にジャイロセンサーが入っていますから。自動制御で姿勢を保持していますので、木とかにぶつかったくらいなら墜落せずにそのまま飛び続けることが出来るんですよ。あ、でも本気で叩いちゃ駄目ですよ。CFRP(炭素繊維強化プラスチック)などで強度を上げてはいますけどさすがに魔法障壁は張れないですから」


「うんうん。大丈夫だよー。でも面白いねこれ。後で私も操縦させてねー」


「はいもちろんです」


 リレ局長は本当に球形飛行体が気に入ったようだった。



 しばらく近場でホバリング飛行させた後は水平飛行へと移る。


 こっちのスピードも速かった。

 この水平飛行のスピードの速さが、ヘリではなく飛行機であることの特徴だろうか。


 時速五十~六十キロでの高速飛行が可能とのことだった。


「まあ早く動けると言っても魔物から逃げ切れるほどではないんですけどね。でもこの世界ならではの特徴として、魔力を全く使ってないというのも大きいんですよ。魔力がなければ魔力感知には引っかかりませんから。上手くいけば神獣にも気づかれることなく、密林内をかなり奥まで走査することも可能かも知れません。動画を画像処理することにより、詳細な三次元データを収集することが出来るはずです」


 とのことだった。



 しばらくはこの球形飛行体を使って密林内部の探索が行われる予定だ。

 実際に密林内へと入る前に詳細な立体地図を作製するのが目標だな。

 神獣までのルートを確定した上で密林内へは突入することとなる。


 偵察部隊の指揮は異人会のゲネスさんが取っていて、メンバーにはシンなどが参加しているが、突入前から偵察部隊は忙しくなりそうな感じだった。



 ちなみに俺やリレ隊長は主力部隊だ。

 こっちはリレ隊長が指揮を取り、俺やアイシスさんを含む元管理局の四天王、後はEXランクの時雨 時昌などがメンバーだ。


 主にロード種や神獣との戦いが主要任務となる。

 通常の魔物程度ならゲネスさん達が倒してしまうからな。


 密林内でロード種が発見されれば突入前に排除してもいいそうだが、しばらく俺達は意外と暇だったりする。



 実際に密林内へと入る部隊には他に援護部隊もいるな。

 こっちにはパンネや聡理さんが所属している。


 緋月やエレーニアも一応こっちに含まれるか。

 援護部隊は後方部隊を兼務してたりもするので境界があいまいだったりもするんだが。



 球形飛行体の捜査を見学した俺はエストバリアの本部に戻り、次は援護部隊の様子を見に行く。


 なんか俺がすごい暇人のように見えなくもないが。

 だが俺も一応全体を統括する副隊長だったりもするからな。

 各部隊の進捗状況を見て回るのもある意味仕事の一つだった。


 一部ではリレ隊長と二人して遊んでると思われてたりもするが決してそんなことはありえなかった。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 援護部隊の方でも未開領域へと踏み込む準備は進められている。

 というか後方部隊の一部として準備を進めていた。


 位置づけとしては、後方部隊の中で実際に未開領域に入るメンバーが援護部隊と言えばいいだろうか。

 パンネと聡理さんはこの援護部隊という事になる。


 逆に未開領域に入らない後方部隊としては綾ちゃんがそうだな。

 ちなみに緋月とエレーニアも綾ちゃんと同じ扱いになっていたりする。

 エレーニアはともかく緋月が後方基地で大人しくしてるとは思えないのだが。


 まあそんな感じで援護部隊と後方部隊には明確な違いがなかったりもする。


 こちらも偵察部隊同様忙しく準備を進めていた。


 パンネと聡理さんを発見したので声をかける。

 二人の前には人が入れそうな程の大きさの箱がいくつも並んでいた。


「よ、パンネ。準備は順調か?」


「ええ順調よ。今はアイテムボックスに入れる荷物のチェックをしていたところ」


 パンネの返事を聞いて辺りを見回す。

 今いる場所は大きな倉庫なのだが、その倉庫中に色々な資材が並べられていた。


 よく見ると大量の箱以外に色々な道具が並べてあるのが分かる。

 奥の方には携帯基地局や仮設ゲートなんかも置いてあった。


「まさかこれ……全部パンネが運ぶのか?」


 俺は驚きを覚えつつ尋ねる。


「一応私の分はこれだけね。あ、でも持ってっても全部使うとは限らないわよ。使う時も一度に全部出すわけじゃないしね」


 アイテムボックスは便利だなと俺は改めて思った。


 関心しつつ再び辺りを眺める。

 だいたいの物は何に使うのか予想がついたが、大量にある箱の用途だけはよく分からなかった。


「うーん、他のはなんとなく何に使うのか分かるんだけど、この大量の箱は一体何に使うんだ?」


「あ、うんこれはね……」


 尋ねるとパンネは言い淀んだ。

 変わりに聡理さんが口を開く。


「遺体を入れるための棺ですよ。五十人分用意してあります。多分これで足りるとは思うのですが……」


 その言葉を聞いて俺は瞬間的に怒りを覚えた。


 未開領域に突入するメンバーは約百人の予定だ。

 その内五十人が死ぬとしたらそりゃ全滅だ。

 それが、これで足りると思うって言うのはどういうことだと。


 確かに神獣は強敵だし、それを百人程度の人数で倒すのが危険なのも分かる。

 だが戦う前から全滅想定して棺まで準備してるっていうのはどうなんだ?


 俺は怒りというか悲しみというか、よく分からない気持ちで声をあげそうになる。


 だがそれに気付いたパンネがあわてて説明してきた。


「あ、違うのよ薙阿津。これは私達の棺じゃないから」


 パンネの声を聞いて俺は冷静さを取り戻す。

 改めてパンネの顔を見ると、パンネは悲しそうな、寂しそうな顔をしていた。


「この棺はね。未開領域の中にいる被召喚者達の遺体を入れるための物なんだよ」


 その一言で、俺は全てを理解した。


「未開領域内には、この二十年……ううん、地球の人が来るようになってからの百年間、ほとんど誰も入ってはいないから。危険な未開領域の中で、生き残っている人がいるとは思えないわ。でも……せめて遺体だけでも回収したいって思うから。魔物が闊歩する中にずっと置き去りなんて悲しすぎるもの」


 国連が未開領域へと入ることを禁止して二十年、未開領域内にはほとんど誰も入っていない。

 だが正確に言えば、その前から未開領域に入る人間は少なかった。

 未開領域内が危険なのはずっと昔からなんだからな。


 そして人が入らないという事は、領域内に召喚された人を回収する人間もいないという事だ。

 その状態が百年も続けば、中に遺体が溜まるのも道理ということだ。


 考えれば当たり前のそんな事実に、俺は改めて衝撃を覚える。



 開放戦線に国連が参加する過程において、異人会の意向は大きかったと聞く。

 多数の人間が国連をやめてでも開放戦線に参加しそうな勢いだったとのことだ。


 その理由がこれなのだ。


 異人会、特に被召喚者捜索部は、召喚問題の負の側面を最も良く知る組織だ。


 俺や緋月は、被召喚者捜索部に発見されたおかげで助けてもらうことが出来た。

 だが俺達二人のどっちだって、助けが来るのが少しでも遅かったらサケマグロに食われて死んでいたところだろう。


 実際に今まで、そういうケースは数多くあったのだ。

 そういう苦い経験を積んでいる捜索部のメンバーだからこそ、助けに入ることさえ許されない未開領域内が、どれだけひどい状態なのかを一番理解してると言えるだろう。


 だから異世界人協会の人達にとって、未開領域内へと入ることは一つの悲願だったのだ。


 パンネ達がそれだけの思いを持ってここにいるのだという事実を思い出し、俺は改めてパンネを見た。

 だが、ここでパンネから思わぬ声が漏れる。


「薙阿津。本当にありがとう。薙阿津がこの世界にやって来て、最初に召喚問題を解決するって言った時、私も同じ目標を持ってるって言ったよね。あれは本当に嘘じゃないよ。だから私はこうしてここにいるから。でも目標を持ってるって言っても、私には正直どうすればいいのかなんて分からなかった。薙阿津がいたから、薙阿津のあの演説があったから、私はこうしてここまで来れたんだよね。だから薙阿津、本当にありがとう」


 そういって、パンネは目に涙を浮かべる。


 俺にはそれに返す言葉がなかった。


 召喚問題を解決しようと思う気持ちの面で、パンネは俺なんかよりずっと強い思いを持っている。

 未開領域に入ることに至っては、俺は神獣を倒すことの方が主目的だったくらいだ。


 だから正直言うと、こんな礼を言われてしまって俺には戸惑う面もある。


 だが、逆に思い直そうと俺は思った。


 まだ作戦は始まってすらいない。

 未開領域の開放が成功するかどうかは俺達次第なのだ。



 国連の上層部達は、心の底では開放戦線が失敗することを望んでいる。

 民意に押されて協力する形こそ取ってはいるが、積極的に人員を放出しようとはしていないのだ。


 だがだからこそ、この開放戦線に参加してくる人達は、自らの意志で参加する者が多かった。


 開放戦線に参加するメンバー達は、パンネを始め俺なんかより強い意志を持って、危険な未開領域に挑む者達が揃っているのだ。


 だからこそ、彼らの思いを絶対に無駄にはしないと俺は誓う。



 未開領域の開放を成功させると心に誓いつつ、俺は改めて各部隊の様子を見て回るのだった。


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