02 ACIES(先進個人装備システム)
未開領域開放戦線。
その立ち上げ声明を行った日から、一週間近くが過ぎていた。
この間、参加者はものすごい勢いで増えていた。
そして国連機関からの参加者もやってくる。
こっちの方には俺の知ってる人間も入っていた。
神器機関からは緋月、エレーニア。
なぜかICPO(国際刑事警察機構)から聡理さん。
そして異人会からのメンバーにはパンネも含まれていた。
「久しぶりだね薙阿津」
「ああ」
俺はもちろんパンネを迎えに出かけたが、最初は少し戸惑ってしまった。
パンネは参加できない前提で、なんかいい感じで別れたつもりでいたからな。
そんなわけで最初は少しばつが悪かったりもしたんだが、でもやっぱりパンネも参加出来たのはいいことだった。
後は民間軍事会社などの民間参加者に紛れてシンも来ていた。
アイシスさんに追い返される寸前だったみたいだが、危ない任務にはつけさせないという条件で参加を認めてもらったそうだ。
「俺だって修行して強くなってんだかんな! 姉ちゃんにも俺の強さを見せてやるんだ!」
そんな感じでシンはやる気になっていた。
シンは偵察隊に配属されたから、へたするとほとんど戦闘自体ないかも知れないんだけどな。
「神器機関からは仮設ゲートを持って来ていますわ。未開領域内での野営は危険が大きすぎますからね。ゲートのあるなしは相当に大きいと思いますわ。後は、携帯基地局の方も設置したいと考えておりますわ。これが役に立つのは神獣を倒せた後になるはずですが、未開領域の開放が成功して、召喚されて来る人達の救出も出来るようになるといいですわね」
エレーニアにも、召喚問題については思う所が多いようだった。
サケマグロの森の時も、エレーニアは被召喚者捜索部の任務について来ていたからな。
こんな感じで、懐かしい面々が続々と開放戦線へと集まって来ていた。
ただし、EXランクのメンバーの参加者はほとんどいない。
EXランクで参加しているのはリレ隊長と、後は暗殺者だという時雨 時昌の二人だけだった。
「EXランクのメンバーは、防衛のためという名目で国連は出す気がないようだ。上層部は、元々開放戦線に好意的ではないからな。未開領域への探索が失敗することを願っているような節さえ見受けられる。リレ隊長が神獣に倒される場合があれば、上の連中にとってはそれが一番いいのだろうな。だがここに来ている連中はみんな本気だ。それに、まだEXランクにはなっていないがそれに等しい実力者は入っているしな。EXランクが少ないという事は、それだけ薙阿津が活躍できる場面が増えるという事だ。後はアイシスさんか。この探索が成功すれば、二人は間違いなくEXランクに昇格することになるだろうな」
国連は民意に押されて開放戦線への参加を表明している。
だが本心ではリレ局長の失敗を望んでもいるということのようだ。
だがそんなことは俺達には関係なかった。
俺とアイシスさんも含めれば、開放戦線にはEXランクに相当する実力者が四人存在することになる。
対玄武戦でも、EXランク七人が総出で戦っていたわけじゃない。
だから十分に勝算はあると言えるのだ。
もちろん、俺が修行して強くなっていると言うのももちろんある。
俺一人で倒せればベストだとさえ思っているからな。
ともかく、対神獣戦においてはそれほど心配はしていなかった。
むしろ問題があるとするならば、未開領域に入ること自体にこそ不安があった。
今回攻略する予定の未開領域はジャングルだ。
植生は熱帯雨林で、サケマグロの森よりも草木が多いと言うことだった。
この中を大人数で移動すること自体、かなりの危険を伴うと言えるだろう。
未開領域内で仲間とはぐれればそれだけで死の危険に直面する。
これは開放戦線にとって大きな問題だと言えた。
だがこれに対する対策としては、緋月達が神器機関から装備を提供してくれるとのことだ。
これについては三回目の準備会議の際に聞くこととなる。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
未開領域開放戦線。
未開領域管理局をベースに組織作りが進んでいるが、外部から多くの人材を受け入れている都合もあり、その組織作りは難航していた。
もちろん未開領域内へと入る準備も並行して行っており、その進捗状況の説明なども兼ねて、週に何度かのペースでこうして会議が開かれているのだ。
その会議は国連機関にほぼ乗っ取られている感もあったが。
いや、国連がどうというか、緋月に乗っ取られていると言い換えても良かった。
つまり進行なんかをほとんど緋月がやっていた。
まあぶっちゃけ言うとこれも予定通りだったりするわけだが。
俺はこういうのは専門外だし、リレ隊長もこういう調整作業とかは嫌いだったからな。
そういうわけで会議の進行は緋月、エレーニア、アイシスさんなんかが中心になって行っているというわけだった。
今日はその会議の三回目だ。
この会議は主要人物だけを集めて行う物で、中規模のミーティングルームにおいて行っている。
参加メンバーは副隊長になっている俺とリレ隊長にアイシスさん、緋月、エレーニアにパンネなんかもいる。
他にも開放戦線に参加する組織の主要なメンバーが参加していた。
総勢で十八人がこの会議には参加している。
ちなみに異人会からはパンネ以外にゲネスさんが参加している。
ゲネスさんはいつの間にか役職が上がっていたようで、異人会を代表する人物としてこの会議に参加していた。
「ではこれより、第三回進捗会議を始めさせて頂きたいと思います。司会は前回に引き続きこの私、神園 緋月が務めさせてもらいます。それでまずは組織作りの進捗についてですが……こちらについては省きましょうか?」
そう言って緋月がこっちを見る。
正確に言うと俺とリレ隊長の二人を見ていた。
俺とリレ隊長は二人揃って戦闘バカだと思われている節があるからな。
正直興味がないのは事実だし、細々した調整は勝手にやってくれて良かったが。
「んー。一応概要だけは聞いておこうかな。妾は緋月ちゃんのことも信用してるから、アイシスちゃん達と一緒にいい感じにしてくれれば満足だったりもするんだけどね」
「分かりました。では簡単に概要だけを説明させてもらいます。管理局の元精鋭部隊約百人。この内五十七人が開放戦線へと参加しています。実動部隊はこれをメインに編制中。偵察部隊を含め、実際に未開領域へと入る人数は百五十人前後となる予定です。ただし後方部隊の総人数は千人近くにのぼります。こちらは神器機関と異人会の人員がメインとなる予定ですね。後は後方基地として国連国際防災戦略の施設を使えることが決まりました。また管理局の施設も使えるよう交渉中です。実動部隊のメンバーは元管理局員が中心となっていますからね。古巣を使えればそれにこしたことはないでしょう」
「うん、すごくいいよー。想像以上に緋月ちゃん頑張ってくれてるんだね。メンバーの方は想定内だけど、国連機関の施設を使えるならすごいよ。管理局の施設にはもう入れないと思っていたけど、使えるならすごく嬉しいよ」
「お褒めに預かり光栄です。まあ……この交渉にはアイシスさんにも助力をいただいておりますが。とりあえず大まかな進捗状況については以上です。次は部隊の装備についてなのですが、是非全員に装備していただきたい物があります」
緋月の合図に合わせてエレーニアが前にある機械を操作する。
プロジェクターによって奥のスクリーンに映像が映し出された。
その映像を交えつつ緋月が説明を続ける。
「今ご覧になっている物は、兵器局が最近再現に成功したACIES(先進個人装備システム)の一部です。元々は日本の自衛隊用の装備として開発されていた物ですが、こちらの世界に合わせて一部変更を加えて再現してあります。この世界ではボディーアーマーなどは装備する人間の方が少ないですからね。基本的には情報面に特化した形での装備の再現と運用を予定しております。くわしい説明については後日開発スタッフの者が合流した時にするとして、概要だけをこちらで説明させて頂きたいと思います。
ACIESは仲間や敵の位置座標などを情報共有することで、戦闘能力の向上を図ることを目的とするシステムです。今回入る未開領域は密林となっていますから、仲間とはぐれないためにもこの装備は必須と言えるでしょう」
画面での説明を続けつつ、次は黄色い双眼鏡な物を持ち出し説明を続ける。
「こちらはターゲットロケーターとなります。レーザー距離計、方位磁石、可視カメラ、赤外線カメラが内臓されており、撮影画像や目標の位置座標を無線送信することが可能です。未開領域ではすでにUAV(無人航空機)による探査も行ってはおりますが密林内部を見通すことは出来ていません。よって偵察部隊がターゲットロケーターによりもたらす情報はかなり重要な物となるはずです。偵察に関しては他に新型UAVの投入も予定しておりますが、こちらは現物が来た際に改めて説明させて頂きたいと思います。
そして最後に、神器機関が新たに追加したシステムとして、魔力探査魔道具をシステムに組み込んでいます。これにより味方や敵の大まかな魔力残存量を知ることが可能となっています。特に味方の魔力量には注意してください。通常時を100%として、魔力量が5%を切ると魔力切れの症状を起こす可能性が高いと言われています。その際にはレーダー上の表示も点滅表示へと変わるのですぐ近くの者が救援へと向かうことが可能となります。
一連の情報については後方基地となる国連国際防災戦略で管理する他、各自に配備されるタブレット端末によっても確認できるようになっています。
これにより、密林の中においても互いの位置を確認したまま探索を行うことが可能となるでしょう」
とのことだった。
密林の中でもある程度なら魔力で互いの位置は分かったりもするんだが、レーダーが使えると言うのは心強い。
開放戦線の組織作りと並行して、未開領域への探索準備も着々と進行しているのだった。