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(旧版)地球化異世界の銃使い  作者: 濃縮原液
第3章 国連サミット
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11 国連サミット(午後)

 午後の会議が始まる。


 午前とは打って変わって午後は最初から神獣対策の話題になった。


「先月のニムルス国における神獣出現の件についてだが、これを未然に阻止出来なかったことについて、未開領域管理局の局長殿には何か言うことはありますかな?」


「ん? ないよー?」


 午前中よりも議場は緊迫した空気に包まれていた。

 これは、議題が人の命にかかわる問題である面も大きいが、それ以上にリレ局長の人柄によるものが大きいだろう。


 やり玉に挙げられているリレ局長がまともな返答をしないために議場には殺伐とした空気が漂っていた。


「……管理局は確かに未開領域を管理する部署ですが、神獣の出現を未然に防ぐ義務は有していません。世界中に点在する未開領域の全てを、管理局のみの力で制御することは不可能ですから。それくらいのことは……この場にいる全員が知っていると思っていましたが?」


 アイシスさんの的確な答えに声をあらげていた男性の言葉がつまる。

 ずさんな受け答えをするリレ局長をアイシスさんが補佐する形になっていた。


「だが、神獣出現前にその兆候を発見することくらいは出来たはずだ。それについてはどう考えているのだ!」


「ん? そっちならウチはきちんと対応したよね? 玄武が未開領域を出る一時間前には防災戦略の方に警告を出してたはずだよ?」


 リレ局長の返答を受け、ここでセン長官が助け舟を出す。


「今回の神獣出現に際して、管理局と防災戦略は迅速かつ適切な行動を取ったと聞いております。だからこそニムルス国における住民の避難も迅速に行なえたのではないですか。この点に関しては、むしろ管理局は賞賛に値する働きをしたと言えるのではないでしょうか?」


 とのことだった。


 今回の対神獣戦は、これまでの神獣戦の中で最も被害を抑えることに成功している。


 これは小善氏の結界で玄武の動きを封じられたことなど、運による所も大きい。

 だがそれ以上に、神獣が出現した際の対応が迅速に行えたことが大きかった。


 これには事業継続計画、通称BCPと呼ばれるものがあらかじめ策定されていたことによる影響が大きい。


 BCP(Business continuity planning)は、イギリスで策定された民間緊急事態法2004という法令が始まりとなっている。

 『すべての救急隊と地方自治体は非常事態に対して積極的に備えて、事前に対応計画を立てておくこと』というような感じの法令だ。


 災害大国である日本でも近年このBCPに対する関心は高まっていた。

 その流れでこの世界でも、数年前からBCPを策定するようになっていたのだ。


 その災害の対象として、魔物災害が最上位に来るあたりはこの世界ならではと言えるだろうが。



 ともかく今回の対神獣戦は、この世界でBCPが運用されるようになって始めて起きた大規模災害でもあったわけだ。


 そしてBCPはほぼ理想的な形でその効果を発揮したと言われている。


 日本のJアラート(全国瞬時警報システム)を元にした情報伝達システムも上手く作用していた。

 魔物の集団が街へと到達する前には、ほぼ全ての住民が指定緊急避難場所であるゲートポートまでの避難を完了させていたのだ。


 その後のゲートポート防衛戦などでの被害は出たが、これはほとんどがニムルス国軍や傭兵達の被害だ。


 今回の対神獣戦、実は一般市民の犠牲者はほとんど存在していないのだ。


 もちろん、国軍の兵士や傭兵なら死んでもいいなんてことはないのだが、少なくとも今回の対応について管理局が非難を受けるいわれはなかった。



「今回の対神獣戦、戦闘前の情報伝達や戦闘そのものについては、これまでの神獣戦においてもっとも良く対処できたと言うことは、新聞やテレビでも広く報道されていることです。その上でさらに責任を追及することに果たしてどれほどの意味がるのか、くわしくお聞かせ願いところです」


 セン長官の口振りはあくまで冷静で、声は静かな物だった。

 だがその言葉には有無を言わせぬ迫力があり議場は一瞬静まり返る。



 その中で、俺は隣に立つアイリ副長官が苛立っているのを感じた。


 今回の対神獣戦においてはすでに二人の人間が責任を取らされている。

 アイリ副長官の父親はその内の一人に含まれているのだ。

 彼女の心情は察してあまりあるだろう。


 そしてもう一人は神器機関の銃火器部門主任だった男だ。

 その男が処分されたおかげで緋月が兵器局の局長となっているわけだが、この一連の処分について、神器機関内には不満も溜まっていたということだろう。


 今回の神獣襲来をエサに管理局を責めようとしていた面々は、神器機関からの思わぬ反撃を受けて萎縮しようとしていた。


 だがここで別の人間が口を開く。


「確かに今回の対神獣戦において、管理局自体はその役目をしっかり果たしていたと言えるでしょう。ですがそれとは別に……私達はある興味深い情報を掴んでおります。それは管理局の局長であるリレ・ニーレリカ。あなたの動向に関してのものです」


 落ち着いた声でそう言ったのは、ニムルス国の大統領を務める猫人女性だった。


「神獣・玄武が我が国へと進行してきた前日、あなたがニムルスへ来ていたという情報があるのですよ。あなたはその日一体何をやっていたのです? 普段未開領域に入りっぱなしのあなたの、我が国への突然の訪問。そしてその翌日に起きた二十年ぶりの神獣襲撃。偶然とはとても思えませんが?」


 その言葉を受けて、一瞬のうちに議場がざわめき始める。

 だがそれに対するリレ局長の回答は最低なものだった。


「それは妾のことを買いかぶりすぎじゃないかなぁ? 妾だって、たまには気まぐれで人里に出ることだってあるんだよー? 例えば、気になる男の子を見つけた時なんかにねっ」


「――っ! ふざけるのもいい加減にしたまえ!」


 血気盛んな男の首脳が怒鳴り声を上げる。

 だがリレ局長がそんな声に動揺することはなかった。


「あははっ。冗談だよ冗談。ちょっと女の子っぽく言ってみただけだって言うのに。あんまり沸点低いと血管切れちゃうよ? それに気になる子がいたっていうのは本当の話なんだしね。ホラ、向こうに本人立ってるじゃん。今回の対神獣戦の英雄、捧 薙阿津。妾が気になった子って言うのは彼のことだよ。

 ここにいる他の人達は神獣戦が終わるまで彼のこと知らなかったと思うけど、一部では彼、神獣戦の前から有名だったんだよ。面白いユニークスキルを持ってるってね。そんなわけで、妾は彼の力を見たくてニムルスに行ってたんだよ」


 会場にいる面々の視線が一斉に俺の方へと向けられる。

 すぐに話が再開されたおかげで俺が注目され続けるようなことはなかったが、思わぬところで注目を浴びてしまった。


「神獣殺しの一人……ですか。確かに、有望な若者を発見した際にリレ局長がその者を見に行く癖があるという話は聞いたことがあります。今回のニムルス訪問もそれである、とおっしゃりたいわけですね。つまり神獣の出現とは関係がないと?」


「うんうん。そうだよー」


「じゃあ一体何が原因で神獣は未開領域から出てきたと言うのだ!」


「そうだねー。あ、あれじゃない。例えばの話だけど、未開領域内にある山に誰かがでかい風穴空けちゃったとか! それで神獣が怒って出てきちゃったんだよ。とかどう?」


 例えばの話とか言ってるが……それあきらかに俺のことじゃねぇかよ。


 対神獣戦の前日、俺はみんなと共に演習場で射撃訓練を行っていた。

 その時対物ライフルの威力を見るために俺は未開領域にある山を撃っている。

 その際でかい風穴を開けてしまっていたが、それが原因で玄武が出てきたのだとしたらごめんないさじゃ済まない話だ。


 もしかしたら神獣が出てきたのが俺のせいかも知れない。

 そう思うと、俺は全身から嫌な汗が出るのを感じていた。


 のだが、どうやら俺はリレ局長にからかわれていたようだ。


「あはは。そんな緊張しなくて大丈夫だよ薙阿津ちゃん。だって薙阿津ちゃんの撃った山ってニムルスの南側でしょ? でも玄武が出たのは北側。方向が真逆なんだよね。もし薙阿津ちゃんが原因なら神獣も南から来なきゃおかしいよね?」


 とのことだった。


「確かに……リレ局長の姿が確認されたのはニムルスの南にある首都の方ですね。つまりあなたが原因で神獣が現れたとするならば、その場合も神獣の襲来は南からでなければおかしいと。……そうおっしゃりたいわけですか?」


「そうそう、その通りだよー。だいたいここにいる全員、どういう原理で神獣が出てくるかなんて誰も知らないでしょ? さらに言わせてもらえば、妾が管理局の局長になる二十年前までは、神獣の襲来なんて毎年のように起きてたんだよ? なんだかんだ理由をつけて妾を責めたいみたいだけど、この二十年神獣が人里に出なかったこと自体、妾のおかげだって考え方は出来ないのかな? ま、その二十年間何をしたかって言われたら妾は別に何にもしてないんだけどね」


 そう言うと、リレ局長は一息ついた。

 心なしか、リレ局長にしては真面目な顔つきに変わったように感じる。


「未開領域に対しての一切の干渉を禁じる。それが未開領域管理局の設立目的であり、この二十年間の活動の本質だったわけだよね。未開領域に人が入らないように監視し、神獣を刺激しないよう未開領域内の生態系を管理する。確かにこの処置を行うようになって、この二十年神獣が人里に出ることはなかった。

 でもだからって、神獣が出ない理由は元からなかったんだよ? たまたま二十年間出て来なかったってだけでね。だから何もしなくったって、昔みたいに毎年神獣が出てくるようになる可能性だってあるんだよ?」


 リレ局長の言葉で議場は一瞬にして静まり返る。

 だが、リレ局長の発言はここで終わりではなかった。


「だから責任問題なんかより、妾達にはもっと話すべきことがあると思うんだよね。つまり……これから先の神獣対策について。そして妾には、これについて一つとっておきの案がある。神獣を刺激しないようにするなんていう運頼みの消極策なんかじゃない、もっと抜本的な解決策がね」


 一息休息を入れて、リレ局長はさらに続けた。


「未開領域内の神獣を一匹残らず全滅させる。神獣対策として、妾はこれを提案するよ。これこそ小学生にだって分かる、唯一にして完璧な対応策だと思わない? もっとも、この提案をするのも今回が初めてってわけじゃないんだけどね。

 今までは出て来もしない神獣に対して攻撃する必要はないって否決されてたけれど、玄武の襲来によってその前提は崩れた。これをいい機会に、神獣に対して反撃することを考えるのも妾は悪くないと思うんだけどな?」



 これがリレ局長が言っていた、とっておきの提案というやつだった。


 言われてみれば至極真っ当な案だと俺は思う。

 ついでに言うと、これは俺にとっても渡りに船な提案だった。



 だがこの場にいる者達にとっては、これは予想外の展開だったらしい。


 リレ局長のこの提案によって、議場はにわかにざわめき始めていた。


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