表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
(旧版)地球化異世界の銃使い  作者: 濃縮原液
第3章 国連サミット
35/50

04 サミット(主要国首脳会議)

 カーヴェルさんの家に来て四日目の朝を迎える。


 カーヴェルさんの家は広かった。

 二階建てで部屋もたくさんある。


 そのため、修行組の四人は個別に部屋をあてがってもらっていた。

 ただし部屋には鍵がついてなかったが。


 カーヴェルさんの家は、一言で言えば『間違った日本風邸宅』という奴だった。

 日本好きな外人が住んでそうな家と言うかなんというか。


 床が畳になっているのや、扉が障子とかついてる引き戸なのはいいとして、部屋に鍵がないのだけはホント勘弁してほしい。


 ぶっちゃけ部屋を間違えて開けてしまったからな。


 すでにアイシスさんの着替えを覗くこと一回。

 シンの着替えを覗くこと一回を経験している。


 なぜかアイシスさんではなくシンの方に物を投げられたのだが。

 ちいさな象さんを見てしまったのは確かに悪かったが、男ならむしろ見せつけろと言ってやりたい。


 ちなみに、俺の方も一回パンネに着替えを覗かれている。

 もちろん俺が着替えを覗かれて物を投げるようなことはなかった。


 シンとは違うことを示すためにむしろポーズを取ってやったからな。

 我ながら男らしい対応だったと思っている。



 そんな感じでまあ……修行が始まった三日目を含め、俺達は平和な日々を過ごしていたわけだが。


 この日は朝から違っていた。



「ババァーッ! 俺だーッ! 結婚してくれー!」



 朝から信じられない雄たけびが聞こえて来る。


 ちょうどみんなで朝食を取っている時だったのだが、あまりの事に俺は飲んでたミルクを噴き出してしまった。


 ちなみに求婚された本人であろうカーヴェルさんもスープをこぼしている。


「……バカが来ちまったか」


 カーヴェルさんはすごく面倒そうな顔で言葉を吐いた。

 さらには居留守を使うと言い出す始末。


 代わりに俺が玄関へと出て応対することになってしまった。


「えー……っと。申し訳ないですけどカーヴェルさんは持病のヘルニアが悪化してて、今は整形外科で電気治療受けに――」


 って感じで適当にあしらおうとしたのだが。


「魔族化してんのにババァが腰痛なるわけねぇだろうが馬鹿野郎。っていうかてめぇ何者だ? まさか……俺がいない間にババァを寝取ろうとしてんじゃなぇよなこの間男がぁっ!」


 適当にあしらおうとしたのは失敗だったようだ。

 というかこの兄ちゃんテンション上がるの速すぎだろう。


「ちきしょう! あのババァめ。俺のことガキだとかさんざん言ってやがった癖に俺より年下の男囲んでるってのは一体どういう了見――」


 ここまで言った所で男はカーヴェルさんに撃たれた。


「まったく、聞くに堪えないようなことを朝から大声で……。あんたの馬鹿は一体いつになったら治るんだいハッカ」


 うんざりした顔でカーヴェルさんも玄関へとやってくる。

 ついでに他のみんなもやって来ていた。


 ここでパンネが撃たれた男の顔に気付く。


「あ、ハッカさんだ。まだ師匠のこと狙ってたんだね……」


 どうやらパンネはこの男のことを知っているようだ。

 と、改めて男の顔を見ると、俺もどこかで見た覚えのある顔だった。


 燃えるようなオレンジ色の髪をした若い猫人の男。


 対神獣戦の時に少しだけ姿を見れたEXランクの一人じゃないかな。

 EXランクの格闘家、ハッカ・ガイナー。

 十八歳の若さで最強の一角にまで上り詰めた最年少のEXランクだ。


 彼に対するカーヴェルさんの評価が確かエロガキだったが。

 知り合いかとは思っていたが、かなりディープな関係だったようだ。


 とか思ってカーヴェルさんの顔を見ると、カーヴェルさんはうんざりそうに顔を横に振っていた。


「まったく……ガキが四人でさえにぎやかすぎるってのに、一番うるさいやつまで来ちまったよ」


 カーヴェルさんはうんざりしたしぐさをしているが、顔はまんざらでもないようにも見えた。


「まあ来ちまったもんは仕方がないさね。おいハッカ。あんた朝飯はもう食べたのかい? 一人分くらいならまだ飯も席も残っちゃいるよ」


「ヒャッハー! もちろんごちそうにあがらせてもらうぜー!」


 そう言ってオレンジ髪の猫人は元気よく立ち上がった。

 撃たれた額が少し赤くなっていたが。


 この世界、高ランクの人間なら拳銃で撃たれた程度で死にはしないが痛みはそれなりにある。

 カーヴェルさんには、ツッコミで実銃撃つのはやめてくれと言いたい。




 まあ朝からドタバタしたが、俺達は改めて朝食を再開した。


「いやぁー、悪かったな坊主。修行してるんなら最初に言ってくれりゃあ良かったのによ。いやホント悪かった。俺様としたことがつい熱くなっちまったぜ」


 一度話してしまえばハッカさんは気のいい兄貴といった感じの好青年だった。

 隣に座るカーヴェルさんはすごくウザそうにしていたが。


「で、ハッカ。こんなとこまで一体何しに来たんだい?」


「ババァに求婚しに来たに決まってんだろ。……って言いたいとこだが、この国に来た目的自体は下見もあっかな。来月あれあるだろあれ、ほらサミットとか言うやつ」


「あー……そういえばもうそんな時期だね。今年はこっちでやるんだっけか。最近対神獣戦とか色々あってすっかり忘れちまってたよ」


 サミット……地球で言うところの主要国首脳会議のことだ。

 こちらの世界のサミットも、基本は地球の物を参考にしている。


 ただしこの世界では国連の力が地球より強いので、それに合わせて参加者などは少し違ったものとなる。


 国連サミットと言われる方がこの世界では多いか。

 各国の大統領や首相に加え、国連機関の長官などが参加する会議になるそうだ。


「いつもなら神器機関が各国首脳からつつかれて、機能の一部を民営化する流れになるとこだけど、今年は少し議題が変わるかも知れないね」


「……神獣が出たからですか?」


 カーヴェルさんの話にアイシスさんが食いついていた。


「そうさね。二十年ぶりの神獣の出現。対神獣戦の後始末は進んじゃいるけど、今後の神獣対策についてはサミットで議論されることになるだろうからね。ま、上の連中ってのは責任問題を議論するのが好きな奴らだ。対策の前に、神獣出現を止められなかった責任の追及からやるかも知れないけどねぇ」


「リレ局長が叩かれるのでしょうか? ……今から頭が痛くなりそうです」



 今回の対神獣戦。

 戦闘そのものの責任は神器機関の銃火器部門主任などが取らされたりしている。


 だがそれ以前の問題として、神獣が人里に出てきたこと自体の責任まで上の連中は追及するつもりのようだ。

 神獣が出たこと自体に責任を取らされるなんてひどい話だとは思うのだが。


 しかしそのことに対して、責任を追及される可能性のある部署は存在する。

 それが国連環境計画・未開領域管理局だ。


 管理局は未開領域を管理する部局だ。

 その管理対象として最大のものはやはり神獣だと言えるだろう。


 ただし管理局の力だけで神獣の侵攻を未然に防げる道理はないし、神獣が出た責任を管理局が負わされるいわれも本来はないはずだという話だが。


「ま、上の連中は嫌がらせが好きな奴が多いからね。特にリレ局長は人から恨みを買いやすい性格をしている。今回の神獣出現はリレを攻撃する絶好の機会だからね。サミットが開催されるのは来月だが、今から頭の痛い話だよ」


「……私は、リレ局長がキレて暴れないかが一番心配です」


 今年の国連サミットは相当にあれそうな雰囲気だった。

 というか本当にリレ局長がキレたら、会議に参加する首脳陣が皆殺しにされたりしそうで怖い。


 まあ会議には神器機関のセン長官なども参加するそうだし、カーヴェルさんやハッカさんも護衛として会議の場に同席したりもするそうだが。


「サミットは、年に一度EXランクが一堂に会するイベントでもあるからね。今年は対神獣戦があったから一カ月ちょっとしか間が空かないことになるけどね」


 国連サミット、内容はともかくEXランクが勢ぞろいするのは面白そうだ。


 一応対神獣戦で見なかったEXランクもその後のパーティーで見る機会はあったが。

 だが神器機関のセン長官や暗殺者の時昌などはほとんど顔も見れていない。

 サミットには他にSランクの強者なんかも護衛として集まるそうだしな。


 会議自体に興味はないが会場には行ってみたいイベントだった。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 ハッカさんは今日はカーヴェルさんの顔を見に寄っただけだったらしく、朝食の後再び去っていった。


 その後は昨日と同じ要領で修行を行う。

 修行を終えアイシスさんをお姫様抱っこして家へと帰り、風呂や夕食などもすませる。


 そのタイミングで緋月から電話がかかって来た。


『やあ薙阿津。修行は順調に進んでいるかい? ま、忙しい身の私としては貴様の成長を追う余裕はないのだがな。それより来月開催される国連サミットと言うイベントのことは知っているか?』


「ああ、今年はこっちで開催されるって話だな。EXランクがまた集まるみたいだし、少しは興味のあるイベントだがそれがどうした?」


『ふふ。実はな……私もその会議に参加することが決まったのだよ。EXランクが集合する時点で分かっているとは思うが、会議の参加者は一人だけ護衛を連れて会場内に入ることが許されている。そこでだ。もし薙阿津に興味があるのなら、この護衛枠を貴様のために使ってもいいと思っている。もちろん報酬も適切な額を払わせてもらうつもりだが、どうする薙阿津?』


 いつも通りではあるのだが、一貫して上から目線な緋月だった。

 少なくとも護衛を頼む人間の態度ではないな。


 俺と同じ銃撃強化能力を持ってる緋月に護衛が必要かもそもそも謎だが。

 まあ緋月自身もそう思ってはいるのだろう。


 だから俺がサミット会場に行きたいなら護衛として連れていってもいいぞというスタンスだ。

 俺自身が会場に行ってみたいのは事実だしな。


 この依頼を断る理由はまったくなかった。


「いいぜ、その依頼受けてやる。俺はどうしても会場に行きたいってわけじゃないけどな。依頼を受ける以上、お前のことは俺がしっかりと守ってやるぜ」


『ふふ、頼もしい限りだな。では日が近づいたらまた連絡する。ああそれと、兵器局の方で今いくつか銃の試作品を作っている。こちらもいいのが出来たら連絡しよう。綾がすごく頑張っているからな。形になったら綾の方から連絡が行くはずだ』


「おお、綾ちゃんもしっかり頑張っているんだな。分かった、期待して待ってるよ。じゃ、またな。お前も大変だとは思うが死なない程度に頑張れよ」


『ああ、お互いにな』



 こうして、俺も護衛としてサミット会場へと行くことが決まった。


 サミットまで約一カ月。

 修行の目安としては丁度いいか。

 ま、EXランクが集まると言ってもそこで戦闘になるわけじゃあないが。


 会議そのものにも少しは興味もあるしな。

 今回のサミットにおける主要議題は、間違いなく神獣対策になるだろう。


 リレ局長を倒して世界最強になるのも俺の目標の一つだが、未開領域にいる神獣を倒して、召喚装置を見つけ出す目標も決して忘れたわけじゃない。


 その点に関して、サミットの結果は俺の目標に影響が出る可能性もあるのだ。


 現状では、未開領域への探索は国連によってほぼ禁止された状態だったりする。

 神獣に刺激を与えないためというのが一番の理由だったということだ。

 この措置によって、実際二十年もの長い間神獣が人里へ出ることはなかった。


 だが今回の玄武出現によって状況は変わった。


 未開領域への対策がこれからどうなるのか、それが議論されるのが今回の国連サミットなのだ。


 会議の結果次第では、未開領域内の神獣とも戦えるようになるかも知れない。



 そのことも見据え、サミットまでの一カ月、俺は全力をあげて修行に打ち込むことを決意するのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ