02 EXランク総評
「さてと、これから本格的な修行を始めるわけだが、その前に薙阿津。お前さんが目指す目標をまずは教えてもらおうかね」
本格的な修行を前にカーヴェルさんが聞いてきた。
もちろん、俺の答えは決まっている。
「そりゃもちろん、世界最強の男になることだぜ!」
俺は自信たっぷりに答えた。
だが……カーヴェルさんは俺の返答になぜか頭を抱える。
「いやね、それは前にも聞いたよ。あたしが聞きたいのはそういう漠然としたもんじゃなくてだね。あんたがどういう戦闘スタイルでやっていきたいのかってことなんだよ」
カーヴェルさんが説明を追加する。
「まあいきなりスタイルとか言われてもピンと来ないだろう。だから具体例を上げて説明しようか。ついでに最強になる上で避けることのできない七名のEXランクについても話してやるかね。
この世界には、現在七名のEXランクが存在する。この七名の中にも強い奴弱い奴と存在はするが、それ以上に、それぞれの得意とする戦い方なんかが存在するわけだ。
七名を大きくわけると、近接型三名に、遠距離三名、特殊型一名ってところかね。特殊型は言うまでもなく小善だ。はっきり言ってあのじいさん、戦闘能力自体はSランクとそう大差はない。だが奴がすごいのは分かるだろう。街の半分近くを結界で守ったり、最強の魔物である神獣を一日近く無効化できるような人間は小善の他には存在しない。
というわけで、街なんかを防衛する面においては小善が世界一だってことになる。まあこっちの方はピンときにくいだろうね。次は分かりやすく近接型の三人で説明しようか。
EXランクで近接戦闘が得意なのは、異人会の佐藤 太郎、格闘家のハッカ・ガイナー、そして未開領域管理局の局長、リレ・ニーレリカだ。一応この中では、リレ局長が最強だと言われている。
だがこの三人でも、すべての面でリレ局長が勝っているわけじゃあない。防御力はリレ局長が世界一だが、攻撃力なら太郎、敏捷性ならハッカが一番だ。まあリレ局長は攻撃力や敏捷性も世界で二番目だから総合力でも強いんだがね。まあそんな感じで、近接戦闘系でも一長一短はあるわけだ。
さらにEXランクには遠距離攻撃系もいる。あたしも遠距離型の一人だね。分かっちゃいるとは思うが、あたしゃスナイパーだ。有効射程の長さで、EXランクで最も長いリーチを持っているとは言えるかね。
もう一人は暗殺者の時雨 時昌。と言っても、こいつの情報はあまりないんだよね。一応、暗器を使うとは言われている。自分で暗殺者とか名乗るだけあって、暗殺能力は世界一だって話だ。まあこいつのことは今は置いてていい。情報がないから評価もしづらいしね。
で、最後の一人が天笠 センだ。神器機関の長官。世界最強の魔道士だと言われているね。年はもう八十近い、魔族ですらない正真正銘の婆さんなんだが、攻撃範囲で彼女の右に出るものはいない。玄武との戦いで神器機関が使った爆弾、確かM.O.A.Bとか言ったね。セン長官はあれが可愛く思える威力の魔法を放つ。この婆さんはそういうレベルの化物だ。二十年前の対神獣戦で、神獣にとどめを刺したのが彼女だと言うことは言っとこうかね。
まあ長々と説明したけれど、現在この世界での最強はリレ・ニーレリカか天笠 セン、二人の内のどちらかだと言われている。だがどっちが勝つかは状況次第だろうね。一対一ならリレ局長に軍配が上がるだろうが、大規模戦闘ならセン長官がいる側が勝つとあたしはにらんでいる。
で、ここからが本題だが、……薙阿津。あんたがなりたい最強ってのはどういうものなんだい? 例えばお前さんがスナイパーとしてやってくなら、あんたはそう遠くない内にあたしを超えると思ってる。そうなりゃスナイパーとしてあんたは世界一だ。
暗殺者の時雨 時昌がどんな戦い方をするかは知らないが、暗殺者としてもお前さんは世界最強になれるかも知れない。感知範囲外から最強の一撃を放てば、リレ・ニーレリカや天笠 センだって暗殺するのは可能になるだろうよ」
暗殺……か。
EXランクの話は興味深かったからずっと聞いていたが、最後のはなんか違うって感じの話だな。
俺が微妙に思ってるのを感じたのか、カーヴェルさんはさらに続けてきた。
「そうさね……。まずは、あんたが思う最強が誰か聞いておこうかね。さっき言ったように、近接系最強のリレ局長か、遠距離系最強のセン長官。このどっちかがこの世界じゃ最強だと言われている。あんたがなるならどっちになりたい?」
「そりゃまあ、リレ局長の方だな。っていうか一対一ならリレ局長の方が強いんだろ。じゃあやっぱり最強はリレ局長の方じゃねえか。戦争での戦力で言やセン長官の方がすごいのかも知れないが、それで最強ってのは何か違う気がするしな」
だんだんと、目指す最強の形が見えて来た気がする。
結局……この世界で最強なのはリレ局長のようだ。
つまり、リレ局長を倒すのが最終的な俺の目標になるか。
「まあ……お前さんならそう答えるとは思っていたよ。じゃ、また本題に戻ろうかい。さっきも言ったように、あんたがスナイパーでいきたいなら、近いうちにリレ局長ですら暗殺できるようにはなるはずだ。でも、それで最強ってのはやっぱり違うと思うんだよね?」
「当たり前だろ。俺は暗殺者になりたいわけでもねえしな」
「そうだね。じゃ、最後の質問だ。……薙阿津、あんたはリレ局長をどういう風に倒せりゃ満足だい?」
「そりゃもちろん、真正面から戦いを挑んで一対一で倒すことだ。当然だろ?」
俺が世界最強になるための具体的な目標は、これで固まったと言えるだろう。
結局、最後に倒すべき相手はリレ局長だ。
一対一でリレ局長と決闘して、正々堂々と正面から打ち倒す。
カーヴェルさんに聞かれて、俺の目標がよりはっきりと見えてきた感じだな。
だが俺の言葉を聞いて、カーヴェルさんは少しあきれているようにも見えた。
「ふう……あんたの目指す目標はだいたい分かったよ。それじゃあ薙阿津。とりあえず……銃で戦うのはもうやめにしようか」
「なんでだよ!」
俺は全力でつっこみを入れた。
俺のユニークスキルは銃撃強化だ。
銃を使わない選択肢は初めからない。
俺自身も、銃で世界一になりたいと思っている。
だからカーヴェルさんの言葉は心外だったのだが。
「そうかい。つまりは……近接最強のリレ局長にだ。一対一で決闘挑んで、その上で銃を使って勝ちたいと」
カーヴェルさんはあきれ果てた顔をしていた。
「銃火器ってのは、射程が長いのが一番の強みなんだけどねぇ。接近戦でナイフ持ってるリレ局長にどうやって銃で勝つのか。あたしにゃイメージがまったくわかないんだけど。本人がそうしたいってんなら仕方がないねぇ。
でもあんたの目標がそれだってんなら、修行は相当厳しくなるよ。とにもかくにも、まずは接近戦を経験することだね。お前さん……まだまともに接近戦したことすらないだろう? まずはパンネと戦ってみるかい。自分の近接戦闘能力がどの程度か、まずは体で知る必要があるだろう」
こうして、俺はパンネと模擬戦闘をすることになるのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
俺、パンネ、カーヴェルさんの三人で家を出る。
アイシスさんは既にシンを迎えに行っていた。
カーヴェルさんの家は街の端の方にある。
街を囲む壁のすぐ近くだ。
そしてカーヴェルさんは壁の外の土地も所有していた。
修行はそこで行うこととなる。
街の外は荒野になっていた。
草木が全くないわけではないが、地面が露出している場所がけっこうある。
遠くに森などありはするが、ニムルスに比べるとこのフィントニアは草木が少ない印象の国だった。
「薙阿津、準備はいい?」
パンネは緊張してナイフを構えていた。
俺もナイフを構える。
当然だが、俺が銃を使えば勝負は一瞬だ。
言っちゃあなんだが、パンネ相手なら障壁ごと一瞬で蜂の巣に出来る。
ただし、その戦法はリレ局長には効かない。
リレ局長は基本的に全ての能力が高いそうだが、中でも防御力は群を抜いているという話だ。
カーヴェルさんのソウルイーターでも、リレ局長の魔法障壁を抜くことは出来なかったらしい。
その前になぜカーヴェルさんがリレ局長を銃で撃ったのかははぐらかされて聞けなかったが。
どっちも百年以上生きているからな。
長い人生の間には色々なことがあったのかもしれない。
ともかく今の問題はそこじゃない。
問題は、ソウルイーターでもリレ局長の障壁が抜けなかったという事実だ。
カーヴェルさんの見立てでは、リレ局長の魔法障壁は神獣である玄武と同程度の強度を誇るとのことだ。
そのため、俺が修行して一人でソウルイーターを撃てるくらいになれば、それでリレ局長を暗殺するのは可能なはずだということだが。
ソウルイーターは、とても接近戦で使える武器じゃない。
俺の目標は、一対一の接近戦でリレ局長に勝つことだ。
リレ局長は小さく動きも速い。
そのリレ局長に攻撃を当てるには、マシンガンを連射するか、近距離から拳銃で攻撃するしかないだろう。
だが実際の戦闘を考えるならマシンガンも却下だ。
遠距離から一方的に倒し切れるのなら話は別だが、リレ局長相手にそれが出来るとは思えない。
そして一度接近されてしまえばマシンガンはものすごく邪魔だ。
二丁持ちできる小型のサブマシンガンなら少しはいけるかも知れないが。
結局接近戦を考えるなら、やはり拳銃が一番だろう。
防御も考えると、拳銃以外に攻撃を受ける道具も必要かも知れない。
盾なんかを装備するのは俺的にありえなかったので、銃を片方あきらめるとするなら装備すべきなのはナイフだろう。
ナイフで攻撃をいなしつつ拳銃で反撃するスタイルだ。
リレ局長は大きなナイフを二本使う。
それを小さなナイフ一本でさばききれるかはかなり不安だが。
この辺りは、まだ考えないといけない点が多そうだ。
だがその前に、まずは接近戦を経験する必要がある。
俺はこの世界に来てから一度も接近戦を経験していない。
だからまずは、接近戦に慣れることから始めるのだ。
今回の神獣戦を経て、パンネもAランクにまで上がっている。
これは対神獣戦での功績を評価されてのものだが、パンネの地力自体も上がっているのだ。
玄武の魔力はパンネも吸収しているからな。
だが対する俺は現在Sランクだ。
銃撃強化能力だけでなく、単純な身体能力でも俺はパンネより上になっている。
だが油断はしない。
俺は意識を集中させてパンネと向き合った。
「パンネには悪いが、ここは本気を出させてもらうぜ。これはパンネの修行も兼ねてるんだからな」
「う、うん。もちろん私も全力で行くわよ! 薙阿津が銃持ってたら勝てるわけないとは思うけど、ナイフなら私も結構得意なんだから。油断とかしたら私の方が薙阿津倒しちゃうんだからね」
こうして、俺達の本格的な修行は始まるのだった。