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(旧版)地球化異世界の銃使い  作者: 濃縮原液
第2章 神獣襲来
29/50

17 戦いを終えて

「やってやったぜ……」


 玄武を倒した。

 俺は少しの間茫然とした後、膝撃ちの姿勢から立ち上がる。


「薙阿津っ!」


 立ち上がった所でパンネが抱きついてきた。


「すごいよ薙阿津! 本当に……玄武を、神獣を倒しちゃうなんて」


 パンネは半泣きになりながら喜んでいた。

 いつにもましてテンションが高い。


 だがいつもより興奮気味なのはパンネだけじゃなかった。

 俺だって何度も死ぬかと思った玄武に勝てて気分は高揚している。


 横目に見ると、他のみんなも似た感じのようだった。

 エレーニアなんかは、パンネが俺にしているようにして緋月に抱きついていた。




「とうとう神獣まで倒してしまいましたわね。初めから何か違うとは思っていましたが……薙阿津さん、あなたは本当にすごい人ですわ」


 存分に緋月に抱きついた後で、エレーニアが俺に話しかけてきた。

 俺にも抱きついていいんだぜ? とか一瞬思ったがエレーニアは俺には抱きついてこないようだ。


 というか、実はまだパンネが引っ付いたままだったのである意味当然だった。

 ここでパンネも自分が何をしてるか気付いたようで、あわてた様子で俺から離れてしまった。


「思い切りくっついちゃった……」


 パンネは小声で言ったつもりのようだったが、俺にはバッチリと聞こえていた。

 もっとくっついてくれてても良かったんだぜと、心の中だけで思うことにする。



 そうこうする内に、街にいる他の人達も玄武が倒れたのに気づき始めたようだ。

 次々と喧騒が広がっていき、ついには町中が喝采ムードとなる。


 ついでに言うと、止めを刺したのが俺達だというのも街中にモロバレだった。

 街で一番高い建物から派手に銃撃していたからな。


 さらにこの場所には、小善氏を始めEXランクが三人も居た。

 そのため銃を撃つ前から注目は集めてしまっていたようだ。


 だがもちろん……これは悪くない感じだった。


 俺は異世界で目立ちたくないと思う種類の人間じゃない。

 それにこの世界では異世界人であることを隠す必要すらなかった。

 だから俺には、逃げたり隠れたりする必要はまったくないのだ。


「隠れる気がないんなら屋上の端っこにでも行って、みんなに手でも振ってやんな」


 カーヴェルさんが薦めてくる。

 もちろん断る理由はなかった。

 俺は屋上の端から街を見下ろし、下にいる人達へと手を振る。


「うおー! 英雄のお出ましだぁー!」


「あんたは私達みんなの命の恩人だよぉー!」


「お前一体何者なんだよ! 名前教えろよぉー!」


 思った以上の勢いで、街の人達が一斉に歓声を上げてきた。

 俺も街の人達の声に答える。


「俺の名は捧 薙阿津! フリーの傭兵だぁっ! 玄武の野郎はしっかりと脳天ぶち抜いてやったぜ! 俺達の勝利だぁ!」


「うおぉぉぉーー!!!」


「な・ぎ・あつ! な・ぎ・あつ! な・ぎ・あつ! な・ぎ・あつ!」


 歓声がさらにヒートアップする。

 俺のテンションも上がりっぱなしだった。


 だが玄武を倒したのは俺一人の力じゃない。

 最低でも一緒に銃を撃った緋月とカーヴェルさんは、一緒にこの場へと立つべきだろう。


 そう思い俺は後ろを振り返った。

 すると俺が一人で目立っている間に、緋月とカーヴェルさんはちゃっかりと街の人達から見えない位置に隠れていた。


 残り二人にやる気がなかったため、この後俺は三十分余りに渡って屋上の四隅を回り、街の人達全員に手を振って回ることになってしまった。


 まあ俺もノリノリだったからいいんだけどな。


 なんというか……この異世界に来てやっとで一つ大きなことをやり遂げた気がする。



 街の人達が生き残れたのを心から喜んでいる様子を見るのも悪くなかった。

 途中で『神獣殺し』なんていう強そうな二つ名までつけてもらえたしな。


 俺は改めて、戦いが終わったという実感を感じていた。


 そこに聡理さんが話しかけてくる。


「勝利の余韻に浸っているところになんですが、私達も玄武の解体を手伝いに行きませんか?」


 とのこと。


 玄武の体は巨大だからな。

 この世界では倒れた魔物の体が消滅したりするなんていうほど、ゲーム的なことは起こらない。


 ただし、経験値に近い物なら得ることが出来た。


 それを得るためには玄武の魔法障壁が消失して、溢れだした魔力が滞留している内にその魔力を吸収する必要がある。


「玄武に止めを刺したのは薙阿津さん達です。ですから、玄武の魔力を一番近くで吸収する権利がありますよ」


 とのこと。


 もちろんお言葉に甘えさせてもらう。

 俺と緋月、パンネやエレーニアも聡理さんにテレポートで運んでもらう予定だ。

 カーヴェルさんも一緒である。


 だが小善氏とリレ局長は辞退していた。


「妾は今回運動した感じすらないからね。玄武の魔力はいらないよ。それよりも、薙阿津ちゃんが玄武の力を吸ってもっと強くなったら、いつか妾と戦ってくれると嬉しいかなっ?」


 リレ局長がさらっと恐ろしいことを言ってくる。

 だが、いざこうやって直接聞かれれば、俺の答えは一つだった。


「もちろん。むしろ望むところだぜ。あんたが強いのは玄武と戦うのを見ただけでも十分分かったからな。俺はこの世界で最強になることを目指している。だからあんたには……いつか俺の方から手合わせを願いたいと思っている」


 この厳しい戦いの全てを終えてなお、リレ局長は怪我をするどころか、息ひとつ乱すことさえなかった。


 正直、リレ局長の力の底は全く見えない。


 だがだからこそ、俺はリレ局長とはいつか戦うことになるだろうと感じていた。

 俺がこの世界で最強になることを目指す限り、リレ局長は決して避けては通れない相手だ。


「じゃ、妾は先に帰っちゃうね。アイシスちゃんの様子もちょっとは気になるし。多分そろそろ回復する頃だと思うからね。他の人達も移せるようだったら、順次ニムルス国の方に帰していくよ。じゃ、またね薙阿津ちゃん。妾と戦う約束、忘れちゃ駄目だからねっ」


 そう言ってリレ局長は去って行った。


「相変わらず、リレさんは中身まで若いのぉ」


 小善氏の方は老人ぽい感じでぼやいていた。

 かなり疲れてもいるようだ。


 この戦い、小善氏は大活躍だったからな。


 国連軍が来るまで玄武を封じられたのは小善氏の純黒結界のおかげだし、玄武の最終攻撃、あの百個以上の甲羅から多くの街の人達を救ったのも小善氏だ。


 小善氏も、この戦いにおいて十分賞賛されるべき人だった。


「まあこれが終わってからも、勲章の授与だかパーティーだかでまた会うことになるだろうよ。それまでわしは休んでおるわい。玄武の周りなんざ人だらけになるのが目に見えとるからの。そっちはあんたら若い者達に任せたわい」


 とのことだった。


 やっぱり、これだけのことをすると勲章とかももらえたりするようだ。

 その時には、小善氏の活躍などもきちんと評価されるだろう。


 疲れている小善氏を無理やり人ごみに連れてくわけにもいかないしな。


 そういうわけで、俺達は小善氏を置いて聡理さんにテレポートで運んでもらう。




 玄武を解体する現場でも、俺達は英雄としてもてはやされた。

 もちろん緋月とカーヴェルさんも今度は逃げられない。


 玄武をやったのは二人も一緒だからな。

 俺一人もてはやされていたのにはやっぱり複雑な気持ちもあった。

 だからこうして、他の仲間ももてはやされる機会が出来て良かったと思う。


 そうして俺達は、一時間ほどの間玄武の解体を手伝うこととなる。



 この戦い全体を通して俺達も魔力を消耗していたが、玄武の強大な魔力を吸うことによりそれも心持ち回復していた。


 だがこの魔力吸収の神髄は、最大魔力量の増大効果だ。


 今回……俺は自分の魔力量の限界を思い知らされもした。

 玄武との戦いを通じて、神獣に対しては対物ライフルでも力が足りないことも分かったしな。


 使う銃も、これからは魔法銃にシフトする必要があるだろう。

 その魔法銃を扱うためにも、やはり俺自身ももっと強くなる必要があった。


 玄武からあふれる魔力を吸収しつつ、俺はそんなことを考えていた。

 だがここで、この戦いで目立ちすぎたことの弊害に俺は気付いてしまう。


 弟子入りがやばい。



 俺はサケマグロの森でマグロードと戦った時から、誰かに弟子入りしたいと思っていた。


 EXランクがベストだがSランクでも十分いい。

 だがその際俺がSランク以上だと気分的に色々問題があると思っていた。


 そして今回の結果である。


 少なくとも、俺のSランク昇格は確実だろう。

 仮にそれがなかったとしても、俺は『神獣殺し』なんて二つ名までもらってしまった。


 Sランクの誰かに弟子入りするのはもう不可能だろう。

 神獣を倒した人間がなぜSランクの弟子になってるのかなんて言われたら目も当てられない。


 俺自身はともかく、師匠になる人に申し訳なさすぎて不可能だ。

 もはや……弟子入りする相手はEXランク以外にないだろう。



 そう考えつつ、俺はこの場について来ている唯一のEXランク、カーヴェルさんの姿を見つめる。


 カーヴェルさんは、いい人だと俺は思う。

 傭兵だが、戦場の怖さを知り、平和を願う人のように思える。

 俺自身には戦闘狂な面も少しはあるかも知れないので、一概に平和主義者の師匠がいいとは言えないだろうが。


 だがそれをおいても、師匠にはやはりカーヴェルさんがベストに思えた。

 なんと言っても戦闘スタイルが似ているからな。


 EXランクの中で、俺と同じ銃火器を扱う人間はカーヴェルさんだけなのだ。

 それ一つをとっても、やはりカーヴェルさんに弟子入りさせてもらうのが一番いいと俺は思う。


 そんな俺の視線に気づいたのか、カーヴェルさんが話しかけてきた。


「さっきからなんだい。じっとあたしのこと見つめてさ。もしかしてあたしに惚れたか?」


 枯れろよババア。

 実年齢が百五十近くいってる人間が「惚れたか?」なんて言うもんだから、反射的に枯れろよとか心の中で思ってしまった。


 だが口には出してないので問題ない。

 そして……恋愛的な意味さえなければ、惚れたというのはある意味正しい。


「そうだなカーヴェルさん。……弟子入りの話、気が向いたらいつでも言いなってあんた言ってたよな。だから、今言わせてもらうぜ。……カーヴェルさん、俺をあんたの弟子にしてくれ。俺は今よりももっと強くなりたい」


「カッカッ。まったく……あんたはついさっき、この世界で最強とさえ言われてる神獣の一体を倒したんだよ。なのにもっと強くなりたいのかい。もちろん、あたしゃ大歓迎さ。捧 薙阿津。あんたをあたしの弟子にしてやるよ。修行はもちろんビシバシ行くからね。今から覚悟しとくんだよ」


「ああ、望むところだぜ!」



 こうして俺の、カーヴェルさんへの弟子入りは決まったのだった。


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