01 さらば現世よ! あとついでに緋月さんもアデュー!
俺の名前は捧薙阿津。
少しだけ中二病かも知れない十六歳だ。
まあ自分では少しと思っていても実際は重度の中二病という場合もあるだろう。
だが俺は断言できる。
仮に俺が中二病だとしても重症ではないと。
なぜ俺が断言できるかと言うと、それは身近に重症患者がいたからだ。
神園緋月十六歳、女。
彼女は俺の同級生なのだが手遅れな中二病である。
学校に『異世界研究会』とか言う同好会を作ろうとした末期の中二病患者だ。
ちなみにその同好会は部員が集まらなかったため結成されることはなかった。
だが一カ月近くの間だが、仮同好会として部屋が割り当てられている時期があったのだ。
そこに入ってしまったのがまずかった。
あの頃はまだ高校に入りたてで俺も若かったからな。
若気の至りというやつだ。
そして一カ月あまり緋月と部員集めなどをやったわけだが、見事に一人も集まらなかった。
現実的に考えても、脈ありな奴くらいはいても良かったと思うんだけどな。
それすらいなかったうちの学校は正直どうなのかとも思う。
まあ過ぎたことを言っても始まらない。
ともかく一カ月頑張っても三人目が現れることはなく、同好会は正式に設立されることなく終わったのだった。
もちろんこれは良かった。
正直何をする同好会なのかも謎だったからな。
緋月部長(仮)は本気で異世界に行く方法を探そうとしていたようだが。
やはり同好会が設立されなくて良かったのかも知れない。
……だが、それからひと月近くたった昨日のことだ。
その中二病さんから電話がかかってきた。
「やぁ薙阿津。寂しい高校生活を満喫しているかい? いや、君の高校生活が寂しいかどうかに興味はないのだがな。それより最近、近くで行方不明者が出てるという噂は知っているか?」
神園 緋月とは同好会が駄目になった後しばらく疎遠になっていた。
クラスも別だったしな。
そして、久しぶりに電話がきたと思ったらこれだった。
「行方不明ね。うん、俺も聞いたことあるな。危ないよね。本当に事件かも知れないしお互い夜道には気をつけないとな」
「それなんだが、これはひょっとすると――異世界に飛ばされた可能性があるな」
「ねぇよっ!」
俺は即答した。
こいつは異世界に行くことをまだあきらめてなかったらしい。
「そうか……。薙阿津にも興味があるのなら一緒に来て欲しいと思ったのだがな。興味がないようなら仕方がない。探索は……私一人で行うとするよ」
回避は成功したようだ。
もう少しで中二病に再び付き合わされるところだった。
まあ……そういう風には、思うんだけどな。
「あー……緋月さん? 一応、最初に俺言ったよな。本当に事件かも知れないし危ないよねって」
こいつにはしっかりと釘を刺しておかないといけない。
ほっとけば一人で夜道もうろつきそうだ。
本当に事件だったらどうするのかと。
それでもし刺されでもすればこいつは本当に異世界に転生できそうな気はする。
だが仮に出来たとしても、それを俺が知るすべはない。
俺から見れば、女子高生が通り魔に刺されたという事実が残るだけだ。
それはとんでもなく寝覚めが悪い。
だから、この中二病患者を一人で突っ走らせるわけにはいかない。
「確かに事件と言う可能性もないとは言えない。そういう意味でも、護衛として薙阿津が来てくれると嬉しかったのだが……」
どうするべきか。
ぶっちゃけこの緋月さん、顔は綺麗だったりする。
それに俺も、同好会をやっている時は正直楽しかった。
まあそれが駄目になった時点で別れはしたのだが。
高校生活全部を犠牲にしてまで緋月の中二病に付き合う気にはなれなかった。
だが期間限定なら付き合ってもいいかも知れない。
緋月さん顔は綺麗だしな。
黒髪ロングな美少女を一人でうろつかせるのはやはり危険だろう。
「そうだな。一週間くらいなら付き合ってやらんこともない。ない……が、一週間がんばってみて異世界に行けなかったらお前もあきらめろ。その後一人で探索したりしないと誓えるなら俺はお前に付き合ってやる」
一週間程度なら問題ないだろう。
仮同好会の時みたく校内で活動するわけでもないからな。
俺が受ける社会的ダメージも少ないはずだ。
「ふふっ。貴様ならそう言ってくれると思っていたぞ薙阿津。じゃあさっそく、明日の放課後から探索開始だ」
そうして、今日がその放課後だったのだが――
まさかのビンゴである。
そう、俺は今正に異世界へと飛ばされようとしていた。
「おい薙阿津! ずるいぞ貴様だけ! 私も連れてけ――」
そしてなぜか俺だけが異世界へと飛ばされたのだった。
世の中とは因果なものである。
どうせ異世界に飛ばすのなら緋月を飛ばしてやればいいものを。
まあかく言う俺も、異世界に興味がなかったわけじゃないのだが。
――さらばだ緋月さん。
異世界ライフは、あんたの分まで俺がしっかりと堪能してやるぜ!