STAGE 5
「この機械はですね、ただ皆さんにお売りするわけじゃないんです! 皆さんもこのスピリチュアル・ネット・マシンを使って、お小遣い稼ぎが出来るんです!」
おばさんはさらに怪しい話を始めた。
即ち、この「スピリチュアル・ネット・マシン」を複数台、おばさんから購入して、それを知り合いなどに薦めて売る。売り上げの一部はおばさんの懐に入る。しかし、その購入した知り合いは、また同じように誰かにこの機械を売り、その売り上げの一部が自分に入ってくる。その購入者はまた誰かに……。
要は「ネットワークビジネス」または「マルチ商法」などと呼ばれるものの勧誘だった。
宗教とネットワークビジネスというのは相性がいいらしく、こんなふうにお互いに提携して、相手の顧客(信者)を勧誘し、取り込んでいくのはよくあることだ。
つまり、宗教や霊感商法を簡単に信じるような人は、マルチ商法も簡単に信じることが多いので、お互いにカモ……いや顧客(信者)を紹介し合うわけだ。
「あのう、すみません、質問いいですか?」
1人の信者さんが手を上げた。
20歳ぐらいのまだ若い青年である。
「何ですか?」
おばさんはギクッとしたように答える。
「あのですね、インターネットがあと3年でなくなると仰いましたが、そんなこと本当にあるんですか?」
「んまああああ――――――っ!! あなた何を言ってるの!? インターネットに関する事件がこれだけ報道されているのに、そんなことも知らないなんて!!」
おばさんは絶叫した。
「いや、それは知ってますけど、いくらなんでも……」
「はいはい! あなたはもう少し、世間のことを勉強しましょうね! 今のあなたじゃ、とてもお話にならないわ! もっといろいろ勉強して、物事がわかるようになったら、私のところへいらっしゃい! はい、他に質問のある人!」
「いや、ちょっと……」
と、まだ何か言いたそうな青年を遮るように、次々と手が挙がった。
「すいません! 『スピリチュアル・ネット・マシン』を売った場合の、双方の取り分は何パーセントですか!?」
「仕入れと販売のノルマは!?」
「ぶっちゃけ、どのくらい稼げるもんなの!?」
興奮した信者さん達が、口々に叫び出した。
「はいはい、順番順番! そうね、質問のある人は、別室で1人ずつ伺うことにします! そこに並んでください!」
おばさんは満面の笑顔で指示を出し、部屋の隅に控えていた法服姿の出家信者達が、行列の整理を始めた。
「まあ、副教祖様、いつもすみませんね、説明会の会場を貸していただいて。こちらの信者さん達は、皆さん、先見の明のある方ばかりで素晴らしいですわ!」
壇上から降りたおばさんは、俺に挨拶に来た。
「いえいえ、そんな。灰原社長、お疲れ様です」
俺とおばさんは、互いに深々とお辞儀した。
ちなみに「社長」などと呼んでいるが、このおばさんが「スピリチュアル・ネット・マシン」の真の胴元などというわけでは全然ない。
この灰原さんも「スピリチュアル・ネット」のネットワークビジネスをやっている1人に過ぎず、ただし、その中では、まあまあ儲けている方の人物らしい。
「社長」と呼ぶのは、彼女の名刺にそう書いてあるからで、さらに「有限会社ラブリーエンジェル」という屋号まであり、実際に会社として登記もしているそうなのだが……まあ、会社作るだけなら誰でもできるしな。
「じゃ、僕は行きますんで」
俺は笑顔で、忙しそうな灰原社長にもう一度お辞儀をし、その場を後にした。




