STAGE 39
週が明けて月曜日。
俺が学校から戻って、いつものように教団本部に顔を出してみると、不登校女子中学生、金沢とも子ちゃんが落ち込んでいた。
昨日、とも子ちゃんは、コーラス隊の井川さんから、
「お母さんのことを好きになれなくても、感謝の気持ちは持っていて欲しい」
と諭され、何かそれなりに得心したような顔をしていた。
その後、さらに井川さんから、
「感謝の印に、何かお母さんの為になることをしてあげよう」
と提案され、何をするか、とも子ちゃんが考えた末、出した答えが「トイレ掃除」だった。
「トイレ掃除」なら、普通はみんな嫌がることだから、代わりにやってあげれば、お母さんの役に立つ、というわけだった。
そして家に帰ったとも子ちゃんは、さっそく井川さんとの約束を守るべく、
「トイレ掃除がしたい」
とお母さんに言った。
それに対するお母さんの反応は、こんな風だったらしい。
「あなたは何をバカなことを言ってるの!? あなたが今やらなくちゃいけないのは、そんなことじゃないでしょ!! ただでさえ勉強が遅れてるくせに、余計なことしてる暇なんかあると思ってるの!? いい加減にしなさい! どうしてあんたはいつもそうなの!! あんたと同じ歳の子は、みんな来年の受験に向けて頑張ってるのよ! あんたは何なの!? 自覚がないの!? 頭が悪いの!? お母さんを怒らせようとしてるの!? 本当にあんただけは……!!」
こうして、お母さんから相当こっ酷く、長時間に渡って延々と叱られたとも子ちゃんは、その夜、
「悔しくて、悲しくて眠れなかった」
そうである。
うーむ、さすがはあのお母さんだ。
この案件のラスボスは、とも子ちゃん本人ではなく、あのお母さんであることはほぼはっきりしているが、なかなか手ごわそうだ。
まあ、これも井川さん的に言えば、
「言っていることは間違っていても、とも子ちゃんを思う気持ちから出たこと」
になるのだろうが……。
そういうわけで、午後も遅く、とも子ちゃんは目を真っ赤に腫らしてこの教団本部にやって来た。
しかも間の悪いことに、今日はコーラス隊が談話ロビーにいない。
コーラス隊の面々だって、別に暇人というわけではない。
みんなそれぞれ仕事を持っていたり、専業主婦だったりするわけで、毎日この談話ロビーで集まって、日がな一日おばさんトークに明け暮れているわけにも行かないのだ。
とも子ちゃんは今朝家を出るとき、お母さんから、
「ちゃんとその井川さんという人に、『私はトイレ掃除なんかしたくありません。私にとって大事なのは勉強ですから、勉強がしたいです』と自分で言いなさい! お母さんに叱られたからじゃないのよ? あなた自身がしたいです、って言うのよ!」
ときつく言われて来たそうだ。
「井川さんにそう言わないと、また叱られる……」
と落ち込んでいるとも子ちゃん。
「うーん、それは言わないでいいんじゃないかな……?」
俺はとりあえずとも子ちゃんを落ち着かせて、お母さんに電話をかけることにした。




