STAGE 38
「あなたのお母さんはいろいろ間違ってると思う。あなたが嫌いになるのも当然よ。それが普通なの。あなたは何もおかしくないわ」
とも子ちゃんは、井川さんの話を、じいっと黙って聞いていた。
「人間は誰も完璧じゃないの、私もあまりいい母親じゃなかったから、それはよくわかるわ、でもね……」
井川さんは、娘さんと旦那さん、それに義理のご両親を、全て自殺で亡くしている。
自分を除いて、家族全員が一家心中してしまい、1人だけ置いてけぼりにされたという、何と言っていいかわからないような経歴の持ち主だ。
「……でもね、あなたのご両親は、今日まであなたを産み、育ててくれた。お母さんはお腹を痛めてあなたを産んで、毎日ご飯を作ってくれて、来る日も来る日も、あなたのために……。お父さんは、一所懸命頑張って、働いて、あなたを養ってくれた。働くって本当に大変なことなのよ、あなたも大人になればわかるけど……。ねえ、どうして2人とも、そこまでしてくれたかわかる?」
井川さんは、優しい笑みを浮かべて、尋ねた。
「わからない……」
首を横に振るとも子ちゃん。
「それはね、あなたを愛していたから……。あなたのご両親は、間違ったことをしたかもしれない。あなたの希望とは違ったかもしれない。でもね、たとえ間違ってはいても、結果がよくなくても、それは全部あなたのことを思って、本当にあなたのために、良かれと思ってしたことなの。心からあなたを思う気持ちだけは本当なの。それだけは、わかってあげて」
井川さんは真剣だった。
「……それでね、いつもあなたのために働いてくれているご両親に、たとえ嫌いでも、好きになれなくても、感謝の気持ちだけは持っていてあげて。これは私からのお願い」
とも子ちゃんは、井川さんの過去なんて知らない。
しかし、何か伝わるものがあったのだろうか。
「はい、わかりました……」
コクッと頷いた。
この愛宇宙教は、俗物の親父が金儲けのために作った、ろくでもない宗教団体だ。
しかし、ほんの少しくらいは、いいところもあると思うし、ごくまれに誰かの役に立つことだってある。
もちろん、それでいいとは思わない。
だが、今はこれが俺の精一杯というやつだ。
「今は自分を磨きなさい」
「あなたは大丈夫だから」
先日の別れ際、黒田さんの言ってくれた言葉が、なぜか強く心に響いている。
とにかく、今は力を溜めよう。
そして、いつか……。
「あらすじ」にも書きましたが、当作は「第20回講談社BOX-AiR新人賞」落選作品です。
「BOX-AiR新人賞」は連載作品の第1話、第2話と最終話までのシノプシスのみで応募する賞なので、新人賞応募原稿としてはここまでしかありません。
ここから先は「書き溜め」がないため、更新速度が大幅に落ちます。
大変申し訳ありませんが、ご容赦ください。




