STAGE 33
警察がすべて引き上げた後、病院の六本木さんから、増子さんは大事無い旨の連絡が入った。
このまま六本木さんが、増子さんの自宅まで付き添って行くという。
「わかりました、よろしくお願いします」
俺は電話を切り、もう一度、談話ロビーに向かった。
壊れた祭壇はすっかり片付けられて、自殺騒動の痕跡はきれいさっぱりなくなっていた。
祭壇がなくなったので、親父の午後からの法話会は中止になった。
「じゃあ、私は、今日はこれで帰るわね」
コーラス隊のリーダー黒田さんが、小さなポシェットを肩に掛け、杖をつきながら、よろよろと立ち上がった。
「あれ、もうお帰りですか?」
俺は尋ねた。
いつもなら他のメンバーと一緒に、もっと遅くまでいるのに、珍しい。
「今日はね、孫が家に遊びに来てるのよ」
黒田さんは嬉しそうに、ニコッと笑った。
ああ、それで……。
「では、下までお送りしますよ」
俺は黒田さんに付き添って、ビルの1階まで行くことにした。
「じゃあね、黒田さん」
「またね!」
コーラス隊の面々と手を振り交わして、談話ロビーを出る黒田さん。
廊下に出て、しばらく並んで歩き、エレベーターで1階に降りる。
この黒田さんという人は、俺から見て、とても不思議な人物だ。
末期癌という重篤な状態であるにもかかわらず、声は大きいし、よくしゃべる。
あのコーラス隊のおばさん達をまとめているし、他の信者の相談事に乗ってくれたりもしている。
在家信者の中には、親父よりも「黒田さんが教祖だったらいいのに」という声もあるくらいだ。
黒田さん目当てで、愛宇宙教に留まっている信者さん達も多く、もしいなくなられたら、結構ダメージが大きいと思う。
黒田さんが癌を発症する前、親父が何度か「出家信者にならないか」と誘いをかけたのだが、そのたびに黒田さんはかたくなに固辞している。
この黒田さんが、余命6ヶ月の宣告を受けているとは、とても信じられない。




