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神の御許にて  作者: 日渡正太
第2話 神様と迷える子羊達
33/41

STAGE 33

 警察がすべて引き上げた後、病院の六本木さんから、増子さんは大事無い旨の連絡が入った。

 このまま六本木さんが、増子さんの自宅まで付き添って行くという。


「わかりました、よろしくお願いします」

 俺は電話を切り、もう一度、談話ロビーに向かった。


 壊れた祭壇はすっかり片付けられて、自殺騒動の痕跡はきれいさっぱりなくなっていた。

 祭壇がなくなったので、親父の午後からの法話会は中止になった。


「じゃあ、私は、今日はこれで帰るわね」

 コーラス隊のリーダー黒田さんが、小さなポシェットを肩に掛け、杖をつきながら、よろよろと立ち上がった。


「あれ、もうお帰りですか?」

 俺は尋ねた。

 いつもなら他のメンバーと一緒に、もっと遅くまでいるのに、珍しい。


「今日はね、孫が家に遊びに来てるのよ」

 黒田さんは嬉しそうに、ニコッと笑った。

 ああ、それで……。


「では、下までお送りしますよ」

 俺は黒田さんに付き添って、ビルの1階まで行くことにした。


「じゃあね、黒田さん」

「またね!」


 コーラス隊の面々と手を振り交わして、談話ロビーを出る黒田さん。

 廊下に出て、しばらく並んで歩き、エレベーターで1階に降りる。


 この黒田さんという人は、俺から見て、とても不思議な人物だ。


 末期癌という重篤な状態であるにもかかわらず、声は大きいし、よくしゃべる。

 あのコーラス隊のおばさん達をまとめているし、他の信者の相談事に乗ってくれたりもしている。


 在家信者の中には、親父よりも「黒田さんが教祖だったらいいのに」という声もあるくらいだ。


 黒田さん目当てで、愛宇宙教に留まっている信者さん達も多く、もしいなくなられたら、結構ダメージが大きいと思う。


 黒田さんが癌を発症する前、親父が何度か「出家信者にならないか」と誘いをかけたのだが、そのたびに黒田さんはかたくなに固辞している。


 この黒田さんが、余命6ヶ月の宣告を受けているとは、とても信じられない。

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