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神の御許にて  作者: 日渡正太
第1話 神様のお仕事
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STAGE 3

「あー、旦那さん、良くならないっすかー……グッズのパワーが足らないのかも知れませんね、もっと強力なのを購入されてみては?」


 親父の執務室を出て、信者さん達の集まるロビーに向かう途中、いわゆるパワーグッズの販売コーナーで、年配の在家信者の女性が、カウンターの内側にいる法服姿の男性出家信者と話しているのに出くわした。


「でもねえ、この間、壷を買ったばかりなのよねえ……うちもあんまり余裕があるわけじゃないし……」


「中田さん、ここで使うお金は喜捨と言って、神様に捧げることになるんですよ。使えば使うほど天に徳を積むことになります。それにお金は一種のエネルギーですから、溜めておくと澱んでしまいます。お金は使ってこそ、新たに入ってくるものなんです。起業などで成功した人も同じようなことを言いますが、あれは本当なんですよ」


「教祖様も、いつもそんなことを仰っていますわよねえ……」

「ええ、こちらの掛け軸などはいかがですか? 壷もいいですが、こちらもなかなか強力なパワーを持っていますよ」


 お客さんの相手をしている出家信者の川原は、うちの親父が描いた一筆書きみたいな仏像の絵と、その横に「ありがとう」という言葉が添えられた掛け軸を、相手の在家信者さんに勧めていた。


「おいくらですの?」

「49万8千円です」


「……こういうのって、もう少し安くならないものなのかしら?」

「安くすると、パワーが落ちてしまうんですよね、代価を払うというその行為が、神様からのパワーを授かろうという気持ちを強くするんです。考えてみてください、これがもし500円とかだったら、大事に扱おうと思わないでしょう?」


「まあ、それはそうですわよねえ……」

 女性信者は結局、クレジットカードを取り出して、その親父の変な絵の描かれた掛け軸を購入した。


「私なんかには、高い買い物だけれど……これで主人が良くなれば……」

「中田さん、旦那様が事故に遭われて、もう5ヵ月でしたよね?」

「ええ……お医者様からは、もう意識が戻ることはないと言われていますけど……」


「西洋医学を過信しないでくださいね、それよりも神様の加護と、人間の意志の力を信じてください。愛宇宙教は病気治しを目的としたものではありませんが、グッズやお祈りの力で奇跡を起こした方はたくさんいらっしゃいますよ」


「そうですわね……有り難う……」


「希望を捨てないでください、諦めたらそこで終わりなんです。でもね、もし本当に愛する人が天に召される時が来ても、それは悲しいことじゃないんです。誰にでも訪れる新しい世界への旅立ちなんです。祝福して送り出してあげるべきなんです。亡くなった人とは、またいつか向こうで会えますから……あ、すみません、こんなこと言って」


「いえ……本当にいつも……すみません……」

 中田さんは涙ぐみ、目頭をハンカチで押さえながら、川原から掛け軸の入った紙袋を受け取って、何度もお辞儀をして帰っていった。


 何というか……中田さんは、たぶん、普通なら絶対にうちみたいな変な団体に関わろうとするような人じゃないんだろう。


 それが旦那さんが交通事故に遭い、5ヵ月間意識不明で、医者にも見放され、もう他に頼るものもなくなって「もしかしたら……」「万が一……」という気持ちで、本当に一縷の望みを掛けて、こんな怪しい宗教団体であるうちの門を叩いたんだと思う。


 今のこの時代に、自分から好んで宗教なんかに関わろうとする人は多くない。


 それでもここを訪ねてくるような人達は、この中田さんのように、本当に切実な、ある意味他に行き場のない、深刻な事情を抱えていて、何がしかの救いを求めているケースがほとんどだ。


「あ、副教祖、ちーっす!」

 中田さんが帰ったのを見届けると、川原が俺に挨拶してきた。


「おまえさあ……」

 俺が軽蔑の意思を込めてジト目で睨んでやると、


「だって、しょうがないじゃないすかー! 仕事なんだし! 販売ノルマあるし!」

 川原が営業スマイルのまま、元気良く応じた。


「まあ、そうだろうけどさ……てか、おまえ、俺に敬語とかやめろよ」

「いや、今勤務中だし、ここは教団本部だし……また学校じゃいつもどおりにすっから……いや、しますから!」


 この川原公康は俺と同じ17歳。何でも幼稚園の頃に親に蒸発され、その後施設で育ったそうだ。


 そして中学を卒業すると同時に「出家信者にしてくれ」と言ってうちの門を叩いてきた。


 理由は「これ以上施設の世話になって高校行くのいやだし、ここなら出家すれば住む場所用意してくれるって聞いたし、学歴とかあんま必要なさそうだし……」というものだった。


 親父は大乗り気で「これを美談にしよう」と言い出し、教団に奨学金制度を作って川原をその第1号とし、俺と同じ高校に入学させた。


 そういうわけで、俺と川原は教団では副教祖と出家信者、学校では同級生という関係にある。


 俺は川原に「商売だからって、あんまり欲張るなよ」と言い残して、信者さんたちの集まる談話ロビーのほうへ向かった。

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