STAGE 1
ある日の午後、俺は親父から、新宿にある教団本部の教祖執務室に呼ばれた。
「おい、おまえ、由里ちゃんと結婚しろ」
執務室に入って来た俺を見るなり、親父は言った。
「何言ってやがんだ、てめえ」
俺は俺の親父、即ち「愛の大宇宙エナジー教団」(略称・愛宇宙教)の教祖、沢村耕太を睨みつけた。
「丈太、親に向かって、その態度は何だ!」
「親なら親らしくしやがれ!」
今、親父は少々派手な神主みたいな教祖服を身に着け、だだっ広い教祖執務室の、豪勢なソファに深々と腰掛けている。
問題なのは、その体に、若い5人の美女が纏わりついていることだ。
2人は親父の両脇に座って左右の腕に絡み付いており、1人はテーブルの上に投げ出された親父の足を揉み、もう1人は親父の背後に回って肩を揉み、あとの1人はテーブル脇に立って、ニッコリと微笑みながら、俺と親父に紅茶の給仕をしている。
みんな上が白、下が赤の巫女さんみたいな服を着ているが、袴が異様に短く、太ももが丸出しだ。まるで秋葉原に昔あったといわれる「巫女喫茶」のウェイトレスみたいだ。
彼女らこそが、我が愛宇宙教団の誇る「挺身御奉仕隊」の皆さんである。
ちなみに彼女らの仕事は、教祖である親父の身の回りの世話をしたり、仕事を手伝ったり、教団のイベントなどに出演して花を添えたりすること……と一般的には公表されている。
袴が異様に短いのは、「贅沢をしてはならない、身に着ける布地は少ないほど良い」という教団の教えを守るためだそうだ。
ただし「御奉仕隊」の皆さんがこの衣装を着るのは、親父に「御奉仕」する時だけで、一般の信者さん達の前に出る時は、もう少しまともな、普通の巫女さんのような格好をしている。
……どうしてお袋はコレに何も言わないんだろう?
「丈太、何が不満だ、由里ちゃんでは嫌なのか?」
「嫌っつうか……何で親に言われて由里と結婚しなきゃなんねえんだよ!?」
なお、由里というのは俺の幼なじみで……いや、説明は後にしよう。
「丈太、女の子はいいぞ」
親父はソファに侍る「御奉仕隊」のお姉さんの頭を撫でながら言った。
「おまえもいつまでも童貞やっとらんで、女の1人でもモノにしてみろ」
「大きなお世話だ!」
ちなみに俺はまだ高校2年生だ! 童貞は……普通だよな?
「決めた! ならば、おまえにも『御奉仕隊』を作ってやろう」
「いらん!」
「遠慮するな! おまえと年が近いほうがいいだろうから、信者の中から若い娘を集めて『御奉仕少女隊』を……」
「やめろ!」
「そこに由里ちゃんにも入ってもらおう」
「入れるな!」
「おまえ、結構信者さんに人気あるから、他の志願者もすぐ集まるだろう、よし決めた! おまえ、もう帰っていいぞ」
「マジでやめろっつってんだろ!」
親父はいつものように、俺の抗議に全く耳を貸さず、結局俺は諦めて執務室を出た。
すまん、由里、逃げてくれー!