1 フェミニンかマニッシュか
切った髪の毛がこんもり山になっている。腰まであったからなぁ。この髪でかつら作れそう。売れるかな、私の髪。
そんなことを思いながら鏡の中の自分を見つめる。
うワァ。こんな髪型になると、やっぱりメイクも変えないと気持ち悪いなぁ。
髪型とメイクの奏でる不協和音がすさまじくて、思わず間抜けな顔をしてしまった。鏡と向き合っているので自分の百面相が全部自分に跳ね返ってきて、恥ずかしいことこの上ない。
「嘉喜様、髪型をお変えになるの随分お久しぶりじゃありませんか?」
私の間抜けな顔はバッチリ見られてしまったらしく、そう尋ねてきた美容師さんの瞳には隠しきれない好奇の色がにじんでいる。
無理はない。私の髪型は学生時代からずーっとロングだったのだ。色を変えたり、パーマの形を変えたり、少しずつ変化をつけながら、月に1度は必ずサロンを訪れて手入れをしてきた。長いとどうしても毛先が痛むので、トリートメントにもお金をかけた。その髪をばっさり切ろうなんて、何かあったと思うのが普通だろう。
現に、あったのだ。
私にとって大きな大きな出来事が。
一対の男女の顔を思い浮かべながら、盛大なため息をひとつ。
「そうですね。ちょっと最近色々あって。髪型を変えて気持ちも変えようと思って」
あの男……
考えながら、無意識に膝のうえでぎゅうとこぶしを握っていた。
髪が服につかないように着せられたあのヘアカットケープが膝元でくしゃくしゃっと皺になる。
ああ、思い返すだけでむかっ腹が立ってきた。
美容師さんはそれから何も聞いてこなかった。もしかしたら、鏡に映しだされた私の顔が怖すぎて何も聞けなかったのかもしれない。
翌月曜、おニューの細身のパンツスーツに身を包み、スースーする頭で出社した。目的の部屋の前に立ち、深呼吸をしてからドアを軽くノックする。
「どうぞ」
中から声がした。
ドアを開けると、すでに先客がいた。
おうおう朝から勘弁してよ。私がこの時間にこの部屋に来るってわかってるだろうに。
「おい、お前、その頭――」
私は自分の変身がこの男に盛大なインパクトを与えたことに満足してほくそ笑んだ。