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最終話 悠と透とこの世界の始まりへ

「それで……悠兄ちゃんと、透兄ちゃんはどうなったの? 」




 それから十一年後――。

 僕は二十八歳になっていた。でも外見は「まるで十代」のまま。

 「オーディン」のせいで――高校卒業から、僕と透はほとんど成長を止められてしまった。



 はじめはなんとかそれでも「僕らの世界」でやっていかれたけど。

 もう三十代を前に、外見が変化しない僕らの限界を感じ――「ここ」に戻ってくるしかなかった。




 そして今。

 僕の目の前には、十歳になる男の子と女の子が仲良く座って僕の話を聞いていた。



 二人は――双子。

 アーサーさんとスクルドさんの子供で――男の子が「ウルズ」。女の子が「ヴェルダンディ」。

 日本国生まれの「ハーフエルフ」。

 僕らがここに戻ることで、二人もこちらに来ることになってしまった。



 もう半年になるけど――子供は慣れるのが早い。



 


 「ここ」は「ヴァルハラ」。

 あの時と少しも変わっていなかった――。

 相変わらずブリュンヒルドさんがここの隊長――いや。責任者。

 今はあの「ヴァナヘイム」の翼竜部隊もこの「ヴァルハラ」に留まり、一緒に「ユグドラシル」の「守護者」としての使命を全うしている。



「悠兄ちゃんと透兄ちゃんはどうなったのって? 」

 ウルズが、僕の話の先をせがんでいる。

「えーと。どこまで話したんだっけ? 」

「もうっ!! 悠兄ちゃんと透兄ちゃんが、ここにきて離れ離れになっちゃったところだよ」

「ああ、そうだったな」

 あの時は――本当に大変だった。

 二度と日本に戻れないと思っていたっけ――。



「何だ、悠。ウルズたちとこんなところにいたのか? 」

 透がミストを連れてやってきた。



「いいところに来たっ!! 透兄ちゃんたちがここにきて、離れ離れになっちゃって、その後どうなったの? 」

 そう聞いたのはヴェルダンディ。

 尋ねられた透は苦笑いをして――。

「そんなことをこの二人に話していたのか? 」

 と、僕に訊いてきた。

「仕方ないだろ。話せってせがまれたんだから」

 僕はそう言って――肩を竦めて笑った。



「あーっ!! 二人とも見つけたっ!! 」

 すっかり美しく――「ヴェルダンディさん」そっくりになったカーラが、ウルズとヴェルダンディを見つけてこっちに歩いてくる。

「やべっ!! 見つかったっ!! 」

「ウルズのバカっ!! うまくカーラお姉ちゃんに話したって言ってたじゃないっ!! 」

「仕方ないだろうっ!! 」

 言い合う二人を捕まえるカーラ。

 僕らはそんな光景を眩しそうに眺めて――。

「悠も透も忙しいの。この後「ウートガルズ」に行かないといけないんだからっ!! 」

「あー。俺も行きたいっ!! サクソ兄ちゃんに会いたいっ!! 」

 細い体に似合わず――ウルズを抱え込んでいるカーラに、負けじとウルズは憎まれ口を叩く。

「ダメっ!! 」

 ヴェルダンディはすでに観念しているので、このやり取りを傍観していた。




 サクソは「ウートガルズ」の新しい「王」となり――「トリルハイム」と――新たに台頭してきた「ヨトゥンヘイム」との覇権争いを抱えながらも、「ウートガルズ」を纏めている。

 その後ろ盾として「ヴァナヘイム」のミーミルさんたちの影響が大きい。



 「アルフヘイム」は――僕らと違い――ここに残り続けたルイーズさんとウェインさんの指導の元。「ヴァルキュリア」廃止の方向で動いている。

 現在はここにアーサーさんとスクルドさんが加わって、「アルフヘイム」の長老たちと揉めながら、新しい国作りを始めている最中だ。

 ここにも「ヴァナヘイム」の協力が必要不可欠だったけど。

 でも少しずつ。

 「アルフヘイム」にも、「男」のエルフの出生が増えてきているのだそうだ。

 これからどうなるかはわからないけれど――。

 それは「オーディン」にもわからないのだろう。でも――。





「なぁ……悠」

「ん? どうした透? 」

「ウルズとヴェルダンディに……話すのか? あの「結末」を? 」

 透の言葉に――僕は小さなため息をひとつ――ついた。



「アーサーさんとスクルドさんに頼まれているんだ。

 二人に僕たちから話してやってほしいって。そしてあの二人の名前にどんな願いが込められているのか……ってね」

「……そうか。じゃぁ……俺も話さないわけにいかないな」

「頼むよ。透とミストが「ヴァナヘイム」でどんな風に頑張っていたか……前に教えてもらったけど、やっぱり本人から話した方がいいと思うから」

「それはお互い様だろう? 」

「違いない」

 僕と透は――吹き出すように笑った。



「悠たちはここにいたのね」

 エイルが僕たちのところへやってきた。

「ごめん。もう少しでミーミルさんたちが来るんだろう? 」

「うん。最近「ヨトゥンヘイム」の動向が気になるから、今後のことで二人の話を訊きたいって。そんなことをブリュンヒルドに言っていたみたい」

「わかった、今行くよ」

「お願い。それからミスト……」

 僕とエイルの間でそんな会話をかわした後、エイルはミストを呼び、「何? 」とミストはエイルへと小走りに走っていった。




◆◆◆




「どうだ……二人共」

 突然――僕たちの背後から聞こえる――老人の声。



 僕らが振り返ると――そこには隻眼の「オーディン」の姿。



「……どうって……こんなことを僕らにしておいて……いけしゃあしゃあと」

「こうでもしなければ、お前たちは「ここ」に戻らないだろう? 

 もう十分に「経験」は積んだはずだぞ? 」

 僕の文句にも、老人は少しも怯まない。

「あなたが今だに「全知全能」になれないのに、俺たちの「経験」が十分なんて言い切れるわけがない」

「それもそうだな」

 透の言葉に、「オーディン」は小さく肩を竦めただけだった。

「だが、お前たちの「世界」だけの「見聞」では「経験」は偏る。

 今度は……「全体」から見渡すことも覚えねばな」

「僕たちを「神」にする気ですか? 」

「元からそのつもりだが? 」

 この老人との問答は――いつもこんな感じだ。



「このままでは、「ヨトゥンヘイム」と「ウートガルズ」の戦いは避けられん。

 お前たちがそれをどう変えていくのか……楽しみにしているよ」

 そう言い残して――「オーディン」の姿が消えた。




「相変わらず……腹立つ「神様」だ」

「……本当に。でもやってやろうじゃないか……なぁ、悠」

 不敵に笑う透に――僕も同じ笑いで「もちろん」と答えてみせた。




「悠、透。ミーミルさんたちが着いたみたいよ」

「ああ。すぐ行くっ!! 」

 エイルの声に、僕はすぐに答えて。

 透は僕に小さく頷いた。





 

 僕らの戦いは――まだ終わらない。

 


 


 それでも――これはあの時僕らが思い描いた「願い」に少しでも近づいていることなのだと――僕は信じている。










「意外な武器で勇者をやってみます!!~前島くんと僕の冒険譚~」   終わり 


ここまで長い話にお付き合い下さいまして本当にありがとうございます。


約二ヶ月――二十万文字を越えるとは(汗)

こんなに長い話になるとは思わなかったのですが――。


この話に触れてくださった皆様に心からの感謝を込めまして。

厚くお礼申し上げます。本当にありがとうございました。

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