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第62話 悠と透とこの世界の終末

「……ここは? 」

 僕は――いや。透も――酷く見覚えのある景色に目を激しく瞬かせたり、首を忙しく左右に振ったり。




 ここは「桜が丘公園」。公園の中央にある時計の時刻は、「午後四時半」過ぎ――。




 僕の手には銀玉鉄砲。透の手には――トネリコだかなんだかよくわからない長い棒。




「戻ってきた……らしいな」

「……みたいだね」

 僕が透にそんなことを答えた時。

 思わず銀玉鉄砲の引き金を引いていた。

 


 ぱこんという――間抜けな音がして――ひとつの銀玉がころんと砂場に落っこちた。



 僕と透は顔を見合わせて――大笑いをした。

 


 僕たちは帰ってきたんだという実感を味わうように――。




◆◆◆




「そんなこと信じられない……」

 「オーディン」の話を聞いていたミストさんが――怪訝な表情をしている。

「……これは……お前の「望む」答えなのか? 」

 透が僕を見つめてる。

 僕は――ひと呼吸置いてから――口を開いた。



「僕の「望む」答えではないよ。これは「オーディンの答え」だ。

 これが本当かどうか……信じるか信じないかは、みんな次第だと思うんだ。

 僕はこれは「オーディンの想い」なんだと思ってる。

 僕たちにとって、これがすべてを解決するものでも何でもないけど……。

 「否定」するのは……簡単だ。でも「肯定」するのは……本当に大変なんだって……感じたんだ。

 僕は……今の「オーディンの答え」にすごく「疑問」を感じる。

 それにそれを受け入れられるだけの……経験もまだ少ない。

 情けないけど……この「オーディンの答え」に対する「僕の答え」は、僕の中にはまだ「ない」。

 「オーディン」が言うように、僕は、「この世界を理解出来る存在」でも何でもない。

 でもそれがわかったら、僕はこの「オーディンの答え」を受け入れてもいいと思ってる。

 「受け入れられる」だけの理由が見つかったら……だけどね。

 だから今、「アースガルズ」へ行くかどうかと言われたら……行かない。

 「僕の答え」が決まっていないから。納得出来ないうちは……「オーディンの考え方」にも反感を覚えてしまうと思う。

 そんなうちは行かれない。これが「今の僕の答え」なんだ」



「……なるほどな。それも今の……お前の気持ちだということだろうな」

「そうですね……「オーディン」」

 どこか呆れ顔の老人に、僕は笑顔で応える。

 でも――これが今の僕の「精一杯の答え」であることに間違いはない。

 どこまでも「優柔不断」な僕らしい――という言葉で片付けてはいけないけど。



「では……もう少し、「その経験」とやらを積んでもらおう。

 それまで、「魂」は繋がったままになるぞ」

 そう言って。

 「オーディン」は僕たちに右手を上げた。

「元の世界に帰るがよい。そしてその「経験」を積んでくるのだ。待っておるぞ……」

 は? 今――ここで?



 僕たちの反論を聞くことなく。「オーディン」は笑顔のまま――。

 次の瞬間。僕たちは真っ白い光に包まれていた――。




◆◆◆




「でも……みんなどうなったんだろう? 」

「このタイミングは酷いよな。お前が変な「答え」を言うからだろう? 」

 透に責められて――「ごめん」としか言えない僕。




 エイルは――ミストさんは、カーラは、スクルドさんは――ブリュンヒルドさんたちは、ルイーズさんは、ウェインさんは、ミーミルさんたちは――サクソは。みんなどうしたんだろう?

 「オーディン」は僕たちを求めるとかなんとか言いながら、これはとても無責任だって。



 変な同情をしたせいか? でもこれは同情とかではなく――僕の経験からの感じで言ったことだ。後悔はしていない。

 必要だと思ったんだ。

 だから――。



 こつんと――透が僕の頭を叩いた。

「痛いな……」

「悩むな。あの話を聞いていて……俺も考えさせられた。

 立派だったと思うぞ。自分の気持ちを堂々と答えたんだ。胸をはれ」

「……まぁね。後悔はしていない……よ」

「それならいいさ」

 透は僕の笑顔を見て――微笑んだ。

 


 でも――みんなと挨拶らしい挨拶が出来なかったのは――本当に悔しいし、それが一番の心残りだ。

 こういうところは、「神様」は自分勝手だよなぁ――。

 


 今はすごく――エイルに会いたい。僕は本当に彼女のことを――好きなんだ。



◆◆◆



 僕はそのまま透を誘い――僕の家へと招いた。

 


 僕らが「あの世界」で過ごした時間は七ヶ月以上になる。

 それが「僕らが召喚された瞬間」と同じ日時なのか――と調べたい思いもあったし。

 


 あんなことの後で――僕も透も――話したいことが山ほどあったからだ――。




「ただいまぁ」

 僕の家は――母さんと二人暮らし。父さんは今――仕事で海外出張中。

 とは言え。忙しい父さんは、日本に年に数ヶ月もいればいい方なぐらいなんだけど――。



 そんなことより。

 僕らが行方不明で大騒ぎになっていたら――実はそんなことを考えてドキドキしていたんだけどね。



「お帰りなさい」

 聞きなれない女の人の声? 聞き覚えはあるけれど? もちろん――母さんの声じゃない。

 え――やっぱ――まさか? 僕を探している母さんの代わりに誰かがこの家に?



「やっと帰ってきたか」

 これも――父さんの声じゃない。ってか――これは誰?

 七ヶ月も向こうにいて。僕は家族の声も忘れてしまったのか?



「お帰りなさい……悠」

 奥から出てきて、玄関に棒立ちになっている僕らを出迎えたのは――エイルだった。




◆◆◆




「……あははははは」

 ずぅっと笑っているのは――驚くことに――アーサーさんだ。

「生き返ったのは良かったんですけど……」

「これでもこの世界では、悠の「おじさん」ということなんだ。

 海外に行った君のお父さんとそれについて行ったお母さんに頼まれて……「カナダ」から「日本」に来る予定のあった俺に、ここで悠と一緒に暮らして欲しいと頼まれたんだからな……と、いうことらしい」

 僕の母さんは――確かにカナダ人との「ハーフ」だったんだけど。

 おばあちゃんが若い時に母さんの父さん――僕のおじいちゃんだった人と別れたから、僕はその人に会ったことがない。今の今まで忘れていたんだけど。

「今は君たちが「あの世界」へ召喚された……「その日」の夕方だ。間違いないよ」

 アーサーさんは本当に楽しそうに話しているけど。

 それにしたって――あの「神様」の野郎――。



「それで……アーサーさんの体は……」

 透が――初めて会うアーサーさんと挨拶を交わした後に――そんなことを訊いた。

「あくまで「仮初の体」。俺の本体は「スレイプニル」だ。

 その剣に俺の魂を移していたから……。「オーディン」から君たちを護る存在として、こうして体を得た……というわけさ。スクルドの旦那としてね」

 アーサーさんの隣に――笑顔のスクルドさん。

 エイルもそうなんだけど。ちゃんと耳は「人」使用になってる。

 髪とか肌とかの色も――僕らに近いというか。それなりの色になって「人」に見えるようになってるんだよね。

 エイルは僕の隣に腰掛けて――ずっと僕の右腕を掴んで離さない。

 人の姿のエイルも――すっごく可愛いなぁ。

 ってか。今はそんな話じゃなかった。



「じゃぁ……ヴェルダンディさんたちも? 」

 僕はアーサーさんのことから――そんな期待をしてしまう。

「残念ながら……それはない。

 今、二人の魂は「ヘルヘイム(黄泉の国)」で静かに仲良く眠りについているよ。

 ヴェルダンディは最後まで……君たちに感謝していた。

 それだけは俺にも感じることが出来た……」

「俺も「あの時」に……「ありがとう」というヴェルダンディさんの声を聞いた気がしました……」

 アーサーさんと透がそんなことを――僕に話してくれた。

 



「で、悠。これだけははっきりしておきたいんだが……。

 スクルドは悠の「ノルン」なわけだが……」

「手を出すわけないですよっ!! 僕にはエイルがいるんですからっ!! 」

「それを聞いて安心した」

 どんな心配だ。そんなことあるわけもするわけもないっ。

 満足そうなアーサーさんに、僕は――呆れてものが言えない。

 それに――もうスクルドさんは、僕の「ノルン」とか関係ないと思うんだけど?

 


「二人共お腹すいていない? 「こっち」に帰ってきたばかりで疲れているでしょう?

 今、夕飯にするから。大丈夫……ちゃんと日本食のつくり方も知っているから。

 味はわからないけれどね……」

 スクルドさんが恥ずかしそうに、僕と透にそんな話をして――なんだか僕のお母さんみたいだ。

 ってか――違和感ありまくり。

 


 でも「オーディン」はみんなに「この世界」の知識を教えて、ここで暮らすように仕向けていたのか。



 ピンポーンという玄関のチャイムの音が鳴り、「帰ってきたな」とアーサーさん。

 誰が?という感じ。

「ただいまぁっ!! 」

 この声。

 


 僕らのいる部屋にまず飛び込んだのは――人ぐらい大きな黒い――犬ぅぅ??

―我は誇り高き狼だっ!! もう我のことを忘れたかっ!? ―

「フェンリルっ!! 」

 僕の表情から的確に僕の気持ちを感じ取ったフェンリルが怒って――そんな時に透がフェンリルをぎゅっと抱きしめた。

「こっちで会えるとは思わなかった。

 それにしても、こんな大きさにもなれるんだな」

―見くびるな。我は「フェンリル」だぞ―

 自己主張の強い「狼」だけどね。

―うるさいっ!! コハルめっ!! ―

 あ。また僕の考えがわかったみたい――ってか。フェンリルは僕のこと「コハル」なんだね。

 


 でもすごくその「呼び名」が――とても懐かしく感じるよ――。



「悠っ!! 」

 カーラが僕に向かって飛び込んでくる。

 その後ろから――ミストさんもっ!!



「二人共、「桜が丘公園」にいるからって聞いていたのに。

 迎えに行ったらいないんだものっ!! 」

ミストさん――もしかして――怒ってる?

「すまない……こんなことになってるとは、誰も思わないだろう? 」

 透が苦笑いで怒るミストさんに話して。

「驚かせようとしたの」

 拗ねるミストさん――可愛いね。

「悠……何、ミストをじっと見ているの? 」

 エイルが僕の両頬に手を当てて――半ば無理矢理――自分の方へと向かせる。

「そうだよ、悠っ!! 私もいるのにっ!! 」

「ちょ……どうしてそんな話になってるのっ!? 」

 エイルと一緒に怒ってるカーラに、僕が驚いていると。

「ああ。カーラは俺とスクルドの娘……なんだ。泣かせないでくれよな。なぁ、カーラ」

「そうだよっ」

 アーサーさんが思い出したようにそんなことを言って。

 カーラがアーサーさんに続けて。

「……そうなんだ。なら……早く話してくれればいいのに」

 僕がしんみりと話してしまったからかな? みんなの会話が一気に止んでしまって。



「ごめん……」

 僕は思わずみんなに謝った。

「いいさ。今は帰ってきたことを喜ぼう。な、悠、透」

「そうですね」

 アーサーさんと透が笑顔で僕を見ている。

 それだけじゃない。

 エイルも、カーラも、ミストさんも――スクルドさんもいる。

―まったく。コハルは「どこでも」コハルなんだな―

「うるさいなっ」

 小煩いフェンリルもいて。




 こんなことになっているとは、夢にも思わなかったけど――。

 今は素直に喜んでも良さそうだ――そう思った。


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