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第55話 僕たちと消える命とその先へ

 僕たちが「ウートガルズ」に入り――これだけの敵軍が入り込んでいるにも関わらず。

 まったく何もしてくる気配がない。

 罠――というよりも――反撃してくる「敵軍」の姿がまるで見えないのだ。




「確かに……これは「何かあった」と考えていいな」

 ブリュンヒルドさんが険しい表情で、「ウートガルズ」の様子を眺めていた。



 そして僕らは「ウートガルズ」の王都ガルフピッケンに到着した。




◆◆◆




 すでにそこは――。

 「王都」とは名ばかりの――「廃墟」となっていた。

 


 まだ生々しい破壊の爪痕と――焼け焦げた匂いが充満し――僕は顔を顰めた。

 倒壊した家屋の合間から見え隠れする遺体。

 四肢が無事ならまだしも――その原型すら留めない――押しつぶされたようなものまで。



 カーラをスクルドさんに頼んできて良かった。

 これは僕にも耐えるのは――辛い惨状だった。



「謀反のレベルの話ではないな……」

 この破壊の限りを尽くされた跡を見て――ミーミルさんが呟いた。



―これは……「ヨルムンガンド」の仕業であろう―



 突然頭の中に響くフェンリルの声。

「ヨルムンガンド……? 」

 はじめに反応したのは透だった。

―そう。我と共に「この世界を破壊せし者」として、この「ウートガルズ」に「魂」を封印された我と同じ化物よ。 

 ただしあまりの巨体でな。その体は「ミズガルズ」の世界を覆い尽くし――なお余る大きさだという。 仕方なく頭で己の尾をかじり、「輪」となって大人しくしているというのだ。

 それゆえに、我とは違い「魂」と「体」が分離され、体は「ミズガルズ」に魂は「ウートガルズ」に封印されていたと聞く。

 ウルズはそれを解いたのかもしれぬ。

 この破壊の様子ではその「ヨルムンガンド」の仕業と考えて差し使えあるまいよ

 さすがに「神」を名乗るだけの「魔術師」かもしれん。

 あの「オーディン」でさえ、「ヨルムンガンド」の存在に手を焼いたというのだからな―

 


「何を話しておるのだ? 」

 フェンリルの話に呆然としていた僕と透に、ミーミルさんが尋ねてきた。



 僕たちはフェンリルの話をそのままミーミルさんに伝えた。

「……「ヨルムンガンド」を復活させた……というのか? 

 あれは一度「アースガルズ」の半分を、焦土と化した化物なのだぞっ!? 」

―ほう。それは初耳。

 我もそこまではしておらぬ……なるほど。

 それでは「オーディン」もやつの存在を恐るはずだ―

 ミーミルさんの説明に、フェンリルは聞こえないと知っていて、大きな口に身震いしたくなるような笑みをたたえて僕らに話しかけた。



 僕はフェンリルの話をミーミルさんに話したあと、僕自身の考えをミーミルさん――そしてみんなに伝えてみた。

「それを知っていたから……だから「オーディン」は僕と透に力を預けたのかな?」

「だから余計に許せぬが……おそらくそうだろうな。

 しかし「ヨルムンガンド」に対抗出来るだけの力なのか……? 」

「だったら。こんなところで心配してても仕方ないですよ。

 ウルズを探しましょう……」

 透の意見に僕も無言で頷いた。

「お前たちには……若いというのは無茶が出来ていいものだな。恐れを知らぬ」

「でも「無謀」じゃないですから」

 呆れるミーミルさんに僕はそう言って――笑った。

 


 

 フェンリルの話が本当なら――。

「無謀」なことはみんなわかってる。

 でも――ここで止まれないことも――わかってるから。

 僕らは止まらない――それだけだ。



「でもこれがあの……ガルフピッケンの成れの果てとは……悲しいね」

 悪態をついているけど――サクソの表情は寂しそうだ。



「……の……こ……えは……」

 サクソの呟きに反応するかのように――微かな人の声が聞こえた。

「誰かいるっ!? 」

 僕たちは耳をすませる。

 生きている人がいるのなら――。



 がらら――と、何かが崩れる音が聞こえて。

 僕たちはその音が聞こえた方へと向かった。



 いや。一番先に駆けつけたのは――サクソだった。



「……ドーマルディ……」

 サクソが身を屈めて――その声の主を見つめた。

「……な……いき……て」

 それは――双子の弟のドーマルディの姿。

 もう息も絶え絶えに――その下半身は――すでにない。



「ああ。生きてるよ。悪かったな……」

 サクソはドーマルディに――微笑んで見せた。

 自分を殺そうとした弟との再会は。その弟の瀕死の姿だった――。



「かあ……さ……まが……」

「母様がどうした? 」

「とう……さん……に……つれ……」

「父さんに連れて行かれたのか? 」

 ドーマルディは――微かに首を上下に動かした――ように見えた。

「スリュム陛下はどうした? 」

「し……ん……」

「死んだのか? 」

「……そ……だ……」

 そこまで話したドーマルディの体が小さく痙攣して――。

「大丈夫か? 」

「……かあ…さ……ま……を」

「わかってる。そのためにここに来ている」

「……そか……ご……め……ん……さく……」

 最後まで聞き取れないまま。

 ドーマルディの瞳が――静かに閉じて――。



「バカなやつ……謝ることないだろう。そうしたら……お前のこと憎めたのにな」

 今にも消えてしまいそうなサクソの囁きが――聞いていた僕たちの心に――彼の想いを伝えてきた。




◆◆◆





「アルヴィド……ウルズの居場所を探し出せるか? 」

「……私を誰だと思っている? 」

 ブリュンヒルドさんの言葉を受けて――アルヴィドさんが不敵に笑っている。



「風の精霊よ……我の願いを聞き届けよ。

 この大地に存在する邪神の居場所は我に伝えよ」

 僕たちが気がついた時は――アルヴィドさんが出現した魔法円の中心で集中している時だった。



「ブリュンヒルドさん」

「……どうしたユウ? 」

「不思議に感じていたんですけど……最近ブリュンヒルドさんたち「我が主……」っていう「呪文スペル」を言わなくなったんですね。僕たちのせいですか? 」

 我ながらへんな質問だとは思ったけど。

 それでもブリュンヒルドさんは僕に優しく微笑んで――。

「今の私たちの主が「ユウとトオル」だからだよ。いや。護りたい愛すべき相手としてね」

 ぼぅんっ!! たぶん――そんな音が合ってたと思う。

 それぐらい――爆発的に、僕の顔は一気に真っ赤になっていたと思うから。

「……まったく……どんなに成長しても、素直で可愛いコハルなんだな」

 ブリュンヒルドさんは――魅惑的な笑みで僕に笑って見せた。

「あまりからかわないでください……隊長」

 エイルが僕を抱きしめて、ブリュンヒルドさんを睨んでいた。



「あまり見せつけるな。私が嫉妬するだろう」

 落ち着いたのか。アルヴィドさんがそんな憎まれ口を叩きながら、小さなため息をついた。

 だから――そんな余計な一言いらんでしょうに。



「で。居場所は? 」

「ここから遠くない。西にある森の中だ。

 翼竜ならば一時間とかかるまい……。

 だが。気配はウルズのものではない。「ヨルムンガンド」のものとなっている……。

 まともにやりあって勝算のある相手ではないな」

 いつもと変わらぬ――淡々とした語り口調。

 僕らには厳しい内容なのに、少しもそんな風には感じない。

 アルヴィドさんは本当にすごいと思う――。



「援軍を待つか? 」

 それを聞いていたウェインさんが呟いた。

「……いや。僕たちだけでやりましょう……数がどんなにいたとしても……「ウートガルズ」の軍まで……この通りなんですから」

 僕の言葉に、ウェインさんはガルフピッケンの現状を見渡し――嘆息した。

「そうだな。いくら「ヴァナヘイム」の戦力とはいえ……玉砕覚悟で戦いを挑むしか方法がなさそうだ……」

「はい」

 僕はウェインさんに頷いた。

「当たって砕けろ。砕けては困るが……「オーディン」が我が子というなら、俺たちにそれなりの力を預けたんだろ。

 俺と悠でなんとかしますよ」

「そうだね」

 そう言って、透が笑って――僕も釣られて笑って。



「私たちも力を貸すから……無敵じゃない? 」

 エイルの微笑みが――驚く僕に向けられた。

「……離れないから……」

 僕のすぐ近くに歩み寄ったそのままで、エイルは僕の耳元で囁いた。



―我がいる。ミストがいる。今のお前にはコハルとエイルもおるのだろう?ここでウダウダしていても仕方がない。とっとと行くぞ―

 フェンリルは――いつも強気だ。

「……うん。そうね」

 ミストさんがフェンリルに頷いた。

「……聞こえ……たのか? 」

 透が呆然とミストさんを見て。

「私も聞こえたわ」

 エイルも同じく頷いている。

「……行こう、透」

「そうだな……行くか」

 透が僕たちにしっかりと――頷いた。



「おい。何しているっ!! 」

 僕たちはすでに空へと舞い上がっている。

 驚いたのはミーミルさんたちだ。





「ここで待っていてくださいっ!! 行ってきますっ!! 」

 僕らは西へと向けて空を駆けた――。






「ええいっ!! バカものどもがっ!! 我らも行くぞっ!! 」

 僕らに遅れてミーミルさんたちも、それぞれの騎竜に跨り――僕らの後を追いかけた。


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