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第49話 僕たちと「そのチャンス」

 カーラがゆっくりと目を覚ました――。



 そこは自分の部屋。

 確か――短剣を見つめていて――あれからどうしたんだっけ?

 


 この様子からだと、そのまま眠りについてしまったようだ。

 そんなことを考えたのか、カーラは体を起こした。

  


 枕元に――あの短剣はあった。

 忌々しい――嫌なもの。でも――手放せない。

 カーラは小さくため息をついた。



「カーラ」

 またっ!! カーラはぎょっとして振り返った。

 そこには――ウルズが立っていた。

「どうして……っ!? 」

「ここにいるんだ? か?

 短剣を通して、お前の頭に直接呼びかけているんだよ、カーラ。

 どうやらお前は失敗をしたようだね」

「……失敗!?」



 怪訝な様子で幻のウルズに問いかけるカーラ。

「そう。お前がなかなかあいつらに何もしないから……父さんが力を貸してやったのに……。今一歩のところでダメだったようだ。

 私は今日もスリュム陛下に脅されたんだよ。

 いつまで待たせる……と。

 もう一刻の猶予もない。悩んでいる暇はないんだ」

「……でも……」

 カーラからはそれ以上――言葉が出ない。



「最後の好機チャンスだよ、カーラ。

 殺すことが難しいなら、「エインヘリヤル」たちを、この「ヴァルハラ」の外に連れ出してくれないか?

 その時に私が止めをさそう」

「……そんなっ」

「それも出来ないかい?」

「……」

 ウルズは優しく言い聞かせるが、その内容にカーラが納得行くはずもない。

「仕方ない。ならば……「エインヘリヤル」を「捕らえる」ということなら、お前も納得出来るかな? 」

「捕らえる……? 」

「そう「捕まえる」んだよ。

 そうすれば、お前も悩まないで済むだろう?

 スリュムには「殺した」ということにしておけばいいのだから」

 それでも――カーラの表情が晴れることはない。

「これでもかなり譲歩しているんだよ、カーラ。

 すべては母様のためなんだ。わかるだろう……カーラ」

 カーラはウルズに顔を向けることなく俯いたまま――頷くしかなかった。

「いい子だね。

 では早速私はこの「ヴァルハラ」の外で待っているから。

 「元気になったので、外に出たい」とでも言って連れ出してくるんだ。いいね? 」

「……うん」

「……待っているよ、カーラ」

 


 こうしてウルズの幻は、カーラの視界から薄れて――消えた。



「……どうすれば……いいの。助けて……ユウ」

 カーラはベッドの上にうつ伏せになった。




◆◆◆





「カーラ……」

 僕の目の前に姿を見せたのは――ユグドラシルの空が白銀色の時間帯だった。

 少しは寝たのだろうか?

 目が真っ赤に充血して――。酷く落ち込んだ様子で――僕とエイルの部屋の前に立っていた。

「中へ入りなよ」

「……うん」

 僕に促され――小さく頷いて――部屋へと入ってきた。



 そこには透とミスト。スクルドさんがいた。



「大丈夫か?まだ調子がよくないのだろう? 」

 透が心配そうにカーラに尋ねた。



「でも部屋にいると……息が詰まりそうなの。

 少し……ゲキに乗って、外へ出かけたいな……ユウたちも一緒だと嬉しい」

「なんだ。そんなことなら構わないよ。

 そうだね。少しは外の空気を吸った方がいいかもしれない」

 僕はカーラに微笑んだ。

 カーラは――それでも精一杯に笑って――頷いていた。




◆◆◆




 カーラが起きる一日前。



 ミーミルさんの言葉の意味を理解し、僕を説得した透。

「アルヴィドの申したことは本当だろう。

 カーラには「呪い」を浄化しただけでは払い切れない呪術にかけられているようだ。

 私にはそのような力の残像のようなものを感じる「力」がある。

 この後、ウルズは必ず何かを仕掛けてくる。

 その機会を待とうじゃないか……コハル。もちろん、カーラにこれ以上の危害が加わらないように細心の注意を払ってのことだがな」

「……ミーミルさん」



 透とミーミルさんの助力を得て、僕たちはカーラの変化を見るためにひとつの作戦を実行した――。




◆◆◆




 カーラの願いのままに、エイルはヨルグに乗り、カーラは「ユウと一緒に乗りたい」とい願いから僕とゲキに乗っている。



 透はフェンリルに。ミストさんはフレキに乗って、僕らについてきてくれている。



「結界の外に出たい」

 という願いに応え――ユグドラシルを覆うドームの外に出た。





「ご苦労だったな、カーラ」

 


 僕の後ろから――男の声。

 本来なら、僕とカーラしかゲキに乗っていないのに――。




 エイル、透、ミストさんが一斉に反応した。



「騒ぐな。騒げばここでこの「エインヘリヤル」を殺すぞ? 」

 その男の正体――ウルズ。否。ウルズの「幻影」なのだろう。



僕にあの短剣を突きつけて――冷酷な笑みを称えている。

「この短剣の威力は知っているのだろう?

 うまく浄化は出来たようだが……だからこそここにいるのだろうが……。

 それともスクルドあたりが何か言って……うまく私を罠に嵌めたつもりか?

 笑わせる……」

 ウルズは薄い笑みを浮かべる。

 完全に僕らを挑発している――微笑み。



「この頼りない勇者は私が貰い受けよう。

 「エインヘリヤル」の一人は残してやるのだからありがたく思え」

 こう話している――ウルズを観察する。

 僕には左手で短剣を握り――その手は――「義手」。サクソと同じ。

 そして右手で、カーラの左手首を握っていた。

 


 そう。両手は「塞がっている」。



「今だ、ゲキっ!!」

 僕が叫んだ。

「アギャっ!!」

 ゲキが僕の声に応えた。ゲキは両翼を大きく羽ばたかせ、体を大きく揺らした。

 僕らの体勢が崩れた。



「……無駄なことをっ!!」

 慌てることなく。ウルズは僕の右胸に――短剣を突き立てた。



「悠っ!!」

 透が叫ぶ。

 


 


「か……」 

 呻き――意識を失い倒れる僕の体が、ウルズの左手に抱え込まれて――。

 


 ウルズは高らかに笑った。

「この「エインヘリヤル」は貰うぞっ!! 」



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