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第47話 僕たちとウルズという男

「なんだよっ!! ユウが……こんなにっ!? 」



 僕とエイルの「想い」を込めた光弾が、その威力を発揮する。

 カーラの前で光弾は七つに「拡散」し、それぞれの色の光がカーラを取り囲んだ。

 そしておそらくはエイルの「幻術」によって、何らかの幻を見せられているようで。

 でも――一体どんな「幻術」を見せたの、エイルっ!?

 カーラの言葉がすごく気にかかるんだけどっ!!



 サクソが飛び出し――混乱するカーラから短剣を払い落とし――自分の右手に収めると、僕らの元に戻ってきた。



「あ……うぁぁっ!!」

 苦しそうなカーラに、今度はアルヴィドさんが走り寄った。

「光の加護よ。カーラに癒しの輝きを与えたまえっ!! 」

 アルヴィドさんに支えられるようにカーラは――そのまま意識を失い、倒れ込んだ。



「……見事だコハル、エイル。カーラから完全に邪気が消えている」

 アルヴィドさんに褒められて。カーラの様子にも安心したけど――この力は思いのほか疲れるなぁ――。

「コハル。もう一発、この剣に撃て」

 容赦ないサクソの言葉。

 左指で右手に握る短剣を指差しながら、僕に突き出した。

「……わかったよ……」

「私も手伝うから……」

 エイルに慰められて――僕は渋々銃口を短剣に向けた。



「女に助けてもらうなんて……お前は本当に情けないな」

「うるせぇよっ!! 」

「そうよ。私はユウのためなら力を貸すぐらいなんでもないわ」

 サクソのツッコミに怒る僕。それにフォローを入れるエイル。

「けぇ――っ!! 」

 サクソはまた――嫌そうにへんな声を発した。

「お前は鶏か?」

「うるせぇぇっ!! 」

 今度はサクソが透にツッコミを入れられて。

 何だ。この会話は――?



「大丈夫、透?」

「俺はな。お前は大丈夫か、悠?」

「うん……と言いたいけど、思ったより「浄化」という力は疲れるね」

「……でもカーラも短剣の呪術も完全に「浄化」されたようだ。すごいじゃないか」

 にっこり笑う透に、僕は「悠」と呼ばれることに恥ずかしさと照れが抜けない。

 前はあんなに「コハル」を呼ばれることに抵抗を感じていたのに――。変なの。

 


 カーラをミストさんに預けて、アルヴィドさんが例の短剣をしげしげと見つめた。

「コハルとエイルの力がなかったら、この短剣にかかった「呪い」を解くのは大変だっただろうな。私の全力でも……完全に「呪い」を解くことが出来たかどうか……」

「そんなにすごい「呪い」がかかっていたんですか?」

 僕はアルヴィドさんの説明に驚いてしまう。

「ああ。ウルズは一流の「魔術師」だ。

 その腕は衰えていないだろう……むしろ強化されているかもしれない。

 しかし……カーラがどうしてこんなものを持っていたか……だな」

 ミストの腕の中で眠るカーラに――アルヴィドさんは小さくため息をついた。

「まずはカーラを寝かせましょう。私たちの部屋がいいかしら?」

 エイルがアルヴィドさんに申し出る。

「誰か……出来れば数人でカーラを見守る方が良いだろうな。

 まだ何が起こるか油断は出来んから……」

「そうね」

 エイルがアルヴィドさんに頷いて。

「どうせなら……」

 ミーミルさんが突然口を開いた。




◆◆◆




「大丈夫だったのかっ!? 」

 スクルドさんが慌てて駆け込んできた。



 ここは――憩いの場というのか――みんなは「広間」と呼んでいるけど。

 大きめのソファや簡易のベッドのような横になるスペースもある。

 目的としては、みんなで仮眠をとったり、休憩を取る場所として使われることが多い。

 部屋に戻ることが面倒くさいゲンヴォルさんなんかは、ここで朝まで熟睡していることもあるけどね。



 カーラをここの簡易ベッドに寝かせ、どうせならみんなで交代で見張ろうというのが、ミーミルさんの提案だった。

 それはそれでいいんだけど――ミーミルさんって、本当に面白い人だよなぁ。



 スクルドさんはここに駆け込んできた。

 ブリュンヒルドさんや他の「ヘイムダル」のメンバーたちは、アルヴィドさんを抜いて、「ヴァナヘイム」の軍の人たちがわかるようにと、建物やその他の説明をするために一緒に行動していた。

 


 僕の「ノルン」になったスクルドさんだけど、暫定的に「ヘイムダル」の副隊長を勤めている。

 そのため、「ヘイムダル」の人たちと行動をともにしていたのだけど。

 カーラの異変を聞きつけ、こうしてすっ飛んできたのだ。



 僕らは、スクルドさんにこれまでの経緯を話した。



「……一体どこで……」

 カーラが手にしていた短剣。

「俺じゃないぞ」

 サクソが冗談だろうけど――そんなことを口にする。

「わかってるよ。半年も「ヴァナヘイム」でこれを企んでいたとしたら、あんまりにも情けない」

「……てめぇ……」

 僕のフォローが気に入らなかったらしい。思いっきり睨みつけられた。

「まぁ……どうせやるなら、もっと派手にやるか、狡猾にやるか。

 どっちもサクソ向きじゃないな」

「トオルも……てめぇら」

 透のフォローはもっと気に入らなかったらしい。

 サクソの怒気が垂れ流しになっていた。



「たぶん……二日前の、ミーミルさんと私たちが話していた時にやってきた……あの時にすでに手にしていたんじゃないかしら?

 あの時からカーラの様子がおかしかったもの。 

 それにアルヴィドがユウに危機が迫っているという話をした時、カーラの様子が一段とおかしかった……。

 私の推測だけど、戦いの中でカーラは何者かに、この短剣を渡されたのかもしれない。

 例えば……「トリルハイム」の輩に紛れていた……とか」

 そう言えば、あの時エイルはカーラの傍にいた。

 カーラの変化に気がついておかしくはない。

 


 エイルの話を聞いたアルヴィドさんが、右手を顎にあて――考え込んだ。



「おそらくエイルの推測は合っているだろうが……短剣を渡したのは、ウルズ自身じゃないかと思うんだ」

「ウルズ本人が、ここまで来たと?」

 透が首を傾げた。

「いいや……おそらくは……「ミラー」で作り出した「虚像」だと思う。それを得意としているのは何もエイルだけじゃない。ウルズほどの魔術師ならば、時間と集中出来る場所があれば、遠隔操作も可能だということだ」

「俺もそう思うな。父さんならそれぐらいするだろうなぁ」

 アルヴィドさんの推測に、サクソも同意する。

 それの話が余計に現実味を持たせた。



「狙いはユウ……」

 心配そうに、エイルが僕を見た。

「……カーラはコハルの「ノルン」だったな?」

「はい……」

 ミーミルさんの問いに答えたのもエイルだった。

「たぶんだが……カーラ共々、コハルの誘拐を目論んだのかもしれんな」

「はっ!? 」

 僕は驚いて、ミーミルさんを凝視した。

「ウルズは……「真のエイヘリヤル」の秘密を知っているということだろう。

 「エインヘリヤル」は「アースガルズ」に繋がる「虹の橋 (ビブロスト)の鍵」という逸話が私も知っているが、どんな「エインヘリヤル」でも「鍵」になりうるわけではない。

 「真のエインヘリヤル」だけが「虹の橋」への扉を開き、「アースガルズ」へと導かれる。

 それは「真のエインヘリヤル」と選ばれた者のみが、その橋を渡ることを許されるということになる。

 ウルズは「アースガルズ」へ行きたがっているようだからな。

 こんな美味しい話を放っておくわけがない。

 そして「真のエインヘリヤル」に選ばれる者など、数代のうちのたった一人程度だ。

 それが今回は二人もいる。それをどこからかウルズは突き止め、コハルとトオルのどちらかを狙っているに違いない。

 自分の娘が「ノルン」と選ばれているならば、そちらの「エインヘリヤル」を狙うのが通りだろうな。

 ミストから聞いた話では、そのウルズという者。予言者としての能力も一流だったと聞く。ならば自分の娘が「ノルン」として選ばれていることも知っていておかしくはあるまい。そうではないか。サクソ? 」

「まぁね。だいたいその通り。

 元は「予言者」として、「ウートガルズ」の王家であるロキ一族に取り入ったらしいから。

 軍師としての知識もあったし、魔術師としても凄腕だったからな。ウートガルザは随分父さんを気に入っていたよ」

「……でも……そんな人がどうして「ウートガルズ」に行くことになったんだろうか……?」

 僕はそれが不思議でならなかった。

 何故――ウルズは「エルフ族」を裏切り、闇へと身を落としたのか――と。



「神になる」

 スクルドさんが呟いた。

「……え? 」



 僕らが一斉にスクルドさんを見た。



「……神になる。僕はそのために生まれてきた……僕は神様に教えてもらったんだ、と。ウルズは一度だけ。ヴェルダンディ姉様に言ったことがあるらしい。

 ヴェルダンディ姉様は「兄さんならなれる。私が傍で見守ってあげる」と答えたと言っていた……しかしそれはまだ私たちが幼い時の話なんだ」

「幼い頃とは何時ごろの話だ?」

 スクルドさんの話に、ミーミルさんが詳しい説明を求める。

「……私がようやく言葉を覚え始めた頃の話だから……二百五十年以上は経つ」

 すごい昔っすね――さすがエルフ族。

 でも僕はなんとか、あまり驚かずに聞けるようになっていた。



「スクルド。辛いかもしれんが……ウルズのその話。わかる範囲で構わん。

 私たちに話して聞かせてくれぬか」

 ミーミルさんの迫力に、スクルドさんが押され気味に「はい」と答えていた。





「どうもそこに、ウルズという男の行動を探る手がかりがあるような気がしてならぬのだ」

 


 ミーミルさんの疑問に僕も――透も、小さく頷いていた。


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