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第46話 僕たちと呪いの短剣

 集会室を出て。

 エイルが恥ずかしそうに僕を見ながら歩いてる。

 僕がエイルの手を握ったまま――離さないからだ。



「私たちも……これほどコハルに愛されたいものだな」

 アルヴィドさん――どういう意味っすかっ!?

「あれ?わからなかったのか?私たちもお前のことを好きなんだぞ?

 エイルのことはわかっているくせに、それ以外は眼中にないということか」

 にやにや笑いながら――完全に僕をからかっている笑いだろうっ!!

「えぇ。そうなんです。すみませんねぇ!! 」

 エイルの手を握る右手に力を込めて、僕はヤケになりながらずかずかと廊下を歩いた。

「……そうだったのか……残念だ」

 ちょっと待てぇぇっ!! 何故お前まで言うんだぁぁっ!! 透ぅぅぅっ!!

「やはりコハルはそうでないとな」

 顔を真っ赤にして――開いた口が塞がらない様子の僕に、透は笑いながら、しれっと――のたまう。

「やだ。ユウは渡さない」

 そして――エイルが僕を抱きしめて。

「ハーレムじゃないか……コハル。「コハルハーレム」と名付けよう」

 これはミーミルさん。

 


 こんなハーレムは嫌だァァァァっ!!!



 僕の心からの叫びに――みんなが大笑いしている。否――大爆笑をしている。

 涙を流してまで笑うやつもいる――笑いすぎて呼吸困難のやつもいる。

 最大威力の光弾をぶっぱなしてやりてぇぇ!!



「ハーレムなんてさせない。ユウは私が独り占めするから」

 エイルが余計に体を密着させて――すべての蟠りが消えた僕らに――遠慮はすでに存在しない。

 でも――みんなの前ではやめてほしいな、エイル。

 僕の精神衛生上――耐えることが難しいし、すごいストレスなんだけどな――。




 そんな時だ。

「……カーラ」

 嬉しそうな笑顔を向けて――元気な様子でカーラが廊下に立っていた。



「もう大丈夫なのか?」

「うんっ!! もう平気だよ。ごめんね、ユウ」

「いいや……本当によかった」

 僕が安心して――カーラに歩み寄って。



 ひゅっ――という風を音がした。

 あれ?と思う――差し出した右手に痛み――?



 カーラは微笑んだまま。

 僕の右手の甲からは――鋭利な刃物に切られた傷から――血が滴っていた。

「あれ。失敗しちゃった」

 いつもと変わらない――カーラの笑顔。



「下がってっ!!」

 エイルが僕を護るために一歩踏み出た。

 カーラは――エイルの視界から消える。

「……ごめんね……エイル姉さん」

 カーラの手に握られた短剣が――エイルの左胸に――深々と突き刺さっていた。



「エイルっ!! 」

 僕が叫んだ。

 左胸を抑えて――崩れるエイル。

 動きを止めたカーラの右手を――飛び出したサクソが掴んでいた。



「大丈夫よ、ユウ」

 僕の背後から――冷静なエイルの声?と――あれ?

 崩れ落ちたエイルの体は――ない。あ、そっか。

ミラー……だね」

「うん、そう」

 そうだったな。

 エイルは笑いながら、僕の切られた右手の治療を始めている。



「離せっ!! 痛いだろうがっ!! どうしてお前がここにいるっ!! 」

 今までのカーラとは思えない罵声が、カーラの両腕を掴んだサクソに浴びせかけられる。



 体を屈めて――カーラの右手から落ちた短剣を、アルヴィドさんが丹念に見つめていた。

「呪術を施した剣だな……どうしてこんなものをカーラが持っていたんだ? 」

 アルヴィドさんが、暴れるカーラを見上げていた。

「うるさいっ!! 返せっ!! それを返せぇっ!! 」

「まったくうるさいやつ……どうせそんなことをするのはウルズ父さんだろうよ。

 だったらその短剣は触らない方がいいぜ。たぶんそれを触ったやつにも呪いがかかる」

「えっ!? じゃ……僕もっ!? 」

「そうだな。もう遅いだろうけど」

 サクソに脅かされて、僕の顔色が青ざめる。

 すぐにアルヴィドさんとエイルが、呪術返しの魔術を施してくれた。



 そして。一瞬だった――。

 サクソの隙をついて、カーラが拘束された腕を信じられない力で振りほどき――瞬きほどの時間で落ちていた短剣を拾い上げ、構えていた。

「……ちっ」

 サクソが舌打ちをする。

「あははっ!! いつもお前はそうなんだよ、サクソ兄さんっ!! 

 すぐ油断するから、ドーマルディ兄さんに出し抜かれるんだっ!! 」

「……お前。今、言っちゃいけない名前を言ったな……」

 明らかに何かにとり憑かれているだろうカーラの言葉に、サクソの顔が強張り――すぐに無表情になった。

 やばい――完全に怒ってる!!



 そう言えば、サクソは弟のドーマルディに騙されて、自分も殺されそうになってんだっけ――普段から仲も良くなかったと、カーラも言っていたし。



「お兄さんにそんなこと言って……どうなるか教えてやるよ」

「お前がそんな台詞を吐くとは。つくづく似合わんな」

「うるせぇーなっ!! 」

 怒り心頭のサクソに、透がぼそりとツッコミを入れ――ますます怒らせていた。

 何やってんだかね。

 


 二人がそんなことやっている間に。

 カーラが僕に向かって短剣を振り上げ襲ってきた。

 どうも――僕が狙いらしい。そういうことなら――。

 僕は銀玉鉄砲を構えようとした。



 そんな時。 

 僕の一歩前に踏み出したのは――透だった。

「狙うなら俺を狙え。悠じゃ相手としては物足りないだろう? 」

 不敵な笑み。でもその言い方が、なんかムカつくってっ!!

 それでも透は僕を助けるために、カーラを挑発している。でも僕だって、前の僕とは違うんだ。

 透ばかりに任せてはいられない。



「コハル……」

 ミーミルさんが僕の肩に手を置いて、耳元で囁いた。

「ミーミルさん?」

「君のその……面白い武器だが、それは君の「念」を形にするものなのだろう?」

「はい……そうみたいです」

 そうだね。ミーミルさんの言う通りだ。

「トオルへ放った光弾は「追尾」という「命令」を与えていたと教えてくれたな」

「はい」

「……ならば、君の「想い」を具現化する力を持つものだろう。

 ならばあの娘に、「浄化」という「想い」を込めた光弾を放ってみてはどうだ?

 あれ程の破壊力を持つならば、同等の力を発揮を出来るはずだ。やれるか?」

 


 そうか……そうだ。

 アルヴィドさんも前にそんな話をしてくれた。

 僕の力には無限の可能性がある――と。

 僕はそれを「攻撃」するために考えてきた。でも――。



「はい。やってみます」

 ミーミルさんにそんな返事をすると、透が「相手は俺に任せろ」と僕に言ってきた。

「わかったよ」

「それでもあの短剣に直接触れるのは止めておけ。それは俺がやるから……」

 サクソが右手をカシャカシャ振りながら、僕と透に見せた。

「サクソの右手は、ドワーフ族が作り出した特殊な金属「ミスリル製」の義手だ。

 あれには魔術を増幅し、また魔術を無効化する力を持つ。

 サクソにはうってつての役目と言えるな」

「……カーラがムカつくだけだよ」

 義手の説明をしてくれたミーミルさんに、サクソが無愛想に答えた。



 ここで。突然透の体が、漆黒の鎧で包まれた。

「フェンリル。こんなことするほどではないぞ」

 驚いた透が、鎧を身につけさせたフェンリルに抗議をする。

―あの娘を甘く見るな。あの短剣の呪術はお前の力など簡単に奪うだけの能力を秘めている。

 我にはわかる。

 今はコハルとエイルはあの短剣に触れてしまったために、能力が幾分吸い取られているだろう。

 吸い取った力の分が、あの娘と短剣の力に加えられていると考えろ。

 となれば、そのぐらいの装備はしておいても無駄ではない―

「え……そうなの?」

 僕がフェンリルの話に驚いていると、フェンリルはうんと首を大きく上下させた。

 なんだか可愛いなぁ。

「フェンリルはなんて言ったの?」

 エイルにはフェンリルの声は聞こえない。

 僕はエイルたちにフェンリルの話を聞かせた。



「ますます厄介なもんだな。陰険な父さんのやりそうなことだ」

 サクソが嘆息した。

 この間も、透はカーラと数度交えている。



「くそっ」

 珍しく――苦しそうに透が言葉を吐き出した。

「武器を交えるだけで力を持っていかれるみたいだ。

 体が重くなってきた……」

「それはいかんなっ」

 慌てたミーミルさんに、僕は銀玉鉄砲をカーラに構えた。

「捕縛は私に任せて」

「……ごめんね。頼む」

「うん」

 僕の両肩に手を当てて――エイルが僕の力へと同調を始めた。

「浄化!! 」

幻術牢獄ミラージュ・プリズン

 僕とエイルの声が同時に響く。

 




 放たれた光弾は――七色――虹の軌跡を宙に描きながら、カーラの元へと向かっていった。


 



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