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第45話 僕とエイルさんの本音

「私たちの祖先が「オーディン」が率いる「アース神族」に戦いを挑んだことには、「アースガルズ」の主導権の争いだったのだが……力に勝る「アース神族」に完敗した。

 その時、祖先はすぐには「アースガルズ」から出て行くことはせず、「オーディン」をはじめとした「アース神族」は、我らの祖先を手厚く迎え入れた。

 


 しかしそれは、やつの企みだった。

 「アース神族」は我らとの戦の他に、「ウートガルズ」、「トリルハイム」などとの世界との戦いやその覇権争いも抱えていた。

 そこでやつらが考えたことは、その戦いを我らの祖先に押し付けることだったのだ。

 我らの祖先には、「ヴァナヘイム」という「アーズガルズ」の同じ世界に国を作り、そこに住まわせた。

 そこに徐々に「ウートガルズ」、「トリルハイム」……ユグドラシルを傷つけるニーズヘッグなどの魔物……これらの驚異が現れ始めた。

 その直後からだったのだ。

 「ヴァナ神族」に「男」が多く生まれ始めたのは……」



 ここで――前島くん――透が反応した。

「今の「エルフ族」と逆のことが起こったということですか?」

「トオルやミストには……ヘーニルから口止めされていたこともあってな。今まではなさなかったが。

 私たちの祖先が、それが「オーディン」からの呪いと気がつくまでに数百年の時間を要した。

 生まれる子供の七割が男、それはどう考えても異常だ。

 私もその世代に生まれたのでな……友達はほとんど男連中だった。

 もしそれを祖先が……気がつかなかったらどうなっていたと思う?」

「……戦う道具にさせられた……と?」

「その通りだろうな」

 前島くん――いや――透の答えに、ミーミルさんが小さく頷いた。



「私たちの行く末は今の「アルフヘイム」だったと言っていいだろう。

 「エルフ族」は神に近き種族だ。

 「オーディン」は今度、それに目をつけたのだろう。

 そして「エルフ族」の女性の比率をあげ、女性が過剰な世界を作り出し……自分をより崇拝させることで、意のままに操る「傀儡」、「ヴァルキュリア」を生み出した。

 だがエルフ族は元々「民」の数があまり多くはない。

 それを補うのが……「エインヘリヤル」。人の中から、「使える」者たちを選び出し、「ヴァルキュリア」の戦力として使うのだ。

 そしてその中でも目覚しい活躍をした者は、己の手足として「アース神族」へと迎え入れる。

まがりなりにも「神」となれるわけだ。その者にとっては「名誉」と考えるだろうが、「オーディン」や「アース神族」にとっては、自分たちの手足となって戦う戦士を手に入れることが出来るわけだからな。

 それはそれは丁重に扱ってはくれるだろうよ。

 それを「ヴァルキュリア」は「真のエインヘリヤル」と言って有難がる。

 持て囃す。そしてますます大事にしてくれるというわけだ。

 トオル、コハル。お前たちはおそらく「オーディン」にその「真のエインヘリヤル」とやらに選ばれているはずだ。

 トオルにはフェンリル。コハルには三人の「ノルン」。十分すぎるほどの高待遇でお前たちに力を与え……それと同時に、お前たちに数々の試練を与えて「ウートガルズ」や「トリルハイム」を倒させ……ゆくゆくは「アースガルズ」に迎え入れる所存と考えているだろう」

 ここでミーミルさんが小さく息を吐き出した。

「エイル。君はコハルの「ノルン」であることに「誇り」を持っていると言ったな?

 だがコハルの答えはどうだった?

 「きみは僕の恋人だ」と答えたのだぞ。

 コハルは君を一人の女性として見ているのだ。

 君は「オーディン」が己の傀儡として操るために作り出した「ヴァルキュリア」という戦いの道具として生きてきた。君の姉上は同じ「ノルン」としての使命に殉じたと聞いている。悲しい現実だ。

 君は自分がコハルにとって「ノルン」という特別な存在だから、彼を愛してきたのか?

 それとも君個人が彼を愛しているのか?

 もしも前者というのなら、それはコハルにとって大変失礼な話だろう。

 それでも君は「ノルン」という自分の立場を護らねばならない理由があるのか?」

 それを聞いたエイルは――顔を俯かせて――泣いていた。



「エイル……?」

 僕がエイルを覗き込む。

「失いたくない……ユウを……失いたくないの」

「……エイル」

「いや……姉さんはいつも泣いていた。「ノルン」になったことを嘆いていたんじゃない。

 愛する男性に振り向いていないことに泣いていた。

 体だけの関係でも……姉さんにとっては幸せだったのかもしれない。

 私には最初、その意味がわからなかった。それでも……今はわかる。

 ユウは私のすべてだから……」

「……エイル……」

「コハル」

 エイルを抱きしめようとした僕に――ミーミルさんが声をかけた。

「それが……「オーディン」によって「傀儡」とされた者の考えることだ。

「依存」。エイル……そしてその姉。彼女たちにとって「エインヘリヤル」は命を賭した「すべて」。「依存」すべき対象なのだよ。それが「神」なのか「エインヘリヤル」なのか。その程度の違いだ。

 それはエイルの本音だろう。だが、それは「ヴァルキュリア」――「ノルン」として彼女に言わせていることでもある。

 彼女がこの幻想から目覚めぬ限り、君に依存し続ける。

 そして君に捨てられることを何より恐れ……君に尽くし続ける。

 これが「オーディン」が望み作り出した「ヴァルキュリア」の正体だ。

 そして……私がもっとも嫌悪する世界なのだよ」

「違うっ!!違うのっ!! 私は……誰にもあなたを渡したくないっ!!

 私だけのものにしたいだけっ!!」

 


 ミーミルさんの話に――驚いていた僕に、それを全力で打ち消そうとエイルは叫んでいた。

「……そうならそうと……初めからはっきり言えばいいのに。

 何度も言ってはくれていたけど。いつも控えめすぎるから……。

 僕は知ってるよ。君が「僕だけ」を見て……自分の思いで「僕」を愛してくれていること」

 そう……エイルは自分のそんな嫉妬に狂った想いを僕に知られたくなかったんだ。

 僕に嫌われるのが――怖かったんだ。それは「ノルン」という使命だけじゃない――誰にでもある感情だと僕は思う。

 だから「ノルン」や「ヴァルキュリア」という――言葉のオブラートに自分の想いを包み込んで話していた。

 僕がそれに気がつかないとでも――考えていたのかな?

 


「……ユウ……」

 

 エイルは僕の飛び込んで。

 僕はしっかり彼女を受け止めて。



「ミーミルさん。どうやらあなたの心配は当てが外れたようですね」

 前島くん――透が肩透かしを食らったように、脱力しているミーミルさんに笑顔で話しかけた。

「これがお前の親友ともか。トオル」

「ええ。そうですよ」

 前島くん――透――え? さっきから前島くんの呼び方をどっかにしろって?

 すみません。じゃぁ――「透」とさせてもらいます。

 透も僕のこと――「悠」って呼んでくれるようになったので。



「けぇ――っ」

 気に入らないように、サクソが舌を出して――嫌がっていた。

「だったらお前も愛する人を作ればいいだろう」

「知るかっ!! 余計なお世話だっ!! 」

 透にツッコミを入れられて。サクソはキレていた。




◆◆◆




 カーラは自分の部屋で――父、ウルズの幻影に押し付けられた短剣を両手に、ベッドの上で半身を起こして見つめていた。



「……出来ないよ……」

 カーラの瞳が潤む。

 ずっと――ずっと悩んでる。でもウルズの言う通りにしないと、母様が殺されてしまう。



―我が娘カーラよ。お前に少しの勇気と力を与えてやろう。確実にその想いを遂げられるように……―

 カーラの耳に――ウルズの声が響いた。

 カーラは自分の意思ではない――勝手に両手が短剣を鞘から抜き出していた。

―さぁ……見つめなさい。お前の新たな力を……―

「な……なに?」

 短剣が真紅の輝きに彩られた。

 心の中に――急にその光に対する恐怖のような感情が湧き上がり――それは、両手へと拡大する赤き光の不可思議な力によって、強制的に打ち消されてしまう。



「……あ……ああ」

 カーラはその輝きに目を離すことが出来ず――その輝きが消滅してなお。

 呆然と両手に持つ短剣に、その魂でも吸い取られたかのように――魅入られていた。



「そうだね……ユウを殺さないと……」

 カーラの口から滑り出す「言霊」。



「って……あれ? 」

 不意に――意識が戻った。今のは何だったのか? 誰かの声が聞こえたような?

 ほんの一瞬、違和感と戸惑いを覚えたが――カーラはすぐに我にかえった。

 


 そしてあれ程悩んでいたことが、嘘であるかのように――体が軽くなった。

 悩んできたことも――すっかり――どうでもよくなった。

 くよくよ悩んでも仕方ないのだ。

 やるしかないのだから――。「何を? 」



 まぁいいか。

 みんなが心配しているはずだ。

 戻らないといけない。エイル姉様にもスクルド姉様にも――ユウにも。

 そうだね。ユウにも私の元気な姿を見せないと――。

 


 カーラの口元には、大胆な微笑みが浮かんでいた。

 きっと僕がその時のカーラを見たら――いつものカーラじゃないと感じるだけの、怪しさと不審な様子を漂わせていただろう。




 カーラはそう思いつくと、鼻歌でも歌いだしそうな上機嫌でベッドから飛び降り――僕に会いに部屋を飛び出していた。



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