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第43話 僕とミーミルさんと再会のとき

 「ヴァルハラ」へと近づき、僕はひとつのことに気がついた。

「結界の中に、ミーミルさんは入れるのかな?」

「ん……何か言ったか、コハル?」

 僕のことをいつの間にか「コハル」と呼んでいるミーミルさん。

 ――ってか。あれ――っ!!?

「ミーミルさんっ、結界の中にっ!?」

 入ってる??カーラにはエイルが寄り添い、ミーミルさんは自分のリンドブルムに戻って、僕らについて来てくれていたんだけど――。

 ミーミルさんはすでに真紅に輝く「ヴァルハラ」の結界の中に入り込んでいた。

「……まだ「神」が我らに、「ユグドラシルの守護者」としての役割を剥奪してはおらぬということだろう。

 予想はしていたが……いつまで我らを「手先」扱いすればよいのだろうな……「アース」の神々よ」

 ミーミルさんが呟く言葉の半分は――僕には意味がわからない。



「……ユウ。エイル。ミーミルさん率いる「ヴァナ神族」は、その昔「オーディン」率いる「アース神族」と袂をわかって「ヴァナヘイム」を異界へ封印し、「アース神族」はもちろん、他の種族からもわからないようにひっそりと生きてきた種族なの。

 袂をわかつ前……今の私たち「アルフヘイム」で暮らす「エルフ族」が担っているこのユグドラシルの守護のことや、「ウートガルズ」のような闇に堕ちた種族と戦うことなどは、

「ヴァナ神族」が担っていた役割だったらしいの。

 ミーミルさんがここへ来た目的のひとつは、今だその役割が「アース神族」によって反故にされているかどうかの確認でもあったらしいわ。

 この「ヴァルハラ」も、元は「ヴァナ神族」の管轄だったそうだから……。

 ミーミルさんがこの結界の中に入れたということは、今だ「ヴァナ神族」もこの「ユグドラシルの守護者」としての使命を与えられたままということになるの」

 ミストさんが僕らに説明をしてくれた。

 


 ミーミルさんたち「ヴァナ神族」が「アース神族」と別れなきゃいけなかった理由ってなんなのだろう?

 でもそのせいで、「ヴァナヘイム」は長いことどこにあるかわからなかった訳だから――。

 複雑な理由があるのだろうな――きっと。




◆◆◆




「コハルっ!!」

 「ヴァルハラ」に戻るなり、アルヴィドさんが血相を変えて僕の元に走ってきた。

「アルヴィドさんっ!!」

 僕がそんなアルヴィドさんに驚いていると――アルヴィドさんが――ミーミルさんの姿を見て、急に立ち止まった。

「あなたは……「ヴァナヘイム」の指導者、ミーミル様とお見受けいたします」

 右手を左胸に軽く当て――敬意を表す形でアルヴィドさんが軽く頭を下げる。

「「ヴォルヴァ(神託の巫女)」か。そんな堅苦しい挨拶はいらぬ。

 「オーディン」は我らのことを何か言っていたか?」

 どこか嫌味にとれるミーミルさんの言葉。

 アルヴィドさんは、そんなミーミルさんを一瞥しただけで、すぐ僕へと視線を向けた。

「トオルがこの地へと戻り、我らに力強い援軍を連れてくる。それが「ヴァナ神族」である……と

だけ。

 ですがその後に、コハルに危機が迫っていると」

「僕に……ですか?」

「ああ」

 


 ここでカーラの体が小さく揺れたことに、僕は気がつかなかった。



「半年前のトオルのこともあり……心配でなりませんでした。

 トオルの時はその神託を生かせなかったことを悔いておりましたので、コハルはそのようにしたくありません」

「具体的どんな感じの「危機」なのか?」

 ミーミルさんとアルヴィドさんのやり取り。ミーミルさん――さすがは「指導者」を名乗るだけあって、迫力が違う。

「何だ……君のことを心配しているんだぞ、コハル」 

 僕の視線に気がつき、ミーミルさんがそんなことを訊いてきた。

「いえ……ミーミルさんって迫力あるな……と」

 一瞬の間――でもそれはミーミルさんの豪快な笑いによって打ち消された。

「君は本当に面白いなぁ、コハルぅっ!!ヴォルヴァの「ヴァルキュリア」よ。

 コハルなら大丈夫だろうっ!!「危機」を「危機」として受け取らぬようだ」

「それって――僕が「バカ」ってことじゃないですかっ!?ミーミルさんっ!!」

「許せ、許せ。いやぁ。トオルも変わったやつだとは感じていたが……君はそれに輪をかけて愉快なやつのようだっ!!」

 まるで新しい玩具でも見つけたように――愉快そうに笑うミーミルさん。

 


 でも――こんな人だからこそ。前島くんたちはやってこらてたのかもしれない。

 こんな人だから、その想いを受け取ってくれたんじゃないかな?



 僕は大笑いするミーミルさんを見ながら――笑われるのは嫌だけど――そんな気持ちになっていた。

 僕とミーミルさんのやり取りの間も、カーラはずっと俯いたまま。

 エイルは心配そうな――それ以上に何か思いつめて様子でカーラを見つめていた。




◆◆◆




 カーラを自室に寝かせ――エイルが集会室に戻ってきた。



「大丈夫だった?」

「「睡眠」の「呪文スペル」をかけたから、しばらくは起きないと思う。

 相当疲れているみたい。あの子も無理をしてきているもの」

 僕が戻ったエイルに尋ねると、エイルの表情は辛そうな様子だった。

「君らも疲れているだろう。トオルたちが戻ったら知らせてやるから。

 少し休んだらどうだ?それともエイルと一緒じゃないと寝られないか?」

「あのぉ……それどういう意味ですかっ!?」

「すまん、すまん。トオルとミストを見ていたのでな。君らも仲が良いのではないかと思ったのだ」

 絶対嘘だっ!!完全に僕を面白がっているっ!!

「そんな目で見るな。本当にからかいがいのあるやつだ」

「認めないでくださいっ」

 ミーミルさんの方がずぅっと面白いやつだっ!!

「ミーミルさんもこう言ってくれているわ。少し休みましょう……ユウ」

 エイルが懇願するように僕を見つめてくる。

「……そうなんだけど。前島くんたちが戻るまではここにいるよ。

 それに……みんなが無事かどうかも確認しないと、休めそうにないし」

「……わかった」

 僕の想いに納得してくれたエイルが、僕の隣の椅子に腰掛けた。



「どうやら君がトオルの留守の間に、この「ヴァルハラ」を支えていたらしいな。

 素直な性格は楽しいが、立派な戦士であることに変わりはないようだ。

 あの力といい――ここの「ヴァルキュリア」たちもどれほど君を頼りにしていたか。

 容易に想像が出来るな」

 先ほどとは違う優しい笑顔のミーミルさん。

「そんなこと……ありませんよ」

 僕が自嘲すると。

「いや。その通りです、ミーミル殿。

 彼の存在が私たちの支えでした。この半年……「ヴァナヘイム」で頑張っていたトオルもそうでしょうが、彼の頑張りも、私たちが今までやってこられた大きな要因でした」

 アルヴィドさんの言葉。褒めすぎですよ、それ。

「なるほどな」

 


 そう言って、ミーミルさんが僕を見て――目を細めた。




◆◆◆





 突然、沈黙を破って――慌ただしく石作の廊下を走る足音が近づいてくる。



 まるで蹴破るように――ドアを激しく開け放ち――前島くんが入ってきた。

 荒い呼吸を整える暇もなく。

 すでに鎧は解かれ、普段着のまま。肩を大きく上下しながらも――僕に近づいてくる。



「前島……」

 僕が立ちかけると――前島くんに抱きしめられた。

「会いたかったっ!!」

 ちょ――あの――痛い、痛い、痛いっ!!

 前島くんっ!!力込めすぎだよぉっ!!

 


「恋人同士の抱擁より……暑苦しいな……」

 感動というより――苦しむ僕の顔を見て――「ヴァナヘイム」の人たちがぼやいてる。



「まえ……痛いって……っ!!」

 仕方なく、僕は一度力づくで前島くんを引き離す。

 本当に――コメディだろぉ、これじゃ。

 


 と、ここで。前島くんの顔を見て――僕は瞳を見開いた。

 泣いている――。

「なんだ……ずいぶん力をつけたんだな」

 涙を拭うこともなく。前島くんが笑顔で――僕を見ている。



「鍛え……たんだ……」

 ダメだ――。僕もこれ以上――声が。

 わかってる。僕も――泣いているんだ。



「よく……頑張ったな……」

 もう一度――今度は優しく僕を抱きしめて。

 僕は――涙を見られたくなくて、前島くんの胸に顔を埋める感じになる。



「今度は恋人の抱擁か」

 そのツッコミ――なんか嫌なんですけど――。

 あとでこの台詞を吐いたのが、「ヴァナヘイム」の将軍であるクヴァシルさんという人だと知った。

 でもおかげで、前島くんとの再会に集中出来なくなったのは確かだ。



 前島くんはこういうことに無頓着な男だし。

 気にすることなく、僕を抱きしめたまま。



 でも――それでも。やっぱり嬉しい。

 僕だって、嬉しいよ。君が生きていてくれたことがすごく――嬉しい。



「そうだ。これをお前に返さないと」

 急に思い出したように。

 前島くんが僕から離れて――握ったままの右の手のひらを差し出した。



「……これは」

 前島くんの手に握られた――小さな光。

「お前が放った「光弾」だ。ずっと俺の傍にいたんだぞ。

 これのおかげでお前が無事で……頑張っていることがわかっていた……。

 だから俺も……頑張れたんだ」

 だから――戻らなかったのか。

「追尾」とだけ命じた「光弾」。

 ずっと前島くんを「追尾」していたんだ――ずっと。



 僕は何も言えなくて。また前島くんが無言で僕を抱きしめた。

 どれだけ熱い男なんだよ――君は。

 そして――どちらからともなく、漏れる嗚咽。

 気がつくと、僕らは声を上げて泣いていた。

 


 そして――誰も僕らのことにツッコミを入れることなく。

 この再会を見守ってくれていた――。

 



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