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第42話 僕とカーラ

「トオルが戻ってきたっ!!ミスト姉様もフレキもいるっ!!」

 カーラが喜んでいる。

 前島くんも、ミストさんもカーラの面倒をよく見てくれていたから。



 カーラはまず僕らの傍にいるミストさんとフレキに近づこうと――した。

 


 だがそれは、何者かによって阻止されてしまう。



 自分しか乗っていないワイバーンの背に、何者かにより背後から首を押さえ込まれ、体の自由を奪われた。

「くそ……」

 まさかこんなところにトロルがいたのか?

 カーラが自分を抱え込む輩の腕を見た。

 


 ――それはトロルのものではない。


 

 銀色に輝く――左手の義手だった。



「だ……れ?」

「随分とつれないな。お前の父さんだろう?」

 耳朶に響く――低くまとわりつく様な嫌悪を感じる声。



「ウルズ父さん……」

「探したんだぞ、カーラ。お前がここにいるのは知っていたが、「ヴァルハラ」が結界に包まれてからはお前の気配が途切れてね。

 だがお前の選んだ「エインヘリヤル」のおかげで、こうして魔力を増幅する義手を手に入れた。だからお前の正確な位置がわかったんだよ。

 まったくお前は親孝行な娘だ」

 首と右腕を掴まれ――カーラの小さい体は、完全にここにいるはずのないウルズにしっかりと押さえ込まれてしまっている。



「お前に頼みたいことがあるんだ、カーラ」

「嫌だ……父さんは嫌いだ」

「嫌いでもいいよ。ただ……お前の大好きな母様がどうなるか……」

 その言葉を聞かされ――カーラの動きが止まった。

「お前……母様をどうしたっ?」

「父さんに向かって「お前」なんて……完全にヴェルダンディは甘やかしているな。まぁいい。

 その母様は、今スリュムに捉えられている。

 私はそのスリュムに脅かされていてね。「エインヘリヤル」を殺さないと、ヴェルダンディを代わりに殺す……と。

 そのためには、お前の力が必要なんだよ。カーラ……わかるだろう?」

 カーラの体が小刻みに震え始めた。

 大好きな母様が殺される――。



「いいかい、カーラ。お前にこれをやろう……」

 カーラの力が抜けたところで、ウルズが一本の短剣をカーラに差し出した。

「これは「エインヘリヤル」や「ノルン」の魔術を無効化し、その命を奪う力を持つ、ミスリル製の特別な短剣だ。

 これでお前の「エインヘリヤル」たちの命を奪え。

 そして母様を助けてやってくれ……」

 押し付けるように、鞘に収まっている短剣をカーラの両手に握らせる。

「いいか?失敗は許されない。私はあの結界の中には入れない。

 お前だけが頼りなんだよ。

 そしてあの結界の中なら、「エインヘリヤル」たちも安心している。

 そこを狙うんだ。確実に……そして誰にもこの話はしてはいけない……いいね」

 カーラが口を開くまもなく――ウルズの姿は掻き消える。

 だけど。カーラの両手にだけは、しっかりとその短剣だけが残されていた。

「……母様」




◆◆◆




「いつまでも……泣いていられない」

 僕は頬に伝う涙を拭った。

「……私も大丈夫よ」

 エイルも僕を気遣うように、後ろから声をかけてくれる。

「……やろうか」

「はい」



「ミストさんっ!!」

 僕はフレキに乗るミストさんを呼ぶ。

「光弾を撃ちます」

「体はもう……大丈夫なの?」

「はい」

 僕の返事に、ミストさんは満足げな笑みを浮かべた。

「わかった」

 そしてフレキをヨルグの横へと移動させる。

 僕は――銀玉鉄砲を構えた。

「殲滅、拡散×残りの体力分……全力」

 変な言い方だけど――仕方ない。

乱反射プリズム

 後ろのエイルが笑いながら――僕の呪文スペルの後に続いた。

 僕は少し照れながら――構わず光弾を放った。




◆◆◆




 悠の光弾が見事に「ヴァナヘイム」の翼竜を避けながら拡散していく。

 そして――鏡に当たって反射したかのように、直角にピンポイントで「トリルハイム」の翼竜――フレスヴェルグを撃ち抜いていく。

 これはどうもエイルさんの力らしい。

 俺がいない間に、こんな力を使えるようになっていたのか――俺は素直に悠の成長を喜んだ。

「お前の親友……やるなぁ」

 クヴァシルさんが、光弾の威力とその使い方に感嘆している。

「ええ。これが俺の親友ともです」

 俺は笑顔で応えた。誇らしげに――。

「お前の力じゃないだろうに」

 苦笑いのクヴァシルさん。でも――俺の想いを知っているからこそ、それ以上は何も言わなかった。




◆◆◆




「ほう……これが今代のもう一人の「エインヘリヤル」の力か。見事なものだ」

 この人は?

 僕らの傍に、リンドブルムという「ヴァナヘイム」にいる翼竜に乗った男の人がやってきた。

「この方が、私たちがお世話になった「ヴァナヘイム」の指導者……ミーミルさんよ」

 さり気なくミストさんがその男性の紹介をする。

 指導者って、「ヴァナヘイム」で一番偉い人――ということだよね?

 僕が「ど……どうも」と慌てて頭を下げると、ミーミルさんは大笑いを始めた。

 きょとんとそれを見ている僕に、ミーミルさんは「トオルの言った通りだな」と余計に笑っていた。



「なるほど……素直な少年だ。

 トオルたちはすぐにでも君たちに会いたかっただろうが……それを堪えて、敢えて君たちを助けるために「ヴァナヘイム」に留まり、我らに力を貸してくれた。

 どうか、トオルたちを責めないでほしい」

「そんな……責められるわけがありませんっ!!」

 僕が即答すると、ミーミルさんは安心したように――笑顔になる。

「安心した。私たちはトオルたちの恩義に報いるためにも、「ヘイムダル」に協力したいと思い、ここに来たのだ。それを君からこの「ヘイムダル」の隊長「ブリュンヒルド」殿に伝えてもらえないだろうか?」

「……はいっ!!」

 ミーミルさんの申し出に、僕は体が震える思いがした。

 


 前島くんたちは――こうなるようにするために、半年間も「ヴァナヘイム」にいたということなんだ。

 僕がミストさんを見ると、ミストさんは何も言わず――ただ頷いていた。



「カーラ……大丈夫だった?」

 僕らのところにカーラがやってくる。

 それも――酷く元気のない様子で。

「大丈夫……カーラ?」

 ミーミルさんとの話を中断し、僕もエイル――ミストさんも顔色までよくないカーラを心配してしまう。

「うん……少し疲れたみたい」

「それはいかん。力を酷使したのだろう。我らがもう少し早く到着すればよかった……。

 大丈夫か?」

 わざわざカーラのワイバーンに飛び移ってまで、ミーミルさんはカーラを心配してくれる。

 どれだけ心の優しい人なんだろう――いくら前島くんとミストさんへの恩義があるっていっても、見ず知らずの人にここまで普通、この立場の人ってするものなのだろうか?

 なんて感心している場合じゃない。

「うむ。あまりいい状態ではないな。酷く体力を消耗しているようだ。

 すぐに休んだ方がいいな」

「ありがとうございますっ!!一度「ヴァルハラ」に戻ろう、カーラ」

「……うん。そうする……せっかく、トオルやミスト姉様たちが戻ってきたのに……ごめんね」

「いいのよ。それより、敵の方も落ち着いたようだし……このまま「ヴァルハラ」に戻りましょう」

 そのままミストさんが僕らを見たので、僕は頷いてカーラの乗るワイバーンに飛び移ろうと――して、よろけてしまう。

「君もあれ程の力を出し尽くしているんだ。体力も限界なんだろう?」

 ミーミルさんがカーラを支えながら――苦笑いしている。

「そうでした……すみません」

 そうか。僕も――考えてみればそうだった。

「君も面白いやつだな」

 ミーミルさんに笑われた――。



「無理はしないで」

 エイルにそっと囁かれて――僕は苦笑いで頷いた。

 

 



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