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第41話 僕と前島くんと「ヴァナヘイム」のみなさんと

「……前島……くん」

 


 間違いない――間違うはずなんか――ないっ!!



「なんて顔をしてるんだよ。悠」

 え? 前島くん――今、僕のこと?



「ぼさっとしている暇はない。敵はまだいるんだぞ……悠」

 僕は――右手をぎゅっと――力強く握り締めた。

「ああっ。わかってるさ、透っ!!」



 エイルの手を引いて――立ち上がる。



「久しぶりね、ユウ」

 フレキの上から――ミストさんの笑顔。

「ミスト……生きていてくれたのね」

「ええ。すぐに来られなくてごめんなさい……姉さん」

 今にも泣き出しそうなエイルに、ミストさんは笑顔のまま答える。



 みんな――いる。みんな――生きてるっ!!



「行くよ……エイル」

「はい……ユウっ!!」

 エイルの声が一段と力を増した。



「戦いは……これからだっ!!」

 前島くんが――不敵な笑みを浮かべる。

「ああ。僕らは負けないっ!!」

 僕は前島くんに――力強く応えた。




◆◆◆




「「ヘイムダル」の方たちとお見受けするっ!!」

 勇ましく――聴く者たちに凛々しさと安堵の思いを感じさせる――よく通る男性の声が響いた。



 「ヘイムダル」の――そしてルイーズさんたちが、その声の主へと視線を向けた。



 それは五百を越える「翼竜」の部隊。

 けして「アルフヘイム」からの援軍ではない。

 見慣れない翼竜。

 まさか――新たな敵なのか――「ヘイムダル」の「ヴァルキュリア」たちに戦慄が走る。



「私は「ヴァナヘイム」の指導者、ミーミルと申す。

 我らが盟友トオルの要請を受け、貴女方の援軍として参上した!!

 よくぞその人数で耐えられた!!

 今より「トリルハイム」の輩は我らが引き受けよう。貴女方は休んでいられるがよいっ!!」

 銀色の鎧の戦士――「ヴァナヘイム」の指導者ミーミルを名乗る男性が、疲れ果てた「ヘイムダル」の戦士たちに、笑顔で来訪の目的を伝え、それを合図に「ヴァナヘイム」の翼竜――リンドブルムの部隊が一斉にフレスヴェルグに戦いを挑んだ。



「……これは……」

 僕が呆然と見つめていると、前島くんが乗る狼がヨルグに近づいてきた。



「ギュイ――」

 ヨルグが警戒の声を上げる。

「大丈夫だよ、ヨルグ」

 僕がヨルグを宥める。



―我はトオルの「仲間」だ。コハルよ。名をフェンリルと言う―

 狼が僕に話しかけてきた。



「君は……フェンリルと言うのか。コハルって……それ、前島くんに教えられたんでしょ?」

 僕はどうしても苦笑いになってしまう。

―本当だ、トオル。コハルには我の声が伝わっている。さすがは獣に好かれる男だ―

「……何、それ?」

 僕にフェンリルの声が伝わっているって――どういう意味?



「何を一人で話しているの?」

 エイルが不思議そうに――というか、心配そうに僕を覗き込んでいる。

「え?だって今……このフェンリルの声が聞こえたじゃない?」

 ここで、何故か前島くんとミストさんが笑い出した。

「はっ!?」



 ミストさんが笑いを堪えながら、フェンリルの声を聞くことが出来るのが前島くんだけだ――と教えてくれた。

 でも僕にも聞こえたんだけど――?

「俺にも詳しい理由はわからない。フェンリルにもだ。だが、お前にならわかるかもしれんとフェンリルには話していた」

「そう……何だ」

 よくわからないけど――。



「さて。こんなことを話している暇はない」

―そうだな。我らも敵を蹴散らしに参ろう―

「ああ。悠……お前たちはここで休んでろ。ミスト。悠たちを任せた」

「大丈夫よ。任せて」

 前島くん――ずっと僕のことを「悠」って――呼んでくれている。

 そしてミストさんも。



「大丈夫だよ。僕も戦場に出る。これは僕らの戦いだ」

 僕はヨルグの背に立ち上がる。

 前島くんばかりに頼れない。僕はそのためにここにいると決めたんだ。



「わかった。だが、今は無理だ。少し休め……体力が戻ったら援護を頼む」

「……わかったよ」

 確かに。僕らの体力はまだ戻っているわけじゃない。

 体力が少しでも戻るまで、ここは前島くんたちに任せるしかなさそうだ。



「行こう、フェンリル」

―ああ―

 前島くんとフェンリルが、戦場の中へと飛び込んでいく。



 前島くんが――ミストさんが。僕の沈みかけていた心に力が漲ってくるのがわかる。

 生きていてくれた――こうして会いに戻って来てくれた。

 溢れそうになる涙を堪えることに精一杯だけど。今は泣いてなんかいられない。

 今は――。溢れる涙を気にすることがないよう、僕は自分にそう言い聞かせた。




◆◆◆




「しつこいぞぉ、貴様らぁぁっ!!」

 クヴァシルさんの振るう剣だけで――フレスヴェルグの数頭が分断される。

 どれほどの猛者なのか。

 ブリュンヒルドさんたちが呆然と見つめる中、「ヴァナヘイム」の勇士たちの戦いが繰り広げられていた。

 それは――「ヴァナヘイム」側の桁違いな戦力に、「トリルハイム」側が徐々に「ヴァルハラ」から遠のき始める。



「うぉぉぉぉっ!!」

 俺もトネリコの棒を思いっきり振り回し――クヴァシルさんたちに負けじとフレスヴェルグを仲間への恨みを込めて切り裂いていく。

 トネリコの棒の長さを倍と化し、数頭を一度に切り倒す。

 一頭残らず――ここから殲滅するまで。



 悠たちが驚きを隠せない様子で俺たちを見つめる。

 あの疲れ具合からは、敵は今以上いたに違いない。

 後退を余儀なくされながらも、あいつらは耐え続けたんだ――。

 その礼は俺たちから、「トリルハイム」の連中にたっぷり味あわせてやるっ!!



 ミストが悠たちにフレスヴェルグを近づけまいと、酸性の雨を降らせ始める。

 俺たちには害を及ぼすことがないよう、絶妙な規模で、フレスヴェルグへ攻撃を加えていく。

 


 俺は逃げ回るフレスヴェルグたちを見据え、フェンリルと共に追いかけた。




 ◆◆◆



 

「トオルが……「ヴァナヘイム」の軍を連れて戻ってきてくれた……」

 ブリュンヒルドさんが安堵のため息と共に――そう言葉を吐き出していた。

「本当に助かった……玉砕を覚悟していたからな」

 ゲンヴォルさんも疲れきってはいたけど。笑顔で戦況を見つめている。

 「ヘイムダル」のみんなも――生きて戻ってきてくれた前島くん、ミストさん、フレキの姿に感激し、「トリルハイム」の軍を圧倒的な強さで退ける「ヴァナヘイム」の「翼竜部隊」を頼もしそうに、嬉しそうに見ていた。



「……よかった……本当に」

 ルイーズさんが呟く。

「本当に。彼が……アーサーが導いてくれたのかもしれないな」

 ウェインさんが自分の腰に下げている、細身の剣の鞘に右手で触れていた。

 


 それがアーサーさんの形見の剣だということを僕が知るのは――もう少し後のことになるけれど。

 


 この時の僕は、前島くんが生きていてくれたことに――嬉しさを隠せず、涙で歪み視界で、彼の戦いをしっかりと瞳に捉えようとしていた。



 


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