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第40話 僕と漆黒の戦士

「何だ……あの数は……」

 ゲンヴォルさんが――呆然と言葉を吐き出した。



 今まで飛来した数の――三倍以上はいる。

 ついこの間でさえ、みんなでやっとだったと言うのに――千は越えているかもしれない。



「「トリルハイム」のやつら……このままでは埒があかないと、勝負に出てきたのか」

 ウェインさんの表情が冴えない。

 それでも僕らは――戦うだけだ。



「僕が敵の数を減らしますっ!!みんなはそれまで前面に出ないでっ!!エイルっ!!」

「はいっ!!」

乱反射プリズムを頼む。僕は最大級の「光弾」を撃つから」

「……はいっ」

 一瞬僕を見て――僕のことを心配してくれたんだろうけど、エイルはこの状況を受け入れてくれた。

 これにはエイルにも負担が大きい。でも――そんなことは言っていられないっ!!



 ゲキに乗っていたエイルは、僕と呼吸を合わせるために、ヨルグに飛び移る。

 それと同時に、ゲキにはスクルドさんが乗ってきた。

 


 一発も無駄には出来ない。少しでも敵の数を減らす。

 結界で弾かせないためにも、威力は最大級に――撃つっ!!

「殲滅、拡散×全力っ!!」

乱反射プリズムっ!!」

 僕とエイルの声が重ねるように発せられて――僕の銀玉鉄砲から特大の光弾が撃ち出される。

 


 敵の前で光弾が四方に拡散し、それを空間に作り出された「鏡」が反射させていく。

 敵の数が多い分――逃げ場は限られる。

 そのまま撃ち抜けっ!!

 


 僕の願いのまま――拡散した光弾は一発も外れることなく、大量のフレスヴォルグを撃ち抜き、その数を減らしていく。

 それでも二百程度か――。



 激しい疲れを感じ――僕は大きな息を漏らした。

「よくやったっ!!少し休んでろっ!!

 後は僕たちに任せてくれっ!!」

 ウェインさんの声が聞こえる。

「お願いしますっ!!体力が回復しだい、援護しますっ!!」

「ああっ!!」

 ウェインさんを始め――ルイーズさん、ブリュンヒルドさんたちが飛び去っていく。



「ユウ。すぐに体力回復を……」

 僕の後ろにいるエイルが――そう言って、すぐに体力回復の「呪文スペル」を口にしかけるのを、僕は振り返ると同時に右手の人差し指で軽く押し当てて止めた。

「君も疲れてる。僕は大丈夫だ……この半年の間、みんなに鍛えてもらったんだよ。

 僕を信じて……。ね……エイル」

 僕は笑顔でエイルに言い聞かせた。

「……何だか……少し寂しいな」

 突然エイルがそんなことを言い出した。

「え……何で?」

「どんどん……ユウが私の手から離れていくようで」

「離れてなんかいないよ。むしろ……近づいていると思うんだけど……」

 恥ずかしがる僕を、エイルは寂しそうな笑みで見つめる。

「うん……そうなんだけど……」

 あ。僕は初めて会った頃のエイルを思い出し――思い当たる「気持ち」を口にしてみた。



「もしかしてさ……エイルは僕のこと、「お母さん」のような気持ちで見てた?「保護者」みたいな感じで……?」

 これ――前に、前島くんにも言われたことあったんだよね。

 エイルが僕の「保護者」のようだって。



「……そうかもしれない」

 エイルは世話好きだ。それも僕からしたら「お母さん」のように。

「僕が頼りないせいだね」

「違うわっ!!違うの……ユウのこと、大好きすぎるから」

 僕は――優しくエイルを抱きしめる。

「ここを乗り切ろう、エイル。僕は一人の男として、君を愛しているし、君を護りたい。

 いや……護るから」

「……うん」

 戦闘中だけど。これでエイルが安心してくれるなら――。

 


 僕はエイルを離すと、その額に、僕の額をくっつけた。

 これはエイルが僕によくやること。今度は僕がそれをやった。

「今はここを乗り切るよ。頑張ろう……」

「はいっ」

 エイルの声が力を取り戻す。

 僕は小さく頷いて。すぐに気持ちを戦闘に切り替えた。




◆◆◆




 ルイーズさんが縦横無尽に鞭を振るう。

 そして数頭のフレスヴェルグを切り刻む。

 


 そして――すぐに新たなフレスヴェルグたちが襲いかかってきた。



「キリがないようっ!!」

 ロスが悲鳴のような声を上げる。

「それでもやるしかないのよっ!!頑張ってっ!!」

「わかったぁ――っ!!」

 ルイーズさんはロスを励まし――フレスヴェルグを見据えた。



「くそぉっ!!」

 ウェインさんがヘリヤさんの助力で、数十体のフレスヴェルグを「結界」の中に囲い込む。

 それをブリュンヒルドさんが結界の中で、敵を炎に包み――倒していく。



 ゲンヴォルさんは、ヘルヴォルさんと協力し――ヘルヴォルさんの「守りの風」で退路を塞ぎながら、敵をより密集させる。

 ゲンヴォルさんはそこに飛び込み、風と炎の魔術を駆使して「火炎風」で一気に焼き尽くしていく。



 カーラはそのスピードを生かし、風の矢をフレスヴェルグとそれに乗るトロルに突き刺す。まるで「ハリネズミ」のような形になるまでに。



「ゲキっ!!」

 スクルドさんがゲキに声をかける。

 それを合図にゲキは一気にスピードをつけ――爆音を轟かせ、フレスヴェルグの群れに突っ込む。

 ゲキの飛び去った後には、フレスヴェルグ――「だった」残骸だけが残った。

 それも三度目。

 スクルドさんとゲキの体力を著しく消費しながら、この攻撃を繰り返している。

 


 ゲイルさん――ロタさん、ヒルドルさん――他のみんなもそれぞれの能力を最大限に発揮してフレスヴェルグの大軍に挑んでいく。

 確実の敵の数は減ってはいるが――それでもまだ半分にも満たない。



 僕はエイルの力を借りて――再度「全力」の光弾を放つ。



 僕は息を切らして片膝をついてしまう。でも敵はまだ半分程度減らしただけだ。

 みんなも――なんとか戦っている。けど――敵は僕らの疲れを待っていたかように、勢いを増し、僕らは後退を余儀なくされた。

 確実に僕らは――「ヴァルハラ」へ向かって追い詰められていた。



◆◆◆




ミラー!!」

 エイルが叫んだ。

 僕が慌てて顔を上げると――二頭のフレスヴェルグが迫っていた。

 エイルはいち早くそれに気がつき、魔術を使ってフレスヴェルグに乗るトロルを直接襲い、倒す。

 乗り手を失ったフレスヴェルグは、軌道を外れて何処へと飛び去っていく。



「……はぁ、はぁ、はぁ」

 エイルが僕によりかかるように両膝をついた。

「ごめん、エイル」

「……そんなことを言わないで。あなたが傷つくよりずっといい……」

 もう――エイルも限界だった。



 僕は――戦場を見る。

 何かいい手はないのか。みんなを助ける何か手はないのかっ!?

 このままでは、全滅してしまうっ!!何か――手はないのかっ!!




 



 そして――立っていられなくなった僕らに、十を越えるフレスヴェルグが向かってくる。

 僕が銀玉鉄砲を構え、光弾を放つ。



 数頭は撃ち抜くが――それ以上の敵が残り――僕らに迫る。

 僕は剣の柄に手をかけ、接近戦を覚悟した。

 それでも――僕の尽きかけた力で、異常な体力を誇るあいつらを倒せるのかっ!?




 刹那。

 僕は幻覚を見たのか?目の前に、黒い塊が閃光のごとく走り抜ける。



 いつの間にか――ヨルグの前には――漆黒のドラゴン。

 それは――僕の知っているドラゴンの姿。



 ヨルグとその背に乗る僕とエイルを護るように、ドラゴンは背を向けている。

 そのドラゴンの上には――黒い鎧に身を包んだ女性の姿があった。



 そして。僕らに迫っていたフレスヴェルグたちは、一頭の大きな黒い獣によって倒されていた。

 全身――頭まで漆黒の鎧に包まれた――戦士の姿。

 人を背に乗せられるほどの大きさがある「狼」の背に立ち、手には一本の棒。



 その戦士は――僕を見るなり、おもむろに兜を脱いだ。



 満面の笑みをたたえた――僕の大切な親友の姿が――そこにはあった。


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