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第3話 エイルさんと世界樹

「ここは……!?」

「起きた、ユウ?」

 え?この声は?

 それにここ、なんかやけに風が強いような――?

 僕は上半身を起こして――ぎゃ――っ!!!

「こ、こ、ここここっ!!?」

「落ち着いてユウ。ここはドラゴンの背中よ」

「……へ?」

 僕の傍にいたエイルさんに言われて、僕は首を上下左右に振り回した。

 景色はすごい速さで、僕の目の前を通過していく。

 それに――僕が今手に触れているのは、灰褐色のウロコ。しかも少し温かい。確かにここはあの二頭のうちの、灰褐色をしていたドラゴンの背中らしい。

 何より――体全体に当たる風がとにかく――強い。

 それだけの上空を、相当の速さで飛んでいるということなのだろうか。

 自然と周りを見る僕の目は細められ、こんな状況に慣れた様子のエイルさんを見ることも一苦労だ。

「あの……僕は」

「力を一度に使いすぎたのね。あの後意識を失ったの。でも……助けてくれてありがとう」

 あぁ――笑顔のエイルさん、本当に綺麗すぎるんですけど。

「い…いやぁ……あああああああっ!!うわぁぁっ!!」

 エイルさんの笑顔に見とれてしまい――鼻の下を伸ばして、恥ずかしがっている場合じゃなく。ここは猛スピードで移動するドラゴンの背中だったことをすっかり忘れていた僕は、そのまま風圧でバランスを失い――ドラゴンから落ちそうになった。



 あれ?僕は何とかドラゴンの背中に留まっているようで――というか。

 この感触は――。む…胸?お約束の――胸?あ――けっこう大きな胸?当たってるんですけど――エイルさーん。

「大丈夫だった……ユウ?」

 それはさておき。エイルさんが落ちないように、僕を抱きしめてくれていた。

 そして必要以上に密着している体同士。

「うわぁっ!!す、すみませんっ!!」

 僕が全力でエイルさんから離れようとすると、エイルさんはぎゅっと僕を抱きしめて離さなかった。

「本当に嬉しかったのよ、ユウ。あなたが私の「エインヘリヤル」でよかった……」

「は?えいん……へりやる……?」

 エインさんの優しい――でも何だかちょっとその――艶かしいというのか。色っぽいというのか。そんな声が僕の耳のすぐ傍で聞こえた。

「私の運命の人……それがあなたよ」

 僕、もう一度意識を失っていいですか?



「何やっとるんだ、あいつらは?」

 僕がエイルさんに抱きしめられて、意識を失いかけている頃。

 前島くんとミストさんは漆黒のドラゴンに乗って、僕らのやや後ろを飛んでいた。

「エイル姉さんはあたし以上に、「ノルン」になったことに不安を感じてたみたいだったけど。コハルは姉さんのモロ好みだから……相当嬉しかったんじゃないかな?

 コハルは初め見たときは頼りないって思ったけど……」

「そんなことはない。あいつは自分に自信が持てないだけだ」

「……トオルは本当にコハルを気に入っているのね。少し妬けちゃうな」

「あいつは俺の大事な…かけがいのない親友ともだ」

「ごめんなさい。トオルを怒らせるつもりはなかったんだ。

 でも……さっきのコハル。あたしから見てもすごくかっこよかったよ」

「……当たり前だ。それが小春悠おはるゆうの本当の姿なんだからな」

「なるほどね……だから「コハル」って呼んでるわけか」

 漆黒のドラゴンの背中で、前島くんとミストさんがどんな会話をしていたのか――僕が知るのはもう少し後のことだった。



「コハルっ!!」

 前島くんの呼ぶ声がする。

 エイルさんが僕から離れて、僕は興奮が治まらないまま――前島くんが乗る漆黒のドラゴンの方へと視線を向けた。

「前を見てみろっ!!」

「……えっ!?」

 前島くんに言われて、僕は顔を前方へと向ける。

「う……あ。すごい……」



 雲をつくような――いや、天を貫くような巨大な樹。

 まだ相当な距離があるのに――。まるで今にも手に届きそうな、近くにあるかのような存在感。



 巨木の周囲は、可視可能な半透明のドームで覆われていて。

 そんな未体験の大きさと幻想的な風景に、僕は言葉を失っていた。



「ユウ。あれが世界の中心であり、すべてである「世界樹ユグドラシル」よ」

「……世界樹…ユグドラシル……」

 エイルさんの言葉に、僕は再度――眼前に広がるその巨大な樹を呆然と見つめていた。



◆◆◆



 二頭のドラゴンは半透明のドームを形作る膜のようなものを突っ切り、そんな巨木の中間地点を目指していた。

「どこに行くんですか?」

「ヴァルハラ。私とミストの普段暮らしているところでもあるの。

 ほら。あの宙に浮かんでいる島のような所があるでしょう?あそこよ」

 エイルさんがまた僕に体を密着させて――僕はエイルさんの説明に集中出来ないまま、とりあえずその浮島を見ることにした。

 そして僕は空に目をやる――。

「空が……ない?」

 さっきまで広がっていた青空は、ドームの中に入ったとたん、一面白銀の輝きに満ちた天の色へと変わっていた。

「そうね。ここでは「外」のような青い空はないの。

 この「ユグドラシル」を覆う結界の色は、この白色に…茜色、黄色……淡い紫に紺色。そして緑色。全部で六つの色に分かれて、一日の時刻に合わせて変化するのよ」

「へぇぇ。すごいや……」

「今は「白の時」と言うの。これは私たちが仕える神々の住まう「アースガルズ」という世界の時刻を基準にしているから……今は太陽が天の一番高い場所にいる時刻ね」

「……昼間ということですか?」

「そういうこと」

 一日を僕らの世界の時刻風に言うなら、四時間ずつに分けて変化している。と言うことになるんだろうな。

 僕は本当に異世界――それも神様のいる世界のすぐ近くまで来ている――そんな不思議な思いに囚われた。



◆◆◆



 僕らを乗せたドラゴンたちは、浮島――エイルさんの言う「ヴァルハラ」という場所に舞い降りた。

 


 巨大な幹を背に、木々に覆われた古城のような建物が立ち並ぶ浮島。

 僕は余計にこの世界樹の大きさを改めて思い知った。



 そんな城壁の間に吸い込まれるように、ドラゴンたちは降りていく。

 


 そこには――エイルさんやミストさんと同じように、耳が鋭く尖った女性たちばかり――人数にして、十四人。

 みんな美女――中には美少女とも言える人たちばかり。なんだここ?

「お帰り、エイル、ミスト。無事に見つけられたようだな」

「アルヴィドのおかけです。素晴らしい運命のエインヘリヤルたちに出会えました」

 エイルさんがドラゴンから飛び降りると、エイルさんより薄い金色の短い髪の――威風堂々とした女性に真っ先に挨拶をしていた。

 たぶんこの女性ひとが、ここにいるみんなのリーダーのような人なのだろう。



「君たちがエインヘリヤルか……」

 僕と前島くんのところにこの女性がやってくる。

「その…エインヘリヤルってなんですか?」

 僕はエイルさんからその言葉は聞いたけど、意味は――「私の運命の人」しか聞いていないから。それにこの女性が言いたいのは、違う意味なんだろうと何となく感じていた。

「なんだ、エイル、ミスト。彼らに話をしていないのか?」

「この世界の話をするだけで、ここに着いてしまいましたから」

 ミストさんが笑顔で答える。

 まぁ――確かにそうでした。

「それは失礼した。私はこの「ヴァルキュリア」…いや。「ヘイムダル」という…女性ばかりの部隊を指揮する隊長を任されているブリュンヒルドという。

 君たちは……こちらの背の大きな少年の方がトオル・マエシマくんだね」

 前島くん。身長は182センチあるから。ブリュンヒルドさんは170センチ以上――僕より大きいから、そう表現するよね。仕方ない、仕方ない。

「すまない。君はユウ・コハル……オハル?だったかな」

 憮然としていた僕の様子が気になったのか、ブリュンヒルドさんは苦笑いで僕に言った。

 おおっ!!でもブリュンヒルドさん、すごい!!初めて会ったのに、僕の名前を理解してくれようとしているっ!!

「何で知っているかという顔をしているな。私たちは仲間の魔術師の力で、エイル、ミストを通して君たちを見ていたんだ。

 ちゃんと、君たちの活躍も余すことなく見ていたぞ」

 屈託のない笑顔で、ブリュンヒルドさんは僕と前島くんを交互に見てはそう説明してくれた。

 って?まさか――「あれ」もっ!!?

「君たちは紛れもない「エインヘリヤル」。「偉大なる勇者の魂を持つ者」という意味だ。

 私たちは君たちを心から歓迎する。ようこそ、この「ヴァルハラ」へ」



 


 ブリュンヒルドさんに差し出された手に、僕らはそれぞれ手を差し出し、握手を交わした。

 でも、何だか――僕らはとんでもない場所に来てしまったのではないだろうか。

 そんな不安が僕の頭の中を支配していた。






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