表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/63

第27話 俺と「ヴァナヘイム」

 話は――半年前に戻る。



◆◆◆



「……く…ん」

 俺は――ここは?

「何言ってるのっ。前島くんっ」

「……コハ……ル?」

「嫌だなぁ。こんなところで居眠り?前島くんらしくもない。

 もう授業が始まるよ」

「ああ……そうだったな。昨日は少寝るのが遅かったから……」

 悠と出会って、初めて「ゲーム」というものをやった。

 従姉妹から「もう使わないから」ともらったスーパーファミコンのゲームが――まったくわからなかった。

 そのせいで、理解するのに朝までかかってしまったんだったな――。



「さぁ……早く教室に行こうよ」

「そうだな……」

 俺はのろのろと、寝ていた学校の中庭のベンチから起き上がろうとした。

 それにしても――体がひどく重く感じる。何故だ?

「大丈夫、前島くん?」

 悠が俺に右手を差し出す。

「すまん」

 俺は――それに応えようと――右手に激痛が走る。何だ、これはっ!?

「本当に大丈夫っ!?」

 悠が心配そうに俺を見る。

 大丈夫。そう伝えたいのに――声が出せない。

「前島くんっ!!大丈夫っ!?本当にどうしたのっ!?」

 わからない――俺はどうなったんだ?

「前島くんっ!!前島くんっ!!……死んじゃダメだよっ!!死んじゃやだっ!!!」




◆◆◆




「……トオルっ!!」

 ミスト――。俺は――生きてる?

「良かった……本当に良かった」

 お前――泣いてるのかっ!?ここは?

「目が覚めたか……人よ」

 聞きなれない――老人のような嗄れた声?誰だ?

「ドワーフ族のドラジさん。倒れている私たちを助けてくれたの」

 ミストが説明をする。そうか――助かったのか、俺は。この人――ドワーフ族の――ドワーフ!?

「まだ声が出せんじゃろ。全身を激しく打ち付けているからな。

 二日間眠ったままだった。それでもよく助かったものだ」

「……れ……」

「ほう。すごいな……声が出せるのか。さすがは「エインヘリヤル」か」

 声を出そうとして――体全体に痛みが走る。だが、ドラジというドワーフ族の男性は、俺を見て感心した様子で唸っていた。

 俺のことはミストが説明しているようだ。となれば――話が早い。

 だが今は――それどころじゃないな。

 声が出ないんじゃ、本当に話にならん。



「どうだドラジ……おお、目が覚めたようだな」

 俺が何とか周りを見回すと――首が動かないので、視線だけを動かして――どうやらどこかの洞窟のようだ。

 そこに――人の姿をした男性が現れた。

 鎧?どこかの「世界」の武人。威風堂々とした立ち居振る舞い。おそらくは――武官クラスの人と見える。

「トオルと言ったな。ミストからは話に聞いている……大変だったな」

「……い…え」

 「いいえ」と言いたいが――やはり無理か。

「無理はしないで……トオル」

 ミストは頭や手足に包帯のような布を巻いている。

 こいつも怪我をしているのに、ずっと俺を看てくれていたんだな――。



 俺の視線がミストに向かっていたせいか、男性はくすりと薄く笑い。

「君たちの関係も聞いているよ。彼女は君が目覚めるまで、献身的に介護をしていた。

 彼女は君の「ノルン」以上の相手のようだな」

「……は……い…」

「君は全身打撲と火傷で、生きていることすら不思議な程の大怪我だったんだぞ?

 それをたった二日で話せるほどまでに回復するとは……今代の「エインヘリヤル」は大したものだ」

「……あ…な……」

 何とか声を出そうと努力としたが――やはり痛みで、最後まで言うことが出来ない。

 くそ。本当にじれったい。

「焦るな。私か?

 私は「ヴァナヘイム」の指導者をしているミーミルという。

 たまたま「ウートガルズ」の動向を探りにここまで来ている時に、君たちを見つけた。

 だが君の怪我が怪我だったので、すぐに動かせなかったのだ。

 君が望むなら、「ヴァルハラ」まで連れて行ってやるぞ。この分なら大丈夫だろう。

 君の無二の親友が、君を待っているのだろう?心配して今頃泣きつかれているのではないか……ミストがそう言っていた」

 ――「ヴァナヘイム」の指導者――ミーミル。この人が――。

 ならば――俺はこの人に伝えないといけないことがあるっ!!

 


「おっ……れ……」

 体中が痛む。軋む。だが――どうしても言わないといけない。

「おいっ。無理をするなっ」

 ミーミルさん――と呼称しよう。

 ミーミルさんは、俺が顔を顰めつつも、何かを言おうとしていることに慌てた様子で、膝をついてきた。

「つれ……て……い……」

「あぁ。「ヴァルハラ」に帰るのだな」

「い……い……え」

「違うのか?」

 激痛を堪え――俺はミーミルさんに頷いた。

「どうしてだ?」

「ヴァ……な……へい……ムへ……いき……たい」

 俺の言葉に――ミーミルさんの瞳が見開かれる。

 それと同時に、ミストが俺の想いに気がついた様子で――ミーミルさんに口を開いた。

「はい。「ヴァナへイム」へあたしたちを連れて行ってくださいっ!!お願いしますっ!!」

「……何故だ?親友ともが待っているのだろう?」

「はい、そうなんですが……どうしても、行きたい理由があるんです!!」

 ミスト。本当にありがとう。その通りだ――。



 俺とミストの決意が視線に現れたのか――しばらく俺たちを交互に見比べていたミーミルさんが――嘆息した。

「何か、深い事情があるようだな。わかった。いずれにしても、ここではこれ以上トオルの治療は出来ない。

 だが……本当にいいのだな?これを見ても……」

 ミーミルさんが俺に右手を差し出した。

 小さな――光の玉?

「これはずっと君の傍にいて……離れることがなかった。

 何だろうと思ってこの光の主を辿ってみた……この光からは君を心配する想いだけが伝わってきたぞ。

「生きていて欲しい。死んではいやだ。笑顔がみたい。君の生きている姿がみたい。それを僕に教えて欲しい」これは君の親友「ユウ」の想いなのではないか?

 彼の力が君を探すよう、この小さな光の玉に込めて放ったのではないのか?」

 ミーミルさんの手から離れて――光は俺の目の前に飛んでくる。

 光――悠の――光弾。

 ああ。俺は生きているのに――今頃お前は心配して――泣いているのだろうな。



 俺の瞳から――涙が溢れる。ごめん、悠。と。

「そこまで想い合っている親友ともを置いてまで……どうして君たちは「ヴァナヘイム」に来たがるんだ?」

 悠――俺は――。俺の中で様々な想いが、思い出が絡み合って――葛藤する。

 それでも俺は――。

 この機会を逃したら。きっと「未来」への「扉」が閉じてしまう。

 お前との約束を果たせなくなる。「一緒に帰る」という約束を。



「それ……で…も……い……く……」

 許してくれ――悠。それでも――俺は。必ず俺は――お前の元に「帰る」から。

「……わかった。君には相当の決意があると見た。それを無下にはすまい。

 詳しい理由わけは、話せるようになってから聞こう。

 今は君の治療が先だ……と。そうだった」

 ミーミルさんは俺の決意を理解し、受け止めてくれた。

 そして。突然思い出したように、後ろを振り向いた。

「そうだったわ、トオル。「あいつ」がいるの。サクソが……」

 ミストが先に説明をする。その後と付け足すように、ミーミルさんが話し始めた。

「ディックエルフらしいな。ウルズというエルフ族の裏切り者の息子なのだろう?

 君はこの男の右腕を切り落とし、わざわざ爆発からこの男の身を挺して護ったようだが。

 そこまでしてやることもあるまい。腕の治療は済ませた。

 まだ意識を取り戻してはいないが……ここに置いていくか?

 それとも……このまま放って置いても、同じことを繰り返すだけだろう?切る……か?」

 そうだったな――こいつがいたか。

 俺の思いは決まっている。

 「助けられる命があるなら、助ける」と。

 


 学校の帰りに、傷ついた子猫を拾ったあいつを初めて見かけて。

 その時――あいつが俺にこう言ったんだ。


 

 今の俺には――そんな資格はないのだろうが。きっと悠がここにいたら――同じことをするはずだ。

 


 俺の視線がミストに向く。代弁を頼むために。

 ミストが小さく頷いて、ミーミルさんを見た。

「一緒に連れて行ってください。その男はあたしたちが何とかしますから」

「まったく……面白い連中だよ、君たちは。どこまでもの好きなんだか。

 そんな君らを助けた私たちも……もの好きなのだろうがな」



 ミーミルさんが話のわかる人で良かった――俺はそう実感した。



 この人ならもしかしたら――もちろんそんなに簡単なことではないだろう。でも。

 俺はそう思いながら、痛みを堪えて――ミーミルさんに小さく頷いた。

 


 俺の目の前に浮かぶ――小さな光。

 


 悠。待っていてくれ。必ず――必ず俺はお前の元に戻るから。

 それまで、この光弾は預からせてくれ。

 こいつが傍にいるなら俺は――どこまでも頑張れそうな気がするんだ。



 だから、それまで――「ヴァルハラ」と「みんな」を頼む。悠。

 






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ