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第25話 僕と先輩「エインヘリヤル」さん

 この半年の間。「ヴァルハラ」はあの薔薇の花のような「結界」を解いてはいない。


 

 正確に言えば――解ける状況ではない。

 アルヴィドさんが、半年前にウルズはウートガルザという、「ウートガルズ」の王を連れてあの「氷竜」の軍を率いてここまで攻めてきた――と「過去視」という術で過去を遡り調べた。

 そのウートガルザを討ったのが――前島くんだった。



 「ウートガルズ」は今、前王の弟だった宰相のスリュムが新しい王となり、国の建て直しを行っていることから、すぐにはここに攻めては来られないだろうということだった。が。



 同じ「ウートガルズ」の世界にある、もうひとつの巨人族の国「トリルハイム」という国が「ウートガルズ」と世界の覇権を争い――その力を得るためにこの「ヴァルハラ」に繰り返し攻めている状態が、この半年間続いている。

 


 アルヴィドさんが言っていた。

「そのように「トリルハイム」の王「スィアチ」を唆したのはウルズかもしれん。

 「ウートガルズ」にとって、「トリルハイム」は目の上のタンコブだ。

 我らと相打ちにでもあってくれれば上出来。

 それでも「トリルハイム」の国力と我らが共に「疲弊」してくれれば、その隙をついて攻めてくるつもりだろう。 

 狡猾なやつが狙いそうなことだ」



 そうさせるつもりはない――ウルズは僕が討つ。カーラには悪いけど、そう決めている。



 だから、「ヴァルハラ」は薔薇の形の結界を纏ったまま――今に至る。



 それでもこれには問題がある。

 「アルフヘイム」から、完全に孤立してしまうということなんだそうだ。

 最初意味がわからなかったけど。

 応援の「ヴァルキュリア」が、この結界内に入れないらしい。

 関係ない「エルフ族」も同様。

 「ヴァルハラ」が認めた「ヴァルキュリア」か、本来護るべき存在である「エインヘリヤル」しか入れないらしいのだ。

 それはそれで厄介。

 それじゃ補給とかはどうなるの?と素朴な質問をしたことがあるけど。

「それは「アースガルズ」から今まで通り、必要な物資が送られてくる。

 ここは「アースガルズ」の直接の管轄領地でもあるから」

 アルヴィドさんは冷静ないつもの顔で――僕の質問に答えていた。




◆◆◆




 そんなある日。

 僕が――疲労でブッ倒れている時のことだ。

 


 「アルフへイム」から――四人の人物が「結界」を通ってやってきた。



「よく来てくれた……」

 ブリュンヒルドさんがその人物の一人に握手を求めた。

 それは女性三人に、男性が一人。

 うち二人はエルフ族特有の長い耳。でもあとの男女は――人の容姿と変わらない。



「何年ぶりかな……ルイーズ」

「そう……二十年ぶりぐらいね」

「ブリュンヒルドは少し痩せた?随分苦労していると聞いているよ」

「ユウの苦労に比べれば……こんなもの大丈夫さ、ウェイン」

 ブリュンヒルドさんは、二人の男女に苦笑してみせた。

「ユウ……もう一人がトオルだったかしら?」

 ルイーズさんという女性は、金色の長い髪を束ねることなく――その髪は風にふかれて揺れている。

「それはここでは言わないでくれ」

「ごめんなさいブリュンヒルド。ユウは六十年前の私たちと同じだった。そうだったわね」

 表情を歪ませるブリュンヒルドさんに、ルイーズさんは申し訳なさそうに謝った。

「半年か……その彼はよく頑張ってるね。

 「トリルハイム」の軍から半年も、この「ヴァルハラ」を君たちと護ってきているんだろう?最近では、彼が君たちを率いているとか……僕はそう聞いたよ」

 赤い――短い髪のウェインさんという男性が、ブリュンヒルドさんに尋ねた。

「ああ。ここへ来たときとは別人のようになってしまった。

 半年前の彼は……勇気はあるが、少し気の弱い……それでも人一倍優しい少年だったが。

 今は親友だったトオルに近い性格に……もっと自分に厳しく、戦いに対してもシビアな面を見せるようになってきている。

 まさに「勇者」という名に恥じない成長を遂げているよ」

「……それもこれも「オーディン」の導きか……。

 ブリュンヒルドには悪いけど、これは少しことを急いだ方がいいみたいね。

 彼が……ユウが本当の「成長」を遂げないうちに」

「任せるよ。そのためにルイーズとウェインに来てもらったんだ。

 私は……ユウは「オーディン」が望む「英雄」にならなくてもいいと考えている」

「まったく……貴女は「ヘイムダル」の隊長に向いていないわね」

 ルイーズさんにそう言われて。ブリュンヒルドさんはますます苦い笑いを崩せない。

「自覚している」

 そうとだけ言葉を吐き出して――四人を「サズの館」に案内した。



◆◆◆



「ユウはいつ目が覚めるの?」

 僕が寝ているベッドの傍らで、カーラが心配そうにエイルに訊いた。



 カーラは「ヘイムダル」の戦士の一人――レギンレイヴさん、長いのでレギンさんと呼んでいる――その人について、魔術の使い方について教わっている。

 レギンさんはアルヴィドさんのように、戦いには向いていないが、魔術全般に関してスペシャリストという女性ではなく、戦闘魔術の分野ではエイルよりも優れているらしい。

 カーラはそういう面で、能力が高く――お母さんのヴェルダンディさんによく似ているそうだ。

 今では「ヘイムダル」の貴重な戦力として、みんなからも当てにされている。



「明日には目を覚ますわ。ここのところ、ユウは無理をしすぎたから」

 エイルはカーラの頭を撫でながら、優しく言い聞かせた。

「……エイル姉様も少し寝て。すごく疲れた顔をしている」

「……そうね。じゃぁ、そうするわ」

「ユウは私が看ているから……」

「大丈夫よ。私もこの部屋で寝るわ」

 エイルはそう言って――傍にあるソファに横になった。

 


 エイルは――けして僕の傍を離れない。

 半年前に、僕から前島くんを失わせたという罪悪感が――エイルの献身さをますます加速させている。



 きっとそれだけじゃない。

 カーラが――僕の二人目の「ノルン」だったということをアルヴィドさんから聞いて。

 僕が離れてしまうのではないか――という恐怖が――彼女にこんな行動を取らせているのかもしれない。



◆◆◆



 そんな僕の部屋の扉をノックする音が聞こえた。

「誰だろう……」

 カーラが扉を開ける。

 横になったばかりのエイルも、体を起こしてカーラの行動を見守っている。



 カーラが扉を開け、ブリュンヒルドさんがまず部屋に入ってきた。

「休んでいるところを済まないな、エイル。彼らを案内してきた」

 ブリュンヒルドさんがそう言って、後ろにいる人たちをエイルに見えるように一歩横へと逸れた。

「ルイーズ……それにウェイン……」

「お久しぶりね、エイル。すごく疲れた顔をしているわ」

 ルイーズさんが、エイルの座るソファの横に歩み寄り、その隣に座った。

「彼が……ユウだね」

 ウェインさんが、カーラに尋ねた。

「うん……でもあなたたちは、誰?」

 カーラがエイルに助けを求めるように顔を向ける。

「ルイーズにウェイン。先代の「エインヘリヤル」よ」

 エイルの紹介にルイーズさんは軽く微笑んだ。

「あなたのお母さんのヴェルダンディとはお友達なのよ、カーラ」

「そうなの?」

 カーラは驚いたように――目を瞬いた。



「僕らは彼が起きるまで、ここで待たせてもらうよ。

 エイル。君は少し別の部屋で休むといい。それじゃぁ、せっかくの美人が台無しだ」

「相変わらずね……ウェイン」

 エイルに――自然と笑みが浮かぶ。

「そうとなれば少し寝てきなさい。さぁ、早く。カーラ、エイルをお願いね」

 ルイーズさんに無理矢理立たされ、疲れている体のエイルはほとんど抵抗出来ずにそれに従う形になってしまう。

「うんっ。行こう、エイル姉様っ」

「え……でもっ」

 カーラに強引に引っ張られて、エイルは部屋から出て行かされた。



 パタンと扉が閉じる。

「……ブリュンヒルド。もう少し早く声をかけて欲しかったわ。

 今のエイルは……あの時のスクルドそっくりになっているじゃない」

「すまない。判断が難しかったんだ……だが、私もそうするべきだったと反省しているよ」

 ルイーズさんに責められ、ブリュンヒルドさんが頭を下げた。

「でも……私たちが来たからには、彼もエイルもあの時の私たちのようにはさせないわ」

 ルイーズさんが――力強く呟いた。



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