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第22話 前島くんとウートガルザさん

「うぉぉぉぉっ!!」

 雄叫びを上げゲイルさんが振るう槍は、その長さを倍にして、騎乗している鎧の戦士ごと「氷竜」を一刀両断していく。



「我が主「オーディン」よ。我に神罰たる炎を操り、眼前の敵たる者たちを罰する力与えたまえ!!」

 ブリュンヒルドさんがそう唱えて大剣を振り上げると、一瞬で朱色の炎を吹き上げる。

「喰らえぇっ!!」

 ひと振り。炎は風に乗り――数頭の「氷竜」に炎が燃え移り――叫び声を上げながら、戦士もろとも火だるまとなって落下していく。



◆◆◆



 「ヴァルハラ」では――。


 アルヴィドさんが「サズの館」の地下にある、「主神オーディンの間」で、「ユグドラシルの枝」から作った特製の杖を使い、魔法陣の中に立っていた。

「我が主「オーディン」よ。どうか我に、この「ヴァルハラ」を本来の姿に戻す許可を与えたまえ。

 世界の大樹たる「ユグドラシル」に咲く、一輪の神の花である「ヴァルハラ」に邪悪たる者たちを退ける力を与えたまえ。

 願わくば、あなたの化身たる少年たちの未来を護る……その加護をこの「ヴァルハラ」に、私に与えたまえ」

 


 魔法陣の中央に、どんっと杖を立ててアルヴィドさんがそう――全知全能の神「オーディン」に願い、その力を開放させた。



「……あれは……」

 戦いの最中。僕は「ヴァルハラ」の変化にクギ付けになった。

 「サズの館」から半透明の真紅のリボンのような――そんな光が吹き上がったかと思うとそれはみるみる浮島全体を包み込んだ。



 その形は――花のつぼみに酷似している。

 やがて――真紅の光は咲いていく花のごとく一枚、一枚花びらを開いていく。



「……薔薇の花…」

 それは――浮島を中心とし、真紅の輝きを放つ――薔薇の花が世界樹「ユグドラシル」に咲いたかのように――「ヴァルハラ」は「結界」に包まれた。

「あれが「ヴァルハラ」の本当の姿と聞いたことはあったけど。私も見るのは初めてだわ」

 エイルが呟いた。

「あれが……「ヴァルハラ」の本当の姿……」



 これで防御の面でも、「ヴァルハラ」の真の姿を見せたことになる。



「エイル……力を貸して」

「はい」

 僕は銀玉鉄砲を敵の「氷竜」の群れに構える。 

 エイルは僕の力を引き出すために、僕の手に寄り添うように手を添えた。

 


 そして僕たちは引き金を引いた。



「拡散。殲滅」

 僕の「言霊」を込めた光弾は、「ヴァルキュリア」たちと交戦中の「氷竜」を次々に撃ち抜き、また後ろに控えている他の「氷竜」たちの前で拡散し――更に撃ち抜く。

 


◆◆◆



「あの「エインヘリヤル」がいるのかっ!!」

 サクソが嬉しそうに撃ち落とされる「氷竜」を眺めている。



「おのれっ!!」

 ウートガルザにも光弾が迫るが、ウルズの「防御」の結界で跳ね返される。

「……何だ、あの「力」はっ!!」

「あれが「エインヘリヤル」の力でございます、陛下。ですが、各戦士たちが「結界」を持ちいれば、恐るほどではありません」

「あれがかっ!?今ので五十は落ちたぞ」

「ご心配には及びません……」

「……ぬっ?」

 ウートガルザとウルズは、背後に迫った巨大な力の気配に気がついた。



◆◆◆



 前島くんが、一段と鮮やかな薄い青色の「氷竜」を見つけて一気に迫る。

 そのドラゴンに迫るほど、護衛と思われる「氷竜」を操る戦士たちが壁のように立ちはだかった。

「間違いなと思う。あれがこの一軍を率いる「将」の「ドラゴン」だわ」

 ミストさんの助言を得て、前島くんは気を引き締めた。

「わかった」

 十は下らない数を前に、前島くんはミストさんへの返事をその一言で片付け、二、三の数を一気にトリネコの枝――棒に念を込めて「漆黒の閃光」へと変化させると、一瞬で切り伏せていた。



「あいつがっ!!」

 前島くんは、竜と同じ色の鎧に身を包んだ「大将」と思われる者の姿を捉える。

(こいつを討てばっ!!)

 眼前の戦士たちを切り落としながら、前島くんの視線はそいつへと注がれていた。



◆◆◆



「陛下っ。お下がりください!!」

「我に下がれと言うのかっ!!」

「あやつも「エインヘリヤル」の一人ですっ!!先ほどの光弾を撃ってきた者と同等の力がある者とお考えくださいっ!!」

 ウルズの叫びに、ウートガルザは歯ぎしりをする。

「……出来ぬっ!!逆に我が「エインヘリヤル」を捉えてくれようっ!!」

「なりませぬっ!!陛下っ!!」

 制止するウルズの声も聞かず、ウートガルザは漆黒の鎧に身を包む「エインヘリヤル」へと「氷竜」を向かわせた。



◆◆◆



「我が主「オーディン」よっ!!我が愛すべきトオルに加護の御力をっ!!」

 本来なら「我が守護せし「エインヘリヤル」に」という「呪文」になるらしいんだけど、ミストさんはすでに「我が愛すべき~」となっている。熱いね。

 ということはどうでもよくて。

 ミストさんの力である「水」の加護を受けた前島くんは、突如「霧」に覆われる。

「何っ!?」

 敵の「大将」は突然のことで一瞬驚いたと思う。

 でも、もっと驚くのはここから。

 前島くんたちを乗せたフレキが――もう一頭現れたんだから。



「幻覚かっ!!」

 そうはわかっても、敵が増えれば焦りは増す。

 左右同時にフレキが迫る。

「陛下っ!!」

 一頭の「氷竜」に乗っていた男――ウルズさんが叫ぶ。



「陛下って……あれは「ウートガルザ」本人なのっ!?」

 ミストさんがウルズの声を聞き、慌てて前島くんの狙う「氷竜」に騎乗する戦士の正体を口にした。

「……絶対に討つっ!!」

 前島くんの気迫が漲る。



「陛下っ!!お下がりくださいっ!!」

 右からのフレキに対応して、ウルズが王であるウートガルザと思われる男の前に――壁として立ちふさがる。

「ウルズっ!!」 

 ウートガルザはウルズの行動に気を取られて――。

「うぉぉぉぉっ!!」

 本物の前島くんは左。トリネコの枝に渾身の力を込めてウートガルザ目掛けて振り下ろした。



 「漆黒の閃光」――。

 それが真上から空を分断するかのように振り下ろされた時。

 


 ウートガルザが咄嗟に構えた剣も――鎧も――「氷竜」ごと。

 前島くんの力が真っ二つに切り裂いていた。



「陛下ぁっ!!」

 ウルズの絶叫も虚しく。「ウートガルザ」だった者は――左右二つに裂かれた状態で空から落下していく――。



「お前もだぁっ!!」

 前島くんの気合はウルズへと向けられる。



「ぬぅっ!!」

 ウルズが作り出した「結界」で、前島くんの攻撃を受け止め――「氷竜」へ加速の魔術をかけると全速力で戦場から離脱した。



「追ってくれ、ミストっ!!」

「待ってトオル。奴は一流の魔導師っ!!深追いはしない方がいいっ!! 

 それよりウートガルザを討っただけでもすごいわっ!!」

「……っ」

 今は点のようになってしまったウルズの騎乗する「氷竜」の姿に、前島くんは小さく舌打ちをした。

 あいつだけは討ち漏らしたくなかった――そんな態度が現れている。

 だけどミストさんの助言にしたがい、ウルズを追うことはしなかった。



◆◆◆



「……まさか……こんなに簡単に……死んでくれるとは……あはは。あははははっ」

 ドラゴンの背で――戦場から遠く――「逃げた」ウルズは、歓喜の笑いを上げる。

「今代の「エインヘリヤル」……やってくれる。

 まさかここまでの力とは……あの光弾を撃つものが最強かと思っていたが……んっ!?」

 ウルズが――自分に妙な「気」が迫ってくることに気がついた。

 


 目を凝らす。それは――あの光弾だった。

 ウルズを追い。ここまで迫ってきていた。

「……おのれっ!!」

 一つではない。数発の光弾が逃げるウルズの後をどこまでも追いかけてくる。

「これほどの距離にいても、「殲滅」するまで追いかけるかっ!!」

 結界で防ぐが「はじく」だけで精一杯で、「消滅」には至らない。

 魔術で消し去ることは可能だが、「呪文スペル」を唱える暇もない。



「くそ……」

 光弾の攻撃に慌てるドラゴンを諌め、「加速」の魔術をかけようとするが――分散していた光弾がひとつに纏まり、ウルズの背後から迫っていた。



「な……」

 左肩を撃ち抜かれる。否。もぎ取られる。

「……がっ!!」

 地上へと落下していく己の左腕を気にすることも出来ず、ウルズは全力で「氷竜」に「加速」の「呪文スペル」を最速の言葉で唱えた。

 ぐんと加速する「氷竜」。

 左腕を撃ち落としたことで、光弾は殲滅と捉えたのか、その役目を終え消滅していた。



◆◆◆



「……何か……ここから逃げる何かを「撃った」みたいだ」

 僕の中には、「感覚」として光弾の念が戻る。

 それがウートガルザだとは、この時の僕が知ることは出来ない。

「この戦場から逃げる者?誰かしら?」

 エイルが首を傾げる。不可解な動きであることは確か。

「でも今は戦いに集中するしかないわ」

「うん」

 エイルのおかげで、光弾の力は段違いに増している。

 誰も犠牲にはさせない。 

 僕は再び銀玉鉄砲を構えた――。




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