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第16話 僕たちとスクルドさんの思い

 カーラがやってきてから三日が経っていた――。 



 ブリュンヒルドさんの計らいで、カーラは僕とエイルさんが後見人となってこの「ヴァルハラ」での生活が許された。

 本当なら、「アルフヘイム」にある「ヴァルキュリア」の居宮「ヴァルホル」へと、送還しないといけないのだそうだ。

 それをまだ幼い少女?ということと、敵が「ヴァルハラ」を集中して襲ってきている事実の究明、何より「オーディン」の選んだ「エインヘリヤル」である、僕と前島くんがここに居ることを望んだということで、特別に許可されたことらしい。

 いずれにしても――よかったということか。



 でもカーラのおかげで、敵の正体が一気にわかってきた。



 それで。カーラのことなんだけど。

 今まで僕とエイルさんの部屋は別々だった。でもカーラを見張る役目も僕らに出てきたということで――僕とエイルさんは同室となり、ここにカーラを加えて三人で生活をしている。という――ハメになってしまった。



母様かあさまに聞いたエルフ族は、男がすごく少なくて女が何でもやるんだって。

 それに一人の女が一人の男を独占出来ないから、みんなで大事にするんだって言ってたけど。ここでは違うんだな。

 トオルもミスト姉様と仲がいい。

 ユウはエイル姉様と仲がいい。これは「夫婦」というものなのだろう?」

「まぁ……そうなるね」

 夫婦って――エイルさんはこのところやけに僕への世話が――甲斐甲斐しいというか、充実しているというか。

 それも実に楽しそうに――。

 おかげで僕、立派な「ヒモ」状態だよ。自立してる彼女に依存してる男っての?



 だって僕も手伝うっていうと、「ユウはいいの。ゆっくりしてて」って言われちゃうし。

 カーラには何かと手伝ってもらうくせに――。



「不満そうだな。ユウ……」 

 この部屋にスクルドさんがやってくるのも、日課になってる。

 この時はアルヴィドさんがついてきてた。

 


 この場合、カーラの様子を見に来ていることと、「ウートガルズ」の情報の提供を求める尋問が目的――ということ。

 スクルドさん曰く。カーラはお姉さんであるヴェルダンディさんの娘に間違いないということ。面立ちがヴェルダンディさんの小さい頃にそっくりなんだとか。

(ただし何年前のことを言っているかは聞いていない)

 それに父親がウルズさんというのも、間違いないだろうとのことだった。



 カーラは驚く程「ウートガルズ」の情報に詳しかった。

 現在の王様やその家族のことから、その人間関係、国の状況、その周辺の世界のこと、しいては父親であるウルズさんの地位やその現状など。

 それはすべて母親であるヴェルダンディさんから聞いたことらしい。



「いつ「ウートガルズ」の外に出て、エルフ族の仲間に会うかわからないから、しっかりと覚えていなさいって言われてたんだ」

 カーラの話を聞くたびに――スクルドさんはこの三日間、険しい表情のままで、明るく笑ったところを見ていない。

「君のお母さんは……とてもすごい人なのだな」

「そう。母様はとても優しくて強い人。大好き。

 でも父さんは自分のことしか考えていない嫌なやつ。私は父さんが嫌い。

 父さんと同じで、自分たちの強さとか地位とかしか頭にない兄様たちも大嫌い。

 ほとんど遊んだこともない。だから戦いになっても平気。

 それに「ウートガルズ」の「ヨトゥン族」はいつも身内同士で争っている、低俗なやつらだと母様は言っていた」

 「そうか……」

 言葉少なに呟くと、スクルドさんは、家族のことを語ったカーラの銀色の髪を撫でた。

 その姿がとても――辛く感じる。

「でもここは好き。ユウもエイル姉様も私のことを大事にしてくれる。

 みんな大事にしてるのがわかる。だから大好き。トオルもミスト姉さまも好き」

「それはよかった。もっと大事にしてもらえ。でも、カーラもユウやエイルのことを大事にしないといけないぞ」

「うん。する。あとスクルド姉様は、母様と同じことを言うから好き」

 無邪気なカーラの言葉が、僕の胸に突き刺さる。

 いつこの二人は名乗りを上げられるのだろう――と。

「そうか。でもここでの母様はエイルで、父様はユウだぞ」

「そうか……でもね、ユウって兄様って感じなんだよね」

「……それでいいよ」

 父様って感じじゃないでしょ、僕は。

 この時、スクルドさんだけじゃない、アルヴィドさんにも笑われた。

 つられて言い出したカーラも笑ってる――あ、エイルさんも。

 いいさ。みんなで笑えば。笑顔があることはいいことだ――ふんっ。

「ごめんなさい、ユウ。いじけないで」

 慰めがてら、エイルさんに抱きしめられて。

「……何だか…エイルの惚気がひどくなった気がするな」

「そんなことありません。これが「普通」です」

 呆れるスクルドさんに、エイルさんは笑顔で反論する。

 顔を真っ赤にして、今だにこのスキンシップに慣れない僕は「蚊帳の外」。

「そう。スクルド姉様たちがいないと、もっとすごいよ」

 カーラは悪気もなく、平気でそういうことを言う。子供がそういうことを言うんじゃありませんっ!!

 


 ちなみにカーラは十三歳。それにしちゃ――僕の感覚だと、それより幼く見える。

 エルフ族は、ある程度の年齢までは人と同じように成長し、外見が決まるとそこで成長が止まるらしい。

 カーラは両親がエルフ族だから、その成長は同じだろうということだった。

 でも外見がどうして――日焼けした肌色をしているのだろうか。



「とうとう……「婚姻の儀式」を済ませたのか?」

「それは……その」

 期待を裏切って悪いのですがアルヴィドさん――まだです。

「何だ。早く頼むぞ」

 スクルドさんも、しれっと言うのは止めてくださいっ!!

 何か――「早く子供を」と、期待されている新婚さんのような気持ちになってくる――。

「ユウ……頑張ろうか」 

 何を?何をですか――エイルさん。

 何も言えずに、僕が更に茹で過ぎのタコのような顔をしていると。

「もう……ユウ、可愛いすぎっ!!」

 エイルさんにまーた抱きしめられて――。

「本当だ……これはもっとすごいな……」

 呆れるスクルドさんに、アルヴィドさん。

 っていうか、助けてくださいっ!!



◆◆◆



 スクルドさんたちが僕たちの部屋を出て行ったあと――。



「スクルド。もうしばらくは一人でカーラに会うのは待ってくれ。

 「ヴァルキュリア」も一枚岩ではない。どこで情報が漏れるかわからないからな

今回のことが漏れれば、我々をよく思わない連中を勢いつけてしまうだろう」

 アルヴィドさんがそんな話をしながら、落ち込んでいる様子のスクルドさんを心配した様子で見ている。

「大丈夫だ。そんなことはしない……」

「ヴェルダンディが生きていた……そして我々のことを思っていてくれた。

 おそらく……お前のことは既に許していると思う。

 むしろ今はお前のことを頼りにしているはずだ。でなければ、カーラにあんなことを詳しく教えたりはしないだろう。これは、わずか十三歳の子供の情報量ではないぞ」

「……ああ、わかってるさ。私が気にしていたのは……」

「わかっている。ヴェルダンディが今……どうしているか、だろう?

 お前はずっと、気に病んでいたからな……」

 アルヴィドさんに指摘されて、スクルドさんは「ああ」とますます顔を俯けた。

「それにカーラがくれた情報は、かなり役立つものばかりだ。

 さすがはヴェルダンディ。これなら「ウートガルズ」との戦いにも備えることが出来る上に、我々だけが孤立しているわけではないことを教えてくれた。

 そしてこれを知っているカーラは、もし我々以外のエルフに保護されていたとしても、自由は難しいが……「アルフヘイム」でも、かなり待遇面でも違いが出るだろう。

 そこまで計算をして、ヴェルダンディはこの日に備えていたのかもしれん」

「姉様らしいと思ったよ。

 それにあの子に「母様かあさま」と呼ばせていたのは、私たち姉妹が幼い頃、母親をそう呼んでいたんだからだろう。

 兄ウルズだけは「母さん」だったんだがな」

「……そうか」

 感慨にふけるスクルドさんに、アルヴィドさんは穏やかに微笑んだ。

「カーラはユウやエイルに任せておいても大丈夫だと感じた。

 あの二人ならカーラを大事にしてくれる。なによりあの子自身が二人を好きだと言っているんだ。本当に感謝している……」

「今代の「エインヘリヤル」は……色々な意味で本当に面白いな……」

 ふふふと何故か低く笑うアルヴィドさんに――スクルドさんは背筋が寒くなる思いがした。

「ユウやトオルに変なことをしないでくれよ。私の恩人たちでもあるのだからな」

「大丈夫だ。何も解剖しようと考えているわけじゃない。

 ただ「エインヘリヤル」研究家の私には、興味深い研究材料だと思っただけだ」

「それを止めてくれと言うんだ。たのむぞ」

「仕方ない……頼まれてやろう」

 アルヴィドさんはつまらなそうに――ため息をついた。



「さて。私はこれからトオルに、この世界のことを教えねばならないので、ここで失礼するよ」

「まだ……トオルはお前から教わっていたのか?」

「あれは…そういう面ではユウとは違うな。人にも色々役割というものがあるのだろう。

 そういうことだ」

「……はぁ」

 呆気に取られているスクルドさんを尻目に、アルヴィドさんは手を振って廊下を自室の方へと曲がって行った。




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