表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/63

第14話 僕たちと追いかけっこ

 空を背に、黒い点の集団が見えてくる。それはまだ相当の距離があるけど――。

 僕はよく目を凝らし、その点――群れをなす点の正体を見極めようとした。



 距離が近づくにつれ、その姿がようやく確認出来た。

 やはり――ニーズヘッグ。それも前回より、倍の数はいるのではないか。

 僕は銀玉鉄砲を構えた。

「コハル、まだ早い。相手をギリギリまで引きつけろ」

「……大丈夫。わかってるよ」

 前島くんのアドバイスに、僕はそう答えた。

 そう――ここで撃ったとしても、相手に避ける隙を与えてしまう。

 少ない弾数で、最大の効果を得る。僕だってそれなりに学んできてるっての。



「ずいぶん成長したじゃないか、ユウ」

 ワイバーンに乗ったスクルドさんに褒められて、僕は恥ずかしくなったが――なんとか「ありがとうございます!!」と答えることが出来た。

 スクルドさんは笑顔で、「期待してるぞ」とプレッシャーをかけてくる。

 それは――いつものスクルドさんだ。僕らに変わらず接してくれる。

「期待に添えるかどうかわかりませんが、頑張ります」

「言うようになりおって」

 苦笑いのスクルドさん。それでも――少しでもスクルドさんが笑顔になれるなら。

 僕はそんな気持ちで、スクルドさんに笑顔を見せた。



◆◆◆



 ニーズヘッグへ僕が「拡散」の光弾を撃ち、その直後から僕たちは、ニーズヘッグとの交戦状態に入った。

 


 前島くんたちは、僕の狙いやすいようニーズヘッグを追い詰め、一箇所に集めたところへ僕が光弾を放つ――という作戦を実行し、飛来した半分の数を仕留めた。

 無難にことが進んでいるかのように思える。

 が、エイルさんは――納得がいかない様子で呟いた。

「簡単すぎるわ」

 まぁ――確かに、歯ごたえが無さすぎるようには感じていたんだけど――。



「ユウっ!!エイルっ!!上だっ!!」

 僕らに向けて、ゲイルさんの叫ぶ声が聞こえる。

 


 と、同時に僕らが指示するより先に、ゲキが真上からの敵の襲来を察知し、大きな体からは考えられないほどの俊敏な動きで、その場から加速し、降下してきた敵の攻撃を避けた。

「ゲキ、ありがとうっ!!」

「アギャっ!!」

 僕のお礼に、ゲキは嬉しそうに鳴いた。

 そして突風のように現れた敵を見ようと、僕が真下へと視線を移した。

 


 そこには数頭のニーズヘッグが、また僕らに向かって今度は急上昇してくるのが見えていた。

 そして――その一頭の背に、人が乗っているのが確認出来た。

「人が……乗っている?」

「小柄な……少女のようね」

 僕はそこまで見えません。エイルさん、かなり視力がいいみたい。



 再びゲキが加速――今度は急旋回する。

 ニーズヘッグたちはまた空振りに終わる――はずだった。

 


「見つけたっ!!」

 ゲキの背にいつの間にか乗っていた――銀髪の少女が満面の笑みで僕を見て、そう言った。

「君は……」

 僕には――見覚えがある少女だ。

 それも昨日。あのスクルドさんのお兄さんという、ウルズという男性と一緒にいた少女だったはず。

 僕は反射的に銀玉鉄砲を構えた。

「追尾っ!!」

 「殲滅」の「言霊」を避ける。

 ――女の子相手に、その言葉ははばかられた。

「それかっ!!面白いっ!!」

 少女は僕の光弾を避け、ゲキから躊躇なく飛び降りる。

「……なっ」

 エイルさんが短い声を上げた。

 僕は驚きで声すら出ない。

 少女の体は――飛来したニーズヘッグの背に飛び移り、僕の光弾から逃れた。

 しかし「追尾」をかけているため、光弾は少女を追いかける。



「ゲイルさんっ!!」

 前島くんが、フレキの近くを飛んでいるゲイルさんに叫んでいた。

「ゲイルさんのワイバーンを貸してください」

「大丈夫なのかっ!?」

「ミストに乗り方は教わっています。俺に考えがあるんですっ!!」

「わかった。気をつけろよっ!!」

 ゲイルさんがフレキに飛び移ると、前島くんはゲイルさんが乗っていたワイバーンに戸惑うことなく飛び移った。

「……大したもんだ」

 感心するゲイルさんをよそに、「お借りします」と、前島くんはワイバーンを操って、ゲキへと向かった。



「すごいっ!!「エインヘリヤル」って楽しいなっ!!」

 僕の光弾を避けながら、少女は笑顔で――飛んでいるニーズヘッグの背を華麗に飛び移っていく。

 僕もエイルさんも、その光景に唖然としてしまう。



「コハルっ!!」

 前島くんがいつの間にかワイバーンの背に乗り、僕らの傍までやってきていた。

「前島くん……いつの間に、ワイバーンに乗れるようになったのっ!?」

「説明している暇はないっ!!コハル、「捕獲」の光弾を撃てるかっ!?」

 前島くんがワイバーンから、僕へとそんな言葉をかけてきた。

 僕は瞬間的に――前島くんが何を言いたいかを――理解した。

「あぁ…撃てるっ!!」

 僕の答えに、前島くんはニヤリと笑い

「頼むぞっ!!」 

 と、言い残し――その場を離れた。

「どういうことっ!?」

 エイルさんには、前島くんと僕のやり取りがまだわかっていないようだ。

「大丈夫。見ててください」

 僕はエイルさんにそうとだけ伝え、ニーズヘッグの背を飛び移りながら、僕たちへの再度の接近を試みようとしている少女を見据えた。

 そして僕は銀玉鉄砲を構える。

「追尾、捕獲っ!!」

 僕は叫びながら、五発の光弾を放った。



「面白いけど、攻撃が単調だよ、「エインヘリヤル」っ!!」

 少女が僕に叫んでいる。

 彼女はどうして攻撃を仕掛けてこないのか!?

 僕はそんな少女の動きを目で追いながら、前島くんの動きにも気を向けていた。



 ゲキやフレキは幾ら動きが早くても、体が大きい分――どうしても小回りの面でふた回りも小さいニーズヘッグには敵わない。

 その点、ワイバーンは、ニーズヘッグよりも少し体が大きいだけなので、俊敏な動きが可能になる。そして飛行能力もニーズヘッグより上だろう。

 それを活かした前島くんは、ワイバーンで少女の後を追いかけ始めた。

「へぇ。こっちにも別の「エインヘリヤル」かっ!!」

 少女は少しも慌てた様子はない。

 その上。僕の放った光弾は逃げ回りながらも、少女の手にする細身の剣ですべて弾かれてしまった。くそ。あの程度じゃ問題にもならないか――。



 前島くん――「ヴァルキュリア」の人たちと変わらない操縦で、ワイバーンを自由に操っていく。

 ミストさんに乗り方を教わっていたのは知っていたけど、ここまで短期間にそこまで上達はしないよねぇ――相変わらず何でもアリの男だなぁ。



 でももっと驚きなのは――僕らを襲ってきた少女の方だ。

 ニーズヘッグを操って、前島くんから逃げるんじゃない。

 密集して飛ばすことで、ニーズヘッグたちの背から背へと飛び回って逃げ回る。

 ワイバーンに驚いて、ニーズヘッグが方向転換しようとお構いなし。

 頭やら、尻尾までを踏み台にして飛んでいる。

 その表情は終始笑顔。まるで追いかけっこでも楽しんでいる――いや。実際そうなんだろう。さすがに前島くんも、これには驚いている様子。



「なんて子なの。あの動きだとミスト以上かもしれない」

 エイルさんも、僕の隣で驚きの声を発していた。

「それでもトオルは、あの女の子を私たちの方へは近づけない。本当にすごいわね」

 エイルさんは、少女以上の評価を前島くんに与える。 

 僕にもそれはわかっていたので、エイルさんに頷いてみせた。

「それで……あの女の子を捕まえるのね?」

「はい。任せてください」

「わかった」

 僕は前島くんを信じて――エイルさんにそう言って。

 エイルさんも笑顔で頷いていた。

 そして僕は――五発、光弾を発射する。

 先ほど弾かれてしまったものよりも、更に強力な「言霊」を込めたものを。

「追尾、捕獲っ……五倍っ!!」

 我ながら――変な強力光弾の撃ち方だと思うけど――。

 こうして光弾への力の込め方を、僕は変化させている。



 だから、さっきのよりも「五倍」に強化した「捕獲」の威力のある光弾が少女を追いかけ始める。



「また来たっ!!」

 嬉しそうに声を上げながら、少女は逃げるスピードと、ジャンプ力を増していく。

 そして迫る光弾を剣で弾く。けど、五倍の力が込められてるんだ。

 そう簡単にやられないよっ!!



「さっきとは違うかっ!!」

 少し慌てたか?

「リングっ!!」

 僕の声を合図に、光弾は一斉に少女の胴回りを越える大きさのリングへと変化する。

「何っ!?」

 明らかに少女は驚いている。

 でも間を置かず、光のリングは少女を捉えようと、三百六十度の全角度から迫った。

 


 少女は声も上げる暇もなく、ニーズヘッグの間を飛び回っていく。

 それにそう簡単に、剣で弾ける大きさでもないだろうし。



 そこへ前島くんが、リングから逃げ回ることで精一杯の少女の動きを読んで――的確に追い詰めていく。

「しつこいっ!!」

 声を荒げる少女。よしよし。焦ってる、焦ってる。

 単調な攻撃も、こうして小さな組み合わせで、最大の効果を得られることもあるんだって。これはスクルドさんの受け売りだけどね。



「いくぞ、コハルっ!!」

「いつでもっ!!」

 僕は前島くんへと大きな声で返事をする。

「何を企んでいるっ!?」

 これも少女への焦りを誘う。

 僕らは連携して、獲物を罠へと追い込む算段を実行に移した。



「ゲキ。このまままっすぐ。方向転換はなし」

「アギャゥっ!!」

 僕の指示に、ゲキの鳴き声が返ってきた。

 信じるよ、ゲキ。



 少女が前方のニーズヘッグへと飛び移ろうとした時。

 そこへ前島くんがワイバーンで先回りをしていた。

「……このっ!!」

 少女が今背中にいるニーズヘッグの背中から、百八十度方向転換をしようと体勢を変えた一瞬を狙う。

「捕獲、ネットっ!!」 

 僕は少女に向けて一発の光弾を放った。

「……えっっ!!?」

 


 少女が僕の声に驚いて、背後に振り返った時は、その視界全体に網目の光の――まさに魚取りの漁で使う網が少女に覆い被さろうとしている――その瞬間だった。

「キャ――っ!!」

 網が少女を絡め取り、少女はニーズヘッグの背中からバランスを崩して落下しそうになる。そのタイミングで前島くんが少女の体をキャッチして、落下を防いだ。



「見事っ!!」

 スクルドさんが感嘆の声を上げる。



「すごいわ、ユウ、トオルっ!!」

 エイルさんも僕らを褒めてくれた。



 空中の追いかけっこが終わった頃には、他のニーズヘッグたちは、ブリュンヒルドさんたちがあらかた退治していて、残った連中は逃げていた。




 僕は前島くんが捕まえた少女が――僕へと視線を逸らすことなく向けたまま――ずっと笑顔で見ていることに驚きながら――少し嫌な予感もしながら。

 ゲキを前島くんの乗るワイバーンへ向かうよう指示を出していた。


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ