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第11話 僕たちとディックエルフさん

「追尾、殲滅っ!!」 

 そう叫んで、僕は銀玉鉄砲を撃つ。

 


 ここは聖地。

 スクルドさんの修行を受けるようになって一週間。

 僕と前島くんは――戦場に復帰していた。



 スクルドさんのアドバイスとエイルさんの指導を受けて、完成した僕の新しい力。

 「魔術」のやり方を取り入れて、僕の力の具現である光弾に「呪文スペル」を介して「言霊」を送り込む。

 僕の意思を得た光弾は、その指示通りの動きをする――というわけ。

「追尾、殲滅」は、移動する目標をどこまでも追いかけて、命中させると同時にその目標を殲滅する力を与えた光弾。

 今までの大量の敵を一度に吹き飛ばす力は、威力はすごいけど、僕の体に大きな負担となる。だから力は小さくなったけど、少ない力で確実に消滅させる――というコントロールの方法を知ったことになる。

 ちなみに「追尾」だけだと、追いかけるだけ――ということになるんだ。



 力が小さくなった分、何発も撃てるようになったことで、僕は両手で抱えていた銀玉鉄砲を片手で持つようになった。

「かっこいいな、コハル!!」

「……ありがとうございます!!」

 ゲイルさんの冷やかしも、受け流せる強さも手に入れたぞぉ――だっ!!



「前島くんの援護をっ!!」

 僕はまた数発の光弾を発射した。

 


 棒を振るう前島くんをすり抜け、二体で襲いかかろうとしていたオーガに光弾が命中し、間髪入れず、前島くんが棒でオーガを倒していた。

「すまない、コハルっ!!」

 僕は笑顔で前島くんに答えて、すぐ自分のやるべきことへと集中した。



 前島くんも彼にあった能力を手に入れた

 それは「体力強化」。

 僕のように力を放つ――というやり方より、前島くんは彼の拾った棒(これが驚いたことに、世界樹「ユグドラシル」の木の枝だったらしいんだけど)を介して、前島くん自身の身体能力の強化をはかるやり方――だそうで。

 前島くんはこの棒を縦横無尽に振り回し、いつものように敵を倒していく。ただすごいのは――素手だよ。生身の腕でだよ?これで剣の刃を平気で受け止めるんだ――。

 ますます人間離れをしていくね――前島くん。

 


ミラー」。

 エイルさんが一言「呪文スペル」を唱える。

 エイルさんが「ヘイムダル」で一番強いとされていたのは、長い詠唱を必要としないだけの高い「魔力」を持っているから――らしい。

 僕の能力はエイルさんによく似ているので、力の使い方については、エイルさんに指導を仰いでいる。

 だからこそ、他者に対しての治癒能力も高いのだそうだ。(僕もいつもお世話になってるし)「鏡」という魔術は、簡単に言えば「分身の術」。

 でもただの幻じゃない。完全なもう一人の「自分」を作り出す術。

 この術を駆使して、エイルさんは驚くオーガを切り倒していく。



 ミストさんは「水」の魔術を得意としてる。

 でも彼女の真価が発揮されるのは――スピード。

 ほとんど目には捉えられない速さで、オーガの間をすり抜けては、気がつくと倒されている。という具合。

 そう言えば前島くんが、この間ミストさんから――「加速」という術を教わっていた。



 これらの能力でエイルさん、ミストさんは「ヘイムダル」で――「ヴァルキュリア」の中でも屈指の実力を持つ戦士として名を挙げてきた。



◆◆◆



 あらかたオーガを倒しただろうか?

「やはりユウやトオルが加わると、こうも違うとは……」

 ブリュンヒルドさんがそう言って、複雑そうな笑いをしていた。

「ここ数日で彼らの能力も格段に上がりましたから……ここまでとは私も思いませんでしたが」

 答えるスクルドさんは、肩を竦めている。



「やったな……コハル」

「前島くんも。ますます人じゃなくなっていくよね」

「人聞きの悪い。それはお前も同じだよ、コハル」

「僕は違う」

「いや、同じだ」

 最近この手の会話が、僕らの日課だ。

「またやってるの?嫉妬しちゃうから止めてくれる?」

 笑顔で止めに入るエイルさん。でもそれ――冗談に聞こえません。

 特に最近は――。

 こうして固まっている僕に、前島くんはぺちっと頭を叩いた。

「痛いっ!!」

「スキあり」

「もう、トオル。嫉妬するって言ってるでしょ?私のユウを叩かないで」

 にやりと僕に笑っていた前島くんは、「すみません」と素直にエイルさんに謝った。

 二人でどんな会話をしているんだよっ!!



 ――その時だった。



 エイルさんとミストさんが僕と前島くんを包む「守護結界」を作り、ブリュンヒルドさんたちも身を守るために、一斉に結界を作っている。

 僕らに放たれた巨大な「邪気」。

 次の瞬間。辺り一面が、真っ白な光に包まれ、僕らは結界で包まれているとは言え、体が吹き飛ばされそうなほどの爆風に晒された。




「……何だっ!?」 

 光が消え――僕らは辺りを見て――唖然とした。



 緑豊かな丘陵地帯のど真ん中に、数十メートルに渡って、ぽっかりと大穴が開いていた。

 深さは数メートルはあるだろうか?

 クレーターのように、穿たれた大穴。

 僕らはただその情景を――見つめるしかない。一体誰が――と。



 そして。

 僕の中に、身が竦み上がるほどの、瞬間的な「悪寒」が突き抜けた。

 それは――射抜くほどの殺気。



「追尾っ、殲滅っ!!」

 僕は本能的にその言葉を吐き出し、その殺気を放った気配に光弾を三発放った。

「ユウっ!!」

 エイルさんが光弾を放った僕を庇うように、その前に立ち、前島くん、ミストさんも僕を囲むように立った。



 三発の光弾を受け止めた者が、いた。それも――素手で。



 オーガたちが襲ってきた同じ方角。

 数人の男女が立っているのが見える。



 一人は透き通るような肌と、美しいブロンドの長髪――身長の高さから男性か?

 そのほかの男女は身長は様々だけど、みな褐色の肌色をしている。

 髪は三人が黒。一人の少女?が銀色。

 そして耳は――「エルフ族」特有の尖った長い耳。



「ディックエルフ……か」

 ブリュンヒルドさんが呆然と――呟いた。

「……ディックエルフ?」

 僕がエイルさんを見ると、エイルさんは小さく頷きながら

「私たちの敵。一連の魔物たちを操って、「アルフヘイム」と「アースガルズ」を狙っている連中は……あいつらなの」

 肌色から――ダークエルフみたいな存在か?

 そんなことを僕は考えていた。



 僕の放った光弾を――その中の一人。エイルさんたちと同じエルフ族同様の白い肌の色をしている男性が――受け止めていた。

「……ここまでの能力がある「エインヘリヤル」が召喚されていたとは。いい拾い物をしたじゃないか、ブリュンヒルド……そしてスクルドよ」

 男性は光弾を受け止めた右手を僕らに翳しながら――無表情で話をしていた。



 その手のひらは。三箇所の黒く焼け焦げたやけどの跡が痛々しい。

 が。それは翳した瞬間に、みるみる塞がり――元の肌の色を取り戻していく。

「……ウルズ……」

 僕らが驚く間もなく、「ウルズ」と呼んだ男性を見据えるスクルドさんの双眸から、その体からも、激しい憎悪の感情が溢れ出している。

「……スクルドさん」 

 僕はただ――スクルドさんを見つめることしか出来なくて。



「今日は見学で来ただけだ。そう荒ぶるな、スクルド。 

 次からは手加減なしに相手をしてやる。

「エインヘリヤル」殿たちの顔と実力も、拝めたことだからな。

 よろしく頼むぞ、若き「エインヘリヤル」たちよ」

 一方的にそう言い放つと、ウルズとその仲間たちは、煙のように像が薄れて――その場から消えてしまった。

「遠隔幻像か……」

 忌々しそうに、ブリュンヒルドさんが言葉を吐き出した。



「スクルドさん……」

 僕らが駆け寄ると、スクルドさんは――いつもの冷静な態度を取り戻していた。

「すまない。あれは闇側に堕ちた……哀れなエルフ族の裏切り者だ。

 ユウやトオルの活躍が目覚しいので、慌てて見に来た……という感じだな」

 口調もいつものスクルドさんとほとんど変わらない。 

 でもさっきのあの様子は――何だったんだろうか?

「エイル。このことを後でユウたちに話しておいてくれ。 

 どうせお節介なお前のことだ。ほっておいても話しただろうが」

「副隊長……わかりました」

 あの「ウルズ」とかいう男性と、スクルドさんは何か関係があるらしい。

 以前のこともあり、どこか皮肉めいた調子で、スクルドさんはエイルさんに話していた。




「だが……いきなり大本命がやってくるとは。相当厄介なことになったな」

 ブリュンヒルドさんが僕と前島くんを見つめてながら、そう言って。



 


 僕は一度前島くんと顔を見合わせた後――再度あの連中が立っていた方角に視線を移し、

ただ――と見つめるしかなかった。


 





 



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