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episode18

考え込むように視線を落としたリュシアンに、私は小さく首を傾げた。


「そうね、魔道具じゃなくてもいいわ。欲しいもの、とか」


そう言うと、

リュシアンは「それなら……」と小さく呟き、私をじっと見つめた。

――正確には、私の髪を留めているリボンを。


まるでカチューシャのように編み込んだ髪をまとめているそのリボンは、

裾へ向かうにつれて淡い青へと変わるグラデーションのものだった。

最近、蒼い色合いを気に入っている私が選んだものだ。

彼の視線の先に気づいた私は、くすりと笑う。


「これが欲しいの?」


するりとリボンを引き抜くと、解けた髪が肩へ流れ落ちた。


「美しいリボンでございますね」


カイエルが感嘆したように言うので、


「リーナが買ってきてくれたのよ」


と答える。すると、なぜかカイエルは少し眉を顰め、


「リーナ嬢が、ですか……これは負けていられませんね」


と、対抗心を燃やすように小さく呟いた。


(どうしたのかしら……?)


そう思いながらも、私は再びリュシアンへ視線を戻す。


「何か欲しい機能とかないの?」


しかし、今まで自分の欲しいものを尋ねられる経験がほとんどなかったのだろう。

リュシアンは少し困ったように視線を彷徨わせるだけだった。

その様子を見ていたカイエルが、軽く口を挟む。


「最近、王都では恋人同士で同じものを持つというのが流行しているようですよ」

「なるほど」


小さく頷いた私は、リュシアンに微笑みかけた。


「どう?思いついた?」

「その……もし、セレーヌ様がよろしければ、なんですけど」


歯切れが悪そうに言葉を紡ぐリュシアンは、続けて言った。


「セレーヌ様がどこにいるのか、わかるようなものとか……」

「ええ、あとは?」

「ええと……その、セレーヌ様に危険が及んだ時にわかるものとか」

「……だめ、でしょうか…………?」


断られたらどうしようという様子で不安げにこちらを見つめるリュシアンに、

私は微笑んで、


「もちろんいいわよ!」


そう言って、私は手にしていたリボンを魔法で静かに二つへ切り分けた。

少し短くなったそれを手のひらに乗せ、指先でゆっくりと魔法陣を描いていく。

繊細な光の線が布の上に浮かび上がり、まるで刺繍のように刻まれていく。

それを見ていたカイエルが、やや興奮したように声を上げた。


「布に魔法陣を刻むとは……魔道具の新たな革命ですね!」


本来、魔道具は魔鉱石のような魔力を安定して宿す素材を用いなければ制作自体が難しい。

それでも、魔法陣を正確に描き、魔力を安定させられるならば、

布であっても成立するのではないか――そんな思いつきから始めた試みだった。


リボンの表面という広い面積のおかげで、いくつもの魔法陣を重ねて描くことができる。

元々美しい装飾だったリボンは、淡い光を宿した魔法陣が重なったことで、

さらに繊細で幻想的な輝きを帯びていった。


「お互いの簡単な位置情報がわかるものと、魔力の乱れを感知するものを組み込んでみたわ。

それから――」


私はリュシアン用のリボンに指先で最後の魔法陣を重ねながら、続ける。


「こちらには追加で、回復魔法を使った時にそれを増幅してくれる補助陣も刻んであるの。

まだ練習中でしょう? 補助があった方が安心だと思って」


回復魔法は、中級以上になると熟練した大人でも扱えない者が多い。

補助の魔道具があれば、魔力の負担も軽減できるはずだ。


リュシアンは声も出ない様子で、ただ完成していくリボンを見つめている。

その横で、カイエルはすっかり研究者の顔になっていた。


「なるほど……布面積があるため、魔鉱石よりも多くの魔法陣を刻むことができるのですね。

これは応用範囲が非常に広い……」

「ふふ、カイエルは本当に魔道具の話になると目の色が変わるわね」


苦笑しつつ、完成したリボンを軽く掲げる。


「これも登録、お願いね」

「かしこまりました」


登録処理を終えたリボンを受け取り、私は先ほど作った通信ピアスの留め具に、

丁寧に小さなリボン結びを作って固定した。さらに魔法でしっかりと定着させる。

耳元に、淡い青のリボンが柔らかく垂れ下がる。

魔鉱石の宝石と並んで揺れるそれは、思っていた以上に美しい均衡を生み出していた。


もう一方――私の分も同じように、髪に結び直すのではなく、通信ピアスへと固定する。


「これで……」


私は少し身を引き、満足げに微笑んだ。


「誰がどう見ても、お揃いよ。どう?」

「……お揃い……」


リュシアンはその言葉を小さく繰り返し、頬をほんのり染めて嬉しそうに微笑んだ。

その隣では、カイエルが軽く拍手を送っている。


「素晴らしい出来です、さすが姫様」

「ありがとう」


そう答えた直後、カイエルははっと何かを思い出したように顔を上げた。


「新たな魔道具のジャンルを得ましたので、布製品も仕入れに行って参ります。

これは急がねばなりません」


先ほどまでの落ち着いた態度とは打って変わって、

どこか意気揚々とした様子で一礼し、そのまま部屋を後にしていく。


扉が閉まると、部屋には私とリュシアン、二人だけが残った。


「さあ、これでいつでも話ができるわね。いつでも呼びかけてくれて構わないわ」

「い、いつでも……!?いいんですか?」

「もちろん!そのために作ったのだから」


そう言って私はリュシアンの片耳にかかった髪をさらりと手で耳にかけてやる。


「うん、とっても素敵。似合ってるわ、リュシアン」

「……ありがとうございます」


照れながら嬉しそうにするリュシアンを前に、私は内心感動を通り越して崇め倒していた。


(私が作った最高の魔道具と私の最高に美しいリュシアンのコラボレーション!!)

(素晴らしい、素晴らしすぎるわ。拍手喝采よ)

(私の魔道具作成の技術は今日この日このために身につけてきたのかもしれない)

(あ〜ん、できることならリュシアンの全身飾り立てたいくらいよ)

(さすがにそれはやりすぎかしら?)

(いいえ、いずれ機会があれば絶対にやってみせる……!!!)


なんて思いながらうっとりと彼を見つめていると、

リュシアンはリュシアンで、


「……これがあれば、僕のことを考えてくださるんですね」


なんて言って嬉しそうにピアスのリボンを撫でていた。

その声は、熱を帯びていて、それでいてひどく甘かった。


「いつでも繋がっていられるってことですよね。セレーヌ様と」


とろけるような笑顔でそう言われた瞬間、胸の奥がきゅっと掴まれる。


(――危険だわ、この子)


思わず顔を逸らしてしまったのは、きっと仕方がない。

こんな無自覚な破壊力を持っているなんて、反則にもほどがある。


(私を悶え殺す気かしら……!?)


内心で一人、盛大に動揺しながらも、平静を装って微笑みを浮かべる。

けれど、そんな私の内心など知る由もなく、リュシアンは嬉しそうにしていた。




******



翌日。


「……それ」


私の耳元を見た瞬間、リュシアンの動きがぴたりと止まった。


「セレーヌ様、それ……昨日の……」

「そうよ。あなたとお揃いだもの。毎日つけるわ」


そう言って微笑むと、彼は一拍遅れて――ぱあっと、信じられないほど嬉しそうな顔をした。


「……っ」


言葉にならなかったらしい。

ただ耳飾りと、私の顔とを何度も見比べて、最終的に胸元を押さえている。


(ふぐぅ…!なんて、なんて顔をするのあなたって人は)

(あ、これ、致命傷だったわ)

(尊すぎて天に召されそう)

(戻ってくるのよ、セレーヌ。生きるのよ)


内心で頭を抱えつつも、可愛さに負けて何も言えない。

そこへ。


「おはよう」


振り返ると、リアンとクロエ、その後ろにエリクが並んで立っていた。


「おはよう」

「おはようございます」


私とリュシアンがそれぞれ挨拶を返すと、クロエがふと目を細めた。


「あれ? その耳飾り……セレちゃんの魔道具?」

「ええ、そうよ」


あっさり答えた瞬間、今度はリアンがリュシアンの耳元を覗き込む。


「……おいおい、これ」

「?」

「魔法陣、何連がけしてる?しかもリボンになんて初めてみたぞ!?」


若干引き気味の声だった。


「どうだったかしら。3つくらいは入れてると思うけど」

「思うけど、で済ませるな……!」


リアンは額を押さえた。


「普通は一つ安定させるだけで精一杯なんだぞ? 

しかもこれ、リボンの方はもしかして常時稼働型……?」

「ええ。当たり前でしょう?そうしないと意味がないじゃない」


何言ってるのリアンと言ったように返せば、クロエが口元を引きつらせる。


「……相変わらず、平然と恐ろしいもの作るよねセレちゃん」

「そうかしら?」


首を傾げる私の横で、リュシアンが目を輝かせていた。


「そんなに……すごいものだったんですね……」

「すごいどころじゃねえぞ」


そこにエリクが腕を組んで、遠い目をする。

「姫さんの魔道具って、王都の裏市場だと目玉飛び出る値段で取引されるからなぁ……」

「そんなにすごいんですね……」

「そうだぞ」


それからエリクはにやりと笑って私たち二人を見比べる。


「それよりさ。誤解は全部解けたってことでいいのか?」


途端に、リュシアンがぴしっと背筋を伸ばした。


「……はい。今まですみませんでした、エリク令息」


深々と頭を下げる。


「いいってことよ!」


エリクは笑いながら、リュシアンの背中をバシバシ叩いた。


「てかさ、呼び方固くね? エリクでいいって」

「……え」

「敬語もやめろよ。俺たち同い年だろ?」


一瞬迷ったあと、リュシアンは少しだけ表情を緩めた。


「……わかった。エリク」

「よし!」



それからというもの、エリクとリュシアンは、

私たちがいない時間にも顔を合わせて行動するようになったらしい。


夜になると、私は自室でリュシアンと、私が作った通信用魔道具を使って話をする。

他愛のない一日の報告や、授業のこと、騎士科での訓練の話。

そんな中で、自然と彼の口からエリクの名前が出るようになった。


『今日は……エリクと同じ授業があって』

「あら、どうだったの?」

『説明が大雑把で……でも要点だけは外さなくて、不思議な人だなって思いました』

「ふふ、でしょう?」

『剣の構えも独特で、理屈より感覚派というか……』


少し考える間があってから、ぽつりと。


「……でも、悪い人じゃないですね」


その声音は、どこか安心したようで、少しだけ照れも含んでいた。

私は魔道具越しに微笑みながら、静かに耳を傾ける。

リュシアンが誰かとの出来事を、

こんなふうに自然に話してくれるようになったこと自体が、嬉しかった。


「楽しかったみたいね」

『……はい』


短く返されるその声は、柔らかい。

リュシアンに、こうした何気ない日常と、少しずつ積み重なる楽しい記憶が増えていく。

それだけで、私もまた嬉しくなるのだった。


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