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episode12


快活に私へ声をかけてきたピンク色の髪の少年に、

クロエが令嬢然とした微笑を保ったまま、じっと視線を向けた。


「……お兄。第一声がそれって、どうかと思うのだけれど」

「え? なんで? ダメだった?」


心底不思議そうに首を傾げるその様子に、

クロエは小さく息を吸い、整えた声音で続ける。


「そもそも、初対面のヴィオランドル令息がいらっしゃるのよ?

なのに、お兄からそんな軽口で話しかけるなんて……」

「おおっ」


ピンク髪の少年は、ぱっと目を輝かせた。


「お前、そんな貴族ルールをちゃんと意識できるようになってたのか!

お兄ちゃんは感激だぞ!」

「……はぁぁ」


深く、心底疲れたようなため息。

テンポよく繰り広げられる兄妹のやり取りに、

場の空気が一瞬で和みかけた、その時。


「はいはい、二人ともそこまで」


苦笑しながら、リアンが間に入った。

王子らしい穏やかな佇まいでこちらへ歩み寄り、

まず私に軽く頷いてから、リュシアンへと向き直る。


「初めまして、ヴィオランドル令息。

話は聞いているよ」


淡い紫の瞳が、柔らかく細められる。


「僕はエミリオンだ。よろしくね」


その言葉に、リュシアンは一瞬だけ息を呑み、すぐに背筋を正した。

そして、完璧な所作で臣下の礼を取る。


「お初にお目にかかります。

リュシアン・ヴィオランドルと申します」


落ち着いた声で、はっきりと。


「この度、セレーヌ様と婚約させていただく運びとなりました。

どうぞ、よろしくお願いいたします」


流れるような動作。

無駄のない姿勢。


それを見ていたリアンはもちろん、

クロエも、そして先ほどまで騒がしかったピンク髪の少年までもが、

思わず感心したように目を瞬かせた。

 

……ちなみに。


(ふふん)

(さっすが、私のリュシアン)

(相変わらず流れるように美しい所作だわ)


私だけは、ちょっと自慢げだ。


誰もすぐに言葉を発さなかったからか、

リュシアンが少し困ったように、そっと私を見た。


大丈夫だっただろうか……

そんな不安が、サファイアの瞳に浮かんでいる。


私は小さく微笑み、

「大丈夫よ」と視線だけで伝えてから、口を開いた。


「リアンの挨拶も済んだことですし……

もう、普通にしていいわよ」


その瞬間。


「「は〜い!」」


目の前の王子と令嬢が、

まるで示し合わせたかのように一気に力を抜いた。

さっきまで漂っていた、

あの完璧な“王族と貴族”の空気はどこへやら。


「いや〜、堅苦しいのって疲れるよね」

「ほんとだよねぇ」

「はははっ! 相変わらずだな、お前ら!」


ピンク髪の少年が腹を抱えて笑い出す一方で、

リュシアンは、完全に状況が理解できず、唖然としていた。

そんな彼に、私はくすりと笑って言う。


「ね? 大丈夫でしょう?」


そして、そっと彼の手を取った。


「さぁ、座りましょう」


そのまま彼を導きながら、私は心の中で静かに思う。


(——楽しくなりそうね)


きっと、リュシアンにとっても、今日が“新しい一歩”になる気がするのだ。


私がリュシアンの手を引いてソファーの方へ歩いていくと、

彼はすっと先に立ち、優雅な所作で私を座らせてくれた。


「ありがとう」


そう微笑むと、彼は少し照れたように「いえ」と答え、

そのまま私の後ろに控えようとする。


「……ちょっと待って」


思わず袖を掴む。


「なんで後ろに行くの? あなたは私の隣でしょう」

「え……いや、でも……」


きょとんとした顔で戸惑うリュシアンに、

私は三人掛けのソファーの空いている場所をトントンと叩いた。


「ほら、こっちに座って」

「……はい」


どこか緊張した様子で腰を下ろすリュシアン。

その様子を、向かいのソファーに並んで座っているリアンとクロエが、

実に面白そうに眺めていた。

そして、その二人の後ろに控えるように立っていたピンク髪の少年が、

にやりと口角を上げる。


「へぇ……面白いやつだな、姫さん」

「お兄、黙って」


クロエが即座に鋭い視線を飛ばす。


「え〜?」


肩をすくめる彼に、私はくすりと笑って声をかけた。


「エリク、あなたも座りなさい」

「へ〜い」


返事ひとつで、一人掛けのソファーにどっかりと腰を下ろす。

その瞬間、隣のリュシアンが小さく呟いた。


「……エリク・アイリスガルド令息……」


リュシアンの呟きが聞こえていたらしい。

エリクは楽しそうに目を細める。


「お、俺のことも知ってんの?

よろしくな、リュシアン」

「……よ、よろしくお願いいたします」


少し動揺しながらも丁寧に返すリュシアンに、

エリクはけらけらと笑った。


「硬い硬い!俺たち同じ学年だろ? 気楽にいこうぜ」


そう言って、ずいっと手を差し出す。

リュシアンはその手を見つめ、

一瞬だけ、私に「どうしよう」と言いたげな視線を向けた。

私は小さく頷く。

すると、意を決したように彼はその手を握り返した。


「……よろしく」

「よし!」


満足そうに笑うエリク。

それを見ていたクロエが、今度はにっこりと微笑んだ。


「私はクロエよ。よろしくね、リュシアンくん」

「はい……よろしくお願いいたします」

「ほらほらお兄、もう少し貴族っぽくした方がいいんじゃない?

リュシアンくんみたいに」


じとり、とした視線を向けられ、


「なんだよクロエ〜。

お兄ちゃんにだけ厳しくないか? 泣いちゃうぞ?」

「……はぁぁ」


深いため息。

その様子を見て、リアンが苦笑する。


「まぁ、みんなこんな感じだから。

リュシアンも、気楽にしてくれていいよ」

「……はい」


緊張が抜けきらない様子で頷くリュシアン。

そのタイミングで、控えていたリーナが静かにお茶を運んできた。

カップが置かれる音が、場を穏やかに整える。

私は、座ってからずっと握られていたリュシアンの手から、

少しだけ力が抜けたのを感じて、内心ほっとする。

それからは、自己紹介も兼ねた雑談が続いた。


「セレちゃんと私とリアン、それからお兄はね、

みんな幼馴染なんだよ」

「そうそう。

クロエがこーんなちっちぇえ頃からの付き合いだな」

「それ言わないでってば!」


昔の失敗談や、笑い話がテンポよく飛び交う。

リュシアンは少し遅れながらも、その輪に静かに耳を傾けていた。


――そして、ふと。

エリクが、私の方を見て口を開いた。


「そういや姫さん。

俺をわざわざ学園に呼び戻したのって、なんか理由あんの?」


その一言で、視線が一斉に私へ集まる。

私は、にこりと微笑んだ。


「ええ。エリクには、いくつかお願いしたいことがあって」


そう言った瞬間、

リュシアンのサファイアの瞳が、わずかに揺れたことに――

私は、まだ気づいていなかった。


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