episode1
深い青――
それは、宝石に例えるならサファイアの色。
その瞳に囚われて、目が離せなくなった瞬間のことを、
私は今でもはっきりと思い出せる。
誠実さと知性を宿した深い青。
けれどその奥に、どこか冷えた影のようなものが沈んでいて――
それすらも、美しいと思ってしまった。
(……この人が、私の婚約者?)
リュシアン・ヴィオランドル。
目の前で穏やかに微笑む彼を見つめながら、
私の中の好感度は、すでに限界を超えていた。
……そう。
ドがつくほどに、タイプだった。
だから私は、生まれて初めて、心の底から父に感謝したのだ。
(お父様、ありがとう……!!!!!)
心の中で、思いきり叫びながら。
* * *
私、セレーヌ・リザンドルは、本日――王立学園中等部に入学した。
代々騎士を輩出してきた公爵家の末っ子として生まれ、家族に守られて、少し過保護なくらいに育てられてきた。
色々あって社交の場には最低限しか顔を出さず、同年代の知り合いは決して多くない。
だからこそ。
この学園生活は、少しだけ楽しみでもあった。
「セレちゃん!」
背後から聞こえた元気な声に振り向いた瞬間、
ふわりとした衝撃が私を包む。
「クロエ、説明会は終わったの?」
「うん!やっと!」
笑顔で抱きついてくる彼女
――辺境伯家令嬢のクロエ・アイリスガルドは、昔から変わらない、私の大切な友人だ。
「置いていかないでくれよ」
次に聞こえた落ち着いた声に、私は小さく笑う。
「久しぶり、リアン」
第三王子であるエミリアン・フルールヴェール。
幼い頃からの顔なじみで、気取らない関係のままだ。
三人で並んで歩くと、
周囲からの視線が自然と集まるのを感じた。
……それも、いつものこと。
「そろそろ、どこか入ろうか」
リアンの提案に頷き、私たちは学園内の一室へと移動した。
扉を閉め、遮断結界を張ると、張りつめていた空気がふっと緩む。
「で?」
クロエが身を乗り出す。
「セレちゃんの婚約者、どうだったの?」
「会ったのか?」
リアンも興味深そうにこちらを見る。
私は一瞬だけ言葉を選び――そして、耐えきれずに笑った。
「……聞いてちょうだい」
顔を上げて、満面の笑みで言う。
「最高に、ドタイプだったわ」
「「……は?」」
二人の声が重なった。
* * *
――時を少し遡る。
学園初日のオリエンテーションを終えた私は、敷地の奥にある温室へ向かっていた。
ここが、つい先日婚約者になった相手との、初めての待ち合わせ場所。
顔も知らない。
話したこともない。
知っているのは、名前と、学年と、それから――いくつかの、あまり良くない噂だけ。
(……お父様の強引さにも困ったものね)
そんなことを考えながら足を進めると、すでに一人、待っている人影があった。
風に揺れる、さらりとしたグレーの髪。
背中越しにもわかる、整った佇まい。
けれど――その腰に提げられていた剣だけが、妙に質素だった。
(……騎士科の制服)
足音に気づいたのか、彼が振り返る。
そして――冒頭に戻る。
完全に、ドストライク。
深い青の瞳が、まっすぐにこちらを映していた。
(……ありがとう、お父様)
心の中で、私はもう一度叫んだ。
(完全に、ドタイプです!)




