「ゴリアテ3」
――面接は、終わった。
そう思った直後、俺は気づいた。
違う。まだだ。
評価は終わっていない。
撃ち合いが終わったからといって、試験が終わるとは限らない。
むしろ――ここからが本番だ。
“理解できているか”。
その一点を、最後に見られている。
森は、静かだった。
都市部のように、崩壊音も、燃焼音もない。
ただ、風が葉を擦り、遠くで鳥が逃げる気配がするだけだ。
だが、その静けさは自然のものじゃない。
意図的に作られた、空白だ。
ゴリアテは、確かに厄介な兵器だ。
小型。低シルエット。
塗装は苔や湿った土の色に溶け込み、輪郭を目で追うことすら難しい。
だが――万能じゃない。
履帯装備とはいえ、その走破能力は高くない。
舗装路や固い地面なら問題ないが、
この森じゃ話が変わる。
一定以上の太さの丸太。
複雑に絡み合った木の根。
ぬかるみと倒木が重なった場所。
――越えられない。
「……そうだろ」
俺は、わざと足場の悪い場所を選んで進む。
WFの脚部が根を踏み、土を噛み、わずかに姿勢を揺らす。
ゴリアテは小さい。
だから森に溶け込める。
だが、小さいがゆえに、越えられない障害もはっきりしている。
あいつらは、俺を追い立てているようで、
実際には――“道を選ばせている”。
ジャミングによる撹乱。
断続的に走るノイズ。
距離感を狂わせ、位置を誤認させる。
機体の小ささ。
巧妙に塗装され、地形と一体化した外観。
視認しづらい。
意図的に、見つけにくく作られている。
だが――
「結局、頼ってるのはカメラだ」
メインカメラ。
光学と赤外線の複合。
音響センサーもあるが、補助程度。
つまり、**“見る兵器”**だ。
地形を記憶しない。
踏みしめた感触を覚えない。
人間みたいに、「嫌な場所」を勘で避けない。
……いや。
俺は、そこで一瞬、考えを止めた。
「……違うな」
動きが、妙に人間臭い。
倒木を前にした時の、わずかな停止。
左右に首を振るような、逡巡。
回り込むルートを探す、その遠回りな探し方。
――考えてる。
全てがAI制御という訳じゃなさそうだ。
もっと、昔ながらのやり方。
「リモコン操作……か」
判断の遅れ。
決断した後の、ほんの僅かな強引さ。
どれも、
人が操作している時の癖だ。
そして――
俺と、このWFと、
ゴリアテのメインカメラが、正面で合った、その瞬間。
機体が、微かに揺れた。
撃てる距離。
撃ってもおかしくない角度。
それでも、撃たなかった。
その代わりに、
ほんの僅か、動きが乱れた。
「……戸惑ったな」
まるで、
“想定していなかったものを見た”みたいに。
操作している人間の緊張。
躊躇。
判断が遅れる、あの感じ。
それが、機体越しに、
はっきり伝わってきた。
撃たない理由は、ここにもある。
爆発させれば、視界が失われる。
証拠が残る。
舞台が壊れる。
だがそれ以上に――
中に人がいる。
いや、正確には、
遠くで、これを“見ている”人間がいる。
だから、撃てない。
「……なるほどな」
評価は、機体だけじゃない。
操作する人間も含めての“面接”だ。
俺は、進路を選んだ。
太い丸太が斜めに倒れ、
その下に根が露出している場所。
WFなら越えられる。
だが、ゴリアテは迂回せざるを得ない。
実際、ノイズが一瞬、乱れた。
「……回ったな」
遠回りした。
それだけで、配置が崩れる。
ゴリアテは連携している。
だが、視界を共有するには、
わずかなタイムラグがある。
森では、その“わずか”が致命的になる。
俺は、あえて動きを止めた。
丸太の影。
カメラの死角。
ゴリアテは、止まったまま動かない。
――見えていない。
「小さいくせに、慎重すぎる」
それは、機体の性格じゃない。
操作している人間の性格だ。
人間が操縦している以上、
見えないものには、手を出さない。
それは、弱点だ。
俺は、森を見渡す。
「……つまり」
静かに、だが確信を持って言葉を落とす。
「ここは、あんたらの得意分野じゃない」
ゴリアテのノイズが、さらに薄くなった。
評価が、また一段変わった。
――理解した。
そう言われている気がした。
ゴリアテは優秀だ。
だが、あくまで“人を狩るための道具”だ。
地形を使い、
感情を読み、
判断を揺らす。
だが逆に言えば、
判断を捨てる人間には、通用しにくい。
俺は、歩みを進める。
丸太を越え、
根を踏み、
あえて足場の悪い場所へ。
ゴリアテは、ついてこない。
いや――
ついてこれない。
森は、再び静かになった。
視線は、もうない。
それでも、俺は理解している。
あいつらは、また来る。
より洗練された形で。
より、人間を隠した形で。
だからこそ――
「次は、もっと厄介だな」
独り言が、森に溶ける。
俺は、歩き続けた。
疑問を抱いたまま。
人間でいるまま。
それが、
この面接で、俺が出した答えだった。




