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二足歩行型兵器――《WAR FRAME(ウォーフレーム)》 Q&F  作者: てきてき@tekiteki


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終わらせない戦い

 空は、静かだった。


 レーダーの上から、敵影が消えている。


 つい数分前まで、無数の点で埋め尽くされていた空域。

 それが今は、ただの黒として表示されていた。


 サヤはモニターを見つめたまま、ゆっくりと息を吐く。


「……消えた」


 オペレーターが確認する。


「敵機、完全離脱」

「追撃の必要なし」


 その言葉で、ようやく実感が追いつく。


 終わったのだ。

 この空域の戦闘は。


 フォックスの声が入る。


『……制空権、確保』


 短い。

 だが、それが全てだった。


 サヤはトリガーから指を離す。

 撃たない。


 その判断が、ようやく意味を持つ。

 撃つ必要がない空。


 それが、どれだけ価値のある状態か。

 今なら分かる。


 何も飛んでいない空。

 それが――勝ちだ。


***


 対空車両の外。

 夜の空気はまだ熱を帯びている。


 焦げた匂い。

 爆発の残滓。

 だが、空は静かだ。


 サヤは席を立たない。

 ここを離れない。


 空域はまだ“管理中”だ。

 そのまま通信を開く。


「状況維持」


 短く告げる。

 その視線は、遠くの地上へ向いていた。


 蒼い機体の残骸。

 そして、その傍にいる二つの影。


 フォックスと……クイーン。


 フォックス機は、ゆっくりと動いていた。


 一歩。

 また一歩。


 戦闘の鋭さはない。

 だが、油断もない。


 踏みしめる。

 確かめる。


 関節の応答。

 出力の乗り方。

 重心の移動。


 すべてを、一つずつ。


 まるで――


「……帰れるか、試してる」


 誰も聞いていない場所で、サヤは小さく呟く。


 戦うためではない。

 帰るための機体。


 その意味が、今はよく分かる。


***


 蒼い機体の残骸の前。

 クイーンは静かに立っていた。


 ワーカーのコックピット。

 その中に、少年がいる。


 呼吸は浅い。

 だが、続いている。


 フォックスが降りてくる。

 砂を踏む音がガサっと鳴るが、少年は眠ったままだ。


「……寝てるな」


「ええ」


 短い会話。

 それで十分だった。


 フォックスが空を見上げる。


「終わったか」


 クイーンも同じ空を見る。


「この空はね」


 フォックスの視線が、少年へ戻る。


「……だが、こいつは終わってねぇな」


 クイーンは迷わず答える。


「終わらせないのよ」


 静かだが、揺れはない。


「若すぎる」


 フォックスは息を吐く。


「……違う戦いか」


「そう」


 わずかに口元が緩む。


「こっちの方が、面倒よ」


 フォックスは苦笑する。


「だろうな」


 フォックスは、肩の埃を払う仕草をしながら一言。


「頼むぜ」


 クイーンは何も言わない。

 ただ、聞いている。


 フォックスは少年を見る。


「未来あるやつだ」


 少しだけ笑う。


「クイーンと撃ち合って、二分持った」


「ハンデ戦よ」


「それでもだ」


 短い評価だった。


 クイーンは通信を開く。


「サヤ」


『はい』


「医療班を連れてきて」


『了解』


 サヤは対空車両の中で頷く。

 通信を切り替え、即座に繋ぐ。


「本部長より指示あり。医療班2名、こちらへ」


 40秒もたった頃、赤い十字の腕章をした二人が到着する。


サヤは間髪入れず、伝える。


「これに乗ってください」


「……これに?」


 医療班の二人は対空車両を見上げる。


 砲塔。

 装甲。

 明らかに搬送用ではない。


「一番早いので」


 淡々とした説明でセリフはそれだけ。


 二人は顔を見合わせる。


「……まぁ」


「戦場だしな」


 諦めたように乗り込む。


 ハッチが閉じる。

 エンジン始動。


 重い振動。

 対空車両が走り出す。


 本来は空を撃ち落とす機械。


 だが今は――

 命を繋ぐ者達を運ぶ。


 ……数分後

 現場に到着。


 対空車両が停止。

 ハッチが開く。

 医療班が降りる。


 フォックスがそれを見て笑う。


「物騒なものに乗せてきたな」


 サヤは車内から返す。


「安全で早いかと思って」


 フォックスは肩をすくめる。


「間違っちゃいない」



 医療班が少年を見る。


 一瞬、止まる。


「……敵か」


「憎さ100倍ってとこだが」


 顔を見る。


 幼い。

 呼吸は浅い。


「……これはなぁ」


 後頭部を掻く。


「憎さ100倍でも……まぁ、助けざるを得ないよなぁ」


「だな」


 それで終わりだった。

 次の瞬間には、もう動いている。


「バイタル確認」

「搬送可能」


 迷いはない。


 クイーンが言う。


「フォックス、これ、あなたに返すわ」


 フォックスはすぐに手を振る。


「よせや」


「基地まで面倒見てやってくれよ」


 自分のWFを軽く小突く。


「ほら、こいつもクイーン様を載せる事ができて喜んでる」


 クイーンは小さく息を吐く。


「……そう」


 医療班の連絡を受け、サヤがクイーンに報告する。


「問題ないとのことです」


クイーンは一言返す。


「わかりました」


WFを、フォックス機を見て、もう一度フォックスに問いかける。


「フォックスも一緒に乗って帰る?」


 その瞬間。


 フォックスが口を挟む。


「おい」


 サヤが振り向く。

 そして鬼の形相dw睨む。


「教官……まさか!?ハイ!なんて言わないでしょうね?」


「冗談じゃねぇって!」


 フォックスは肩をすくめる。


「俺にはワーカーがお似合いだ」


 即座に背を向ける。


 向かう先は佇むワーカー。

 逃げるように乗り込む。


 ハッチ閉鎖。

 即始動。


 サヤはため息。


「……あの人は」


 クイーンは何も言わない。

 ただ前を、少し遠くを見ていた。


 「搬送準備完了」

 対空車両の操縦士が報告する。


「一人じゃつまらないし、私はこちらで」


 クイーンは対空車両へ。

 そして、少年の横に座る。

 それは、いつでも顔が覗ける場所。


 サヤはフォックス機の操縦席へ移動。


「こういう事は、新兵の仕事だもんね」


 納得せざるを得ない事を、弁えている。


 フォックスは後方のワーカー。

 三つの影が動き出す。


「基地に戻るわよ、出して!」


 対空車両が先行。

 その後ろに、戦場を見続ける空の管理者。

 さらに後ろに、古い戦場の男。


 帰還の隊列。

 乱れはない。


 フォックスから通信が飛ぶ。


『サヤ』


「はい」


『まだ終わりじゃねぇぞ』


「はい」


 それは理解している返事だった。


フォックスがクイーンに向けて言葉をかける。


「これからがまた、大変だな。」


 クイーンが言う。


「フォックス、勘違いしている様ね」


『なんだ』


「こんなの、あなたの時より簡単よ」


 一瞬の沈黙。


『そうか?』


「ええ」


「私の地位も違う」


 そして。


 少年を見る。


「あなたが与えた損害より、この子が与えた損害はずっと軽い」


 フォックスは黙る。


『……そうかよ、悪かったな』


「いいえ、今でも感謝しているわ……」




 夜の空は静かだ。


 だが。

 終わっていない。


 少年は眠っている。

 クイーンは目を閉じない。


 これから始まる戦いを知っているからだ。

 戦場は形を変える。


 撃つ場所から。

 選ぶ場所へ。

 守る場所へ。


 そして――

 終わらせないための場所へ。


 静かな空の下。

 次の戦いは、もう始まっていた。

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