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戦場の配置

フォックスは視線をワーカーへ向ける。


簡易整備場の灯りの下。

不格好な機体。

だが、十分戦える形にはなっている。


ミナミがそこに立っていた。

腕を組み、機体を見上げている。


「どう?」


フォックスは装甲を軽く叩く。

コン、と乾いた音。


「なるほど」


ミナミは腕を緩め、小さく息を吐いた。


「あなたのWFの癖は盛り込んだつもり」


目線をワーカーへ移す。


「だけど全部とはいかない」


両手を広げて肩をすくめる。


「なんせパワーも容量も少ない、汎用機体だもの」


フォックスは笑った。


「汎用ってことは」


ニヤリとする。


「戦闘も含まれるんだろ?」


ミナミは呆れた顔をした。


「フォックス、それワーカーの開発者に言える?」


フォックスは肩をすくめる。


「あー何でも言ってやるさ」


そして軽く言った。


「生きて戻ってきたらな」


ミナミは肩を落とし、ため息をつく。


「もう……」


だがその目は笑っていた。


戦場では。


生きて戻る。


それだけで、すべて許される。


サヤの機体がゆっくりと基地の出口へ向かう。


重い足音。


だが、無駄な揺れはない。

関節の追従も素直だった。


コックピットの中で、サヤは計器を確認する。


反応速度。

出力。

センサー補助。


すべて正常。


だが――自分の機体ではない。


ほんのわずかな違和感が残る。


アクセルの入り方。

関節の戻り。

反応の癖。


その小さな違いが、機体の個性になる。


フォックスが言っていた言葉を思い出す。


――機体には癖がある。

――それを知らないと死ぬ。


サヤは操縦桿を軽く動かす。


ほんのわずかな入力。


機体が素直に応える。


悪くない。


むしろ扱いやすい。


だがそれは逆に怖い。


整備されすぎている。

整いすぎている。


フォックスによれば、戦場の機械はそんなに綺麗ではない。


だが今はそれでいい。


この機体は借り物だ。


自分がやることは一つ。


壊さず使う。


そして――帰す。


サヤは静かに息を吐いた。


「……行きます」


小さく呟く。


そこへ通信が入る。


フォックスだった。


『聞こえてる』


短い声。


『無理するな』


「はい」


サヤは頷いた。


その瞬間。


基地の端で低い機械音が響く。


クイーンのワーカーだった。


作業用ワーカー。


本来は建設機械だ。


だが今は違う。


補助センサー。

追加装甲。

そして――


20ミリ機関砲。


完全な戦闘機体ではない。


だが戦場では十分すぎる存在感を持つ。


なぜなら――


パイロットが違いすぎる。


コックピットの中で、クイーンは静かに前方を見ていた。


ワーカーの操縦席はWFより狭い。

だが視界は悪くない。


低空。

ドローン。

建物。

地形。


すべてが頭の中にある。


この基地の地形は、もう完全に把握している。


戦場では、それが生存率を上げる。


クイーンは軽くスロットルを触る。


ワーカーが少しだけ前に出る。


重量のある足音。


だが、動きは軽い。


クイーンは小さく息を吐いた。


「……まだ静かね」


通信を開く。


『フォックス、聞こえてる』


「あなたの読みは?」


フォックスは少し空を見上げる。


雲。

風。

空気。


それらを感じてから言葉を放つ。


『今日だな……来る』


短い言葉。


『遠くで主力が動いてる』


クイーンは頷いた。


「そう、お馴染みね」


それだけ言う。


戦場では長い会話は必要ない。


理解している者同士なら、なおさらだ。


クイーンは操縦桿に手を置く。


冷たい金属。


だが手は迷わない。


戦場に完全はない。


どれだけ準備しても。

どれだけ計算しても。


必ず予想外が起きる。


だから――


一番動ける者が動く。


それが戦場の原則だ。


クイーンは静かに思う。


フォックスは対空。

サヤはWF。

自分は低空。


それでいい。


それが一番、この基地が生き残る形だ。


クイーンは小さく笑う。


「……借り物ね」


借り物の機体。

借り物の時間。

借り物の平和。


戦場ではすべてがそうだ。


永遠のものなど何一つない。


だからこそ。


今を守る。


それだけだ。


クイーンはスロットルを軽く押す。


ワーカーが前へ出る。


低空の守り。


それが自分の役割。


クイーンの目が細くなる。


遠くの空。


雲の向こう。


そこに敵がいる。


まだ見えない。


だが――確実に来る。


「さて」


小さく呟く。


「始まるわね」


フォックスは対空車両の銃座にいた。


装甲板に囲まれた狭い席。

むき出しの照準器。

足元には弾薬ベルトが箱から伸びている。


砲身は夜空へ向けられていた。


レーダーの低い回転音。

発電機の振動。

金属の軋み。


車内には、機械の呼吸のような音が満ちている。


フォックスは照準器越しに外を見る。


夜の基地は静かだった。


照明は最低限。

建物の影が地面に長く伸びている。


対空車両のライトが地面を照らす。


その光の端。


建物の影の向こうに、もう一つの機影が見えた。


改装されたワーカー。


補助装甲。

追加センサー。

肩に据えられた20ミリ機関砲。


低空の守りだ。


クイーンの機体が静かにそこに立っている。


さらにその奥。


遠くの基地出口付近。


サヤのWFがゆっくりと移動している。


整備灯の光の中で、迷彩の装甲がわずかに光る。


フォックスは小さく息を吐いた。


悪くない配置だ。


フォックスは空を見上げる。


夜の空は静かだった。


風も弱い。

雲も高い。


だが戦場では――

静けさは安心材料ではない。


むしろ逆だ。


静かすぎる時ほど、何かが来る。


フォックスは戦場を見る。


目で見る。

レーダーを見る。

音を聞く。

匂いを嗅ぐ。


それらを全部合わせて、戦場を読む。


それが長く生き残る方法だった。


サヤのWF。

クイーンのワーカー。


それぞれが配置につく。


こうして――


戦場の形が整っていく。

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